113話
店内をキョロキョロと見回しながら、練習のテーマをベアトリスは探す。どんな指示がお客様から来るかわからないため、その場で考えたことをテーマにすることにしている。どんな注文にも柔軟に対応できるよう、経験を積んでおくのだ。
「そうだな……」
一言一句漏らさないようにとベルは書く。
「今日の課題は『あれ? 私がメインヒロインだったはずなのに、私より他の女といい感じでくっついちゃいそう』というテーマでアレンジメントしてみろ」
勝ち誇ったような顔つきのベアトリスがニヤリと笑った。背後に黒いオーラのようなものを感じる。
言われたベルの顔が一瞬引きつる。この人は……!
「気のせいですかね、なんかえらい限定的なテーマな気もしますけど」
どっかで聞いたような、しかし認めたくはないようなテーマに若干の苛立ちを覚えたが、ま、まぁ私のことではないし、とベルは笑顔を崩さないでいた。
店内を行進するようにゆったりとベアトリスは歩きだした。実に軽やかに靴音がする。
「どんなお客様が来店するかわからない。一期一会だ。私だって今日、『ダメ男に貢いじゃう私可愛い』というテーマを持ってきた方にアレンジメント作ったぞ。なにがあるかわからん。対応力を養え」
言っていることはまともなのだが、なんだか腑に落ちないベルは、自らを鼓舞する意味でも軽く鼻歌でも歌いながら早速取り掛かろうとする。
「口答えするならついでに『その人、お姉さんが大好きで私では敵わない……悔しい……』も追加だな」
いくらでもベアトリスは追加できる。あることないこと、自分に都合のいいように改竄できるのは長所だと信じ込んでいる。
もちろん、それを黙って指をくわえているベルではない。
「……なんか事実とはかけ離れたワードがすり寄ってきましたけど」
「かけ離れた? なんのことだ? 例えばのテーマなんだから早く作れー。なんだ? さらに『二番手くらいかと思ってたけど、よく考えたら友人二人もいるから実質、私は四番手か。無理だ』も追加だ」
「だから事実と違うって言ってんでしょーが!」
練習などどうでもよくなったベルがベアトリスにヅカヅカと歩み寄る。近づいて笑顔を作るが、奥にわかりやすい怒りを感じる。
目線を外したベアトリスは悪びれる様子もなく、
「はぁー? さっきからお前はなにを言ってるんだ? ほれ、それなんかいいんじゃないか。リコリス。花言葉は——」
と、すぐそばにある赤い花を指差す。
ベルは満面の笑みを崩さず噛み付いた。
「『諦め』ですよね。なんか私にそういう類の花を勧めてくるんで調べましたよ。それよりそのテーマの子にはシロツメクサなんて似合うんじゃないですかねー? 花冠なんかにしたりもしますし、子供の頃からずっと思い続けるような、ピュアな恋愛なんだろうなー」




