68 問題児? いえ、大人です
改訂版です。
ガンフォールを少し若くしたようなオッサンドワーフが目の前に進み出る。
50過ぎくらいに見えるから西方では爺さんだ。
確かガンフォールの遠縁だったはず。
宴の時にガブローの次くらいに挨拶に来ていた。
名前はハマー・ドット・ハイドレンジア。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
口数は多くない印象だったが愛想が悪い訳ではない。
「今日はよろしく頼む」
「こちらこそ頼む」
「後ろの3バカが護衛だ。
お前さんや連れには及ばんがな」
思ったより喋るオッサンだ。
宴会の時は遠慮していたのか。
一方で3バカなんだが。
3人とも俺より少し年上に見える。
ハマーの紹介に不機嫌そうなムッとした表情を見せた。
この連中は決闘を見ていないようだ。
宴の時にもいなかったし。
髪や髭の色が薄紅色でインパクトがあるから間違えようがない。
「ハルト・ヒガだ。
こっちはツバキ、ドルフィン、ハリー。
聞いていると思うが下の街まで行ってギルドに登録する」
デカい斧を背中に担いだのが一歩前に出た。
『鉞というと金太郎を連想するところだが……』
そういう雰囲気はない。
鉞のデザインが独特なせいだろうか。
刃とは反対の方が鎚のようになっている。
「俺はネイル・マース・アゼリア。
斧を使わせたら俺に勝てる奴はそうはいないぜ」
最強だと言わないあたりは謙遜しているつもりだろうか。
口調も表情も偉そうなので、そうは思えないが。
短槍を手にしていた男が隣に並ぶ。
「槍使いのボルト・マース・アゼリア」
ドワーフにしては短槍を使うのは珍しいかもしれない。
そして最後に前に出たのが一番若そうだ。
たぶん20才以下だと思う。
そいつは巨大な鉈をドンと地面に突き立てると両手を柄頭に置いた。
『ホラー映画に出てきそうだな』
そのくらい凶悪そうに見える。
武器の方がな。
「ヒンジ・バーン・アゼリア」
名前だけの素っ気ない自己紹介。
しかも、ぶっきらぼうな口調だ。
『血族名が同じか』
先の2人と縁戚関係にあるのだろう。
見た目も似ているし。
態度は一番悪いな。
なんでこんなガキみたいなのをお守りしなきゃならんのかって顔をしている。
それでも余計なことを言わないのはハマーがいるからだろう。
ネイルも似たようなものだ。
表情だけは隠せているものの上から目線な口調だったし。
なんにせよ比較的まともそうなのは槍使いを自称したボルトだけのようだ。
『さて、どうしようか』
街に到着してから面倒ごとを起こされても困る。
そう思いながらハマーに視線を向けると何故か視線を逸らされた。
『ガンフォールめ……』
俺に厄介な連中を押し付けたな。
どうりでハマーが挑発するような紹介の仕方をする訳だ。
街に行く前に騒動を起こして3バカの始末をつけるつもりなんだろう。
少なくとも両端の2人は潰しても文句は言われないはず。
『良かろう、やってやる。
絶対に後で文句は言わせないからな』
決意が固まれば、さっそく口撃だ。
「ハマー、アンタの言う3バカはどう見ても素人なんだが?」
「なんだと、小僧!?」
ネイルが吠えた。
「そうだ、調子に乗るな。
俺たちは王の命令で来てやっているんだ」
本音が出ましたね、ヒンジくん。
どっちが調子に乗っているんだか。
真ん中に立つボルトは表情を顰める程度で特に何か言い出すことはなかった。
俺にまで3バカと言われてはムッとするのも当然だろう。
よく我慢していると思う。
ハマーに目線で確認してみると肩をすくめられた。
手出し口出しはしないつもりのようだ。
『お好きにどうぞってところかね』
「王の命令?」
鼻で笑ってやるとヒンジの表情が醜く歪んだ。
ほとんどヤンキーの威嚇である。
「客人相手に不満タラタラで仕事をするのも命令のうちか?」
俺の言葉に3バカ改め2バカは歯噛みして悔しそうな表情を見せていた。
「お前ら、ガンフォールの顔に泥を塗ってるんだよ。
そんなことも分からず調子に乗るから素人だと言われるんだ」
「「なにぃ!?」」
見事に挑発に乗ってくる2バカ。
こいつらは単細胞で確定だ。
一方でボルトは冷ややかな目で2人を見ていた。
王の意図を察したようだ。
2バカを見捨てるかと思ったのだが……
槍を横にして、今にも飛び掛からんとしていた2人を止めた。
柵代わりのつもりだろう。
「なにをする、ボルト!」
「そうだ、邪魔をしないでくれ!」
「そのくらいにしておけ、兄者、ヒンジ」
そう言ってボルトが槍を縦に戻すと2人が前につんのめった。
ズッコケた感じがして割と滑稽だ。
「少しは頭を冷やせ、2人とも」
「ハアッ!? 俺らはこんな奴に馬鹿にされたんだぞ!」
「そうだ、ガキに言われて黙っていられるかっ!」
「兄者、いい加減にしろ。
客人の言っていることは正しい。
王の顔に泥を塗っている事実を受け入れられないとは情けない」
「なにぃ!?」
更にヒートアップするネイル。
瞬間湯沸かし器みたいな奴だ。
「お前もだ、ヒンジ。
態度がなってないと言われて逆上するようでは子供の証拠だ」
ボルトは真剣そのものといった表情で2人に語りかけている。
『ローズさんや』
『くぅー?』
なにー? と返事をしてくれるのは念話だからだ。
声に出していたら、ドルフィンと呼べと抗議してくるに決まっているからな。
『ボルトくんはどうかね』
『くーくぅくーくうくっくくぅくー』
ハルトの言葉で目が覚めた感じー、ですか、そうですか。
『2バカは改心しそうかい』
『くうっ』
無理っ、だってさ。
俺もそう思う。
『矯正の余地もないか?』
『くぅくー』
意味なしって……
『こいつら大人だろ?』
『くーくぅくっくーくう』
体は大人で頭脳は子供って……オイ。
どこかで聞いたようなネタをここで持ち出してくるかよ、まったく。
まあ、ローズがそう判定したなら間違いはない。
夢属性の精霊獣は伊達じゃないのだ。
「うるせー、これが俺だ。
誰にも文句は言わせねえぞぉ」
「ハマー様にもか」
「うっ」
冷静な切り返しにヒンジが言葉に詰まった。
思いつきの発言なのは明白だ。
「う、うるせー!
とにかく俺は俺なんだっ」
理由も理屈もなくヒンジが開き直った。
『成人しておいて中身は園児レベルかよ』
処置なしだ。
バカには何時までも付き合っていられない。
「そこまで言うなら素人でないと証明してみろ。
中身の伴わない口先だけのお子ちゃま野郎が」
「後悔するなよ、ガキが!」
ヒンジが大鉈を放り出して突っ込んできた。
『救いようのないアホだな』
少し挑発されたくらいで護衛対象に喧嘩腰で向かってくるとか終わってる。
バックレるだけの方がまだマシだ。
それはともかくヒンジの突進力は闘牛の牛を思わせるものだ。
選択としては正解だろう。
全身筋肉の塊で身長差から接近戦にしか活路はないからな。
俺が甘んじてその攻撃を受けるとでも?
「よせっ、ヒンジ!」
「うるせー!」
ボルトの制止にも耳を貸さず右拳を突き出そうとしてくる。
『もしかしてパンチのつもりか?』
突進力に見合わぬ遅さだ。
その分、重そうではあるが。
これを受けて平気なところを見せれば少しは目を覚ますだろうか。
『バカに殴られるってのはムカつくから却下だな』
カウンターで反撃だ。
奴のパンチが俺の顎を捉える寸前で飛び退りながら軽くジャブを放った。
ただし拳は伸ばしきったままだ。
次の瞬間、周囲にグシャッという生理的に嫌悪感を抱くような音が響き渡った。
拳と拳を打ち合わせた結果だ。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ────────っ!!」
ヒンジが悲鳴と共に吹っ飛んでいく。
瞠目したボルトのすぐ横を突進の時と変わらぬ勢いで通過。
「拳が、俺の拳があぁぁぁ───っ!」
ようやく止まったかと思えば、ヒンジが泣き叫び始めた。
潰れた拳を目の前に持ち上げて食い入るように見ている。
『自分のとはいえ、よく見られるなぁ』
グチャグチャな状態で、正直なところ直視したくない。
「ハリー、奴を落としてから軽く治療しといてくれるか」
「はい」
「完全に治さなくていいぞ。
反省を促さないといけないからな」
「了解です」
さて、あっちはハリーに任せるとして、だ。
「威勢のいいことを言っていた割に怖じ気づいたようだな、ネイル」
ヒンジの惨敗ぶりに顔を青ざめさせていたネイルの顔が一気に赤くなった。
青くなったり赤くなったり忙しい奴だ。
歯を食いしばってギリギリ言わせている。
今の一言がかなり頭にきたようだ。
薄紅色の髪が逆立ってきた。
「グオオオォォォォォッ!」
獣のように唸り始める。
あと一押しでプチッと行きそうだ。
さて、キレた後はどうしてくれようか。
読んでくれてありがとう。




