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90 始末しても終わりじゃない

改訂版です。

 眠らせたまま理力魔法で直立させたギブソンは磔刑に処された罪人のようだ。

 まあ、衛兵に捕らえられてはいないだけで罪人なんだけど。


 という訳で夢の中で宣告だ。

 スキル【諸法の理】の情報によると念話を極めれば夢の中に介入できるらしい。


 さっそくギブソンの意識に接触してみる。

 途端にざらりとした不快感が纏わり付いてきた。

 靴の中に入り込んだ砂のような感触とでも言えばいいのか。


 これは接触した魂の状態が伝わってきたせいだ。

 魂が淀んでいくと潤いを失い、やがて砂のようになっていくという。

 己の欲に飲み込まれ己の悪に酔いしれた今のギブソンに砂でない部分は存在しない。

 完全に末期状態ってことだな。

 ここまで来れば悔い改めることなど天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。


『さて、ギブソン。お前の罪を数える時間だ』


『っ!? どういうことだ、体が動かん!』


 現実で拘束状態にあると夢の中でも動けなくなるみたいだな。


『貴様は誰だっ?』


『答える義理はない』


『なんだと? 俺を誰だと思っている』


『万死に値する人間のクズだな』


『貴様ァ!』


『命乞いする相手を一度でも助けたことがあるなら撤回してもいいぞ』


 もちろん、撤回するつもりなど毛頭ない。

 肯定すればウソとなる事実を突き付けたからな。

 それに、これは遠回しな死刑宣告でもある。


 苦々しげに沈黙していたギブソンであったが。


『まさか……』


 どうやら察しは良いようだ。

 が、俺はあえて何も言わない。


 途端にギブソンは慌てだした。


『ま、待て! 金か、金なら幾らでもやるぞ』


『何かと言えば金か』


『こっ、これからは誰も殺さないっ』


『心にもないことを』


 躊躇いもなしによく口にできるな。

 性根が腐りきっているだけはある。


『ウソじゃない!』


 はい、ダウトォ。


『命乞いなど無意味だと分かっているのだろう?』


『そ、そうか。金だけじゃ足りんのだな。

 ならばワシの財産はすべてやろうじゃないか。

 どうだ? 金だけじゃない、店も屋敷もすべてだぞ』


 分かってないねえ。

 これ以上は語るだけ無意味だ。


『おい、返事をしろっ。どうして何も言わないんだ』


 罪を認識させることさえできないと理解できたからに決まっている。

 悔いることはなくても理由を知れば重度のストレスになると思ったんだがな。

 図々しい奴のことだ。

 きっと、そんなことくらいでと逆恨みしただろうから。


『ワシはまだ死にたくない!』


 その言葉を叫ばせただけで良しとしよう。


『じゃあな』


 なんでもかんでも思い通りになると思ったら大間違いだということを思い知るがいい。


『待て──────────っ!』


 待てと言われて待つ訳がない。

 俺は念話の接続を切った。

 たちどころにザラッとした感触が抜けていく。

 思わず身震いしてしまったさ。

 あまりの気持ち悪さに浄化で自分自身を清めてしまったよ。


 さて、では刑の執行だ。

 もっと深く恐怖の海に沈めたいところではあるのだけれど悠長にしている時間もない。

 躊躇うことなくギブソンの頭上に風魔法の雷撃を一発落とした。


 ドオォォン!


 雷鳴が轟き、直撃すれば即死である。

 長く痛苦を与えず終わらせるなど甘いという声が聞こえてきそうだが怨念を抑える方が優先される。

 故に落雷で終わらせず浄化の魔法つきで奴の体を発火させた。


 おっと、全身真っ黒焦げじゃ誰が誰だか分からんし顔だけは残しておこう。

 顔だけ燃えていないって不気味だろうけど。

 オカルト色が強ければ天罰の予言も信じやすくなるはず。


 それにしても炎が妙に暴れた感じで揺れているなぁ。

 あ、腐った魂が浄化から逃れようと藻掻いているのか。

 往生際の悪いことだ。


 ならば浄化上掛けドン!

 結界で囲って炎の出力も上げてガスバーナー状態にする。

 てな訳で、あっと言う間に焼却処理完了。


 確認してみたが、魂の方はカスすら残っていない。

 熊男とは逆パターンだな。

 奴の体は塵も残さずの状態にしたけど、浄化は使ってなかったし。

 アレも相当だったけどギブソンとは悪党としての格が違う。

 言うまでもなく、熊男の方が小物だ。

 まあ、悪党の比較などしても意味がないか。


 残るは仕上げというか後始末だな。

 誰が死んだか確定させられる状態にはしたが衛兵を動かすにはもう一声ほしい。

 この場所に寝室のベッドを転送して、そこに寝かせておくか。

 衛兵たちはさぞや混乱するだろうが証拠の日記も一緒に置いておけば何とかなるはず。


 ああ、賄賂を受け取っている奴らには敷地内に入れないよう結界を張っておこう。

 証拠隠滅されたりウソの証拠をでっち上げられたらかなわんからな。


 結界は本人の意識下に働きかけてギブソンとつながりがあるなら発動する仕掛けだ。

 奴が落雷を受けて焼却完了するまでの様子を幻覚で見せ闇魔法で恐慌状態を引き起こさせる。

 グロ注意を見せた上で状態異常を引き起こさせるコンボは結構なダメージになると思う。

 何日かは使い物にならなくなるだろう。


 あとは地下室の結界を解除して撤収だな。

 ただ、そこに問題がひとつあった。

 どうやって戻るかだ。

 トイレで自動人形と入れ替わるのは行きでやったからな。

 さほど時間もたっていない状態でトイレを再び利用するのは変だろう。


 しょうがない。

 ぶっつけ本番だが冒険者ギルド長の執務室に直接転送するか。

 幻影魔法で誤魔化せるとは思うんだけど不安材料がひとつ。

 ここからだとピンポイントで狙って幻影魔法を送り込むっていうのが微妙なのだ。

 想定外のミスで勘のいい奴に気付かれるリスクが懸念される。

 至近距離なら失敗はないと断言できるんだけど……


 そっか、光学迷彩状態のまま執務室の適当な場所に戻って入れ替わりの転送をすればいいんだ。

 案ずるより産むが易しってことでサクッと行動開始して無事成功。

 ただし別の問題が浮上する。


「………………………………………」


 暇だ。何にもすることがない。

 皆も黙りを決め込んでるし。

 ギスギスしていないだけでうちの面々以外は張り詰めて硬い表情をしている。


 こんな調子ならタイミングを見計らって帰るんだったな。

 だが、俺も戌亥市役所では鉄仮面と言われた男だ。

 微妙な空気が漂う中でも無表情で姿勢を崩さず座り続ける。

 意味不明なクレームもこれでスルーして切り抜けてきた。

 この程度は脅威ですらない。


 ……自慢にもならんな。

 それよりも今後の予定について検討する方が良いだろう。


 衛兵隊長が来たら証言をするのは確定。

 これであの女戦士は無罪放免となるはずだ。

 絡んだ側のバカどもは有罪だが、そこに罪の上乗せが来る。

 ギブソンの裏の商売において主導する立場にいたとなれば全員が極刑間違いなし。


 念のために監視を付けておこう。

 万が一にも釈放されると同じことの繰り返しになりかねないし。

 バカ丸出しな奴らだからさっさと捕まるだろうけど時間を浪費することにかわりはない。

 そうでなくても大晦日まで数日だというのに面倒事なんて御免被る。


 大晦日と言えば皆で蕎麦とお節料理をつくる時間はなんとか確保できるか。

 でも、証言だけして「ハイさようなら」とはいかない気がしてきた。

 現場検証とかもするだろうし冒険者ギルドの登録は済んだけど試験は受けていない。

 この調子じゃ、もう一泊しなきゃならんかもなぁ。


 ちなみに冒険者ギルドの試験については俺がギブソンを処している間に説明されていた。

 俺も【多重思考】スキルで自動人形が聞いていた話をリアルタイムで確認してある。


 受付嬢の説明によると冒険者ギルドも商人ギルドのようにクラス分けがあるそうだ。

 ただし、金銀銅の3段階ではない。

 上から紫黒茶青水黄緑赤白の9段階になっているという。

 商人ギルドと混同されないようにあえて金銀銅は外されているんだってさ。


 白が登録しただけの駆け出しで俺らも試験を受けていないからこの状態。

 白のままだと街中の依頼だけしか受けられない。

 赤もそこに簡単な採取系が加わるだけ。

 ここまでは言ってみれば仮ナンバーか仮免許か。


 緑になって初めて簡単な戦闘系の依頼を受けられるようになる。

 黄色も似たようなものだ。

 まるで初心者マークである。

 そう考えると元日本人の俺としては覚えやすいな。


 水色でようやく一人前ということで最も多くの冒険者がいるそうだ。

 初心者卒業は簡単でも、そこから先は難しいみたいだな。

 そのまま引退する者も少なくないんだと。

 金髪ポニテの女の子に絡んだ奴らもその口だ。

 引退というか資格を剥奪されたそうだけど。

 冒険者ギルドの魔道具を壊した事実は外での喧嘩と違って商人ギルドの幹部でも覆しようがないからな。


 青は経験を積んだベテランが多いらしい。

 そして茶より上となると英雄視されるという。

 まかり間違って試験で一気にこのクラスより上に認定されると怖いな。

 理屈の通らない妙なのに集られたり絡まれたりしそうだし。


 ちなみに黒はともかく紫は過去に数名しかいないそうだ。

 現役では黒が最高位なのか。

 やり過ぎないように気を付けないとな。

 金髪ポニテの女の子で青か茶クラスのはず。

 彼女を手本にして加減の度合いを調整するのが良さそうだ。

 そのためにも彼女の無実は絶対に証明しないと。


 ただ、帰ってからのスケジュールが厳しくなるかもしれない。

 下手すると明日も泊まりになるからだ。

 どうしたものかと頭を悩ませるも浪費した時間を取り戻すのは困難。


 そういう時は困ったときのローズさん。

 相談したら、あっさり返事をくれたよ。


『くーくくっくぅーくーくーくうくっくぅ』


 時差があるんだから帰ればいいんじゃね、だって。

 目から鱗が落ちるというか、寝る時間を使って指示出しに帰れば良かったんだよ。

 下準備さえしておけばカーラとキースに指示を出せばいい。


「ん?」


 階下から「帰ったぞ」というゴードンの声が聞こえてきた。

 どうやら無事に衛兵隊長を連れて来たようだな。


読んでくれてありがとう。

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