63 年末の繁忙期こそ狙い目?
改訂版です。
クリスマスパーティーが終わった。
「いやー、楽しかったねー」
「ホントホント」
「美味しかったし」
「うんうん」
「来年もクリスマスパーティーしたいねー」
「そだねー」
そう言ってくれると嬉しいね。
やった甲斐がある。
「明日からまたローテーションだ」
「頑張ろー!」
「「「「「おー!」」」」」
平常運転で仕事をする気満々である。
『年末の気忙しさは何処へ行った』
思わずそう言いたくなったのは俺が元日本人だからだろう。
妖精組は滅多に休もうとしない。
農業で収穫したときの区切りでたまに休みというサイクルだ。
区切りで常に休みにならないのが曲者である。
数週間から1ヶ月で収穫できるくらい植生魔法が上達したからって張り切りすぎだ。
まあ、その甲斐あって輸出関連の生産も任せられるようになったんだけど。
どうにか休ませようと交代要員の自動人形を作ったりもした。
農業用はなかなか難しい。
フィギュア型が農作業用ロボットを操縦するようにしたのが、そもそもの間違いだった。
多目的農作業機械として変形させるのは無理があったんだよ。
結局、合体変形までさせて完成にこぎつけた。
完成させてから自動人形も魔法が使えるようにしたことを思い出した。
汎用のメイド型でも簡単に対応できたのだ。
我ながらアホである。
農作業機械は素材に戻してお蔵入り。
フィギュアたちは防衛要員としても使用できるので部隊数を増やしたよ。
で、防衛用に術式を追加して農作業を担当させることにした。
無駄に時間を費やしたせいで農業への投入は年明けからになる。
「また収穫までの時間を短縮できるかなぁ」
「できるよ。
植生魔法もずいぶん上達したし」
「まだまだだよ」
「そうそう、時短したら品質が落ちるって」
「そっかー」
「収量を少し増やすくらいならできそうだよ」
「とにかく安定した品質を重視しないと」
「売り物になるもんね」
「陛下から給金をもらった時はビックリしたよねー」
「そうそう、いっぱい貰っちゃった」
「多すぎだよね」
「沢山もらったら今まで以上に税金もいっぱい払わないといけないよね」
『カーラの算出した税率より多くは受け取らんぞ』
最初は税金を受け取る受け取らないの押し問答があった。
収入額により減免されることなんかも説明して不要だとは言ったのだが。
食べるのに困らない上にお金の使い道がないとなると払いたくなるものらしい。
結局、休日の厳守を条件に受け取ることになった。
来年からはミズホ国で制定したカレンダー通りに働き休む訳だ。
苦しい戦いだった。
訓練も仕事のうちであると認めさせるのには苦労したからな。
しまいには休日出勤なんて言葉まで引っ張り出してきたし。
俺は俺で代休制度を持ち出して対抗したけど。
「それでも、すっごく残っちゃうよ」
「模擬店しか使う機会ないもんね」
「そうそう、模擬店じゃ使い切れないよー」
「陛下は貯蓄しろって言ってたよ」
「どれくらい貯めればいいのかなー」
「個人差があるんだよね?」
「模擬店の授業を繰り返している間に分かるようになるって」
「次の模擬店はいつかなぁ」
「買い物するの楽しかったよね」
「「「「「ねー」」」」」
楽しみも見つけているようで何よりなんだが。
ただ、経済がまだまだ分かっていない。
税金のこととかはすぐ理解したのに……
とにかく作ればすべて売れると思っているのは、よろしくない。
米は備蓄に回せるが、生鮮食料は長期保存できないからな。
ドワーフたちは亜空間倉庫なんて使えないし。
魔道具化した貯蔵倉庫や貯蔵箱まで売るつもりもない。
『次の授業では、そのあたりを教えておかないとな』
貯蓄の意味も、いまひとつ理解していないようだし。
原因は衣食住にお金がかからない現状にある。
国民が増えれば、そんなことも言っていられなくなるとは思うが。
不幸中の幸いと言うべきか、みんな亜空間倉庫の扱いに慣れてきている。
作りすぎても倉庫なら安心だ。
状態を変化させることなく保存できる。
そんな風に思っていたら倉庫の拡張が間に合わないほど増産したこともあった。
さすがに食べ物で苦労しただけあって、そこからは自重したけどな。
いま農業は米と大豆に絞り込んで生産中だ。
普通は気にするであろう季節などお構いなしである。
農業区画に設置した結界柱のお陰でね。
こいつがないと植生魔法だけで育てる場合、24時間体制になってしまう。
『まあ、結界柱のせいで働き過ぎになったんだけど』
安心して働けるからって、みんな張り切るんだもんな。
良かれと思ったことが裏目に出るとは思ってもみなかったさ。
裏目に出たのはそれだけではない。
米や酒は輸出用の酒と味噌と醤油を増産するためなのだが。
ガラス瓶で輸出すると問題があるので輸出用に陶器と木の樽を用意した。
そこに想定外があったのだ。
初めて新たに用意した容器で持って行った時にはガンフォールに呆れられてしまった。
「木の樽はワシらでも同等のものが用意できるじゃろうが……」
普段使いできるような見本を用意して妖精たちに作らせたつもりだったのに。
溜め息に加えて頭を振られた。
「焼き物でここまで均質にできるなど夢にも思わなんだわ」
「あ……」
品質を見本に近づけるようにと言ったのが裏目に出たらしい。
本気を出した妖精たちの魔法制御力はドワーフも唸らせる正確さになっているようだ。
『そういや魔力も何倍にもなっているよな』
そろそろ次の段階に踏み込む時期かもね。
大陸の東側へ遠征しても大丈夫だろう。
素材の山が築かれそうな気がする。
ただ、西方へ持ち込めないものばかりになりそうだ。
オーガとかベアボアならギリギリ売れるかもしれないが。
ボーン兄弟が言ってたけど、素材によってはオークション行きだ。
高値がつけば分配するお金も多くなるだろう。
俺が単独で狩ったのもそこそこ増えてきたから換金しておきたいし。
そちらは国家予算として貯め込んでおくこともできる。
『そうなると商人ギルドに登録すべきか』
ついでに冒険者ギルドも。
外貨は獲得できたから今なら街に入るくらいはどうということはない。
けれど今の今まで行っていないのは、躊躇う気持ちがあったからだ。
やり過ぎてドン引きされるのは嫌なものだ。
少しでも目立ちたくない。
ならば何処とも忙しいであろう年末の今がチャンスか。
年末の忙しさに紛れて登録してしまおう。
名付けて[どさくさ紛れ作戦]。
「……………」
ネーミングセンスがないのは分かっているさ。
とにかくチャンスは今だけだ。
行くしかない。
「よっし、出かけるぞ。
ダブルでギルドに登録だ」
「くくぅくーくぅっ」
ちょいと待ったぁって、どういうことさローズさん。
「くうくくーくぅ」
誰か連れて行けって?
「なんでさ」
「くぅくくっくぅーくっくうくーくー」
手ぶらで商人ギルドに行くつもりかって……
「言われてみれば、あれこれとミスってきてるよな」
「くうくー」
その通り、ですかい。
即答でストレートに言われると堪えるな。
確かにガンフォールの所で色々ミスった。
その前にノエルたちの前でやらかしたのが教訓になっていない。
反省しても学習できていないんじゃ、していないも同然。
情けないったらありゃしない。
「くぅ、くぅくーくっくう」
あと、自分も連れて行け、とな?
「ローズさんや、いきなり実体化して失敗したのは誰ですかね?」
「くーくーくー」
何を言ってるのか分からない。
というより、そっぽを向いているので何か言いたい訳ではないようだ。
口を尖らせて息を吹き出しているだけのようにも見えるし。
それで何となくだがピンときた。
「口笛になってないぞ」
指摘すると首を捻って後頭部をかき始めた。
図星を指されて照れているのか。
相変わらずジェスチャーがアニメっぽい。
頭かきかきが終わると、シュタッと元に戻る。
切り替えが極端すぎだろ。
「くーくーくぅくくっくうーくくっくぅ」
着ぐるみがあれば霊体化しなくてすむって、おい。
「そんなの着てれば余計に目立つだろうが」
「くぅくーくぅくぅくーくくっくう」
巨漢を連れていれば絡まれにくい、ねぇ。
「人間ソックリの人形を用意しろってことか」
「くっくー」
そうそう、と頷くローズ。
一理あるとは思う。
自動人形で同じことをさせるのは不安があるからな。
見た目で疑われない自信はあるが、他で不自然さが出てしまうと思う。
その点、ローズがパワードスーツのように中に入って操れば人間くさい行動も可能と。
「そうは言うけどさ」
問題点がある。
「ローズの言う着ぐるみも密着した装着になるぞ」
変身ヒーローのスーツを作った時に着心地が好きじゃないって断られているんだよな。
「くうくーくぅ」
隙間は必要、ですか。
わがままな客である。
まあ、フルオーダーになるから要望は聞くんだけどさ。
「一部は固定のために密着になるぞ」
「くーくうくくー」
それは仕方ない、か。
「で、リクエストはあるのか?」
「くうっくーくぅくぅ」
「えっ、あの人?」
そういや前に動画で赤いサソリや狙撃する人の映画とか見せたことがあったな。
メジャーな映画にもたまに出る一方でB級映画に出演し続けてン十年な人だ。
「確かにデカくてゴツいけどさぁ」
おまけに睨みきかせるとハンパなく怖い顔になるし。
「くうくーくぅっくくーくぅくうくー」
護衛としてハッタリかますには最適、だとさ。
確かにその通りだ。
微妙に釈然としないものはあるけど。
「へーへー、作らせていただきますよ」
「くうくー!」
やったー! って……
どう考えても護衛より着ぐるみそのものが目的だよな。
『釈然としなかった理由はそれか』
護衛の仕事はちゃんとすると言うから作ったけどね。
製作中にボーダーコリーなハリーが物欲しそうに見てきたからハリーの分も作ったさ。
護衛の仕事をするという条件で。
バタバタ尻尾振ってたよ。
で、ハリーの着ぐるみは運び屋な映画に出てくる髪の短い兄ちゃんがモデルだ。
細マッチョで格闘アクションもこなす人である。
上背はないけど逆に良かったのかもしれない。
デカいのだけで組ませると動きの鈍いウスノロに思われる可能性もあるからな。
ローズの着ぐるみとコンビを組ませれば、いい感じになりそうだ。
「くくっくーくうくぅ」
ツバキも連れて行け、とか言ってますよ。
着ぐるみだけじゃ満足しないらしい。
「絡まれやすくしてどうするんだよ」
美人連れってだけで鬱陶しいのが寄って来そうだ。
「くーくぅくー、くっくぅっくーくくーくうくっ」
護衛がいるし、本人も強くなってるから大丈夫、だって?
「そりゃ、そうだけどさぁ」
「くうくーくぅくっくっ」
それより交渉役が必要、ね
「言われてみりゃそうか」
あっと言う間に同行者が3人になった。
ちなみにツバキはマルチリングで容姿を若干変更するにとどめた。
現在もバージョンアップを繰り返しているので試験運用には丁度いい。
不具合が出そうな時は俺が魔法でフォローするだけだ。
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いきなり知らない街へ行くのは問題ありそうだ。
地図はあっても治安情報とか政治情勢とかが分からんし。
だが、知っている人物に心当たりはある。
という訳で転送魔法でジェダイト王国へ跳んで来た。
時差があるからまだ昼前である。
「相変わらず、唐突じゃな。
おまけに今回は一気に人数が増えておるし」
呆れながらもガンフォールが自室で迎えてくれた。
「すまんな。
訳ありで俺以外は変装している」
「なんじゃと?」
怪訝な顔をされてしまった。
「ローズ、ハリー」
俺の呼びかけに二人は人形の首をスポンと抜いた。
「なっ!?」
向こうは人間だと思い込んでいたから首が抜ければ驚くよな。
ガンフォールほど胆力がなければパニックで収拾のつかないことになっていただろう。
抜けた穴からローズとハリーが顔を出す。
「ローズは知っているよな。
それとパピシーのハリー。
こっちはアラックネのツバキだ」
「くうくー」
ヨロシク、とローズ。
「はじめまして、ハリーです」
「ツバキだ、よろしくな」
ツバキもマルチリングを魔力で操作して変装状態を解除。
露出の少ない服のため背中の脚は出せないものの赤い瞳を見せながらニヤリと笑った。
ガンフォールが驚いているのがよほど面白いらしい。
「あ、ああ……」
さすがのガンフォールも頷くのがやっとの状態のようだ。
皆を元の変装状態に戻させる。
「あの状態でヒューマンの街には行けないだろ?」
俺の言葉にガンフォールが諦観を感じさせる溜め息を漏らした。
「まったく……
ワシの心臓を止めるつもりか」
「すまんすまん。
まあ、訳ありって言っただろ」
「そうじゃったな。
で、今度は何をやらかすつもりじゃ」
今までが今までだから、こういう部分は信用がない。
だが、反論していると長くなりそうなのでスルー推奨だ。
「ギルドで登録したいだけだよ。
そんな訳で協力してほしいんだ」
読んでくれてありがとう。




