122話
途中に弟と店のアルバイトの愚痴も関係なく挟んでいたのだが、ひと通り不満を言い終えてスッキリしたのか、本題に切り替えた。
「だがまぁいい、貸しイチだぞ。そのぶんは働いてもらうからな」
そう伝えると、メモ帳になにやらベアトリスは書き出した。トントンとペンで叩きながら、ピースが今この店に足りていないことを嘆く。
「ヒントが少なすぎる。私は探偵じゃないんだ」
なにかを向こうから言われ、ベアトリスは「ふん」とつまらなそうにイスにもたれかかった。そしてカップからコーヒーを飲もうとして、もうないことに気づく。はぁ、とうなだれると、
「……必要な花がある。それを……そうだ、わかっているなら自分でやれ」
自分の作りたいアレンジメントを向こうもわかっているようだ。ベアトリスは子機を渋い顔で睨みつけた。なんでもお見通しにされているのは、それはそれでムカつく。
「そっちもあるが、今回はたぶんこっちだ」
どうやら他にも候補となる花はあるようだが、ベアトリスはひとつに絞っていた。おそらく今回はあのバラのほうが似合っている気がする。ついでに明日の朝、欲しい花をピックアップして告げ、向こうがなにか喋っているようだが気にせず電話を切った。
「ふぅ……」
本日何度目かもわからないため息をつき、ベアトリスは脱力した。このまま眠ってしまおうか、そう傾きかけていると、ドアが開き、変声期を迎える前の高い声が聞こえてきた。
「ただいま……」
「……おい」
天井を見上げたままベアトリスは怒気を放った。その理由は単純で、弟以外にも足音がある。
「なんだ? あたしか?」
とぼけた表情でシルヴィが返す。まるで自分の家であるかのようにツカツカと店内を歩き回っている。そして見学。
「コーヒー飲むけどみんな飲むか? カップは……これでいいか」
と、テーブルの上にあった、飲み終わりのカップをひったくる。
「いいわけあるか、私のカップだ」
声で止めに入るベアトリスを背に、店の奥の棚の上にあるエスプレッソマシンを、シルヴィは稼働し始めた。少し待つと、お湯とスチームが仕上がる。
グラインダーで豆を挽き、ダブルのポルタフィルターをセット。ヴィィィと大きな音を立てて、機械はなんの疑いもなく仕事を全うしようとしている。
「なぜ慣れている」
背中まで追いかけてきたベアトリスに対し、甘いものがないか下の戸棚を開けつつシルヴィは答えた。
「なぜって、よく来てるからに決まってんじゃん。ベアが夜中いない時、たまに来てるぞ」
悪びれる様子もなく、エスプレッソの出来上がりを待つ。そして温まったスチームノズルを使い、ピッチャーのミルクをフワフワに。




