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88 電撃と氷結と

改訂版です。

 俺の中でギブソンは人間のクズとして認定された。

 奴の犯罪自慢が満載された日記を読めば誰でもそう思うだろう。


 そして、これから実行される犯罪計画は大胆極まりなかった。

 街の各所で放火して暴動を誘発させるというのだ。

 罪のない人間が大勢死ぬことになることについて良心の呵責など欠片も感じられない。

 日記には火事で死んだことにすれば誰を何人掠おうが問題ないとまで書いていたからな。


 これは非合法な手段で奴隷を得るための放火でもあるのだ。

 反吐が出そうになる。

 この男は死ぬより辛い目にあっても恨みを募らせるばかりで決して後悔などすまい。


 消えてもらう他ないが、その前に暴動が発生してしまっては元も子もない。

 放火を合図にするというなら、火がつかないようにするまで。

 豪雨が降り続けば火など燃え広がるものではない。

 俺は雷雲召喚の魔法を使った。


 そのタイミングで冒険者ギルド長ゴードンが立ち上がる。


「何をするつもりだ?」


「非常呼集だ。ブリーズ冒険者ギルドの総力を挙げて暴動を止める」


 衛兵が完全に封じ込められそうな状況だからな。

 それはゴードンの立場からすれば賢明な判断と言えるだろう。


 だが、黒幕だけじゃなく実行犯にも消えてもらおうと考えている俺にとっては都合が悪い。

 冒険者を巻き添えにする恐れがあるからな。


「暴動なら発生しないよ」


 ゴードンを止めるための言葉を繰り出しながら何か手はないかと考える。

 これから準備できるものなど……

 いや、雷雲は召喚されつつある。

 これを利用して一芝居打つか。


「はあっ!? 何を言っておるか、お前は」


 呆気にとられ素っ頓狂な声を出したゴードンに、俺は真面目な顔で告げた。

 三文芝居の始まりだ。


「間もなく天より罰が下される。

 暴動の狼煙は嵐によってかき消されることだろう。

 狼煙を上げようとする者には天から降り注ぐ光の矢。

 扇動家たちには凍てつく死の洗礼。

 黒幕はすべてを暴き出され地獄の業火に焼き尽くされん」


「大丈夫か、ヒガ?」


 首を捻って人の顔を覗き込んでくるゴードン。

 頭のおかしい人認定しやがったな。

 まあ、厨二くさいのは否定しない。


「窓の外を見るがいい」


「ああん?」


「神の加護を得ていると、うそぶく愚か者への天罰が下されるだろう」


 ゴードンは首の捻りを変えて窓の外に目を向けた。

 ゴロゴロと遠雷の音が聞こえてくる。


「なっ!?」


 晴れていたはずの空がにわかに掻き曇ったのを見たゴードンが驚愕したままフリーズ。

 シャーリーやアーキンも言葉を失って表情を凍り付かせていた。

 空から雨粒が降り注ぎ始め、じきにザーッという音を伴った激しいものとなったからだ。


「まさか本当に嵐が……」


 愕然としたままゴードンが呟きを漏らす。

 この調子ならしばらくは非常呼集を掛けたりはしないだろう。


 さて、本番はここからである。

 街に放った数々の斥候たちの目を通して実行犯たちの位置は把握済み。

 思わず呆れたのだが放火する奴がどの場所でも見張りすら付けていなかった。


 黒幕であるギブソンも緻密なようで杜撰である。

 いや、重要な仕事を任せられる面子が足りていないだけか。

 暴動の誘発を任せられた連中は大雨で退散したのに放火の奴らは奮闘中だしな。

 油をまき散らした建物だけでも燃やそうとしているのだ。


 そんなのが同時に18カ所とか常軌を逸しているにも程がある。

 俺が何の対処もしなければ街の半分近くは火の海に包まれていたかもしれない。

 斥候たちにマーキングさせて転送魔法で油と色水を入れ替えたから火はつかないけどね。


 では、罪の意識が欠落しているようにしか見えない連中には消えてもらうとしよう。

 カムフラージュ用の幻影魔法を展開させる。

 続いて全ターゲット、ロックオン。

 地魔法メタルワイヤー射出!


 久々だな、これ使うの。

 大量にポップしたゴブリンを片付けたとき以来だ。

 前より遥かに高速で伸びていくのは【魔導の神髄】スキルの効果だろう。


 放火犯どもは全身に無数のワイヤーを浴びるように食らい絶命していく。

 ワイヤーの餌食になったところで体内に放電して落雷に打たれたように見せかける。

 ついでに光魔法の浄化も添加した。


 悪党の魂は瘴気を取り込みやすいからな。

 そういう魂は浄化をかけるとダメージを受けてしまい、場合によっては魂が消滅する。

 街中でアンデッド化させないことの方が大事なので連中がどうなるかなどは気にしない。

 刺し傷を残さぬよう遅延発動する治癒魔法を傷口に仕込んでワイヤーを瞬時に回収した。



 放火が阻止できれば次だ。

 本物の雷を落として予告したことを真実にしておかないとな。

 被害が出ないように調整して雷召喚だ。

 ドオォォン!! という腹に響いてくる轟音。

 一瞬、窓の外が真っ白になった。


「おおっ、なんだぁ!?」


 窓に向かってゴードンが吠えるように叫ぶ。


「どうやら天罰の一つ目が下ったようだぞ」


 ギョッとした表情で振り向いてくる一同。

 まあ、うちの面子は平然としているけど。


「ど、どういうことですか、先生っ!?」


「どうって言われても、さっき言った通りのことが始まっただけなんじゃないか?」


 ハマーあたりに俺の仕業と疑われぬような言い回しを意識しつつシャーリーの疑問に答えた。


「何故そこで疑問形になるんだ」


 案の定というか思惑通りというかハマーが乗ってきた。

 想定通りなら厨二くさい三文芝居で押し通す。


「聞こえなかったか?」


「何がだ?」


「声なき声が頭の中に響いただろう?」


「「はあっ?」」


 なに言ってんだお前の目で見てくるゴードンとハマー。

 なかなかメンタルにグサグサくる視線だが予期していればスルーできる。


「神の加護を謳う不届き者はすべてを失うってさ」


 厨二心あふれる芝居中であることを自覚する方がダメージは大きいかもな。


「意味が分からんわ」


 ゴードンが頭を振りながら言ってきた。

 ハマーがそれに同調するようにウンウンと頷いている。

 他の面々は困惑した様子で互いを見合わせていた。


「希にだが、そういう意味分からんのがあるんだよ」


「ウソつけぇ」


 ゴードンは信じていないようだ。


「俺だって最初から信じた訳じゃないぞ」


「む」


「最初は念話の魔法を使って誰かが語りかけているのかと思ったけどな」


「そんな魔法があるのか」


 マイナーな魔法だからかゴードンが目を丸くさせている。


「向こうが勝手に喋るだけで会話が成立しないから違うんだろう」


「お前も使えるのか」


「これでも賢者だぞ」


「うっ」


 ゴードンが軽く怯んだところで話を続ける。


「その上、告げられたことは一度も外したことがない」


 真顔で出鱈目を言ってのけた。


『くーっ、くっくっ。くっくぅくー!』


 ダメだ、おかしい。耐えられない! って、オイ。

 おまけに寝っ転がってバタバタ暴れるような笑い方している姿まで念話で送ってくるし。


『笑うなっての』


『くっくぅ』


 黒歴史ーって笑いながら言うことか。

 そんなのは百も承知だよ。


『くぅーくぅくっくーくぅ、くくーくぅくっ』


 一度も外したことがない、キリッだってー、だと?

 そこだけ笑うの止めて真似しておいて爆笑するなっての。

 俺だって死にそうなくらい恥ずかしいんだ、やめろください。

 あの調子じゃ止まらないだろうから俺は強制的に念話を切った。


 一方でゴードンは苦り切った顔で唸っている。


「そんなことを言われても証拠がなければワシには信じて良いものかどうか判断できん」


 さすがにギルドのトップだけあって簡単には慎重な姿勢を崩さない。


「外は嵐になってきているし、落雷もあったが?」


「嵐はともかく雷が人に落ちたとは限らんだろう」


「落ちてるさ。間違いない」


「まるで見てきたように言うんだな」


 見ながら落としたからな。

 標的は先に始末したけど。


「雨が弱まってから確かめに行けばいい」


 さすがにこの土砂降りの中で街の様子を見に外へ出ろとは言わないさ。

 こちらとしても嵐の間に悪党どもの始末をつける必要がある訳だし。


 ここで扇動担当の連中が引き上げた場所が重要になってくる。

 有り体に言ってしまうとアジトなんだが、黒幕ギブソンの裏の顔を暴くために必要だ。


 アジトは複数箇所にあったが斥候型自動人形たちが発見済みだ。

 治安の良くない地域に集中していた。

 建物は石造りのものばかりだけど細い道が入り組んでいて、そこいら中が薄汚れている。

 俗に言うスラム街だな。


 雇われ連中は迷いなく道を走り抜けて小さな一軒家に入っていった。

 激しい雨の中ということで誰も周囲の様子を警戒するそぶりも見せていない。

 さすがに最後の男が家に入ると戸締まりをしていたけどな。

 生憎と斥候型の自動人形は既に奥の部屋にいるから意味はない。


 その部屋の床には地下へと続く階段があった。

 最後の男が見張りとして残るようだ。


「酷い目にあったな」


 独り言を呟きながら服を脱いでいく最後の男。

 その場で雑巾かと思わせるほど汚い服を絞った。

 濁った水がビシャビシャと音を立てて床に落ちていく。


「うへぁ、スゲえな」


 部屋の中にできた水溜まりを見て苦笑している。

 それがお前の最後の記憶になるだろう。


 地下の様子も確認した。

 麻薬の製造工場に非合法の奴隷を捕らえておく牢屋がある。

 奴隷の扱いは酷いの一言に尽きるが死んではいない。

 命に別状がないならギブソンの外道ぶりをその身で証明してもらおう。


 地下は麻薬の工場や牢屋もそれなりの広さだったが延々と続いている通路の方が印象的だった。

 途中から分岐して片方はギブソンの自宅、もう一方は街の外につながっている。

 店舗にはつなげていないあたり用心深いつもりなのか。

 証拠になるであろう日記は自宅保管だし、そこから徹底的に家捜しされそうなものだが。

 そうなると地下室で保管している裏帳簿も発見されてしまうだろう。


 何にせよ、ここにいるギブソンの手下どもにも消えてもらう。

 どいつもこいつも例外なく何人も殺しているような極悪人ばかりだ。

 浄化もしないと地下が瘴気まみれになりかねないほどに。


 斥候型の自動人形がいるのでマーカーがわりにして魔法を発動させる。

 消費する魔力は魔石を連中の足下に転送してそちらから使った。

 多重起動した魔法で瞬時にクズ共は凍り付き、魔石は自動人形たちに回収させた。


 これで証拠は残らない。

 残ったのは黒幕のギブソンただ1人である。

 偵察の結果、痩せぎすで糸のように細い目をした男だということが判明した。

 昨日のチンピラ冒険者のリーダー格に似ている。

 ただ、ギブソンの日記にもバカ息子と書かれるくらいリーダー格は下っ端然としていたけれど。


 あ、身内なら息子もギブソンか。

 息子の方はチンピラでいいだろう。

 収監されている状態のコイツは、この国の法で裁かせよう。

 ギブソンの犯罪に深く関わっている証拠を残しておけば極刑は免れられんさ。


 そうなると残るは黒幕のみ。

 地獄が待ってるぞ、ギブソン。


読んでくれてありがとう。

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