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86 壊れていてもかまいません

改訂版です。

 己の地位を利用して金髪つり目の女戦士に罪をなすり付けようとする卑劣な奴がいる。

 悪を倒せと称号[犯罪者キラー]が訴えかけてくるかのように怒りがわき上がってきた。

 本来はここゲールウエザー王国の法律で裁くべきなのだろう。

 だが、それでは真っ当な結果にならないと俺の勘が告げていた。

 よかろう。ならば戦争だ。


「まずは外堀を埋めるか」


「おい、どういうことだ?」


 ゴードンが聞いてくるが説明が面倒なのでスルーだ。


「相手が幹部ならその上、と言うのだな?」


「ああ」


 ツバキの問いに首肯する。


「それとハマーもな」


「ふむ、では私がシャーリーを連れてこよう」


「ドルフィンとハリーはハマーとアーキンを」


 2人が無言で頷いた。


「かかれ」


 さっと手を振り下ろすと、3人は瞬時にシュッと姿を消した。


「うおわっ! な、なんじゃい!?」


 残像を残して消えたうちの面々を見失ったゴードンは、左右を見て目を瞬かせている。


「貸しひとつな」


「え?」


「この一件を解決させる報酬だ。金品じゃないんだから安いものだろう?」


 俺の問いかけにゴードンはゴクリと喉を鳴らした。


「ヒガ、お前は一体何者なんだ?」


「ドワーフと太いパイプを持っている商人」


「商人だって!?」


 困惑するのも無理はない。

 ただの商人に冒険者でも一握りしかいないようなレベルに達せる訳がないからな。


「俺のことを賢者という者もいるがね」


「な、なに?」


 更に困惑の度合いを深めるゴードン。


「そんなに俺のことが気になるなら試験をすればいい」


「どういうことだ?」


 ゴードンは困惑度MAXの顔をして俺に尋ねてきた。


「商人ギルドでは試験を受けたぞ。冒険者ギルドでも試験はあるんだろ」


「い、いや、あるにはあるが、登録してからの話だ」


「先に試験を受けておくのではダメか?」


「試験の結果しだいでクラスアップもあり得るからな」


 それじゃあ仕方ないか。

 手続きか何かの都合でもあるのだろう。


「なら壊された魔道具を見せてくれないか。それくらいは構わんだろう?」


「む、むぅ」


 俺の要求にゴードンは逡巡を見せた。


「壊れているなら躊躇う理由もないだろうに」


「……わかった」


 ゴードンは部下を呼んで魔道具を取りに行かせた。

 程なくして今回の騒動の発端となった魔道具が運び込まれる。

 本体と端末でワンセットになっているのは窓口のものと同じだがサイズがより大きい。

 見た目はタワー型のパソコンと少し大きめのペンタブレットっぽいかな。


 まあ、ペンタブもどきな石板の方は割れてしまっているんだが。

 やられたのが入力機器だけなのはセパレート式になっているからだろう。


「魔道具といっても脆いんだな」


「コストを抑えるために安い材料を使っているそうだ」


 予算の問題となると追求できないか。

 術式の読み取りに支障はなさそうだし。


「だから窓口に常備しているやつは簡易型を置いているんだ」


 とりあえず【天眼・鑑定】スキルで術式解析してみよう。


「簡易型ならすぐに替えがきくのか」


 【多重思考】スキルがあるから話も同時に進める。


「いや、簡易型には予備がある」


 うわっ、無駄な記述が多くて読み取りづらいぞ。

 必要のない定義とか変数が混在してて読み解くのが面倒くさそうだ。


「なるほど、上位機は高価だから予備がないのか」


 オリジナルのことをよく理解せずに模倣しようとしているな。

 とりあえず無駄な術式を省いて実際に動作している部分だけを抽出しよう。


「そうだ」


 【諸法の理】スキルのエディタ機能を使って流し込んで……

 デバッグモードで仮想実行させてモニタリングっと。


「流れの冒険者が今日の俺たちみたいな表示にならなければ結果は違っていた訳か」


 うわっ、意味のない処理まで入ってるじゃないか。


「いや、ワシらの運用ミスが招いた結果だ」


 こっち省略でバッサリ。


「上位機の端末を持ってくるんじゃなく女戦士を別室に案内して、か」


 あれも省略でゴッソリ。


「そういうことだ。バカどもが関われないようにしていれば、こうはならなかった」


 なにっ、そっちもか!?


「反省も後悔も事前にはできんよ。そこは今後の運用でどうにかするんだな」


 ウソだろ? 意味のある処理が2割を切ってるぞ。

 こんなので動作するってのが凄いわ。


「上手いことを言いおるわい」


 まあ、勝手に修正はしないけど。


「そんなことより、今は解決すべき問題があるだろ」


「ぐぬぬ」


 ゴードンは唸るが、そこはスルーして俺の見た状況を最初から淡々と説明する。

 のっけから食いついてきた。

 チンピラ冒険者が投げられる瞬間なんて見てないっつうの。


「あの体格でか」


 続いて女戦士は後ろも見ずに敵の位置を正確に把握していたと言うと、ゴードンの眉間にしわが寄る。


「ただ速いだけではないとは」


 そして最後に繰り出した技の連携には唸りっぱなしだった。


「まさかそこまでの逸材だったとは……」


「でなければソロで流れの冒険者など続けられないだろう」


「うむ」


 ゴードンは重々しく頷いた。


「そういうことも分からぬとは、あのバカどもが」


「バカだから分からないんだよ」


「まったくだ」


 呆れをにじませた苦笑いをするゴードン。


「そっちは後で片付けるとして、だ」


「なんだ? まだ何かあるのか?」


 ゴードンの問いかけに俺は割れた石板を指差した。


「この魔道具、動かせるぞ」


 たっぷり数十秒は固まってから──


「なにいいいぃぃぃぃぃっ!?」


 唾を飛ばしながら絶叫された。


「汚えよ」


 理力魔法で当たらないようにブロックしたので被害はゼロだが。


「す、すまん」


 筋肉の塊が縮こまる姿に何故かサーカスで芸をする熊を連想してしまった。


「し、しかしな。これが直ると言われても信じられんぞ」


「誰も直すなんて言ってない」


 その気になれば片手間で直せるが。


「動かせると言っただけだ」


「直さずに動かすとか無茶を言うな」


 憮然とした表情で返される。


「窓口で使ってる石版を持ってくればわかる」


「なに?」


「予備があるんだろ。騙されたと思って試してみな」


「無茶なことを言う奴だ」


「そうか? 本体は壊れていないんだぞ」


「むぅ」


「動かせれば儲けものだし、動かなくても損はしない」


「確かにそうじゃな」


 ようやく乗り気になったゴードンが部下に指示を出して予備の石版を持ってこさせた。


「これをどうすると言うんだ?」


 スマホサイズの石版をテーブルに置きながら聞いてくるゴードン。


「まずはこうだ」


 壊れた大きい石版を本体から遠ざける。

 魔力的なつながりが弱まった。

 それが分からないゴードンは表情をいぶかしげなものにしていたが。


「次は予備の石板を本体の上に置く」


 割れた石板よりも本体の近くに置くためだ。

 ゼロ距離なら魔力のつながりが最優先になる。


「それで次は?」


「待つだけでいい」


「は?」


 一瞬、ポカンとした顔になったゴードンが落胆の色を見せる。


「そんなことで直るなら苦労は──」


「だから直すとは言ってない。動かせるようにするだけだ」


 俺がそう言い切ったあたりで石版が薄く光った。


「な、なんじゃ!?」


 ゴードンと石版を持ってきた受付嬢が顎をカクーンと落としたように大口を開けて驚いていた。


「心配いらない。単に同期しただけだ」


 予備の石版を手近な場所に置いて手を乗せる。

 待つことしばし……


[ハルト・ヒガ/人間種・ヒューマン/賢者/男/16才/レベル71]


 本体の方に俺の情報が表示された。

 女戦士と深く関わるだろうから冒険者チェッカーを使った時よりレベルを上げたけど。

 何かあったとしても怪しまれないようにするには、これしか思いつかんかった。


「あが……」


 更に大口を開けるゴードン。


「何を驚く?」


「レベルに決まっとるじゃろうがっ」


「見慣れてないかもしれないがギルド長なんだから見たことくらいあるんじゃないのか」


「ある訳ないじゃろう!」


 興奮した様子で激しくブンブンと頭を振るゴードン。


「何処の世界にベテラン冒険者よりレベルが上の若造がいるんだよ」


「ここに居ますが、何か?」


「ぬぐっ」


「あの女戦士だって俺とそう変わらないはずだぞ」


 推定レベルは50代後半といったところだ。


「それは……」


 ぐうの音も出ないようだな。


「ともかく魔道具が正常に動作するのは分かったよな」


 これでギルドの登録手続きができる。

 俺は魔道具本体のスリットに俺のカードを入れた。

 簡易型の石板は単なる読み取り装置だから本体の動作には影響しない。

 破壊された大型の石板との差は本体と一度にやり取りする情報量だけ。

 故に本来なら瞬時に表示されるはずが表示までに少し時間がかかったのだ。


 だというのにゴードンがアタフタしている。

 石版の交換だけで完全に動作するとは思えないのかもな。

 表示のタイムラグも故障の影響とか考えてそうだ。


「お、おいっ」


「賢者のお墨付きなんだ。信じろ」


「本当に大丈夫なんだろうな」


「もちろんだ」


 やきもきしたゴードンが忙しなく身を震わせる。

 威厳に耐久力があるなら激減しているに違いない。

 しょうがないか。

 ギルド長という責任ある立場だと予算の心配もしなければならないんだろうし。

 この無駄な術式ばかりの魔道具が高価なものだとは、にわかには信じ難いのだけど。


 カードが出てくるまで落ち着かない沈黙が続いた。

 その空気を振りまいていたのはゴードンただ1人だったけどな。

 いつの世も責任者は予算に悩まされるようだ。


 そして音もなくスルッとカードが排出されると、ゴードンは盛大に安堵の溜め息をついた。


「受付のお姉さん、書類4人分お願い」


「はいっ!」


 やたら気合いの入った返事と表情で受付嬢が執務室を出て行った。

 そして、石版を持ってきた時よりも早く戻ってくる。


「ん?」


 いざ、自分の書類を書いていこうとしたところで階下が急に騒がしくなった。

 同時にツバキ、それにハリーとローズの気配が感じられたということは……


「戻ってきたか」


 シャーリーやアーキンたちを連れて来ることができたようだな。

 うるさいのはハマーだけど。

 それと食堂でたむろしている連中も騒ぎ始めたか。


『ローズ、うるさいのは無視して2階まで連れてきてくれるか』


 何も言わなくても連れて来るものとばかり思っていのに動きがない。


『どうした?』


 念話で問い合わせてみる。


『くくぅーくーくぅっくーくっくうくくっくぅ』


 シャーリーとアーキンが目を回したから無理だって?

 どうやら気配を消して屋根伝いで跳んできたらしい。

 無茶をしたものだ。

 急がせたのは俺なんだけど。


『連れてきたら魔法で何とかする』


 魔法を使ったのがバレないように少しだけ工夫が必要になるけど、なんとかなるだろ。


読んでくれてありがとう。

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