121話
ベアトリスは気にせず、店内をゆっくり歩き回りながら続けた。コツコツと靴の音がやけに響くほどに、緊張感が場に張り詰めている。
「真実ではないかもしれない、ただの私のひとりごとだと思って聞いてください」
先に宣言しておく。なにせ本当の答えはもう、永久にわからないのだから。
なにか覚悟のようなものを、サミーはベアトリスから感じた。
「あぁ、大丈夫だ。それでどうだったんだ?」
「それには——」
店内を大きく見やってから、ベアトリスは唸りつつ、うん、とうなづいた。
「今、ここにはない花が必要になります。また明日にでも来ていただけますか?」
という提案。飲み残していた最後のコーヒーをすすり、ベアトリスは静かにカップをソーサーに置く。カチリ、と乾いた音が数瞬、場を支配した。
呆気にとられながらもサミーは了承する。
「それはかまわないが……わかったのかい?」
大人数で時間をかけてもわからなかった。だが、この少女はひとつ、答えを出したという。
それにはベアトリスはかぶりを振る。
「いえ、先も申しましたが、奥様の想いは奥様にしかわかりません。だからこそ、こんな時にフローリストに必要なものは、なんだかわかりますか?」
……いや、とサミーは小さく否定した。少し間を置いたのは、考えたが出てこなかったため。
柔和な笑みで、ベアトリスは目を瞑る。そして胸に手を置いた。
「『想像』です。それが正しいかわかりません。ですが、今自分に出来る精一杯の手助けをする。それがフローリストです」
この小さな少女が大きく見えた気がしたサミーは、続くベアトリスの言葉に耳を向ける。
「合っているかもしれません。間違っているかもしれません。ですが、お帰りになる時に、少しでも気持ちを癒すことができたら」
花に対してできることなんて、自分にはほとんどない。その気持ちは変わらない。だからこそ、軽く手を添えるだけ。
……そうか、と笑みを返してサミーはイスを立ち上がった。コートを羽織り、閉じられたドアを開けて帰路に着く。ドアを出る直前に振り返った。
「明日、また同じ時間に来るよ。妻の想い、キミに任せる」
無言でベアトリスは首を縦に振った。店内も花があるため温度は少し低めに設定してあったが、外に出るとさらに風が冷たい。雑踏に消えていくサミーの背中を見送りドアを閉めると——。
一気に不機嫌になる。
「さて」
店の電話の子機を荒々しく操作。ベアトリスは再度イスに座り足を組む。周囲がビリビリと弾けそうなオーラが出そうなほどに、ピリついている。コール三回で出なかったら、直接言いに行ってやろうかと考えている。
「……」
早く吠えたくてうずうずしている。二回鳴ったところで出た。向こうがなにか言い出す前に、
「やってくれたな。私だ。は? なにがじゃない。わかっているだろ」
もし違う人が出たらどうする気だったのかはわからないが、二の矢三の矢とベアトリスは口撃していく。向こうも『いや』や、『それはだな』と言っているのだが、全く聞く耳は持たない。




