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37. エピローグ2

「タマモ様……私、とっても寂しいです……!!」

「そんな顔するでない! また会えるのじゃ!」


 泣きじゃくるミリアにタマモが元気よく言った。明日にはガンドラの街を離れるという事で、一応コールインフルエンサーの屋敷までやって来た颯空達であったが、その事実を告げたところ、コールに仕える給仕であるミリアが突然泣き始めたのだった。かれこれ三十分ほど、タマモが彼女を慰める光景が続いている。ここへはちょくちょく足を運んでいたとはいえ、こんなにも仲良くなっているとは思わなかった。


「今生の別れじゃあるまいし、そんなに悲しまなくてもいいだろ……」

「そう思うのは氷のように冷たい心を持っているサクだけだね。僕だって寂しくて今にも涙ちょちょぎれそうだよ」


 ニコニコと笑いながら紅茶に口をつけるコールに、颯空が呆れた顔を向ける。


「心にもない言葉ありがとよ」

「そんな事ないよ。本当に寂しいと思ってる」


 コールが颯空の目を見ながら真面目な顔で言った。


「言ったでしょ? 初めて誰かと仲良くなりたいと思えたって。そんな君がこの街からいなくなっちゃうんだ、寂しくないわけがない」

「…………」

「でもまぁ、一緒にいるだけが友達じゃないとも言っちゃったしね。仕方がないから我慢する事にするよ。例え離れていても、僕達はいつでも繋がってるから。だよね、マイフレンド?」

「……気持ち悪い事言ってんじゃねぇ」


 照れ隠しをするように顔を背けた颯空がティーカップに手を伸ばす。


「あっ、一杯百五十ガルドね」

「金とんのかよ!!」

「当然だよ。親しき仲にも礼儀ありってね」

「意味ちげぇだろ……」


 ため息を吐きながら中の紅茶を一気に飲み干す。すかさず執事のグランが颯空のカップに紅茶を注いだ。


「それにしても驚いたよ。君の事だから僕に何も言わずにさっさと言っちゃうと思っていたからね」

「……まぁ、お前には色々と世話になったからな」


 この世界での生き方を教えてもらい、冒険者としての道を勧められ、その冒険者になるために力を貸してくれた。タマモに手を差し伸べるきっかけも与えてくれた。それだけしてもらっておきながら何もなしで去るのは、あまりにも不義理すぎる。

 颯空の言葉を聞いたコールとグランが目をぱちぱちさせながら顔を見合わせる。


「……ツンデレ?」

「サク様の場合はツンの要素が濃すぎるような気も致しますが」

「そうだね。それに男のツンデレなんて需要ないでしょ」

「だーっ! うっせぇな!」


 少しだけ顔を赤くしながら、颯空がやけくそ気味で机に置かれているクッキーを掴んだ。


「一枚二十五ガルド」

「この守銭奴めっ!!」


 怒声を上げながら乱暴にクッキーを口に放り込む。


「まぁまぁ、そう怒らないでよ……'ジョーカー'さん?」

「ぶーっ!!」


 そして、全部噴き出した。驚愕の表情で視線を向けると、コールはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。


「ど……どうしてそれを……?」

「どうして? 君は僕の専属冒険者だよ? 当然、知ってるに決まってるじゃないか! まぁ、サガットギルド長が直々にやって来て、念入りに口止めはされているけどね」


 ふぅ、と息を吐きだしながらコールが肩をすくめた。


「いいよね'ジョーカー'! かっこいいよね! 憧れちゃうよね!」

絶対(ぜってぇ)バカにしてんだろ!!」

「まさか! ねぇ、グラン?」

「はい。(わずら)ってる感じがサク様にぴったりだと思います」

「どういう意味だ!?」


 後日、その二つ名を聞かされた時は眩暈がしたものの、その二つ名が自分の事である事を知るのはギルド関係者だけだ、と割り切ったのだが、まさかこんな所にその事実を知る者がいようとは。


「じゃんじゃんその名を上げてきてね! 颯空が'ジョーカー'である事は知られることはないけど、その謎の特Aランク冒険者が僕の専属冒険者である事はちゃんと僕の手で広めておくからさ!」

「ふざけんじゃねぇ!」

「そうすればコール商会の名も挙がり、僕もウハウハだからね! ……それと」


 唐突に、コールが声のトーンを真剣なものにする。


「君が生きているという何よりの知らせになる」

「っ!?」


 予想外の言葉に、颯空が言葉に詰まった。


「死んだら許さないよ。……これは専属冒険者である君への命令ではなく、悪友からの願いだ」

「…………」


 少しの間コールの顔を見ていた颯空は、小さくため息を吐きながらゆっくりと立ち上がる。


「……俺を誰だと思ってやがる? 特Aランク冒険者の'ジョーカー'だぞ? 簡単にくたばってたまるかよ」

「……なんだ。結構その二つ名、気に入ってるじゃん」

「うっせぇ。……何かあったら言え。気が向いたら茶化しに来てやる」

「期待してるよ。'ジョーカー'さん」


 その後、コールは二人のためにささやかな送別会を開いた。最後の夜だから、と屋敷に泊まる事も提案された。「料理代と宿泊代は出世払いでいいからね」というコールの言葉に苦笑いを浮かべつつも、颯空は素直にその申し出を受け入れた。

 そして、翌朝。タマモからミリアを引きはがすのに苦労しながら屋敷を後にした颯空とタマモは港へとやって来た。初めて見る船に興奮気味のタマモを宥めながら目当ての人物を探す。


「おーい!こっちだ!!」


 声のする方に目を向けると、色黒の男が颯空達を手招いていた。


「わりぃ、待たせた」

「なーに、いいってことよ!!」


 予定よりも遅れた事を気にも留めずにノックスはニカッと白い歯を見せる。


「それで、こっちのちっこいのは?」

「ちっこいとは失礼だの。うちはタマモなのじゃ!よろしく!」

「おう! タマモかよろしくな! 俺はノックスだ!!」


 ノックスはタマモの手を握るとぶんぶんと上下に降った。あまりに豪快な握手にタマモの体が宙に浮く。


「本当は俺一人の予定だったが、急遽こいつも連れていく事になった」

「連れていくって兄ちゃん……これから魔物討伐に行くんだぞ?」

「問題ねぇ。自分の身を守れるくらいの実力ならある。こう見えてこいつはDランク冒険者だ」

「Dランクぅ!? この嬢ちゃんがか!?」

「のじゃ!」


 驚くノックスに、タマモが得意げな顔でVサインを出した。


「まぁ、兄ちゃんがそういうなら構わねぇが……」

「それにしても思ったより早く準備が整ったんだな。半年以上かかるって言ってた気がするが」

「若い商人さんが色々と援助してくれたんだ! いつまでも航路が使えないと商売に支障が出るってな!」

「……若い商人?」

「あぁ! えーっと……確か名前は……コールなんちゃらっていったっけかな」

「…………」


 颯空がしかめっ面を浮かべる。


「……ちっ。礼ぐらい言わせろよ、あの馬鹿野郎」

「あ? どうした兄ちゃん?」

「なんでもねぇよ」


 自分の知らないところでまで助けてもらっていたとは。少しだけこの街を離れるのが惜しくなった。とはいえ、今更やる事を変えるつもりはない。思いのままに生きる。それがコールと、自分の大切な人と交わした約束なのだから。


「お二人さん、そろそろ出港するぞ! 船に乗れ!」

「あぁ、わかった。タマモ、準備はいいか?」

「準備万端なのじゃ! 海の上を旅するなんて楽しみだの!」


 踊るような足取りでタマモが船に乗る込んだ。颯空は一度振り返り、ガンドラの景色を目に焼き付ける。


「……行ってくるぜ、悪友」


 新たな仲間と共に、颯空はまだ見ぬ新天地へと足を一歩踏み出したのだった。

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