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93 その天罰を賢者は予言していた

改訂版です。

「すごいですね。レベル50超えですよ、親っさん」


 衛兵隊長のケニーが興奮気味に冒険者ギルド長ゴードンへと話しかける。


「ああ、そうだな」


 話しかけられた方はテンション低めだったが。


「逸材じゃないですか。これならソロ冒険者というのも頷けます」


「あー、そうだな」


「もっと喜んでもいいんじゃないですか」


「別に俺の部下じゃないからな。そこまで喜ぶほどのことでもねえよ」


 そしてルーリアのレベルを話題にしていたのはこの2人だけではなかった。


「いやはや、凄いものですな」


 アーキンが頭を振っている。


「そうね。女性でレベル50に達した人を見たのは初めてだわ」


 同意するシャーリーも驚きを禁じ得ない様子だ。


「自分もですな。まさかこれ程とは」


 こんな具合だ。

 ルーリアは微妙に居心地が悪そうである。

 ゴードンはそのあたり気を遣っていたけど。


 そのあたりはハマーとボルトも気をつけているらしい。

 何かを言いたげにしながらも黙っているからな。


 ただ、ボルトは視線に熱がこもってしまっているので逆に目立っていたけど。

 熱烈なファンであるかのようだった。

 ここまで暑苦しいと、元日本人プロテニスプレイヤーのタレントに近い。


 強さへの憧れがそうさせたのか。

 伸び悩んでいるみたいだしな。

 ソードホッグと戦っていた時のことを思い返してみれば伸び代は充分にあるはずだけど。


 まあ、いつまでもこのままという訳にもいくまい。


「ところで魔道具に鑑定させるだけじゃダメなんじゃないの?」


 ルーリアの手続きを促す。

 ギルドの位置情報をカードに記録しないと該当ギルドでの依頼を受けられないからだ。

 クラスアップ試験は更に厳格で同じ位置情報を持つ者同士でないと試験が認められない。

 状況如何によっては厳罰もあるのは昨日のチンピラどもが証明している。

 ちなみに連中は魔道具の破壊に許可なき私闘と街中での武器を用いた襲撃を行っているので厳罰は免れようがない。


 ギブソンが手配したニセ証人のお陰で保留状態だがね。

 それも奴が消えた今、俺たちの証言もある訳だし刑が確定するだろう。


 冒険者登録の抹消などは序の口。

 魔道具の破壊は弁償しなければならないし罰金刑は確定か。

 ただの私闘でも禁固刑が考えられるのに街中で武器を持ちだしているから奴隷落ちもあり得そうだ。

 それ以前にギブソンが余計なことをしたから過去の悪事も露呈して極刑になると思うけど。


「はい、手続きさせていただきます」


 受付嬢のお姉さんが進み出て適宜処理をしていくようだ。

 カードを受け取って魔道具本体に差し込んで。

 このあたりは俺の登録の時と変わらんな。


「それで今日のうちに検証もするんだろ、隊長さん」


「おっと、そうでした」


 仕事を忘れてどうすんだよ。

 色々とイレギュラーな話が続いているというのはあるけどさ。


「では親っさん、訓練場を貸してください」


 そこで検証して、ついでに試験して、か。

 終わるのは確実に夕方以降になるだろうから今日も泊まりだな。


「わかった」


 ゴードンが立ち上がる。


「下にいるお前んとこの部下はどうするんだ」


「もちろん働いてもらいますよ」


「そうか、では呼びに行かせると──」


 ゴードンが最後まで言い切る前に急に動きを止めた。

 階下がにわかに騒がしくなったからだろう。

 切っ掛けは外から勢いよく駆け込んできた者がいたことだ。

 ただならぬ様子に受付はもちろん食堂に残っていた連中までもが騒然とし始めた。


「騒々しいな。バカが何か騒動を持ち込んできたか」


 ゴードンは飛び込んできたのが冒険者だと思っているようだ。

 が、入ってきた勢いのまま倒けつ転びつで2階へと駆け上がってきたのは冒険者ではなかった。

 ギルド長の執務室の前まで来るとガンガンガンと激しいノックをしてくる。


「マクファーソン隊長はいらっしゃいますか!」


「なんだ、お前んとこの部下かよ」


 嘆息しながらゴードンがケニーに頷いてみせる。


「入れ」


 ルーリアのレベルを知ったときの興奮を引っ込めてケニーは入室を促した。


「はっ!」


 入ってきた衛兵は室内の人の多さに一瞬ギョッとした表情を見せた。

 が、すぐに直立不動となる。


「隊長、至急本部へお戻りくださいっ」


 要請する衛兵の表情が険しい。

 ギブソンがらみなのは間違いないだろう。


「何があった」


「それが……」


 衛兵は言い淀む。


「構わん。報告しろ」


「はっ! 酒屋の主人ギブソンが自宅で死亡していました」


「なんだと!?」


 室内の空気が一変した。

 ケニーだけでなくゴードンも衛兵に鋭い視線を送っている。

 商人ギルド組と受付嬢は緊張した面持ちになっていた。

 ハマーやボルトも驚いているな。

 ルーリアは何かただ事でないと悟ったらしい。

 のほほんとしているのは俺たちミズホ組だけか。


「街中でもギブソンが雇っていた者たち十数名の死体が発見されています」


「なんと……」


「さらには──」


「まだあるのか!?」


「はっ!」


 衛兵はビクリと身を震わせながらも返事をした。

 そして報告を続ける。


「ギブソン邸の地下から隠し通路が延びており、そこでも死体が発見されました」


「なにっ?」


「その近くでは大量の違法薬物と違法な奴隷が監禁されているのを発見」


「なっ……」


「また、ギブソン邸内ではギブソンの犯罪を告発する文章も見つかっております」


「一体どうなってるんだ」


 数々の報告に困惑しきりのケニー。

 室内の空気が一気に重苦しいものとなった。

 だが、静まりかえったのも束の間。


「あっ」


 不意にシャーリーが声を上げた。

 その場にいた全員の視線が彼女に集まる。


「天罰だわ」


 驚きを押し込めることなくシャーリーが言った。

 その言葉にアーキンが目を見開く。


「確かに天罰かもしれませんな」


「これぞ天の裁きということか」


「ですよね……」


 ハマーとボルトも続く。

 対してケニーは困惑を深めていた。


「天罰って、そんなバカな」


 戸惑った様子のままゴードンの方へと振り返るのだが。


「う、うそだ……」


 呆然と呟きを漏らすゴードンがそこにいた。


「親っさん?」


「っ!」


 ケニーの呼びかけに我に返ったゴードンは衛兵の方に向き直り鋭い視線で睨みつける。


「おい、衛兵!!」


「はっ、はいっ!」


 ビシッと直立不動の姿勢を取り直してしまう衛兵。

 脳筋ジジイに殺気まじりで凄みをきかされちゃビビるのも無理ないよな。

 ゴードンも他人を気遣う余裕はないみたいだけど。


「ギブソンの奴は焼け死んだのか」


 ドスをきかせて聞いている姿は脅迫行為そのものにしか見えない。


「どうなんだ、答えろっ!」


 脅せば脅すほど逆効果のような気もするけど。

 現に衛兵は言葉に出せずに全力でコクコクと頷くばかりだ。


「ぬうっ!」


 不機嫌そうに唸る姿は飢えた猛獣を思い起こさせる。

 別の意味で室内が重苦しい雰囲気に包まれてしまったさ。


「ちょっと待ってくれ」


 ケニーが苦虫を噛み潰したような顔で場の空気にクサビを打ち込む。


「どうしてギブソンの死因を断定的に聞くんだ」


 横槍を入れられたゴードンはガラの悪そうな睨みをきかせた。

 が、ケニーとて衛兵隊長を任じられている者。

 少しも怯まず視線を切り返している。

 そのまま睨み合いが続くかと思えたのだが。


「衛兵」


 ゴードンはサクッとスルーした。


「街中で死んでた奴らは血を流していたか」


 ケニーの方を見ながら質問しているから無視している訳でもないか。


「い、いえっ、目立った外傷はなく、血は流れていません」


「地下の隠し通路で死んでた連中の死因は凍死か」


「……は、はい」


 次々と死んでいた者の状況を言い当てるゴードンに衛兵も愕然としている。

 どうして分かるのかと言いたげだ。


「親っさん、どういうことですか」


 愕然とした面持ちで疑問を抱いているのはケニーも同様だった。


「どうして見てもいない現場の状況が分かるのです!?」


「これらのことはすべて事前に予言されていたんだよ」


 皮肉をトッピングしたような口ぶりでゴードンは答える。


「は?」


 予想外の返答に衛兵は唖然としたまま固まってしまった。


「冗談でしょう……?」


「冗談なら他にどう説明を付けるんだよ」


「それは……」


「俺だって未だに信じらんねえが直に聞いたからなぁ」


「直にって誰から!?」


「賢者様だよ」


 ギョッとした表情で俺を見てくるケニー。


「より正確に言うなら天の声ってところかな」


「それはどういう……」


「俺にもよく分からんが正体不明の声が頭の中に響くことがある」


 そう前置きしてから予言したことをケニーにも聞かせた。

 すべて聞き終わったところで嘆息しながら頭を振っている。

 にわかには信じ難いだろうしな。


「その予言は何時?」


「あっという間に終わってしまった嵐の直前だな」


「バカな……」


 頭を振ってケニーが呆然と呟く。


「そんなこと言われても俺も知らないよ。ウソだと思うなら現場で確認すれば?」


「そうさせてもらいます」


 ケニーは覇気の大半を失ったかのようにフラフラと立ち上がった。


「それはそうと昨日の検証はどうすんの? 俺たちも暇じゃないんだけど」


 その言葉でようやく少しはシャキッとしたようだ。


「では、そちらを先に済ませましょう」


読んでくれてありがとう。

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