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89 我はシノビマスター

改訂版です。

 ブリーズの街における悪の根源、商人ギルドの幹部ギブソン。

 現在、奴は自宅の地下にある隠し部屋で金勘定をしている。

 裏の仕事で手に入れた金だからこその場所なんだろう。

 こちらとしても好都合だ。


 とりあえず、そこから出られないよう通路側も階段側も結界で封じよう。

 斥候の自動人形たちに命じて密かに結界を張らせた。

 同時に召喚していた雨雲を還した。


「お、おい、何なんだ!?」


 スコールのように激しく降っていた雨が急に止んだことでゴードンが面食らっている。


「急に降ったり止んだり普通じゃねえだろ」


 その困惑ぶりはシャーリーたちにも伝播したようだ。


「ワシも初めてだな」


 ハマーが同意するとシャーリーも頷いていた。

 ボルトはその余裕すらなく呆然としている。


「もっと南に行けば珍しくありませんぞ」


 アーキンも呆気にはとられていたが記憶を掘り起こす余裕は残っていたようだ。


「確かスコールと言うそうですな」


 そこで俺の方を見てくる。


「ああ、間違いない」


 俺の返答にアーキンは満足そうに頷いた。


「これがスコール……」


 ボルトが呟く。


「さすがは賢者様」


 続いて斜め後方からそんな声が聞こえてきた。

 振り返って声の主を確認してみると感激したように盛り上がっている受付嬢だった。

 それとは対照的なのがハマーだ。

 押し黙ったまま何か考え込んでいる。


 さて、ゴードンとシャーリーはどうかな。

 困惑の色は残っているようだけど冷静さは取り戻しているみたいだ。

 ならばゴードンにはそろそろ働いてもらうとしよう。


「嵐は去ったようだが?」


 ゴードンに向けてそう問いかけると──


「衛兵隊長を迎えに行ってくる」


 そう言って部下に指示を出し始めた。

 衛兵隊長とすれ違いになっても引き留めておくようにとか細々したことだ。

 暴動対策は俺の発言を意識したのか保留にしていた。

 半信半疑ってところだろう。

 それもあってか俺たちには、ここで待っていろと言われてしまいましたよ。


「これから忙しくなりますな」


「ええ、本当に」


 商人ギルドコンビは色々と想定しながら打ち合わせを始めてしまう。

 部外者に聞かれても無難な範囲で話をしているようだ。


 今のうちだな。

 黒幕だけは遠隔ではなく直々に始末することにしたのでね。

 身内でさえ人間扱いしない上に神を愚弄する輩だ。

 称号に[女神の息子]がある俺には看過できるはずもない。


 まあ、ゴードンに執務室から出るなと言われた手前、長く離れている訳にもいかない。

 せいぜいが用足しくらいだろう。

 故にそれを利用して身代わりと入れ替わることにした。


 今から俺の代理は書記型自動人形だ。

 半自動でリモートコントロールしつつ見た目は幻影魔法で修正しておく。


 続いて俺の方は全身黒ずくめのシノビマスターに早変わり。

 転送魔法を使った超高速の着替えは更衣室いらずなんだが何故か恥ずかしかったりする。

 異世界には赤マントのヒーローが使う電話ボックスなんてないし。

 いや、現代日本にだってないだろう。

 あったとしても日本のそれは丸見えなタイプしかないけどな。


 ……バカなこと考えてないで、さっさと粗大ゴミの処分をしに行こう。

 斥候型自動人形が座標の安全を確認してくれるので魔法で覗き見しなくて済むのは面倒がなくて良い。

 あっと言う間にギブソンの屋敷に到着だ。


 まずは奴の自宅にある地下室へと通じる階段側に出た。

 上がりきった所に引き戸があるが閉じられている。

 向こう側は本棚になっていて、いわゆる隠し扉というやつだ。


 今の状態だと外の光は入ってこない。

 所々に照明用の魔道具が設置されていなければ真っ暗だったはず。

 暗闇でも普通に見ることができる俺には関係ないけど。


 照明の魔道具は出力を落として長持ちさせることを重視しているらしく明るくはない。

 古い特撮ヒーロー番組で見た悪の秘密結社の秘密基地を思い出してしまったほどだ。

 まあ、ギブソンたちがやってることも近しいものがある。

 違うのは首領や幹部が奇天烈な格好をしていないことと怪人や覆面戦闘員がいないことだろう。

 それと首領たるギブソンがこの奥に1人でいることか。


 見張りも護衛もつけないのは屋敷の使用人が一味ではないことが関係していそうだ。

 俺にとっては好都合。

 こちら側にある出口の引き戸は地魔法でガッチリ固定。

 その上で音漏れ防止に風魔法を使っておく。


 では、行こう。

 転送魔法でギブソンがいる部屋に入ると痩せぎすの男が金貨を数えていた。

 コイツがギブソンだ。


「ニノサンニノサン」


 2枚と3枚を交互に数える変則的な方法を使って素早く10枚ずつに分けている。

 手早いものだが元日本人故か男性アイドルの名前を呼んでいるように聞こえる方が気になった。

 いや、つまらんことを気にしている場合じゃない。


 パチン!


 フィンガースナップで指を鳴らすと同時に衝撃波を当てて照明の魔道具をすべて破壊。


 パリンパリン


 ガラスの砕けるような音が室内に響き渡り、部屋は暗闇に閉ざされた。


「な、何だっ!? 何も見えん! 何が起きた?」


 そりゃあ、お生憎様だな。


「ええい、ここには入ってくるなと言ったはずだ!」


 どうやら使用人が来て誤って照明を壊してしまったとでも思ったか。


「なにをしている! はやく明かりを持ってこいっ!!」


 横柄な口ぶりだがシャーリーたちよると普段は慇懃な態度だという。

 いきなり視覚を奪われて猫を被っていられなくなったようだな。


「本性を現したな」


 俺の声は覆面のせいで少しくぐもっていたが聞き取れるはずだ。


「っ!? 貴様は誰だ?」


 驚いたギブソンは誰何しながら椅子から腰を浮かせようとする。

 が、しかし……


「うおっ! か、体が動かん!」


「忍法、金縛りの術」


 ただの理力魔法だけどね。


「我はシノビマスター。悪に罰をくだす者なり」


「なんだと?」


「ジョージ・ギブソン、お前の悪事は既に露呈している」


「何をバカな……」


「その奥の通路の先に麻薬の製造場所があることは突き止めてある」


「な、何のことだか」


「同じく非合法な手段で確保した奴隷も監禁しているだろう」


「知らんな……」


「ブリーズの街の各所で同時多発的に放火して暴動を引き起こす、か」


「なっ……!?」


「お前の日記は先に確保した」


「誰かっ! いないのか!? 誰でもいい! すぐにワシの所に来い!!」


「忍法、音千切り。お前の声は誰にも何処にも届かない」


 仕込んだ風魔法で音が外に漏れないようにしているだけだ。


「なんだと!?」


「すべての音や声はこの部屋の外に出る瞬間に消えてなくなる」


「バカな! そんな魔法じみたことが出来るはずがない」


 ギブソンは声を限りに人を呼びつけようと叫び始めた。


「忍法、遠見写し」


 幻影魔法で街中や地下で絶命している連中の姿を見せてやる。


「こここれはっ!?」


「息をするように悪事をする奴らの末路だ」


「バカな……」


「商人ギルド長を暴動の混乱に乗じて拉致監禁し奴隷にしようとしていたな」


「知らんっ」


「同じく商人ギルドの幹部たちを亡き者にする計画も日記に書いてあったぞ」


「知らん知らんっ」


「衛兵隊長も狙っていたな」


「ワシは何も知らん!」


「都合の悪いことを知った人間は事故に見せかけて殺したとも書いていたよな」


「そんなものは貴様の妄想だ!」


 強がる理由は日記に施した細工に自信があるからだろうか。


「表紙の中に仕込んである魔道具は外したから証拠隠滅はできん」


 仕組みとしては単純だ。

 鍵を壊して無理に開こうとすれば全ページが真っ黒になるだけだからな。


「ぐっ、どうして、それを……」


「子供騙しの玩具を見抜けぬ者がシノビマスターを名乗ったりはしない」


 ドヤ顔で言っても覆面してるし真っ暗闇だからから意味がない。

 そもそもギブソンに忍者の知識はないからなぁ。

 シノビマスターと言われて分かるのはゲールウエザー王国の王宮内にいる一部の人間だけだ。

 現に向こうは戸惑った様子を見せている。

 演出にこだわりすぎるのも考え物だ。


「神の加護があると大言壮語しておきながら、この程度か」


「なんだとっ!?」


「そう見せかけるための数々の隠蔽工作は白日の下に晒されるだろう」


 俺の言葉にギブソンは歯をむき出しにして怒りをあらわにしていた。

 奴が暗闇でも見通せる目を持っているなら俺を睨み付けていたことだろう。

 何も言わなくても自白したようなものだ。


 おっと、コイツの罪状は洗いざらい暴き出すのは鑑定すれば充分か。

 屋敷中の壁に彫り込んでおけば衛兵たちも裏付けを取るために動くかな。

 とりあえず無関係な人間に騒ぎ立てられるのも面倒だ。

 敷地全体に睡眠の魔法をかけて半日ばかり眠ってもらおう。


 はい、眠れ~。


 範囲魔法で全員が抵抗する間もなく倒れ込んで眠りについた。

 これで良し……

 あ、ギブソンまで寝ちゃった。


 鑑定するのに支障はないからいいや。

 さて、【天眼・鑑定】スキルを使う時間がやってきました。


「…………………………………………ふう」


 溜め息しか出ない。

 どれだけ殺せば気が済むんだというくらい殺人教唆だらけだ。

 しかもストレートに殺意が湧いてくるくらい己の手は汚さないようにしている。


 誘拐も強盗も配下の者に実行させているし。

 犯罪者集団のボスというのは、そういうものなのかもしれないがね。

 しかも相手によっては身代金要求までしていたのかよ。

 で、人質を解放せずに奴隷にして国外に売り飛ばす?

 今すぐ空の果てまでぶっ飛ばしたくなるな。


 他には麻薬密造密売に禁制品の不正取引、貴族や衛兵の賄賂を用いた懐柔などなど。

 ここまで罪状が並ぶと壁に刻み込むのは確認する衛兵の負担が大きすぎる。

 鑑定結果は赤字で日記の白紙ページに転写した方が確認しやすいだろう。


 転写が終わったら日記を複製する。

 完全コピーではなく複製の方は表紙から色を抜いた上で[複写]と赤スタンプを押す。

 オリジナルはブリーズの街の衛兵に進呈だ。

 複写の方は【天眼・遠見】のスキルで留守を確認して宰相の執務室に転送した。

 [シノビマスターからの贈り物]というメモを添えたので、嫌でも動くだろう。


 さて、予告した「黒幕はすべてを暴き出され」の部分は終わったから次は仕上げだな。

 残すは「地獄の業火に焼き尽くされる」だからギブソンを庭に転送した。

 奴の周囲を結界で囲って火が他に燃え移らないようにする。

 俺自身は光学迷彩で目撃されないようにしておく。

 これで準備完了。


 では、サヨナラだ。


読んでくれてありがとう。

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