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74 あれでやり過ぎなのか

改訂版です。

「これほど呆気なく終わるとはな」


 ハマーが呟くように語りかけてきた。


「そうか?

 充分に手をかけているんだがな」


 返事をするとジト目を向けられた。


「だからこそだ。

 それ以外に正解がないかのようだったぞ」


 型にはまっていたと言いたいのか。


「言い過ぎだ。

 世の中、詰め将棋みたいにはいかないさ」


 そんな風に見えたとしても仕方のないところはある。


 崖を利用してソードホッグを追い詰めていたからな。

 必然的に仲間が邪魔で助走できず跳び上がっての回転アタックはしづらくなっていた。

 それだけで奴らの攻撃力は激減する。


 ツバキとハリーが余裕を持って追い詰め動きを封じて突き殺していた。

 ドルフィンの武器は金棒だったので細剣状の毛を折ってから仲間に返却。

 折られた奴は仲間の毛が刺さり絶命し、仲間の方は身動きが取れなくなり始末される。


 相手に逃げ場を与えず一方的に追い詰める戦いぶりはまさに詰め将棋。

 が、あえて手数をかけていては詰め将棋とは言えまい。

 回答がひとつではないしな。


 そんな風に思ったのだが、ハマーが怪訝な表情を浮かべて首を捻っている。


「爪がどうした?」


「爪?」


 何だか訳の分からないことを言い出したぞ。


「ハルトが言ったではないか。

 爪なんとかみたいなものだろうと」


「ああ、詰め将棋なんて分かる訳がなかったな」


『やってもうたー』


 と思っても後の祭りちゃんだ。


「ツメショウギというのか?」


「将棋という対戦型のボードゲームがあるんだよ」


「ボードゲームとな?」


『うわっ、そこからダメとか娯楽なさ過ぎじゃねーかっ』


 だが、説明したくても無理だ。

 魔物が片付いたからな。

 襲われていた連中だって動き始めるだろうし。


 音声阻害の魔法もカットしておく。

 向こうの呼びかけとかが聞こえないと面倒なことになりかねない。


「後で説明する。

 今はそれどころじゃないだろ?」


「む、それもそうか」


 ハマーは大人しく引き下がった。

 周りの状況は見えているな。


 俺はポーチから杖を取り出すと──


「ツバキ」


 声を掛けてから杖を放り投げて渡した。


「後始末を任せる」


「心得た」


 ツバキはそう言いつつ槍を投げて寄越してきた。

 受け取った槍はポーチに仕舞う。


「ハリー」


「はい」


「ドルフィンと手分けして死体と死骸を集めてくれ」


「燃やしますか?」


 ツバキに杖を渡したのを見ていれば、そういう結論になるよな。

 俺たちが魔法を使うのに杖は必要ないのだが。

 部外者の常識に付き合わないと面倒なことになりかねないし。


「ああ、状態の良さそうな魔物は分けておくようにな」


「回収ですね」


「そうだ、後で馬車を回してきて積み込む」


 なんて言ったが、実際はその振りをして倉庫に放り込むだけだ。


「了解です」


 そこからの行動は早かった。


 まず流れた血の浄化が終わり生臭い匂いが消えた。

 襲われていた面々が驚いている。


『生活魔法の範囲と効果を拡大しただけだぞ……』


 まあ、槍で戦っていたツバキが魔法も使えるのが驚きなのかもしれないが。

 これは俺が話をすると碌なことにならない気がする。


「ハマー、悪いが向こうさんと話をつけてくれ」


 ヒソヒソ声で依頼する。


「ワシは何もしておらぬに等しいぞ」


「向こうはジェダイト王国に用があるみたいだしな」


「むう……」


 ハマーが唸る。


「どのみち街には行けないし」


「馬を失った彼女らを放ってはおけぬか」


 そう、襲われたことで馬は全滅してしまっていた。

 故に彼女らだけでは徒歩しか移動手段がなくなってしまう。

 街に戻ることもジェダイト王国へ向かうのも厳しいだろう。


 距離的に近いのはジェダイト王国の方だ。

 が、それでも日が暮れるまでに到着することはあるまい。

 女性騎士たちはともかく、護衛対象の体力的にね。


「引き返すなら彼女らが向かう先の国の人間が話をした方が良くないか?」


「ぬぬぬ……」


 ハマーは渋い表情で唸っているが、答えは出ているようなものだ。


「分かった、ワシが行こう」


「おう、俺は片付けを手伝ってくる」


「わかった」


 ハマーと別れハリーたちの方へ向かう。


「ん?」


 背後から2人ほど近づいてくる。

 拡張現実によると護衛対象の少女とメイド長だ。

 根掘り葉掘りされるのが嫌でハマーに押し付けたというのに、これか。


『面倒な……』


 そうは思うが相手をしない訳にもいかないだろう。

 せめて拡張現実はオフにしておくことにする。

 少女の肩書きを見続けるのは俺の心臓に良くないからな。


 まずは相手に身構えさせないよう仏頂面になった表情を戻す。

 ポーカーフェイスを維持することを意識しつつ振り返った。


「何か?」


 俺の目の前まで来た2人が立ち止まるタイミングを見計らって声を掛ける。


「危ない所を助けていただきありがとうございました」


 メイド長がお辞儀する。

 間近で見ると金髪碧眼な美人さんだった。

 血やら何やらで汚れちゃいるけど、美貌は損なわれるものではない。

 しかも若い。


「いえ」


 いきなり隙を見せたくなくて返事は短くしておいた。

 相手が貴人の専任メイドで、しかも責任者だからな。

 上役もいるだろうが若くしてこの立場だ。


『油断できる相手じゃないよなぁ』


「あ、あのっ、私もお礼を……」


 メイド長と違って少女はテンパっていた。

 だが、意志の強そうな目をしている。

 こちらも油断できそうにない。


「本当に助かったわ。

 感謝いたします」


 カーテシーで感謝の意を表す少女。

 優雅な仕草だ。

 服なんかもドロドロ状態なんだが、気品はそれで損なわれたりはしない。


 そして、こちらもメイド長に負けず劣らずの美貌の持ち主である。

 黒髪と銀の瞳が神秘的な雰囲気を感じさせる。

 成人は来年ということもあって幼さを残しており、美人というよりは美少女だ。

 止ん事無きお方なので関わり合いにはなりたくないけど。


 まあ、俺もボウ・アンド・スクレイプで返しておく。

 これでいいのかは分からんが、やらんよりはマシだろう。


「気遣いは無用にて」


 美少女や美人は目の保養になるが、少女の実家にいる連中に目を付けられたくない。

 お近づきになりたくないというのが本音である。


「ですが!」


「気持ちは十分に伝わりましたので」


「そういう訳にはまいりません」


 メイド長が割り込んできた。

 目の保養で緩んだ警戒度を再び引き上げる。


「申し遅れました。

 私、マリア・フォルトと申します。

 こちらにおわすクリスティーナ・ゲールウエザー様のお世話を仰せつかっております」


『うん、知ってた』


 これから行く街を領土とする王国である。

 だからこそ知らない前提のままで終わらせたかったのだが。


「はあ、ハルト・ヒガです。

 通りすがりのしがない賢者でして」


 願いは叶わなかった以上、関わりたくない空気を前面に押し出していくしかない。


「ご謙遜を」


 静かな笑みをたたえて頭を振るメイド長マリア女史。


「ヒガ様がただの賢者だと思うような者はここにはいないでしょう」


『何かやらかしたっけ』


 顔には出さぬよう注意しながら思い返してみる。

 これでも控えめを意識したつもりなのだが。


「高価なポーションを惜しげもなく使われましたね」


 回復魔法を使うよりはマシだったはずだ。


「しかも死を覚悟した私があの短時間で完全に回復するものを」


『なんか雲行きが……』


「普通の薬師には作れません」


 それは知らなかった。


「お金を積めば買えるというものでもないでしょう」


 つまり俺が作ったのだろうと言いたい訳か。


『手強いな』


 死なない程度に回復するポーションにしておけばと後悔するが今更である。

 とにかく動揺を表情に出してはいけない。


『今こそ役所で鍛えた鉄仮面モードだ!』


「さらには──」


 まだ何かあるらしい。

 嫌な予感が増幅していく。


「杖を取り出した魔法のポーチも同じです」


 これは仕方あるまい。

 俺が空間魔法を使うところを見せないための偽装なんだから。


「ここまで小さい魔法の袋は見たことがありません」


『詰めが甘かったー』


 小さくし過ぎて失敗とか間抜けすぎる。


「そして──」


『まだあるのー!?』


 ボロボロである。


「あの魔法の凄まじさ。

 多重制御で威力もコントロールも完璧でした。

 宮廷魔導師でさえ足元にも及ばないでしょう」


「私はおとぎ話に出てくる大魔導師を思い出しました」


 少女がうんうんと可愛く頷きながら言ってきた。

 目一杯の加減をしてこんな評価をされては、ぐうの音も出ないさ。


「そのようなお方がしがないなどとは誰も思わないでしょう」


 そしてメイド長のとどめの一言。


「……………」


 こんなことなら仮面ワイザーに変身して俺だけで片付ければ良かった。

 それなら何も気にせずササッと終わらせられたのだ。


 後悔先に立たずである。


「さぞや名のあるお方だと思ったのですが世界は広いものです」


『生憎とこの世界に来て間がないものでね』


 ずっと辺境にいたし。


「是非ともお礼がしたいのですが、なにぶんあのような有様でして」


 馬がソードホッグによって細切れ肉にされてしまったことを言っているのだろう。


「図々しいことは承知しておりますが、ヒガ様のお力をお貸しいただけないでしょうか」


 深々と頭を下げるメイド長。

 それを見て少女も慌てて追随する。


「ゲールウエザー王家の名にかけて必ずお礼はいたします」


 心臓によろしくない名前を引っ張り出さないでほしい。


「顔を上げていただきたい」


「「ですが!」」


「護衛の人達と揉めたくないので」


 そう言うと物凄く不安そうにしながら顔を上げてくれた。

 そういう表情も心臓によろしくない。


「御心配なく。

 元よりそのつもりなので」


「本当ですか!?」


 お姫様は喜怒哀楽が目まぐるしく変わる人だ。

 正反対の桃髪ハイエルフちゃんなノエルを思い出しちゃったよ。


『いま何してっかなー』


「ありがとうございます」


 メイド長が深々とお辞儀したことで現実に引き戻された。

 ひとつ封じておかないといけない問題がある。


「あー、礼は不要なので」


 そう言うとメイド長がギョッとした顔になった。


「そういう訳にはまいりません!」


 食い下がるね。

 だけど、こちらも受け入れる訳にはいかない事情があるんだよ。


読んでくれてありがとう。

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