60 色々と作って助手を採用してみた
改訂版です。
季節は冬。
ミズホの国に雪が降る。
しかしながらミズホシティに雪は積もらない。
もともと積もるほど降ることが、ほぼないのだけれど。
念のために徹底して対策をしたよ。
街中に立てた街灯や堤防を自然災害などに対応する結界の魔道具として大幅に改良。
豪雨や豪雪はもちろん巨大津波も専用の亜空間倉庫へと転送されるようにした。
他にも細々した仕様があって、水害や干害に対する備えは念入りに行っている。
そんな訳で雪は積もらないのだ。
ただ、完璧にシャットアウトはしない。
便利な生活に慣れきってしまうのも怖いし。
減災するコンセプトの方が魔力コストなどの面でも負担が少ないというのもある。
『色々と頑張ったよなぁ、俺』
超微細な術式の書き込みは新しい発見が多かった。
色々試してみたが、日本語や英語まで使えたのには笑った。
他にも多層構造の魔方陣にすると増幅効果に加えて魔力の消費効率が良くなるとか。
箱や筒のように内部が空虚な物の場合、内部空間に術式が記述可能とか。
錬成魔法を併用して物質表面でなく内部に術式を記述すると魔力増幅の効果があるとか。
試行錯誤した甲斐はあったと思う。
後になって【諸法の理】にすべて記載されていたことに気付いてガックリきた。
『ついてねー』
とにかく、研究の成果を生かすべくマルチブレスレットを作り直した。
指輪サイズになった上に性能が上になったのは収穫だ。
まあ、ノエルたちに渡す分だからセーブはしたけど。
『はやく連絡が来ないかな』
押し掛けていくのは思い止まった。
ラミーナとエルフの組み合わせは目立つからな。
俺から出向くと騒動になりそうな予感があるからだ。
彼女らに迷惑をかけるのは本意ではない。
そんな訳でジェダイト王国へ行き来するようになった。
最初は作り直した決闘用ハンマーを交換しに行くだけのつもりだったが。
向こうは追加の家畜を用意して待ち構えていた。
「なに、あのハンマーを交換じゃと?」
「ああ、そうだ。
盗難対策を追加したんだ」
「それは助かるが……
取り引きはせんのか?」
「お、追加の家畜かい?」
「そうじゃ。
もう少しあると嬉しいと言っておったではないか」
わざわざ覚えていたようだ。
律儀な爺さんである。
「じゃあ支払いは酒と米でいいか?」
「勿論じゃ」
それで渡されたモノの中には家畜以外のものが沢山あった。
いや、むしろ家畜より種類も量も多い。
日用品から家具や武具までてんこ盛りである。
しかも高級感ただよう細工の見事なものばかり。
オマケにしては豪華すぎだ。
確実に家畜の何倍もの価値がある。
「渡した酒や米以上のブツが並んでいるようだが?」
「近隣の同族から挨拶代わりの贈呈の品々じゃ」
「それにしたって限度があるだろう……」
「例の酒を会議で振る舞った結果じゃ」
「会議?」
「年に1回、大山脈南部地域のドワーフ国家だけで集まりがあるんじゃ。
王族かその代理がホスト国に集まって会議という名の宴会をする」
「ぶっちゃけたな」
まあ、でも分かり易い。
「で、今年のホスト国はジェダイト王国か」
「そうじゃ。
そこでミズホ酒と焼酎を出したら好評でな。
おかげで、この間の購入分はすべて土産に持たせるとこになってのう」
ガンフォールが苦笑する。
かなり喜ばれたらしい。
「全部とは気前がいいな」
「せこい考え方は酒を不味くする。
旨い酒は仲間と分け合ってこそ味わい深くなるんじゃ」
『言ってくれるね』
「それとな、会議に参加した全員から伝言を頼まれておるんじゃ」
「伝言?」
「欲しいものがあったら何でも言ってくれ。
我々は全力で応える用意がある、とな」
「そいつは大きく出たな」
喜ぶ度合いが「かなり」ではなく「殊の外」レベルだったようだ。
『どいつもこいつもドワーフって連中は……』
「そういうことなら挨拶に見合った分を置いていくよ」
「おお、それはすまんな」
【鑑定】で贈呈分に見合った酒を出していく。
ところが途中でガンフォールが慌て出す。
「おいおい、そんなには受け取れんぞ」
そんなことを言いながら止めてきた。
「え? 相応分を出したつもりなんだがな」
「アレの中にはワシからの礼もある」
「礼って何の?」
「ハルトのお陰で孫が変わったからの」
「アネットか」
「そうじゃ。
我々が手を焼いておったのに、たった1日でアレを変えてくれた」
「大したことはしてねえぞ」
「何を言う。
憎まれ役を買って出たではないか」
「まあ、気にするな」
そう言いながらガンフォールの礼の分以上に酒を出しておいた。
「おい、ハルト。
人の話を聞かぬか」
「聞いたからだよ」
「何じゃと?」
「アネットが生まれ変わった記念のプレゼントだ」
「それにしたって──」
それに続く言葉は言わせぬとばかりに言葉を被せにかかる。
「あと、ガンフォールの気前の良さが気に入った分だけオマケしておいた」
ドヤ顔で言うとガンフォールが大口を開けて呆気にとられていた。
「友達の男気を粋に感じたってことだ」
更にニヤリと笑ってみせると──
「ハァーハッハッハ!」
豪快に笑い始めた。
「これは1本取られたわい」
「そいつは、どうも」
そんなこんなでジェダイト王国を窓口に小国群と取り引きすることになった。
酒だけじゃなく米や野菜も好評でホクホクである。
現金収入が得られただけでなく家畜の豚をゲットできたのが大きい。
オークのような魔物肉以外で豚肉を得られたことで食べ比べもできたし。
そこから判明したのは豚肉の方が品質にバラツキがないということ。
ハムやベーコンの味が安定するのは助かる。
そして豚の角煮丼が最高に旨かった。
そんな訳でオーク肉はミンチに回されることになった。
これなら味を均質化させやすいし。
ハンバーグやロコモコも人気メニューだから、いくらあっても困らない。
動物性タンパクと卵の組み合わせは太ると言われているけどね。
要は食べ過ぎなければいいのだ。
『まあ、そんな頻繁に食べられるほど家畜を確保できてないけどさ』
繁殖もしないといけない訳だ。
ここで問題が出てくる。
現状で農業と漁業の仕事量は割とギリギリなところがある。
更に畜産まで加えると猫の手も借りたくなるくらいだ。
実際、猫妖精ケットシーたちが働いているけどさ。
冗談はさておき、人手不足になってしまった。
家畜は農作物のように植生魔法で一気に育てることはできない。
仕方がないので妖精組には畜産の方を重点的にやってもらうことにした。
そんな訳で当面は俺が農作物を生産する形になったのである。
漁業はローズが担当。
押しつけた形になったけどローズはローズで楽しんでいた。
海竜の群れを潰して満面の笑みで帰ってきた日もあったし。
結果?
すべて首がポッキリでしたよ、ええ。
ただ、何時までもこの状態なのは問題がある。
人が足りないなら増やすしかない。
すぐに来てもらえる人材がホイホイ見つかるなら苦労はしないが。
ということで自動人形で解決を図ることにした。
開発を始めたのは晩秋になってからだったか。
最初はラジコンサイズのフィギュアを作成。
そこから人間サイズに拡大させられれば量産が楽だと思ったのだが。
強度が確保できずに失敗した。
試しに逆の縮小もやってみたけど、これも失敗。
フィギュアサイズで人間並みに重いというのは無理がある。
重量を軽減させる術式を組み込むことはできるけど、ハッキリ言って無駄だ。
術式の記載領域的にも魔力コスト的にもね。
サイズ変更がダメだったのでフィギュアサイズをパイロットにしてみた。
量産性を考えると意味はないのだが。
面白そうだったから、気にしてはいけない。
で、人間サイズの方はアニメでお馴染みの三段変形するロボットタイプにした。
飛行形態になって飛ぶことができれば、離れた場所への移動も楽々だ。
これらは武装させて防衛や治安維持用に回した。
厳ついロボットが第一次産業に従事するって違和感バリバリだろう?
そんな訳で得られたデータを元にして人型の自動人形を作ることにした。
ここでツバキを助手として採用。
「主よ、ここまで高度になると私では足手まといでは?」
近頃のツバキは俺のことを主と呼ぶ。
御主人様だったら拒否したと思う。
「まあ、そう言うな。
勉強しておけば損はない」
いまのツバキでは自動人形を作ることはできない。
が、工程を見て覚えるくらいは可能だ。
それに俺の助手を続けることで関連するスキルの習得もできるだろう。
「損はない、か。
一理ある話だな」
神妙な面持ちで頷くツバキ。
「まあ、今日の所は見学だ。
わからんことは遠慮せず聞いてくれ」
「了解した」
そんなこんなで作業を始めていく。
素材はうちでは在り来たりなものだ。
補修や改良で入手困難な材料では後々困るからな。
翼竜やら海竜などの骨が普通に使われるから西方人だと卒倒ものだと思われる。
腐食や劣化対策なので妥協はしない。
所々に魔石を配置して更に丈夫にする。
「これが自動人形……
ゴーレムとは比べ物にならない出来だな」
そう言ってツバキは呆れていたけど。
「骨格は人体に近づけたけど省略もしてるんだぞ」
「うむ、それならば分かる。
単純化させれば作りやすく整備もしやすい」
「そゆこと」
続いて脳に相当する制御システムは専用の亜空間倉庫内に置いた。
フィギュアサイズで採用した方法なのでタイムラグなどもないことは判明している。
「主よ、搭載するほうが術式が単純になるのではないか?」
「防犯対策だよ」
「慎重だな」
「無いものは盗めない。
ここが自動人形を動作させる肝の部分だからな」
「なるほど、それは確かに」
「それと記憶容量を気にしなくていいという利点もある」
小さい魔石を幾つも接続して制御システムを構築したからだ。
高度な技術が必要になるものの容量増設などが楽にできる。
「小型化しても思考能力が落ちないのは素晴らしいな」
「反面、コスト面では高くつく」
「受信を全身で行うからだな。
仕方あるまい。
センサーだけでなく関節や筋肉を構成する素材に魔石を使用しているのだろう?」
「よく分かったな」
簡単には見抜けないはずなのだが。
魔石は砂粒より小さくして錬成魔法で変質させた亜竜の革と混ぜて使っているからな。
「こ、これくらいならばな」
ツバキが照れくさそうにそっぽを向く。
大人びた美女が垣間見せる可愛らしさというのは目の保養になる。
ちょっと得した気分になった。
「それに、コストのことなど帳消しにして余りあると思うぞ」
俺が分かるか分からないかの微妙なニヤニヤで見ていると、誤魔化すように言ってきた。
「ほうほう、何故かな?」
「どこが欠損しても動けるのは何よりも大きな強みになる」
しかも、利点まで見抜いている。
『これなら、次を見せても大丈夫だな』
この日は自動人形のボディを素組みするだけのつもりだったのだが。
「術式の記述も見ておくといい」
微細な魔石に更に小さい文字での術式の書き込みを確認させた。
幻影魔法で拡大表示させながらだ。
「主よ、そこまで細かい記述をする意味があるのか?」
「小さい字であるほど術式の効率が良くなるんだ」
「意味が分からないんだが?」
「これに明かりの術式を書き込んでみな」
電池サイズの魔石を倉庫から引っ張り出して渡した。
俺の手の中にも同じサイズのものを用意した。
どちらも術式の書き込みはされていない。
「できたぞ」
単純な術式なので、ツバキの書き込みもすぐに終わる。
「じゃあ、これにも書き込んでもらおうか」
そう言うとツバキは怪訝な顔をした。
「ただし、書き込む文字は可能な限り小さくしてだ」
「そういうことか」
納得すると、ツバキは早い。
追加で渡した魔石にも記述していく。
「それが終わったら自分で魔力を流してみろ」
「分かった」
自分で記述から作動させるところまですれば違いにも納得がいくだろう。
書き込みが終わったツバキは2個の魔石へ同時に魔力を流した。
「こっ、これは……!?」
ハッキリと明るさの違いが見て取れた。
「同じ記述内容でも、ここまで違うとは」
実験の結果にツバキは驚きを隠さず唖然としていた。
「最後は皮膚と髪の毛だな」
ヨウセイジャーと同じ三層構造の合成革を使う。
質感と色は人に近づけたのは言うまでもない。
それが終われば、服を着せて完成である。
「人のようで人ではないように見える。
奇妙な見た目のはずなのに見覚えがあるような……」
ツバキが首を捻っている。
「リアルにしてしまうと、将来的に国民が増えたときにトラブルになりかねんからな」
「そういうことか……」
俺の説明に頷くツバキ。
だが、浮かない表情をしている。
どうしたのかと聞こうとした、その時。
「そうか、アニメの動画で見たメイドだ!」
ポンと手を打ち、ようやく納得の表情を見せたツバキ。
「正解」
出来上がった自動人形はアニメのキャラクターだったのである。
ツバキがすぐに分からなかったのは平面を立体にしたからだろう。
『2Dを3Dにすると雰囲気が変わって分かりづらいよな』
え? なんでメイドなのかって?
そりゃもちろん、俺の趣味だからだ。
読んでくれてありがとう。




