3. ガンドラの商人
襲い来るブラックウルフ達を、まるで流れ作業のように屠っていく。この程度の魔物が何十匹いようと颯空の敵ではなかった。ただ、それでも一匹一匹剣で斬り伏せるのは骨が折れる。
「面倒だな……まとめて倒すか」
そう呟くと、颯空が一気に魔力を練り上げた。城にいる頃はからきしだった魔法が、今の颯空には問題なく扱えた。これも'呪い'を克服した副産物だとシフが言っていた。'呪い'を克服するまでは、反発する'呪い'を抑え込むために魔力を割いていたため、颯空は魔法を使う事ができなかったらしい。だから、今の颯空は適性のある闇魔法を自由に使うことができた。
「"闇牙"」
干将莫邪を振りながら魔法を唱えると、その刃から黒い斬撃が放たれる。颯空が使うものの中で最もオーソドックスな魔法。斬撃を飛ばすというシンプルながらにして使い勝手がよく、颯空のお気に入りでもあった。
ブラックウルフ達が一番集まっているところに"闇牙"を連発し、おおよそ片付いたところで颯空があることに気が付いた。
「あ? ……なんだよ、人間か」
どうやらブラックウルフに襲われていたらしい。よく見れば派手に装飾された馬車もあった。だがそんな事は颯空には関係のない事。ぽかんと口を開けてこちらを見ている二人を一瞥した颯空は、何も言わずにそのままスタスタと歩いていく。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
ようやく我に戻ったスコットが反射的に颯空を呼び止めた。その声に反応した颯空が心底鬱陶しそうに振り返る。
「俺になんか用か?」
「あ、いや……」
声をかけてみたのはいいものの、何を話せばいいのかわからなかった。グランも同様で、困惑した面持ちで颯空とスコットを交互に見ている。
「アメーイジングッ!!」
なんとなく気まずい空気が流れ始めたこの場に、突然明るい声が響き渡った。その声の主は勢いよく馬車から飛び出してくると、踊るような足取りで颯空の目の前に立つ。慌てて小柄な男とメイド服に身を包んだ少女が馬車からその男を追いかけてきた。
「いやはや、驚きだよ!! 虫を払うような気軽さであのブラックウルフの群れを殲滅するとはっ!! 僕と同じか、少し下ぐらいだろ!? その若さでそれほどの強さとは……もしかして伝説のSランク冒険者なのかい!?」
「…………」
奇抜な服に身を包み、ハイテンションの極致にいるような男を前に、颯空が露骨にいやそうな顔をする。
「おーっと! これは失礼したね! 君の事を知りたいんだったらまず自分から素性を明かすのが礼儀ってもんだ! 僕の名前はコール・インフルエンサー!! ガンドラの街で商売を営んでいるしがない商人さっ!!」
白い歯をニッ、と見せ、両腕を開きながらコールが自己紹介をした。なんとなくその仕草が颯空にミュージカルを思い出させた。
それにしても、ガンドラの街か。その名前は城で聞いた覚えがあった。アレクサンドリア王国の中で大都市に数えられる街だったと記憶している。
「それで? 君は一体何者なんだい?」
「答える義理はねぇな」
「えーっ!? でも、僕は名乗ったんだよ? フェアじゃないよねぇ?」
「あんたが勝手にべらべら話しただけだろうが」
「あー、もう! 出血大サービスだよ! 彼は僕の執事のグラン! この子はメイドのミリア! そして、鎧を着ているのがスコットで軽装なのはデルだよ! この二人は護衛として雇った優秀な冒険者なのさ! それで? 君は一体何者なんだい?」
怒涛の勢いで言うと、コールがぬっと顔を寄せてきた。颯空は仰け反りながら顔を横に向ける。この男はごねるだけ無駄な相手だ。
「……颯空だ」
「サク……なるほど、いい名前だね。相当腕が立つようだけど、サクは冒険者なのかい?」
「あー……旅人だな」
少しだけ迷いながら颯空が答えた。別に嘘はついていない。今の自分は知らない世界を見て回ろうとしている観光客みたいなものだ。
「旅人? なるほどなるほど! ってことは、これからガンドラに向かうつもりだったんだね?」
「は?」
「ちょうどよかったよ! 僕達もこれから帰るところだったのさ! これも何かの縁だね!」
「い、いや俺は……!!」
「ミリム! お客さんを馬車に迎える準備をして!!」
「は、はいぃ!!」
名前を呼ばれたメイドがビクッと体を震わし、そそくさと馬車へと戻っていく。
「じゃあ、スコットとデルには引き続き護衛を……ってケガしてるじゃーん!!」
「これくらいどうって事ねぇさ」
「だめだめ、油断大敵だよ。これ売り物のポーションだけど、特別に無料で贈呈しよう! というわけで、護衛の方よろしくね!」
捲し立てるようにして渡されたポーションを肩をすくめながら受け取り、ちらりと颯空に視線を向けてから、デルを連れて大人しく御者の席に向かった。
「それでグランはお客様の荷物を……って、剣しかもってないじゃーん! 手ぶらで旅してんの?」
「だから、俺は……!!」
「まぁいいや! 大した距離はないけど、その奇麗な剣を持ってあげて!」
「かしこまりました」
一人で行くつもりだから、と伝える間もなくとんとん拍子に話が進んでいく。これが商人というものなのか。強引に相手のペースに乗せられてしまう。こういう相手は自分が苦手とするタイプだ。主導権を握れる気がしない。
にこにこと笑いながら手を差し出してきたグランを見ながら深々とため息を吐くと、颯空は持っていた干将莫邪を自分の中に戻した。一瞬で目の前から剣が消えたことに驚くグランの後ろで、コールが感心したようにひゅー、と口笛を吹く。
「……これは中々面白い人物に出会えたようだね」
小さく笑いながらそう呟くと、コールは鼻歌を歌いながら馬車へと歩いて行った。




