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27. 同室の決意

 颯空が崖から落ちてからすぐに、アトラス達は救援信号として放った魔法を見たほかの班と合流することができた。騎士団長であるガイアスが事情を聞くや否や、『恵みの森』の調査は中止となり、フリントをリーダーとする異世界の勇者を城まで送り届ける班と、ガイアスをリーダーとする颯空を捜索する班の二つに分け、迅速に行動を開始した。

 颯空と同じ班であった穂乃果、同室である湊、遊星、和真、そしてすずと澪の六人は残って捜索に参加すると最後まで主張していたが、ガイアスが頑として首を縦に振らなかったため、止む無く城への帰路に着いた。

 クラスメートの一人が行方不明となりその生存が絶望的であることを知った彼らは、あらためて自分達がいつ死んでもおかしくない状況に置かれていることを認識し、誰もが重い足取りで城へと向かう。城につくと一週間の休養を言いつけられた澪達は、その命令に異議を唱える者はなく、重苦しい空気の中、自分の宿舎に戻っていった。

 捜索に出たガイアス達は颯空が川に落ちたということで、川沿いを下流に向けて進んでいった。誰も颯空の無事な姿など想像していない。ただ限りなく低い可能性として颯空が生き残っていると信じて探し続ける。その願いがむなしく砕け散ったのは、捜索を始めて二日がたったころだった。騎士の一人が森の奥まったところにある河原で大量の血痕と魔物の死骸を発見した。その場に、颯空が着ていたであろう引き裂かれた衣服の一部が見つかり、その時点で颯空の捜索は打ち切りとなった。



 『恵みの森』から帰還を果たしてから五日後、颯空の捜索を終えて帰ってきたガイアスの口から報告を受けた湊達の部屋は静まり返っていた。いつもはうるさいくらいに同居人に話しかける湊ですら一言も発さず、ベッドに横たわり、ひたすら天井を見つめている。和真は縮こまるように三角座りをしており、膝を抱えた手は小刻みに震えていた。窓のそばに立っている遊星は外に視線を向けているが、その実何も見てはいない。颯空の死を知ってから、この状態がかれこれ三時間も続いていた。


 最悪の雰囲気の中、横になったまま湊が静かに口を開いた。


「……俺さ、学校にいるときは颯空がどんなやつなのか全然知らなかったんだよな」


 唐突に話し始めた湊の言葉に遊星と和真は何も言わずに耳を傾ける。


「なんつーか……あいつって他のやつと距離を置いてるような感じだっただろ? だから、話しかけようとか、そんなん全然思わなかった」


 学校での颯空はいつも一人で過ごしており、明らかに他人と壁を作っていた。目元を隠すように伸ばした前髪、ロボットなのではないかと疑いたくなるほどに変化しない表情、不愛想な態度。そんな男に話しかけるのはクラスで浮いている者を虐げて悦に浸っている隆人達ぐらいであった。


「……私もクラスの方達と積極的に関わろうとはしないタイプですが、颯空君のそれは殆ど異常でした」


 他人と関わることに恐怖すら覚えている。そんな風に遊星は感じていた。


「そんな態度だからさ、俺は勝手にあいつが人を嫌っているんだと思ってたわ」


 そう言うと、湊は起き上がり、普段は見せないような真面目な顔で二人に向き直る。


「最初同じ部屋ってわかった時、正直『うわぁ……俺やってけるかな』ってかなり不安になった。颯空だけじゃなくて遊星も和真もクラスじゃ殆ど口きいた事なんてなかったし」

「僕達タイプが全然違うもんね……。僕は他の人と話すのとか苦手だから、湊君みたいにクラスの中心にいるような人には恐くて話しかけられなかったし」


 和真は力なく笑いながら三角座りをやめ、ベッドの縁に座った。遊星も手近の椅子をもって二人の近くに腰を下ろす。


「でも、いざ話してみるとさ、あれ? こいつらって意外と面白いやつなんじゃね? って思ったんだ。遊星はむっつりだし、和真は毒舌だし……颯空は意外とノリが良かった」

「そうですね。私もクラスにいた時の颯空君のイメージとはまるで違ったので、少々驚いたのを覚えています」


 同意する遊星に、だろ? と湊が視線を向けた。和真もうんうんと頷いている。


「俺はさぁ、仲いいやつが全員この世界に来てないって知った時ははかなりへこんでたんだよな」

「この世界に来たのはあの時教室にいた人達だけだもんね」

「あぁ。和真の言うように俺の友達は幸か不幸か、あの時教室にいなかったんだよな。昼休みだったし、それは仕方ねぇとは思うんだけど、やっぱ不安だった。こんなわけのわからない世界に連れて来られたのはいいけど、普段つるんでる連中はいない。魔王を倒そうとか息巻いていたものの、全然やってける自信がなかったんだよ」

「湊君……」


 ムードメーカーである湊から出たネガティブな言葉。いや、ムードメーカであるからこそ、今までそういう発言はしないようにしていたのだろう。


「そんな自分をごまかすために、この部屋で颯空を含めたお前ら三人に無理やり話しかけたんだ。あれは完全に空元気だったけど、颯空も遊星も和真も、嫌な顔せず付き合ってくれた。……結構救われたんだぜ?」

「それはお互い様です。あの状況で不安にならない人などいません。ですよね? 和真君?」

「臆病者で小心者で引っ込み思案なのが僕だよ? 不安だったに決まってるでしょ?」


 二人が自分と同じ気持ちだったことを知り、湊は嬉しそうに笑った。だが、すぐに表情を暗いものにする。


「でも、一番不安だったのは間違いなく颯空だ。あいつは俺達と違って呪いのギフトなんつー訳の分からないもんを押し付けられたんだからよ」

「'呪いの双剣士'……でしたか?」

「あぁ。それのせいかわからねぇけど、あいつは碌に武器は使えずに、魔法も唱えられないんだぜ? この世界でそれはきつすぎんだろ」

「非戦闘職のギフトを与えられた僕達よりも、颯空君は戦う力がなかったからね……僕だったら怖くて絶対部屋に閉じこもるよ」


 自分達が元居た世界とは違い、この世界は身近に'戦い'がある。ただでさえ、自分達は魔王との戦いのために召喚されたのだ。つまり、戦う力がないというのはイコール死を意味していた。


「この世界に来て、あいつがいい奴だって知った。呪われてるとかそんなん関係ねぇ。'大商人'の俺じゃ頼りないかもしれないけど、戦えないあいつを守ってこの世界で生きていこうと思った。……なのに、あいつは死んじまった」

「…………」


 湊の言葉に、遊星と和真が何も言えずに顔を俯ける。


「初めての遠征でみんな緊張してた。他人を気遣う心の余裕なんてなかったのはわかってる。でも、違う班とはいえ、颯空が戦えない事を知っていたんだ。なにかしら……自分の班の隊長だった騎士に相談するでもいい、ちょっとした行動を起こせば、あいつは死なずに済んだかもしれねぇ……!!」


 湊がベッドを殴りつけながら悔しそうに唇をかんだ。湊達は同じ班であり、戦闘力の低いグループとして、颯空達同様、後方調査の任に当たっていた。つまり、違う班の中では一番颯空の近くにいたのだ。その事実が、更に彼らの後悔を加速させる。


「――辛気臭い顔しない」


 張り裂けそうな沈黙を破ったのは小さな可愛らしい声だった。反射的に顔を上げた湊達が互いに顔を見合わせる。その声の主が自分達の中にいない事を知ると、同時に部屋のドアに目を向けた。そして、そこに立つ小柄な美少女を見て全員があんぐりと口を開ける。


「馬鹿面」


 三人を指さしながら小鳥遊すずが言った。あまりに理解不能な状況に、唐突な罵声にも湊達は反応できない。

 その中で最初に正気に戻ったのは遊星だった。


「えーっと……小鳥遊さんはいつからそこに?」

「途中から」

「途中からというのは?」

「ベッドに横になって恥ずかしい自分語りを始めたところから」

「それめっちゃ序盤じゃん!!」


 淡々と答えるすずに湊が羞恥に顔をうずめながら叫んだ。確かに話を始めたのは湊ではあるが、遊星も和真もその流れに乗っている。つまり、恥ずかしい告白を聞かれたのは二人も同じことだった。その事実を知り、三人仲良く意気消沈する。


「……小鳥遊さんはどうやってここに入ったんですか?」

「……? 歩いて」

「いやそういうことじゃなくて、鍵が閉まっていたでしょ?」


 遊星が聞くと、すずはふるふると首を横に振った。


「……たしか最後に部屋に入ったのは」

「……湊君ですね」

「……すんません」


 和真と遊星にジト目で見られて湊ががっくりと肩を落とす。


「まぁいいや。それで? 小鳥遊さんは何しに来たの?」


 気を取り直して和真がすずの方に視線を戻しながた尋ねた。すると、すずが三人をびしっと指さす。


「三人とも弱い」

「ず、随分はっきり言いますね」

「弱小」

「ま、まぁ、'賢者'のギフトを持つ小鳥遊さんに比べたらそうだね」

「虚弱」

「お、おう」

「ひ弱」

「…………」

「惰弱、貧弱、脆弱」

「いや、弱いのレパートリー持ちすぎだろっ!!」


 湊がびしっと突っ込みを入れた。すずが微かに笑みを浮かべる。


「死なれたら困るから鍛える」

「「「……は?」」」


 ポカンとする三人。そんな三人の様子に気にも留めずにすずが続けた。


「基本的にはボクが守るけど、やっぱり一人でも戦える力を持っていないと困る」

「えーっと……」

「………近接は得意じゃないから、主に魔法を教える」

「ちょ、ちょっと待て!!」


 どんどん話を進めていくすずを湊が慌てて止める。途中で話を止められ、怪訝な表情を浮かべるすずを見て、三人は微妙な顔になった。誰もが状況を把握できていないので、仕方なく遊星が気まずそうに口を開く。


「小鳥遊さんの提案はありがたいんですが、何のためにそんなことをしてくれるんですか?」

「あなた達に生き残ってもらうため」

「それはわかるのですが、どうして小鳥遊さんが私達の心配をしてくれるのかがわからないのです」

「颯空が少しでも心を許していたから」

「「「っ!?」」」


 すずの言葉に、三人が大きく目を見開いた。


「話を聞いた限り、あなた達も颯空に心を許していた」

「…………」

「颯空はあなた達を守りたいと思うから、颯空がいないならボクが守る」


 無表情ながらも、すずの瞳の奥には炎が燃え上がっている。颯空からすずは中学時代の友人であることは聞いていた。それは三人が思っていたよりもずっと深い関係だったのであろう。でなければ、こんな風に自分達に力を貸しにこようとはしない。

 パンッ、と気合を入れるために自分の両頬を叩いた湊がすずに向き直った。


「……こうやっていつまでもくよくよしてたら、あいつに笑われちまうよな! (ねえ)さんのおかげで目が覚めたぜ!!」

「姐さん?」

「そう呼ばせてくれ!! あいつを失って塞ぎ込んでいた俺達を奮い立たせてくれたんだからよ!!」


 気合十分の湊をすずが静かに指さす。


「ん? なんか顔についてるか?」

「名前知らない」

「いや、そりゃねぇだろ!!」


 ガクッと湊が肩を下ろす。かなりどや顔で宣言していたのでその分ダメージはでかい。湊が落ち込みながら名乗ると、遊星と和真もその後に続いた。


「………湊、遊星、和真」


 呟きながらすずは三人の名前をしっかりと頭に刻みつけた。


「じゃあ今から魔法修練所へ」

「おう! やってやろうじゃねぇか!」

「'賢者'様から直々にご教授していただけるとは有り難いですね」

「……強くなるよ。死に物狂いでね」


 今から始めるというすずに、三人は力強く返事をする。修練所に向かう三人、思うところはいろいろあったが、共通認識が一つだけあった。


 小鳥遊すずを守り抜き、無事に元の世界へ帰すこと。


 それが颯空の願いであると信じて。

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