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10. 冒険者登録

 なんとかパルムの目を覚まし、ギルドの受付まで戻ってきた颯空は、懇切丁寧に冒険者の説明をしてくれている彼女の話をぼーっと聞き流していた。


「以上が大まかな内容になります!」

「あー」

「……私の話、ちゃんと聞いていましたか?」


 気のない返事をする颯空に、パルムがジト目を向ける。


「あれだろ? 邪魔な魔物を排除すればいいんだろ?」

「魔物討伐だけが依頼じゃありません! 護衛だったり、素材の採取もあるんですよ!?」

「そういうのは面倒くさいから受けるつもりねぇ」


 きっぱりと言い切った颯空を見て、パルムは戸惑いを隠せなかった。だが、この程度で心が折れていてはギルドの受付嬢は務まらない。気を取り直すように咳払いをする。


「とにかく免責事項だけは大事なので、もう一度説明させていただきます!」

「その説明はもうしなくていい。退屈すぎてそれ以上話聞く気が失せんだよ」

「で、ですが、免責事項を知らないと何かあった時に大変なことになってしまいますよ! 下手すれば冒険者を除籍されることだって……!!」

「そうなったらそうなったとき考える。重要なのはどうやって金を稼ぐかだ」


 そんな保険の契約の時にされるような説明など興味がない。元の世界の知識でなんとなく冒険者ギルドのありようはわかるので、それとこの世界の冒険者ギルドが一致しているのか確認できればそれでよかった。


「……もし、除籍になっても私からそんな話は聞いてないって言わないでくださいよ? 私まで首になっちゃう」

「わーってるよ。それで? どうすれば金がもらえるんだ?」


 全てを諦めたように、パルムが深々とため息を吐く。


「……冒険者ギルドのシステムは非常に単純です。あそこにあるクエストボードから依頼を選び、それをギルドカードに登録することで依頼を受注します。そして、その依頼票に書かれた事を達成し、それをギルドに報告すれば依頼完了。ギルドから報奨金が支払われます」

「ふーん……なるほどな」


 冒険者ギルドの中央に置かれている巨大なボードに、多くの人が群がっているのを見ながら颯空が言った。


「とはいえ、全ての依頼を受けられるわけではありません。依頼の難易度をギルドが判定し、それに見合う冒険者ランクの方を対象に、依頼の募集がかけられます」

「実力以上の依頼に手を出して無駄死にを出さないためにか?」

「そういう事です」


 クエストボードから自分のレベルにあった依頼を受け、それをこなせばギルドに言って金をもらう。システムとしては至極真っ当でかつシンプルだった。颯空にはありがたい話だ。


「冒険者になった人はFから冒険者ランクが始まります。そして、依頼の達成率やその人が行った功績によりランクが上がっていく仕組みです」

「普通だな。って事は、俺はFランクって事か」

「本来であればそうなのですが……」


 そこでパルムが声のトーンを一段落とす。


「サクさんは特別なんです。だって、あのバジリスクを一人で倒しちゃうんですから。あれはBランクの魔物なんですよ? あなたいったい何者なんですか?」

「Bランク? 魔物にもランク分けされているのか?」

「はい。と言っても、冒険者ランクとは全然違います。簡単な指標としてBランクの魔物は村を、Aランクは町を、そして、Sランクは国を脅かす脅威となりうるのです」


 それを聞いた颯空が盛大に顔をしかめた。冒険者になりたい者を試す相手としてバジリスクは明らかに不適切な相手だ。どうやら、あの総ギルド長に一杯食わされたらしい。


「というわけで、サガット様からサクさんの冒険者ランクは本人の希望に添うように、と仰せつかっております。こんな事、前代未聞ですよ!? 自分の冒険者ランクを自由に選べるなんて!!」


 なぜか興奮気味のパルムとは対照的に、颯空は心底どうでもよさそうだった。


「というわけで、どうしますか!? Cランク? Bランク? 行くとこまで行っちゃってAランクにしますか!?」

「Fランクで頼む」

「ふぇ?」


 予想外の答えに、パルムの目が点になる。


「えー……Fランクというのは一番下のランクですよ?」


 颯空の言葉を理解するのに数秒を要したパルムが、恐る恐るといった様子で颯空に問いかけた。


「冒険者の中で一番のひよっこですよ?」

「あぁ」

「当然、受けられる依頼は大したものがありませんよ?」

「あぁ」

「サクさんの大好きなお金をあまり稼ぐことはできませんよ?」

「人を金の亡者みたいに言うんじゃねぇ」


 信じられないといった顔で聞いてくるパルムに、颯空が淡々と答える。受けられる依頼の難易度が低く、実入りが少ないのは少し痛手ではあるが、颯空にはそれ以上に大事なことがあった。それは目立たない事だ。冒険者になったばかりでいきなり高ランクになろうものなら、注目を集めること請け合いだ。異世界召喚され、城を抜け出した立場としては、悪目立ちはあまり好ましくない。


「……いやいやいや。おかしいですよね? バジリスクを単独で討伐できるFランク冒険者がどこにいますか?」

「ここにいんだろ」

「いませんよ! いちゃいけませんよ! サクさんはもっと高ランクから始めるべきです! そして、そんな異色の冒険者の担当に任命されたことを、私に自慢させるべきなんです!!」

「我欲丸出しじゃねぇか」


 鼻息を荒くして顔を近づけるパルムに、颯空が呆れ顔で言った。


「というわけで、サクさんはAランクで登録しましょう」

「ふざけんな」

「えー! なんでですかー! Aランクいいじゃないですかー!」

「俺はFランクがいいんだ。……どうしてもって言うんなら、おっさんにいって担当を代えてもらうしかねぇな」

「……!? 今すぐFランクで登録してきまーす!!」


 光の速さで事務室へと走っていたパルムを見て、颯空がため息を吐く。なんとも変わった受付嬢だ。いや、他の受付嬢と話したことはないが、パルムは変わっていると断言できる。とはいえ、変におどおどされたり気を使われたりするのはやりにくいので、あれはあれでいいのかもしれない。

 程なくして、手帳サイズの紫色をしたカードを手にしたパルムが戻ってきた。


「お待たせしましたー! これがサクさんのギルド証です! サクさんのは特別仕様で、コールさんの専属冒険者であることが記されていまーす!」

「……あの男の専属というのは甚だ不愉快ではあるが、ようやくこれで俺も冒険者か」

「Fランク冒険者のギルド証は紫色です! ちなみにAランクは燃えるようなかっこいい赤色なんですよー? どうです? そっちがいいでしょ? じゃあ、早速そちらに切り替えて……」

「担当チェンジで」

「なーんて冗談です! 紫もばっちり似合ってますよ!」


 素晴らしい笑顔でサムズアップしてくるパルムに、颯空が若干の頭痛を覚える。やっぱり、担当を代えてもらった方がいいのかもしれない。


「いやぁ、この時期に実力のある冒険者が増えるのは喜ばしい事ですね」

「あ? なんかあんのか?」

「そろそろ魔物大暴走(スタンピード)の季節ですからね。その兆候があるという報告も受けていますし」

魔物大暴走(スタンピード)?」


 聞き慣れない単語に颯空が眉を寄せる。その反応を見て、パルムが少し驚いた顔をした。


「知らないのですか?」

「……俺が生まれたのはドが付くほどの田舎だから、そういう世間の常識には疎いんだ」

「あー……イルム村のご出身でしたものね」


 パルムが納得したように頷く。ここにきて初めて颯空はコールに感謝した。


魔物大暴走(スタンピード)というのは、魔物が異常発生する現象をさす言葉です。原因は様々ですが、主に繁殖期を迎えた魔物が群がった結果という事が多いです」

「……盛りの付いた魔物が大量に湧いて出てくるってわけか」


 繁殖期の魔物が大人しいわけがない。パルムが強い冒険者を喜んだのもそういう事だろう。


「まぁ、明日明後日の話じゃないと思いますけどね! ですが、警戒しすぎることはありません! もし魔物大暴走(スタンピード)が起こったら、ちゃんと街を守ってくださいね! あと私の事も!」

「俺に牙をむいてきたら容赦なく排除するが、後は知らん。自分で何とかしろ」

「そんなぁ! 冒険者として弱き者を守ってくださいよぉ!」

「Fランク冒険者に期待すんな」


 泣きついてくるパルムに、颯空は突き放すように言った。魔物大暴走(そんな面倒事)が起きたとしても、関わり合いになどなりたくない。自分の身を守るだけだ。

 その後、パルムの案内で素材の買取所に赴き、颯空が取り出したバジリスクの胴体部分を見て、再びパルムが気絶するという一幕はあったものの、それ以外はなんの問題もなく冒険者登録を終えた。報奨金と素材の代金を受け取った颯空は、少しだけ悩んだ後、事の次第を報告するついでに文句言うために、コールの屋敷へと向かうのだった。

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