77 密かにお仕置き
改訂版です。
暗殺を企てた奴がアホだというのは間違いないようだ。
それとお姫様なクリスお嬢様には運がある。
盗賊や魔物に襲われたことは不運ではあるがね。
が、それをチャラにしたのは運だ。
訪れようとしていたのがドワーフの国であったこともそうだろう。
『ヒューマンの国家だと足元を見られていただろうしなぁ』
馬をすべて失っていたし、贈答の品はすり替えられていたし。
国家間の力関係みたいな面倒なことをドワーフは言ったりしないからな。
贈答品に関しては襲われたことで運が味方したようなものだ。
すり替えに気付かなければ大恥をかくところだったんだし。
ガンフォールも同情的だった。
「色々と災難じゃったな」
「命拾いいたしました」
クリスお嬢様も素直に応じている。
これは運と言うより相性と性格の問題だろう。
変にプライド高いと、同情されることを良しとしないことがあるからな。
高慢さや傲慢さが出てしまえばガンフォールを怒らせる結果になっていたかもしれない。
護衛が姫様を思うあまり暴走するようなことがなかったのも幸いした。
「それと帰りの馬と馬車についてはしばらく時間を貰いたい」
「御迷惑をおかけします」
「なんの、困ったときはお互い様じゃ。
ここを自分の家と思ってゆっくりされるが良い」
「ありがとうございます」
「それとな……」
ガンフォールが少し言いにくそうに切り出す。
「何でしょうか?」
「馬車は不自然な作りをしておったので解体させてもらった。
事後承諾になってしまったのは済まぬと思っておる」
「いえ、何かおかしなことがあるのでしたら調べていただけると助かります」
「そう言ってもらえると、ありがたい」
そんなことを言っているもののガンフォールの表情は渋かった。
が、それ以上に場の空気が重苦しい。
己の内側から発散しようとしている激情を押し込めているのだろう。
「何か良くない結果だったのですか?」
察したクリスお嬢様が尋ねる。
「あの馬車は馬に負担をかける代物じゃったよ」
ガンフォールの顔が一瞬だが怒りを覗かせた。
幸いにもクリスお嬢様は気付いてはいなかったが。
「言語道断じゃ。
空荷でも遅くなるよう無駄に重くしておるわ」
静かに言い放つが、それは客人を前にしているからだろう。
明らかに激怒している。
「そうだったのですか?
気付きませんでした。
申し訳ありません」
「姫が気にすることではない。
職人でなければ気付かぬ程度のものじゃからな」
結局、残りの1台も証拠品としてガンフォールの預かりとなった。
俺は俺で動かせてもらったさ。
ブリーズの街に間者がいるみたいだったのでね。
霊体化したローズさんと俺で潜伏先の宿屋に転送魔法で殴り込みですよ。
サクッと捕まえて大陸東方の魔物だらけな場所に連行。
身動きが取れないように棺桶状の結界で覆って放置した。
「なっ、なんだ、ここはっ!?」
いちいち説明する気はない。
質問するのは俺の方だ。
黒幕の情報を得なきゃならんのでね。
「なんで動けないんだっ!?」
透明な結界に驚いているようだが教える義理はない。
『そんなに騒いでいると大変だぞ』
適当な魔物を狩って血の臭いでも振りまこうかと思ったのだが必要なかったようだ。
ギャーギャーと騒いでくれたお陰で凶暴な魔物があっと言う間に集まってきた。
至近距離で魔物が爪を振り下ろすが、結界に弾かれる。
「ひいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
その後も噛みつきや爪での攻撃が幾度となく繰り返され間者は悲鳴を上げ続けた。
まあ、地竜とかが集まってきてたから恐怖もひとしおだったんだろう。
「くうーくっくぅ」
「そろそろ頃合いだって?」
「くぅ」
ローズが頷いたので群がっていた魔物どもを始末した。
毎度お馴染みの首ポキでございます。
「───────────────っ!!」
それを見た間者が声にならない悲鳴を上げた。
そして周囲に漂うアンモニア臭。
『勘弁してくれよー』
もちろん臭気は即座に魔法で分解したさ。
鼻を摘まみながら尋問なんてしてられないからな。
尋問後は西方の適当な場所で解放。
運が良ければ野垂れ死にせずに生き延びられるだろう。
『往生際悪く嘘を織り交ぜようとしなければ元の場所に戻したんだがな』
いずれにせよ間者としてはやっていけないだろう。
嘘をつけば恐怖体験の記憶が蘇る呪いをかけたからな。
正体を偽るだけでアウトだ。
嘘を訂正しない限り本能に根ざした恐怖がいつまでも続く。
時間が経てばより恐怖が増すようにもしておいた。
俺って親切だろう?
正直者に生まれ変われるチャンスを与えたんだからさ。
続いて黒幕にも同じことをしてみた。
「きっ、貴様っ、わわわ私を、だだ誰だと思ってひる」
青ざめた顔で噛みながらヒステリックに言われてもね。
迫力のハの字も感じられない。
外見的にも痩せぎすで神経質そうな顔をしているからな。
「宰相補佐官だろ」
「げっ、下賤のぶっ分際でっ。
私のことを、しし知って、この狼藉とはっ」
キーキー喚くのが耳障りだ。
「うるせーよ。
俺が下賤の者なら、お前はゴブリン以下だ」
「ゴッゴブッ!?」
顔を真っ赤に染め上げる黒幕。
憤怒の表情をしているつもりなんだろうが……
「きぃ─────っ!」
ヒステリックに喚くせいもあって鬱陶しいとしか感じない。
「大して知恵も回らんのに王族の暗殺を企てるようなアホはゴブリンレベルで充分だ」
「きぃ───────────────っ!」
『それしか知らんのか……』
その後はまともに会話にならなかったため放置する時間は長めにした。
間者の時は1時間とかけなかったのだが、黒幕は一晩。
回収は翌日にした訳だ。
「おーい、生きてるかぁ?」
群がる魔物どもを蹴散らして呼びかけてみた。
さぞかしキーキーと喚くのだろうと思っていたのだが。
「イヒヒヒヒヒッ」
普通じゃない笑いしか返ってこない。
おまけに目の焦点が合っていないとくれば壊れているのは確定だ。
些かやり過ぎたと思わなくもなかったが、黒幕の末路としては順当だろう。
自白は得られなくなったがね。
まあ、それは有っても無くても困らない。
この世界じゃ高級品の紙を使った日記に詳細を書くという間抜けぶりだったからな。
[特注の馬車が出来上がってきた。
職人には矢を防ぐための特別仕様だと説明したやつだ。
口外無用とも言っておいたが、いずれバレるだろう。
だが、矢避けと言えば通るはず。
本当は確実に王女を逃がさないための重りなのが傑作だぞ。
襲撃のため組織した私の盗賊偽装部隊が楽に追えるようにしたのだからな。
山中では盗賊に気を付けることだ、王女よ。
おっと、ここに書いても王女には伝わらんか。
ダメだ。本当に笑いが止まらない。
今日はここまでにしよう]
一部を抜粋するとこんな感じ。
計画の初期段階を書いているページには宰相の失脚を狙っていると書いていた。
王女の暗殺で責任を取らせて自分が成り代わるんだと。
『できる訳ねえだろ』
他にも様々な陰謀を書き記してあった。
計画の内容と目的を事細かに書いているあたり陰湿さを感じる。
まあ、黒幕が誰であるかを周囲に知らしめるには都合がいいんだけど。
だから執務室の机の上に開いた状態で置いておいたよ。
ついでにコイツも執務室の中に転がしておく。
もちろん結界は解除して。
ケラケラ笑っているので発見されるのも早いだろう。
で、証拠を見つけると。
これ以上は俺が働かなくても向こうが処理してくれるはずだ。
王女たちが帰国したときには、すべて片付いているんじゃないかな。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
黒幕を処理した後、ガンフォールの所へ顔を見せに行くと真っ先に詫びられた。
「すまぬ」
「何がさ?」
「ネイルが武器を振り回すとは思わなんだ」
アレが殴りかかる想定はしていたみたいだな。
「別にいいけどね。
それよりボルトはどうなるんだ?」
「あれの処分を求めるか?」
「いいや、むしろ逆だな」
「ならば罰を科すことはなしじゃな。
バカ2名は無期限で牢獄送りにしておいたわい」
「そっちは好きにしてくれ」
一応、ネイルに仕掛けた私刑の内容を伝えておく。
「──という訳なんだが」
「無茶苦茶じゃな……」
ガンフォールは呆れたように溜め息をついた。
「やり過ぎと言うなら解除するが?」
「いや、因果応報じゃからな。
死んでも気に留める者は誰もいないじゃろ」
「じゃあ、この件については終わりってことで」
「うむ」
では、残りの用事を済ませるとしよう。
「そろそろ出発するからお姫様たちに伝言を頼む」
「碌でもないのは勘弁しろよ」
心底嫌そうな顔をされた。
いい勘してるな。
「ゲールウエザーから使者が来るだろうから、そのまま滞在するのが吉と」
あ、ガンフォールが頭を抱えている。
「お前、なにやったんだぁ!?」
読んでくれてありがとう。




