5. 冒険者ギルド
商業都市ガンドラ。王都アレクサンドリアに召喚された颯空にとって他の町を訪れるというのは初めての経験だった。
パッと見た限り、街の広さや規模、人の数は王都と同じくらいのようだ。さすがは大都市といったところか。
ただ、王都とは明らかに違う点があった。一つは街の雰囲気だ。
王都がしっかりと整備された落ち着きのある小奇麗な街であるのに対し、こちらはどことなくがさつで、至る所で大きな声が聞こえるほど活気に満ち溢れている。どちらがいいかは好みの問題になるが、ガンドラの方が街に血が通っている気がした。
もう一つは海に面しているという事。物資の流通拠点ということで、陸路だけでなく海路も確保していた。街の中にいても、仄かに潮の香りが鼻をくすぐる。
「……すげぇ人だな」
街の入り口からずっとまっすぐ伸びたメインストリート、通称弁財天通りを見て颯空がぽつりと呟いた。道を挟むように露天商が所狭しと立ち並んでいる。コール曰く、ガンドラで最も賑わっている市場との事だ。ある程度の信頼がなければ弁財天通りに店を構える事ができないため、ガンドラ初心者は、粗悪品の売り付けや料金を吹っ掛けられることの少ないこの通りで買い物するのがおすすめらしい。
ちなみに、今颯空は一人だ。いくつかのアドバイスと自分の家に印を付けたこの街の地図を渡すと、コール達はさっさと家に帰っていった。
「さて、と……とりあえず、冒険者ギルドを目指すか」
地図を確認しつつ、ガンドラの街を歩いていく。冒険者ギルドに行き冒険者登録をする、これはコールのアドバイスの一つだった。コールが冒険者になる事を勧めた理由として、収入源のない颯空がお金を稼ぐためというのがもちろんあるのだが、一番は堂々と身分を証明できるところにあった。お前は何者だ、という問いに対して冒険者と答える事で殆ど問題が起きないらしい。異世界からやってきた颯空にとって身の上を探られることが、最も面倒事に巻き込まれやすい事柄なのだ。それだけに、颯空がコールのアドバイスに素直に従おうと思えた。
人ごみにうんざりしながらも、なんとか目的の西地区にたどり着くことができた。この地区は酒場や娼館といった建物が立ち並ぶ歓楽街となっている。とはいえ、ここが本領を発揮るのは夜になったらで、今は比較的閑散としていた。その西地区の中央にある立派な建物が颯空の目的地である冒険者ギルドだ。
「思ったよりも奇麗だな」
建物の中には入った颯空の感想はそれだった。もっと荒くれ者達が昼間から酒を飲んで騒いでいる、みたいなイメージがあったのだが、ここはそれとは違う。どちらかというと役所みたいな雰囲気だった。まぁ、鉄筋コンクリートの立派な建物ではないし、ちゃんと酒場も併設されてはいるのだが。
漫画や小説で冒険者や冒険者ギルドがどういうものなのか知識自体はあった。だが、それはあくまで空想の産物で、この世界では通用しないかもしれない。なのでとりあえず、右も左もわからないので冒険者ギルドの職員に聞いてみる事にする。
「ちょっといいか?」
受付らしきところに立っている女性に颯空が話しかけた。
「はいはい~! ……おや? 見慣れないお顔ですね?」
「初めてなんだ。冒険者登録がしたくてな」
「新人の方ですね!!」
受付嬢がきらきらと瞳を輝かせる。どうしてそんな反応になるのかわからない颯空が若干の戸惑いを見せた。
「ようこそ、冒険者ギルド本部へ! 私は受付嬢を務めております、元気がトレードマークのパルムです!!」
得意げな表情でパルムが片手をあげポーズを決める。冒険者ギルド本部? ここが冒険者ギルドの本支店という事か?
「色々と説明したいことはございますが、それはあなたが冒険者になってからという事で、まずはこの書類に必要事項を記入してください!!」
「あ、あぁ」
元気のパラメータが振り切っているパルムに気圧されながらも、書類を受け取る。必須事項は名前と年齢と出身地、そして自分の持つギフトであった。隠す必要のない名前と年齢に関してはその通りに、ギフトについては'双剣士'と記入する。出身地はコールから提案されたイルム村にする事にした。イルム村はアレクサンドリアの近辺にある村ではあるが、山奥のとても小さな村らしい。いわゆるド田舎というやつだ。詮索されづらい、という理由でコールからその村出身と名乗る事を強く推された。
「これでいいのか?」
「えーっと……はい! 問題ありません!!」
颯空が記入した欄を確認したパルムが笑顔で言った。颯空は内心でほっと安堵の息を吐く。
「それではサクさんには冒険者試験を受けていただきます!」
「……は?」
「あれ? ご存じありませんでした?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている颯空を見て、パルムが首を傾げた。
「……悪い。試験があるなんて知らなかったもんだから」
「そうだったんですか! じゃあ、説明しないといけませんね!!」
なぜか鼻息を荒げながら、パルムがグイっと前のめりになる。
「冒険者というのは危険と隣り合わせです! 一番難易度の低い薬草採取のクエストでも、命を落とすことだってあるんです!! そういったリスクを鑑みて、冒険者ギルドでは一定の強さを持った人しか冒険者になる事ができない制度があるのです!」
「そ、そうなのか」
「そうなのです! なので、いくら望んでも冒険者試験を突破しなければ冒険者にはなれません!!」
「な、なるほど……」
パルムの勢いに押されつつ颯空が答えた。要するに、力のない者が冒険者となって無駄に命を散らさないために、冒険者ギルドが篩にかけるという事だ。制度としては決して間違っていない。
「話はわかった。それで? 冒険者試験はいつ受けられるんだ?」
「えーっと……試験官の冒険者に空きがあるので今すぐにでも受けられますよ!!」
「なら、今すぐ受けたい」
「かしこまりましたー!! 少々お待ちください!!」
そう言うと、パルムは足早に後ろに下がっていった。ほどなくして戻ってきたパルムが笑顔で冒険者ギルドの奥を手で示す。
「お待たせいたしました! それでは、第三修練場まで移動してください!!」




