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84 ハルト冒険者ギルドへ行く

改訂版です。

 ハマーとアーキンが夕食まで迷人戦を繰り広げるほどの将棋中毒になってしまった。

 そこまでは微笑ましいと言えたのだが。

 2人は夕食後もやめようとはせずアーキンの執務室に将棋セットを持ち込んだ。

 翌日の予定に支障がなければ好きにすればいいと関知しなかったのは俺のミスだろう。

 翌朝の朝食にボルトしか現れなかったことで朝までコースだったことが判明した。


「申し訳ありません」


「ボルトが謝る必要はないさ」


「なかなか部屋に戻ってこられなかったので呼び戻しに行ったのですが……」


 諦めの表情でボルトは頭を振った。


「すぐに終わらせて戻るから先に寝るようにと言われまして」


「で、指示通りにしたんだろ」


「はい」


「朝になって目覚めても戻ってきた形跡がなかったんだな」


「はい、様子を見に行ったら机に突っ伏した状態で眠っていました」


 ボルトは嘆息して再び頭を振った。

 起こそうとはしたんだろうが徒労に終わってしまったんだな。


「酒瓶でも転がってたか?」


 俺がそう聞くと、ボルトはギョッとした表情で固まってしまった。


「そんなに驚くことはないだろう」


 苦笑を禁じ得ない。

 推理とすら言えないような思いつきなんだから。


「ここにいないのは完徹に飲酒が加わったからこそだと思っただけだ」


「あ……」


 種明かしをすればボルトも納得したらしく照れ笑いを浮かべているようだ。

 アーキンは爺さんだからともかく、ハマーが一晩完徹したくらいで起きてこないとは考えにくい。


「如何なる理由があろうとゲストへの配慮を欠いた行動であることに変わりはありません」


「俺は連帯責任なんて言うつもりはないよ。将棋を教えたのは俺なんだし」


「ですがっ」


「ガンフォールに報告しても叱られるのはハマーだけだと思うぞ」


 ボルトは俺を案内するという仕事を放り出す訳じゃないんだから。


「それは……」


「とりあえず飯にしようぜ」


 重苦しい雰囲気になりかけていたので早々に話を切り上げた。


 窓からの景色を見ながら飯を食う。

 この街では珍しい5階建ての最上階だから見晴らしは抜群だ。

 これだけでも旅行気分を堪能できる。

 どちらかというと仕事で来ているようなものなんだが。


 逆に食事は味気ない。

 塩は足りてると思うんだが旨味が欠けているっぽい。

 出汁入りだと勘違いして普通の味噌で作った味噌汁よりはマシだけど。

 これがこの世界標準の味付けだとすると悲しいものがある。

 そのあたり昼を外で食べて確かめてみよう。


 そんなことを考えながら外に向けていた視線を戻すとボルトは既に食べ終わっていた。

 はやっ!


「ところで今日の予定なんだが」


「はい、冒険者ギルドですね」


「それなんだが、どれだけ時間がかかるか分からんから食事は外で取ろうと思う」


「分かりました」


 返事をした様子からすると食事前の状態からは脱しているようだ。


「あの、自分も登録してもよろしいでしょうか」


「登録してなかったのか?」


「はい」


 我ながら間抜けなことを聞いたものである。

 連んでいた相手がアイツらなら街に来る許可がもらえるはずもない。

 登録していなくて当然だ。


「ですが……」


 特に気にした様子もなく即答したものの歯切れが悪いつなぎ方をしてくる。

 何が言いたいか見当はつくけど。


「自業自得なんだからハマーのことは放っておけばいい」


「はあ……」


「一応、様子は確認できるようにしておくさ」


 黒猫さんを引っ張り出してテーブルの上にヒョイと飛び乗らせる。


「この猫って昨日もいましたよね。いつの間にか居なくなっていましたけど」


 なかなかに目敏いな。

 将棋に集中していただけじゃないってのは見所があるか。


「偵察と見張りならお任せだぞ」


 俺がそう言うと黒猫さんがニヤリと笑った。

 ボルトが顔を引きつらせている。


「普通の猫じゃなさそうですね」


「それが理解できるなら、何の心配もいらんだろ?」


 今度は俺が薄く笑ってみせるとボルトは観念したように肩を落とした。


「わかりました。行きましょう」


 そんなこんなで軽く打ち合わせして朝食を終えた。

 準備のためにボルトは部屋に戻っていく。


 俺たちの準備はすぐに完了。

 着ぐるみ組の装備は専用設定のオプションなので一瞬で装着できるし。

 ツバキはローブを纏って魔法使いっぽい杖を倉庫から引っ張り出すだけ。

 俺は脳内スマホの機能で着替えも装備も一瞬で完了する。


 待つことになるだろうから先に玄関ロビーまで下りておく。

 エスカレーターやエレベーターみたいなものはないから階段だ。


 ふと思ったんだが、最上級の部屋が最上階ってのも考え物だよな。

 ヨボヨボのVIPとか来たときはどうするんだろう。

 輿でも使うのかね。

 階段にそれを使うだけのスペースはないから別館に案内するのかもな。

 そんな都合のいいものがあるかどうかは知らんけど。


 何にせよ高層ビルを建てるならエレベーターは必須だよな。

 うちでも考えておこうなんてことを考えている間に下まで階段を下りきった。


 このフロアは宿泊客だけでなく一般客も利用できるレストランとフロントがある。

 ロビーはそれなりに場所を確保しているが人はほとんどいない。

 時間的に宿泊する客が訪れるには早すぎるしチェックアウトするような時間でもない。

 飯を食う人間はレストランに直行するしな。


 ボルトとは外に出た所で待ち合わせしているから俺たちも用はないんだが。

 先に来たんだしフロントに伝言を残しておくことにした。

 そこにいるのは執事風の初老のオッサンだ。


「おはようございます」


「ああ、おはよう」


 こういう執事ですと言わんばかりのオッサンに折り目正しく丁寧に挨拶されると意味もなく感動する。

 セバスチャンと呼びたくなってくるじゃないか。


「昨晩は誠に申し訳ございませんでした」


 俺が用件を切り出す前に謝られてしまったが、なんで?

 そう思ってよくよく話を聞いてみるとハマーのことだった。

 一応、飲酒も程々の状態で部屋へは戻ろうとしていたらしいのだ。

 ボルトが迎えに行った時よりはかなり遅くなっていたようだが。

 それをアーキンが秘蔵の酒を使って引き留めたんだとか。


 情状酌量の余地はあるか。

 あるか?

 いずれにせよガンフォールの判断が変わるとは思えない。

 自業自得なんだし御愁傷様だ。


 とりあえず冒険者ギルドに行く旨を伝えてもらえるよう頼んでおく。

 ハマーが目を覚ますのは早くても昼頃になるだろうし。

 伝言を受けてどうするのかまでは知らん。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 宿屋の外で待つことしばし、ボルトが現れた。


「お待たせしました」


「じゃあ、行こうか」


「はい」


 表通り沿いにある冒険者ギルドへと向かう。

 道に迷う心配はないのだが昨日も今日も思い描いていたような雑踏は味わえていない。

 行き交う人はいるものの、まばらで物足りなく感じるのだ。

 昨日の喧嘩騒ぎの時は野次馬がそれなりに集まったから人が居ない訳じゃないんだが。


 もしかして裏通りとかそういう方にいるのか。

 気になったので斥候を何体か放っておく。

 そのタイミングで冒険者ギルドに到着したのは微妙な気もするが。

 まあ、あれだ。昼は外で食べる予定だから隠れた名店とかを探させるのもありだろう。


 ギルドの建物に入った。

 が、昨日の商人ギルドで感じたような活気が感じられない。

 人が少ないせいかな。

 のんびり朝食を食べたことで出遅れたらしい。

 まあ、混雑していない方が登録もスムーズに行くだろう。


 ギルドの中を見回す。

 入り口を入ってすぐの場所はホテルのロビーのようになっている。


 奥に一段高くなって仕切られたスペースがあった。

 テーブルやカウンターが配置されているところからすると酒場兼用の食堂か。


 入り口から少し離れた壁には横長の掲示板。

 そこには板が何枚も張り出されていた。

 昨日、街に入るときに衛兵が持っていたのと同じものだ。

 サイズは違うけどな。

 依頼の張り出しに用いられているようだ。


 そちらから反対側に目を向けるとカウンターで囲まれた空間がある。

 吹き抜けになっていて通路と階段もあるので開放感は結構なものだ。


 カウンター内では制服姿の職員が書類仕事をしていた。

 受付には誰も並んでいないせいで暇そうにしている職員が6人。

 現状では窓口の多さは過剰だが、ピーク時はこれでも足りなくなると思われる。


 せっかく空いているんだから登録しないと。

 下手に立ち止まったために注目を集めてしまっているから急いだ方がいいだろう。

 このまま立ちっぱなしでいると奥の食堂から見ている連中が絡んでくるかもしれん。


 昨日の女戦士の前例があるからなぁ。

 よそ者というだけで目立つのに面子が個性的だし。

 ドワーフに巨漢、そして魔法使いの組み合わせは珍しいはず。


 面倒なことになる前に吹き抜けの方のカウンターへと向かう。

 そして受付の前に立った。


「冒険者ギルドへようこそ」


 目の前にいる若いお姉さんが挨拶してきた。

 ギルドというのは窓口に若くて美人なお姉さんを配置したがるものらしい。

 制服は作業服っぽくて野暮ったい感じだけど。

 昨日の商人ギルドでもチラ見した限りでは同様だった。


「本日はどのような御用件ですか?」


「登録をお願いしたい」


 新人っぽく見えない面子のせいか職員のお姉さんは「え?」という顔をした。


「もしかして全員ですか」


「ああ」


「で、では、他の窓口にも回ってください」


 振り向いて頷くと背後で待機状態だった面々が散っていく。


「それでは最初に──」


「ああ、待った」


 そう言いながら商人ギルドで発行された燻し銀のギルドカードを提示する。


「っ!」


 俺に遮られたときは訝しげな表情だったお姉さんはカードを見て固まった。

 カードを出した瞬間は「登録済みじゃない」って顔になりかけていたけど。

 そこから「あら、いつものカードと違うわね」と眉根が寄っていき。

 困惑を残したまま記憶をサルベージすること数秒。

 記憶情報と合致した瞬間に「ゲッ!」という顔になった。


 カタカタ震え始めているし、このままだと上役を呼ばれかねない気がするんですがね。


「騒がないでもらえると助かるなぁ」


 騒がれる前に釘を刺す。


「よそ者ってことで食堂にいる連中に注目されているみたいだし」


「は、はひ……」


 コクコクと機械仕掛けかと思わせるような頷きが返ってくる。

 大丈夫かよ……


 ふと横を見ると、隣で受け付けているツバキの方も様子がおかしい。

 石版の上に手を乗せているのだが、担当のお姉さんの顔が引きつっている。

 ツバキの方も困惑した様子で俺の方を見る。

 特に何かをした訳ではなさそうだ。


 もしかして偽装がバレたのか?

 だとすると厄介だが、まずは確認しないとな。


 ステルスモードで斥候型自動人形を引っ張り出してカウンターの向こう側へ送り込んだ。

 こちらからは見えないように隠された場所に黒曜石の板のようなものが立てかけられている。

 どうやらあれに情報が表示されるようだな。


 ツバキの情報を確認する。

 種族はちゃんと人間種・ヒューマンとなっている。

 他に表示されている情報も偽装した状態のものだから問題ないはずだ。


 さて、どういうことだろうと内心で首をかしげていると、今度はハリーの担当が慌てだした。

 奥の席にいるオッサンの所へ駆け込もうとしている。

 それを目撃した食堂の面々がザワつき始めた。


 ああ、面倒なことになりそうだ。


読んでくれてありがとう。

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