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87 悪は神を侮辱した

改訂版です。

「いやー、いきなりでスマンね」


 謝罪にしては軽いなと自分でも思う。


「死ぬかと思いました」


「同感ですな」


 シャーリーもアーキンもそう言っている割には気にしてはいないようだ。

 内緒で魔法を使って乗り物酔い状態から回復させたのが良かったかな。


「………………」


 ただ、約1名は憮然とした表情をしている。


『クリスお嬢様を助けた時のようなフリーフォールはしていないよな?』


 ローズに念話で確認してみる。


『くうくー!』


 もちろん! だって。

 そうなると、ろくに説明していないから怒っていると考えるのが妥当か。

 酒を飲みながら将棋で完徹しなければ、こんな目にはあわなかったと思うんだけどね。


「それにしても、お前はとんでもないことをしやがるな」


 冒険者ギルド長ゴードンは呆れ返っている。


「そうか?」


 必要だから3人を連れてこさせたんだけど些か強引すぎたようだ。


「無自覚かよ」


 そう言いながら嘆息するゴードンの方が一般人の感覚に近いのかもな。


「ところで先生」


 今度はシャーリーに話し掛けられる。


「先生だぁ?」


 ゴードンが大げさとも言える反応を見せた。

 驚き半分、呆れ半分といった声音で眉根を寄せている。

 シャーリーは「しまった!」という表情で俺の方を見てきた。


「この面子なら問題ないだろう」


 迂闊ではあるが目くじらを立てるほどのことでもない。

 俺の言葉にシャーリーは安堵の溜め息をついていた。


「君も内緒にしてね」


 念のために受付のお姉さんに声を掛けておく。


「はいっ! もちろんです、先生」


 元気な返事でよろしい、じゃなくて!

 なーんで受付嬢まで俺のこと先生って呼ぶかね。


「いや、俺は一介の商人で冒険者だからね」


「「「とんでもありません!」」」


 あ、商人ギルド組と受付のお姉さんがハモった。


「先生は修復に何ヶ月もかかると言われた魔道具を使えるようにしてくださいました」


 フンスと鼻息も荒く受付嬢が力説する。


「「さすがは先生ですね」」


 商人ギルド組が拍手つきで持ち上げてきた。


「はいはい、別に修理したわけじゃないからねー」


 もうちょっと冷静になってよねって感じだ。


「俺は目立つの嫌いだから人前で先生とか呼ばないように」


「「はいっ」」


 シャーリーもアーキンも元気よく肯定の返事をした。

 だからといって真に受けるのは危険だ。

 上の空とまでは言わないが、俺に呼び出されたことが嬉しいようで結構な浮かれようだからな。


 とにかく本題を切り出さないことには始まらない。


「ゴードンから証言を頼まれてな。商人ギルドの中に腐ったリンゴがあるそうだ」


 この言葉に商人ギルド組は豹変。

 ゴードンへ「言い掛かりつけようってのか、ゴルァ!」ぐらいは込められていそうな鋭い視線を向ける。

 もっとも、ゴードンは「だからどうした」とばかりにスルーしていたが。


「話は最後まで聞こうか、二人とも」


 俺の呼びかけに我に返った商人ギルド組の両名は真剣な表情で俺に向き直る。


「アーキンは知っていると思うが、昨日ここの前の通りでケンカ騒ぎがあった」


「女冒険者が6人組と喧嘩になって我々が立ち往生することになった件ですな」


 俺は頷きで返答する。


「どうやら、その女冒険者が不利な立場に立たされているらしい」


 アーキンが首をひねった。


「変ですな。彼女は忠告もしましたし、どう見ても6人組が悪いはずですが」


「それは本当か!?」


 前のめりになって問うゴードン。


「ウソをついても信用を失うだけでしょう」


 淡々と切り返すアーキンに、ゴードンは初めてたじろいだ様子を見せた。


「あの女冒険者を取り囲んだだけでなく武器まで手にして襲いかかりましたよ」


「ワシも見た」


 ここで黙っていられなくなったらしいハマーが口を挟んできた。


「あれで女の方が不利になるというのが解せん」


「もしかして──」


 一呼吸置いて皆の注目を集めるシャーリー。


「その男たちの中に商人ギルドの関係者がいたということですか、先生?」


「みたいだよ。名前も詳細もまだ聞いてないけど」


 シャーリーはキリリと仕事モードの顔になってゴードンの方を向いた。


「バフギルド長、詳しい話をお聞かせ願えますか」


「おうよ」


 ここで一連の流れが説明される。


 まず、例の6人組は駆けつけた衛兵によって拘束され牢に入れられた。

 ここまでは順当と言えたのだが……

 目撃者を自称する者が何人も現れて6人組の釈放を要求。


 しかも悪いのは問答無用で殴りかかってきた女の方だと証言したという。

 ギルド職員とは真っ向から対立する証言だ。

 数はデタラメな証言をしている連中の方が多いため衛兵も無視できなくなったらしい。

 このため女冒険者が拘束されたという訳だ。


 6人組も拘束したままで捜査は継続中なのが、せめてもの救いか。

 この状況を作り出し暗躍していると目されているのが6人組のリーダー格の親だという。

 黒幕は商人ギルドの幹部で酒屋を営んでいるんだと。

 その情報がゴードンから語られるや否や──


「「ギブソン! あのクソ野郎!!」」


 シャーリーとアーキンが吠えた。

 商人ギルド組の2人にとっても忌々しい存在のようだ。

 先代から黒い噂が絶えない疑惑の一族だとかで場所柄も考えず口汚く罵っていた。

 証拠を集める前から完全に黒判定しているところを見ると相当な悪党のようだ。


 とりあえず2人にそのあたりのことを聞いてみたのだが。


 まず、非合法な手段で奴隷を確保している。

 事実なら一発アウトな情報だ。

 一部の国を除き極刑は免れないからな。

 ただ、このギブソンとかいう商人は証拠がないため限りなく黒に近いグレー判定をされているという。


 他にも脱税や禁制品の裏取引など悪事の噂は枚挙にいとまがないらしい。

 もちろん、証拠は何ひとつない。

 あったとしても今回のように金の力で隠蔽するようなタイプだとか。

 そのせいか金で買えないものはないとうそぶくような男らしい。

 だからこそ疑惑を持たれながらも商人ギルドの幹部でいられるのだろう。


 まあ、当人の商才は凡庸だそうだが。

 黒い噂が絶えないのも無理からぬところであろう。

 本人は神の加護があるおかげだと吹いているそうだ。


 カチンときた。

 誰からも疑惑の目を向けられるような奴が神の加護だと!?

 それはベリルママや亜神たちを愚弄していることに他ならない。

 断じて許さん!!


 【多重思考】スキルをフル活用して斥候型自動人形を生産し次々と街中に放っていく。

 ギブソンの酒店はすぐに発見したので自動人形を潜入させて内部検索を始めた。

 簡単に尻尾を掴ませない奴らしいから店では証拠は出てこないと思うが念のためだ。


「それにしてもハンスめ、遅いではないか」


 ゴードンが苛つきを隠さずに呟いた。


「今回の絡みで動けないんじゃないのか」


 街中に放った自動人形からそう推測できる情報が入ってきている。


「なんじゃと?」


 怪訝な表情で返された。


「衛兵隊長は詰め所にいるんだろ?」


「見回りをするような時間ではないからな」


「当然、牢屋があるよな」


「何が言いたい?」


 更に怪訝な表情を深めるゴードン。


「結論から言えば、衛兵隊長が動けない状態なんだろうよ」


「まさかバカどもが脱走したと言うんじゃあるまいな」


「そんな訳ないだろ」


 あの連中にそんな真似ができるほどの技量も胆力もあるとは思えない。


「だが、バカの親は商人ギルドの幹部だ」


「親が抗議に来たのか」


「それならアンタの部下は報告に戻ってくるんじゃないか」


「ならば何が起きている」


「親に雇われた連中が「無実の人間をいつまでも牢屋に入れたままにするな」とか騒いでるんだろうよ」


「何ぃ?」


「頭数をそろえて詰め所の前で抗議させれば暴動につながりかねないよな」


 当然、衛兵隊長は対応しなきゃならない訳だ。


「衛兵ではないハンスは帰ってこられるだろうが」


「抗議する連中が多すぎて詰め所から出るに出られないんだとしたら?」


「むぅ」


 ゴードンはしかめっ面で唸り声を上げた。


「しかしなぁ、それは推測でしかないだろう」


「あの男なら騒ぎを大きくするくらいはやりかねませんな」


 そう言ったのはアーキンだった。


「そんなことをする必要が何処にある?」


 仏頂面でゴードンが問う。


「自分の悪事を捕まっている者たちから聞き出されることを恐れているのでしょうな」


「むっ」


「衛兵隊長を相手に賄賂は通じないでしょう」


「ああ、そういうのを嫌う奴だからな」


「であれば尋問されないようにすればいい」


「そのために騒ぎを大きくするとか無茶苦茶だぞ」


「そうでもないさ」


 俺の言葉にゴードンが信じられないものを見たような目を向けてくる。


「騒ぎが大きくなれば尋問どころじゃないのは分かるだろ」


「だからと言ってなぁ」


「それだけじゃないんだよ」


「ぬわんだとぉ!?」


「女戦士が無実だと証言する人間が出てこないようにする脅しにもなる」


「なるほど、大勢で威圧しているようなものですからね」


 シャーリーが大きく頷きながら言った。


「そういうこと。一般市民じゃまず無理ってなる」


「証言するためには詰め所に出向かねばなりませんから合理的な方法ですな」


「もし暴動が起きても無実の人間をいつまでも釈放しないからだと言い訳できますよね」


「そういうこと。上手く世論を誘導すれば釈放せざるを得なくなる可能性も出てくる」


「さすがにそれは無理だろう」


 それまで沈黙を守っていたハマーが思わずといった様子で口を挟んできた。


「嫌疑が晴れた訳ではないのだぞ」


「そういう常識的な判断は暴動が起きれば吹っ飛ぶさ」


「沈静化させるために釈放するしかなくなると?」


「それも黒幕の狙いのひとつだろうな」


「なんじゃと!?」


 ゴードンが唾を飛ばしながら叫んだ。


「汚えよ、ゴードン」


「すまんすまん」


 理力魔法で防御したけど、このジジイは興奮させないに限るな。


「先生はギブソンが他にも何かを目論んでいるとお考えなんですね」


 シャーリーが聞いてきた。


「暴動で最もありがちなのが略奪なんかの強盗行為だよな」


「それは証拠が残りやすいと思うぞ」


 ハマーがツッコミを入れてくる。


「黒幕はそれを隠れ蓑として利用する側だ」


「なっ!?」


「衛兵が分かりやすい犯罪に対処している間に影でこそこそ大胆な悪事を働くって寸法だ」


 ちなみに何をやらかすかは判明している。

 ギブソンとかいう商人の自宅の書斎で発見した日記による情報だから間違いない。


[最初はバカ息子がヘマをしたことが腹立たしかったが我ながら素晴らしい計画だ。

 この暴動計画は危機をひっくり返し好機に変える策になり得る。

 アレはバカだが運がある。

 我慢して使ってきた甲斐があった。

 今こそ大勝負に出る絶好の機会。

 ヨハンソンとドーンらを消せば何もかもが思い通りとなるだろう。

 ギルド長の椅子も自動的に転がり込んでくるのだから笑いが止まらん]


 昨日の記述はこんな書き出しで始まっていた。

 あとは犯行計画の詳細が続いている。

 見出しからすると3種類の犯罪を同時に実行するつもりらしい。


 混乱に乗じて麻薬などの禁制品を運び出す。

 商人ギルド幹部の大量暗殺および資産強奪。

 一般市民の誘拐および非合法の奴隷化。


 おまけに混乱を拡大させるために放火までするとある。

 自分の関連施設には被害が及ばないよう位置を厳選しているのは言うまでもない。

 反吐が出るほどのキング・オブ・クズ野郎だ。


 こんなの実行させるわけにはいかないな。

 とりあえず実行犯たちを止めよう。


 それにしても日記に悪事の記録や計画を書き記す心境が理解不能だ。

 いつぞやの宰相補佐官もそんなことしてたけどさ。

 この世界の悪党の間で流行ってんのか?


読んでくれてありがとう。

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