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15. 初めての依頼

 次に向かう場所の目途も立ち、特にやる事もなくなった颯空は、海の男であるノックスの準備が整うまで、冒険者の生活に慣れるため適当に依頼をこなす事にした。冒険者というものがどういう職業なのか知るのは重要な事だ。旅をする以上一つの場所に腰を落ち着けるわけではないので、収入源は依頼をこなした報酬だけとなる。しっかりとその仕事を把握しておかないと、命取りになりかねない。


「……覚悟はしてたが、Fランク冒険者が受けられる依頼は少ねぇな」


 巨大なクエストボードに張られている依頼表とにらめっこしながら颯空が呟いた。考えてみれば当然だ。Fランクは冒険者になりたてという事で、一般人とほとんど遜色ない。そんな者に命の危険があるクエストなど務まるわけがないのだ。


「とりあえず、これでも受けてみるか」


 薬草の知識がない颯空には、薬草収集の依頼は受けられない。かといって、店番などの雑用は受ける気になれない。というわけで、適当な魔物の討伐クエストを選び、依頼票を受付嬢であるパルムに差し出す。


「おはようございまーす! サクさんは朝が早いですねー!」

「いや、早くねぇだろ」


 時刻は十時を回ったところ。活動開始の時間としてはむしろ遅い方だ。


「冒険者の方は朝まで飲んでることが多いので、みなさん依頼を受けに来るのは昼過ぎなんですよ! だから、午前中は依頼を選び放題です! なんたって依頼は早い者勝ちですからねー!」

「どうりで人が少ないと思った」

「というわけで、早速サクさんの持ってきた依頼をチェーック!! ……スライムの討伐?」


 それまで笑顔全開だったパルムの表情がわかりやすく曇る。


「バジリスクを倒せる冒険者がスライム? いやいやいや、こういうのは冒険者初心者に譲ってあげてください」

「これくらいしか討伐クエストがなかったんだよ」

「そんな事ないですよ。オーガとかトレントとか厄介な魔物の討伐依頼が出ているはずです。そっちにしてください」

「それをFランク冒険者が受注できるのか?」

「っ!? そうでした!! サクさんはFランクでした!!」


 パルムが頭を抱えて机に突っ伏した。


「ってことは、この依頼はサクさんにとってピッタリな依頼って事ですか!? 冗談じゃないですよー!! このエセFランク!! さっさとドラゴン狩りに行ってください!!」

「無茶言うな」

「担当冒険者が強い魔物を倒したら同僚に自慢できるのにぃぃぃぃ!」

「私情を挟むんじゃねぇ」

「はぁ……ギルド証を出してください」


 すっかり意気消沈したパルムが颯空のギルド証を受け取ると、契約魔法を施す。


「これで受注完了か?」

「はい。ギルド証に依頼を組み込みました。もし、依頼内容を忘れてしまっても、それで確認できますよ。まぁ、Fランクの依頼であれば忘れる事なんてないでしょうが」

「あぁ、わかった」

「あ、サクさん!」


 ギルド証を受け取り、早速依頼にとりかかろうとした颯空をパルムが呼び止める。


「討伐の証として魔物の核を回収してきてください! スライムの体は素材としての価値はないので回収しないで結構です!」

「魔物の核? ……あぁ、あの体の中にある小さな玉の事か」

「はい! 今回は十体以上のスライムを討伐すれば依頼達成なので、よろしくお願いします!」


 片手をあげそれに応えた颯空は、そのまま冒険者ギルドを後にした。


 今回の依頼は、街の周辺に大量発生したスライムの討伐。南門から外に出て少し歩いたところで討伐対象がわらわらと現れ始める。


「なるほど、こいつらがスライムか」


 『恵みの森』にはスライムが生息していなかったので、その姿を見たのは初めてだった。とはいえ、元の世界でもフィクションの物語でよく登場していたので、何となくの姿形はイメージできていた。


「まぁ、流石にゲームの中のマスコットキャラみたいな(なり)はしてねぇわな」


 アメーバのようなおどろおどろしい姿をしているスライム達を見て、颯空は思わず苦笑いを浮かべる。


「さて、と。十体倒せばいいってパルムは言ってたが……」


 干将莫邪を呼び出しながら、颯空はゆっくりと辺りを見回した。大量発生というのは誇張表現ではなかったようだ。目で見て数えるのは困難なほどの数のスライムがズズズ、と鈍間な動きでこちらに近づいて来ている。


「一匹一匹相手してたら日が暮れちまうな……それなら」


 そう言うと、颯空は魔力を練り上げながら干将莫邪を振りかぶる。


「"黒時雨(くろしぐれ)"」


 そして、魔法を唱えながらスライムにではなく、上空目がけて振り拭いた。干将莫邪から放たれた黒い球体は一定の高度まで達すると、空中で停止する。次の瞬間、その黒い球体から無数の線が飛び出し、的確にスライム達の体を貫いていった。


「これで報酬をもらえるって言うんだからありがたい話だ」


 『恵みの森』で凶悪な魔物達を狩り続けてきた颯空にとって、スライムの討伐など赤子の手をひねるよりも容易い。


「というか、こいつらから核をとらなきゃいけねぇのか?」


 一瞬で骸と化したスライム達を見渡しながら、深々とため息を吐いた。倒す事よりも核の回収の方がよっぽど重労働だった。なんとか全ての核を集め終えた颯空は早速冒険者ギルドへと戻る。


「あ、サクさん! って、早いですね! もう依頼を終えたのですか?」


 颯空の姿をとらえたパルムが笑顔で声をかけてくる。


「あぁ。ちゃんと依頼をこなしてきたぞ」

「流石ですねー! まっ、サクさんならスライムなんて余裕ですよね! じゃあ、依頼完了の処理をしますのでギルド証とスライムの核を出してくださーい!」

「……ここで出していいのか?」

「問題ありません!」


 微妙な表情を浮かべる颯空にパルムが元気な声で答えた。少しだけ迷った颯空だったが、パルムがそう言うならば仕方がないと、手を前にかざす。


「"無限の闇(ダークホール)"」

「へ? ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 颯空の生み出した闇の渦から雪崩のように出てきたスライムの核にパルムが埋もれていった。全てを出し切ったところで、颯空が遠慮がちに声をかける。


「あー……大丈夫か?」

「……ぷはっ! 死にかけた! 死にかけました! 地上にいるのに窒息死するとこでしたよ! な、なんなんですかこれは!?」

「スライムの核だ」

「そんなのわかってますよ! 数の話をしているんです!!」


 なんとかスライムの核の海から抜け出したパルムがバンッと勢いよく机を叩いた。


「なーにを殲滅しちゃってんですか! この依頼はいわば冒険者に慣れていないFランク冒険者の練習用クエストなんですよ!? それなのに全部狩っちゃったら他のFランク冒険者の人がスライムを倒せなくなっちゃうじゃないですか!! 弱い魔物を倒して徐々に力を自信と培っていくというこちらのプログラムが台無しですよ!!」

「い、いや、それはお前らの勝手な事情だろ? 俺は言われた通り依頼をこなしただけだ」

「えぇそうですよ! こちらの内部事情です! ですが、サクさんに全く無関係な話ってわけではありません! こうやってサクさんが練習用クエストを蹂躙していった結果、若い冒険者の人が育たなければ、それだけ既存の冒険者が苦労することになるんですよ!? つまり、サクさんが代わりに依頼をこなす事になるんです!!」

「そ、それは面倒くせぇな」

「そうでしょ!? サクさんが実力者なのは重々承知しています! だからこそ、今後はこういったどんな冒険者にでもクリアできる依頼では適当に手を抜いてください! いいですか!?」

「わ、わかった」


 ものすごい形相で詰め寄ってくるパルムに、若干たじろぎながら颯空が答える。


「……新人冒険者のこういう活躍は嫌でも注目を集めます。サガットギルド長から聞きましたが、サクさんはあまり目立ちたくないんですよね?」

「……! あぁ」

「だったら、少し自重してください」


 最後は少し声をひそめながらパルムが言った。どうやらサガットはこちらの事情をなんとなく察して気をまわしてくれたようだ。


「とにかく、これで依頼は達成です。報酬は六百ガルドになります。こちらの核は買取に出していですか?」

「そんなもんが売れるのか?」

「はい。魔力を帯びている魔物の核は魔導炉の原料になるため、どんな魔物の物でも売ることができますよ」

「魔導炉?」

「魔道具はご存じですよね? 通常は使用者の魔力を利用して魔道具を使うのですが、魔導炉があればそれを代わりに使う事ができます」


 要するに電池のような役割を果たすものらしい。これがあれば魔力の制御が上手くできない子供でも、魔道具を使用することができるそうだ。


「スライムのような低ランクの魔物の核ではその値段もたかが知れていますが、これだけ数があれば……」


 そう言って、隣にある核の山をパルムが何とも言えない表情で見つめる。


「……すまん。今度は気を付ける」

「えぇ、大いに反省してください」


 きっぱり言い放つと、パルムがてきぱきと後処理をしていった。スライムの核の査定にはその数もあって多少の時間を要したが、結局依頼達成の報酬六百ガルドと、スライムの核の買い取り代金として七千ガルドを受け取り、颯空は初めての依頼をこなしたのであった。

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