64 情報があれば対応できる
改訂版です。
「まったく、デタラメにも程がある。
作り物の体の中に入って操るじゃと?
奇想天外にも程があるわい」
首を振りながらガンフォールは嘆息した。
「しかもギルドに登録?
何を考えておるのかサッパリじゃ」
「色々と売りたいものがあってな。
ここで売ってもいいんだが、限度があるだろう?」
またも溜め息をつくガンフォール。
ただし今度は安堵のそれだ。
「商人ギルドか……
焦らせおる。
ワシはてっきり冒険者ギルドかと思ったわい」
「あ、そっちも商人ギルドの後に登録するよ」
「なんじゃと!?」
凄い形相で睨みつけてくる。
「あー、審査とかヤバそうだな。
そういう情報が知りたくて先に寄らせてもらったんだよ」
「むう」
ガンフォールの表情が若干和らいだ。
まだまだ怒り顔だけど。
「何がしたいんじゃ」
「ん? 登録した後のことか」
「そうじゃ」
「半分は余らせてる素材を売るためだ。
残りの半分は趣味と実益を兼ねてだな」
俺としては普通に答えたつもりが、理解不能と言わんばかりに頭を振られてしまった。
「道楽で冒険者じゃと?」
「そこまでは言ってない」
俺の感覚的にはパートタイム冒険者ってところか。
決まった時間に働く訳じゃないけどさ。
「まあ、良いわ。
ハルトなら片手間で稼いでしまいそうじゃしな」
なかば呆れた様子で溜め息をつかれてしまった。
「そりゃ、どうも」
「登録が簡単なのは冒険者ギルドじゃろうて。
あそこは犯罪者以外なら誰でも登録できるからの」
商人ギルドは登録に何らかの障害ありってことか。
「それだけに最初の審査で鑑定の魔道具を使われるぞ」
冒険者ギルドの方もすんなりと登録できる訳ではないようだ。
「どのくらいまで調べられる?」
「名前と犯罪歴は言うまでもない」
偽名で成り済ましも防止できるなら歓迎するところだ。
「あとは性別と年齢とレベルじゃ。
お主の場合、レベルが騒ぎの元になるじゃろ」
【鑑定】持ちのガンフォールが見えないレベルだからな。
「種族は?」
「ん? そうか、それもあったな。
確かに精霊獣やそっちの二人はマズいかもしれん」
エルダーヒューマンな俺も読み取られる情報を誤魔化さないと引っ掛かるんだが……
「その調子だと称号も見られる訳か」
俺の何気ない一言にガンフォールが目を見開いた。
「ちょっと待て、ハルト」
「どうした?」
「お主、称号持ちか」
その様子から称号持ちが思った以上に少ないことを理解した。
複数持っている奴など更に少なくなるはず。
俺みたいなのは過去を遡っても皆無だろう。
「なんだ、とっくに気付いていると思ったんだが。
俺を鑑定スキルで見ようとして見えなかった時点でな」
「むぅ!」
ガンフォールが度肝を抜かれたと言わんばかりに呻く。
『気付かれていないと思っていたのか』
お生憎様である。
「ワシはもう何を聞かされてもお主のことでは驚かんよ」
そして諦観を感じさせる溜め息を漏らした。
頭を振っている。
心底あきれたと言わんばかりだ。
「そうかい」
ガンフォールはああ言ったが、レベルや称号を明かせばどうなるやら。
それに種族もルベルスの世界に1人だけときている。
腰を抜かすくらい驚いても不思議はないと思うのだけれど。
ただ、これらを教えるつもりはない。
ガンフォールがミズホ国民になるなら話は別だが、その目は薄いだろう。
「とにかく、お主じゃと魔道具に何も表示されん恐れがある」
「名前すらか」
「まず表示されんじゃろうな。
ワシが鑑定しても見えんかったんじゃから」
そう言えば、そうだった。
「下手をすれば魔道具が壊れるかもしれんな」
「おいおい」
そこまで酷いのは想定外だ。
「冒険者ギルド本部で保管されておるというオリジナルなら大丈夫じゃろうが」
「支部に置いているのは粗悪なレプリカってことか」
「手厳しいのう。
ダンジョンで発見された物を模倣できただけでも凄いことなんじゃぞ」
「だが、破損するんじゃ劣化コピーもいいとこだ」
「無茶を言いおるわ」
ガンフォールが嘆息した。
「小さな支部にある低品質品さえ作るのに1ヶ月はかかると言われておるんじゃぞ」
思わず上を仰ぎ見た。
魔道具の製作技術が低すぎる。
鑑定の魔法を術式に書き起こすのが難しいというのもあるとは思うが。
スキルではなく魔法で鑑定すること自体が困難だからな。
制御が極めて難しいせいだ。
放出型魔法では、無駄に魔力をロスするばかりで成功しないだろう。
『高い制御力を要求される魔法は桁違いに魔力を消費するからなぁ』
そうなると劣化品とはいえレプリカをよく作れたものだと思う。
構造などを理解しているとは考えにくいのだが。
特に術式の部分はね。
何となくオリジナルを真似たら、そこそこ使えるものができたってのが真相か?
だとすると西方で出回っているレプリカ魔道具って物によってはデンジャラスかもな。
『なんにせよ俺の魔道具は絶対に売れないな』
「まさかとは思うがオリジナルと同等品を作れるとは言わんよな」
まるで俺の考えていることを読んだかのようなことを言ってくる。
「聞かない方がいいと思うぞ」
『面倒事に巻き込まれたくないだろ』
ガンフォールに気を遣って答えをはぐらかしたつもりだ。
「デタラメじゃ……
どこまでもデタラメな奴じゃ」
頭を振りつつ呟くところを見ると、どういう意味かは完璧に察したようだ。
「念のために確認しておきたいんだが高品質なレプリカもあるのか?」
「大きな支部に行けばな。
じゃが、それすらオリジナルには遠く及ばんと言われておる」
「レベル80くらいなら表示されるか?」
現役で英雄扱いされるレベルは目安になる。
この程度で何も表示されなくなるなら高品質品と言うのもおこがましい。
オリジナルが凄すぎて色々と省略しないと真似できないとも考えられるが。
「すべて表示させるのは無理じゃな。
それでも低品質品よりはマシじゃ。
レベルだけは、その先も表示させられるからのう」
大した差はないかと思ったが、そうでもないようだ。
「耐久性も高いと言われておる」
それは耳寄りな情報だ。
「そうは言っても限度があるようじゃがな。
かつては触れただけで破壊してしまった者がおったそうじゃ」
それは俺がレベル1024になるまで人類最高レベルだった人だろう。
品質の高いレプリカでも300未満のレベルで壊れるとは……
俺だけでなくローズも引っ掛かるってことだ。
『条件をクリアするハードルの高いことで……』
だが、今の情報から魔道具の作動方法が判明した。
触れた相手の魔力を利用して起動するタイプだろう。
チャージする必要がないから常に使えるのが利点である。
反面、対策していないと過剰な魔力供給に対応できないと。
そういう部分がオリジナルからコピーできていないのだと思われる。
事前にそのことを知れたのは収穫だ。
対処するのも楽になる。
いずれにせよ真っ先に構造解析した方が良さそうだ。
他の原因で破損しても困るからな。
「与太話の類と思っておったが……
今なら真実じゃと信じられるわい」
諦観を感じさせるような口振りにイラッとした。
誰のことを言っているかは明白。
ちょっと傷ついたぞ。
「ガンフォールが俺のことをどう見ているかよく分かった。
訓練場で決闘という名の運動をして一緒に汗を流そうじゃないか」
爽やかな笑顔を意識して言ってみた。
目だけは笑っていないと思うが。
「ま、まて、スマン」
ガンフォールが慌てふためいて手を前に突き出している。
まるで見えないプレッシャーを押し止めるかのように。
「他意はないんじゃ。
悪気もないぞ。
絶対にない!」
かなり必死だ。
殺気は放っていないんだがな。
「悪かった。
この通りだ」
少しいじめすぎたか。
つまらんことで根に持つとは俺も小さい男だ。
反省しなければ。
「冗談だ。
本気にするな」
そう言うと心底ホッとした様子を見せた。
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お茶を飲んで一息つく。
その間に作業用倉庫で俺なりの鑑定用魔道具を試作してみた。
そして話を再開する。
「商人ギルドのチェックは冒険者ギルドほどではないのか?」
「紹介者がいて会費が払えればな。
中には偽名で登録する者もおる」
「犯罪者かどうかは問わぬと?」
「紹介なしで商売を始めようなんてのは身分証が必要じゃ」
商売に必要な信用があるかどうかで判断するのか。
チェックがザルとも言い切れないようだ。
「そういう者は冒険者ギルドで身分証を作ってから登録に来るってことか」
「大半はそうするようじゃな」
「他にもあるのか?」
「職人が登録することもあるんじゃ」
「ああ、そっちのギルドね」
「そういうことじゃ」
そのパターンを実行するつもりはない。
「商人ギルドで登録してから冒険者登録する場合はどうなる?」
「……ハルトの考えていることが読めてきたわい」
「そうか?」
「商人ギルドで身分証を作って冒険者登録での面倒を回避しようというのじゃろう」
御明察だ。
「その様子じゃダメみたいだな」
「冒険者ギルドは、いかなる場合も厳格で公平だ。
誰であろうと例外は認めんから国家クラスの相手でも干渉を撥ね除けられる」
「なるほどね」
商人ギルドの場合は金の力で干渉させないってところか。
「じゃが、悪い発想ではない。
商人ギルドの登録者を敵に回したがる奴は少ないからの」
「ああ、やっぱりいるんだ」
異世界に来たときのテンプレ。
新人に絡んでくる不良冒険者が。
そのあたりは出たとこ勝負で行くしかない。
「ハルトの場合はその前に騒動になりかねん」
「鑑定の魔道具か」
「そうじゃ」
「問題ない」
そのために試作したからな。
「なんじゃと?」
怪訝な顔で俺を見てくるガンフォール。
たった今完成した、あえて品質を落としている魔道具を倉庫から出して掲げる。
「冒険者チェッカー!」
耳がないのに猫だと言い張るロボットの口調を真似する。
敬意を表して初代の声優さんバージョンだ。
後日、動画の漁り中に実は3代目だと知り驚愕させられるのだが、それはまた別の話。
効果音とちょっと間延びした感じのBGMは俺の頭の中だけで再生されている。
「しわがれた声を無理矢理出すのに意味があるのか?」
知らないガンフォールにしてみれば首を傾げるしかない訳で。
動画を見慣れているうちの面々は平常運転だがな。
「様式美というやつだ」
「ますます分からんわい」
そう言いつつも冒険者チェッカーは気になっている様子。
さて、ガンフォールは驚かずにいられるのかな?
読んでくれてありがとう。




