66 改良してみた『冒険者チェッカー』
改訂版です。
「何度驚いても慣れることができそうにないわい」
大きく頭を振るガンフォール。
「こんなのは序の口だが?」
コクコクと頷くミズホ組を見てガンフォールは大きな溜め息をついた。
今は最初に出会ったときと違って少し小さく見える。
「これなら冒険者ギルドも大丈夫だろ?」
「そんな訳なかろう。
何処の世界にヒューマンにしか見えないエルフがおるんじゃ」
冗談半分でしたことを真に受けてしまったようだ。
「それは、お遊びでしたことだ」
俺はそう言いながら再び冒険者チェッカーに掌を乗せた。
[ハルト・ヒガ/人間種・ヒューマン/行商人/男/レベル41]
「これなら大丈夫だろ?」
行商人にしてはレベルが高すぎる気もするが、常識外れという訳でもないはずだ。
ドヤ顔で聞いてみると溜め息をつかれてしまった。
「呆れて言葉が見つからんわい。
そんな芸当、どうやれば出来るというんじゃ……」
「方法は色々だな。
俺とハリーたちでは違うし。
他にもお勧めできない方法のがある」
まあ、誰にでもできる方法じゃない。
偽装系のスキルが必要だからな。
使っている奴がいるとすれば、たぶん犯罪者だろう。
「聞かん方が良さそうじゃな」
「そうだな」
ガンフォールは肩をすくめて小さく頭を振った。
「ああ、そうだ」
肝心なことを忘れていた。
冒険者チェッカーは問題ないことを証明するためだけに作った訳じゃない。
「なんじゃな?」
「この冒険者チェッカー、ガンフォールに譲るわ」
「はあっ!?」
唐突な提案にガンフォールは素っ頓狂な声を出した。
「突拍子もないことを言いおるわい」
驚いたような呆れたような顔で何か言いたそうにしているが、言葉が出てこない。
受け取る理由がないとか思っていそうだ。
「これは詫びの品だよ」
「詫び?」
今度は思いっ切り怪訝な表情をされてしまった。
「アンタの孫を泣かせたじゃないか」
ストレートに切り返したら戸惑いで返された。
「いや、しかしな……
あれはこちらの責任が大きいじゃろう」
「受け取ってくれ。
でないと俺の罪悪感がいつまでたっても残ったままだ」
ずっと気になっていた。
泣かせた直後の頃のようなことはないので言葉で言うほど重くはないが。
まあ、これくらい言わないと頑なに拒否されそうだし。
本当は直接詫びるべきだと思う。
が、悪役に徹すると決めたことを覆す訳にもいかない。
「言いおるわ」
そう言いながらも承諾してくれた。
「じゃあ、ちょっと改良しておくぞ」
「改良?」
「わざわざレプリカの真似をする理由はもうないからな」
過剰な魔力供給があったときには遮断して赤表示にする機能に手を加える。
レプリカより許容できる上限が高いからな。
あと黄色の背景はなしだ。
もちろん年齢以外の情報がすべて表示されるのは言うまでもない。
今なら レベル200までは表示されるだろう。
ツバキの情報も表示されるわけだな。
ああ、でも隠蔽系が得意だから表示されない可能性もある。
別に読み取り能力を上げている訳じゃないんだし。
あくまでレプリカの表示性能を似せていたのをやめただけだ。
後は盗難防止対策か。
形を変えて持ち運びが困難なようにしよう。
仮に泥棒が忍び込んでも一人じゃ運べない大きさと重さにする。
現状はソフトボール大の水晶球に台座がついているだけだし。
懐には入れづらいが運ぶのは困らないもんな。
「いったん仕舞うぞ」
予告してから作業用にしている倉庫に回収。
台座を変更して金属の芯が入ったテーブルにした。
大きくてそこそこ重いので楽には運べない。
そのテーブルに水晶球のほとんどを埋め込んだ。
盗難対策のつもりだが破壊して持って行かれそうな気がする。
テーブルが簡単に破壊されないよう術式を追加だ。
ついでに水晶だけを持ち出しても機能しないように元の術式をテーブルに分散させる。
で、水晶の方にテーブルを再生する術式を記述。
これで破壊した奴の気力も削がれるだろう。
更にそいつから魔力を吸い上げるようにすれば、しっぺ返しにもなる。
ついでに体重の3倍の負荷がかかる重力魔法でもプレゼントするか。
本人の魔力を利用して死ぬまで魔法がかかった状態にしよう。
ほとんど呪いだけど、自業自得だ。
『よし、単独犯はこれで問題ないだろう』
あとはテーブルごと運び出そうとする集団にも対応しないとダメだ。
力自慢のドワーフを大勢集めてもビクともしないくらい重くする。
床に負担をかけないよう専用の亜空間倉庫に重りを用意して接続しよう。
接続を切り離せば移動させたい時でも安心だ。
で、その切り替えには鍵を使う。
ドワーフらしく鍵のデザインはハンマーにしてみた。
捻って引き抜くとロック状態で重りが接続される、と。
盗難対策はこれで充分だと思う。
けど、せっかく鍵を用意したんだから何かもうひとつ仕掛けが欲しい。
『……ひとつ鍵穴を増やすか』
こちらの鍵穴では冒険者チェッカーの起動と停止を行う。
ロック状態では水晶球が反応しないようにすれば普通のテーブルとしても使える訳だ。
それと鍵に認証機能をつければ無断使用も回避できる。
鍵の盗難対策も必要か。
テーブルから離れると亜空間倉庫経由でテーブルの引き出しに戻るようにする。
これなら戻し忘れや紛失の心配もない。
その他にも、あれこれと機能追加しておいた。
「ほい、完成」
ズンという音と共に新しい冒険者チェッカーが部屋の中に設置された。
「……………」
無言で頭を振っている人が約1名。
もはや溜め息すら出ないらしい。
「これは念のための確認じゃが」
ガンフォールがテーブルの周囲を回りながら細部を確認している。
「何かな?」
「このテーブルが先程の冒険者チェッカーとかいうやつなんじゃな」
「ああ、普段使いしやすいようにしといた」
そう言うと同時に鍵を渡す。
「そこに柄の方を差し込んで右に捻ってみてくれ」
俺の指示通りに鍵穴の一つにハンマー型のキーを差し込んで捻る。
するとテーブル中央に設置された水晶球に淡い光が灯った。
「むう……」
「起動キーだ。
確かめてみるといい」
手を伸ばして水晶球に触れると先程と同じようにガンフォールの情報が表示された。
「今度はキーを左に捻ってくれるか」
ガンフォールが俺の指示通りにすると水晶球の光が消えた。
「ほう」
感心したように声を上げ、再び水晶球に触れた。
しかしながら今度はなんの反応もない。
「鍵を使うとは、よくぞ思いついたものじゃ」
いや、元日本人としては特にどうと言うことはない発想ですが。
特に自動車とかバイクの運転してる人間にとってはね。
そういや昔馴染みのマイマイの話では俺らが子供の頃に鍵付きのパソコンがあったとか。
雑談ネタだったので、大学生だった当時は「へえ~」で終わらせたが。
随分後になって画像検索をかけたら古くさい写真が出てきて衝撃的だったさ。
思わずマイマイにメールしたら[私は正直者だ!]と返信があった。
当時、信じなかったことを根に持っていたらしい。
とはいえミズキチも信じてなかったからなぁ。
そんな訳でメールしたら[謝らなきゃ!]と焦った感じの返信があった。
マイマイは怒らせると厄介だからな。
もちろん、すぐに謝って事なきを得たけど。
謝ったのは、ほんの数年前の話なんだが随分と懐かしい気がする。
『おっと、思考が脱線してしまった』
「もう一つ鍵穴があるだろ?」
「む? おお、あるな」
「先にテーブルの重さを確かめてみてくれ」
ガンフォールが両手でテーブルを掴んで持ち上げる。
「これは相当頑丈に作ったようじゃな。
その分、かなり重くなってしまっておる」
などと言いながら、顔色も変えずに上げ下げしてるのは何処の誰だ。
ヒョロガリのボーン兄弟とかだと2人がかりでも楽には持てないはずなんだが。
「じゃあ、今度はもう一つの鍵穴にキーを差し込んで右に捻ってくれるか」
「うむ」
俺の指示通りにしたのを確認。
「そのまま鍵を抜いてくれ」
「抜いたぞ」
「もう一度、重さを確認してくれるか」
「ん? おお」
返事をしたガンフォールが先程と同じように持ち上げようとするが……
「なんじゃと!?」
ガンフォールが唸りながら力を込めるが、テーブルは動かない。
「どうなっとる?」
疑問を口にしながらも歯を食いしばって顔を真っ赤にしている。
意地でも持ち上げる気らしい。
「ふんぬぅーっ!」
妙な掛け声に合わせて筋肉が盛り上がる。
それどころか顔面の血管が浮き上がってきた。
が、テーブルはビクともしない。
「意地になって壊さんようにな」
この言葉には素直に従ってくれたけど湧き上がった闘志がそのままだ。
ハアハアと肩で息をしているのに無茶な爺さんである。
「これなら盗難対策になるだろ」
「そう、じゃな……」
息が荒いままにガンフォールは鍵を差して元の位置に戻した。
再びテーブルを持ち上げる。
今度は軽々と持ち上げられた。
「不思議なもんじゃ」
「魔道具だからな」
「好きな場所に置けるが盗ませない、か。
なかなか面白いことを考えおるわ。
コソ泥どもの焦る顔が見えるようじゃな」
「なんだ、そんなに泥棒が来るのか?」
「滅多に来んが、忘れた頃に来おるんじゃ」
わずらわしいとガンフォールの顔に書いてある。
それだけで察することができた。
「ああ、泥棒はヒューマンなのか。
何処の国の人間か調べて突き出すのは確かに面倒だな」
「まったくじゃ」
ガンフォールがウンザリといった表情で嘆息した。
「まあ、気にしないことだ。
警備体制はちゃんとしてるんだろ?」
「しておるが、希に侵入を許すことがあるんじゃ」
「逃がしたことは?」
「ワシの知る限りではない」
「なら、いいじゃないか」
「簡単に言ってくれおるわ」
「引きずってもストレスになるだけで何の益もないからな」
「むう……」
「一息、入れようぜ」
「……そうじゃな」
ガンフォールが茶を用意させるべく部屋の外で待機しているドワーフに声を掛けに行く。
俺たちはその間に室内の椅子やベンチを集めてテーブルを囲んだ。
詫びの品は渡したし、後はゆっくり話ができそうだ。
読んでくれてありがとう。




