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49 ドワーフのことを忘れていた

改訂版です。

 ボウリング大会はボーダーコリーのパピシーであるハリーが優勝した。


「ありがとうございます」


 優勝コメントがこれだけなのは普段からあまり喋らないからだ。


 単純なスコアではリーダーのカーラがトップだったが、ハンデの差で優勝を逃した。

 サブリーダーであるキースが3位。


「優勝できなかったのは残念ですが楽しかったです」


「負けたくない気持ちは誰しも同じ。

 次は追われる側と思って頑張ります」


 優勝者コメントが短すぎたのでカーラやキースにもコメントを求めたけど、これである。


『まあ、こんなものか』


 銘々が楽しんでいたようだし、大成功と言えるだろう。


 ちなみに優勝候補だったツバキは平凡な順位であった。

 本人は勝ち負けより皆が楽しんでいるのを見られれば満足だったようだ。


 もちろん勝敗に拘るのもありだと思う。

 そういう意味では黒猫3兄弟が一番悔しがっていた。


「次は負けない」


「負けられない」


「年長者としての意地がある」


 この言葉は今回トップ10に入った子供組に向けられたものだ。


「リベンジするかニャ?」


「受けて立つなの」


「こっちこそ負けないよ」


「「次も勝つからね」」


 ミーニャが不敵に笑い。

 ルーシーも胸を張る。

 シェリーはガッツポーズで応じていた。

 それを真似するハッピーとチー。


 一見すると挑発行為にも見えるんだが、子供っぽい仕草なので微笑ましく感じる。

 現に3兄弟も「負けねえかんな」と不敵に笑って張り合っていた。

 基本的に仲がいいのだ。


 そういう所も含めて各所に設置しておいたビデオカメラでバッチリ撮影済みである。

 もちろん編集して上映会を行う予定だ。


『受けるといいんだけど』


 そこは俺の編集の腕にかかっていると言える。

 しかもスピードを要求されるのだ。

 数少ない娯楽だからね。


『他にも手軽に楽しめそうな娯楽を増やすか』


 動画の鑑賞会だけじゃ可哀相だ。

 ビリヤードとダーツくらいなら直ぐに作れるだろう。


『よくよく考えたらビリヤード大会もありだったかもしれんな』


 大会をやるとしたらナインボールかローテーションあたりだろう。

 テンボールやボウラードは時間がかかるから大会向きじゃないし。

 いずれにせよ、ボウリングと違って遊べるバリエーションが多いのは利点だ。


『あとは寝る前の短い時間で楽しめるテーブルゲームも欲しいかな』


 とにかく第1回ミズホ国杯ボウリング大会は成功のうちに終わった。

 優勝賞品の授与の時はグダグダになってしまったけど。


「「「「「いいなー……」」」」」


 ハリーが旨そうに飲んでいるミックスジュースを物欲しそうに見られるとね。

 優勝賞品のはずのミックスジュースが参加賞になってしまったさ。

 最初は日本酒もどきのミズホ酒にしようと考えていたけど。


『自粛して良かった』


 子供組もいるからな。

 結果、お酒は大人の飲み物として夕食後などに飲まれることになった。

 飲兵衛はいなかったけど、それなりに喜ぶ者はいたので作って良かったと思う。


『さすがにドワーフ並みに拘ることはないんだな』


 俺も飲ん兵衛じゃないから吟醸酒は造っていない。


『もったいなくて半分以下まで精米とか出来ねーって』


 そうは思うが、ドワーフに酒を振る舞うなら大吟醸も必要に……


『あ!』


 ドワーフに会いに行くのを、すっかり忘れていた。

 西方人とのファーストコンタクトが一騒動だったからな。

 まあ、言い訳だ。


 酒が出来たら会いに行くとか決めてたはずなのに。


『明日さっそく行ってみるか』


「ローズ、明日ドワーフに会いに行こうかと思うんだがどうする?」


「くうー」


 行くーだそうである。

 そうなれば段取りしないといけない。


 会いに行く相手はドワーフだから酒が基本だが。

 それだけだと酒盛りで終わってしまいそうだし。


『適当に工芸品でも用意しておくか』


 ドワーフの喜びそうな細工物がいいだろう。

 作るついでにマルチブレスレット試作品改も用意した。

 指定した相手に簡易メッセージを送信することしかできないが、それで充分。

 ツバキに留守を任せるから、保険みたいなものだ。


「頼むぞ」


「うむ、これがあれば安心だ」


 ツバキは受け取ったブレスレットを掲げながら頷いた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 初遭遇の相手は爺さんだった。

 周囲の岩山に溶け込むような灰色の髪と髭。

 瞳の色もグレーであった。


「なんじゃ、お前」


 訝しげに俺を見るドワーフ。


『デカいな』


 背丈は俺の胸元くらいしかないのだが、何故かそう思った。

 全身が岩のような筋肉の塊だったからかもしれない。


『なんか偏屈そうな爺さんだな』


 俺も初対面の相手に随分と失礼である。

 まあ、内心に留めているのでギリギリセーフだろう。


『あんまり変なことばかり考えてると感付かれそうだが』


 どう見たって警戒心バリバリだし。

 無表情ながら目が完全に不審者を見るそれである。


『いきなり街とかに行かなくて正解だったな』


 他のドワーフもこんな感じであったなら穏便には済まなかったかもしれない。

 光学迷彩の魔法を用いて山岳地帯を飛び回った甲斐があったと思う。


『いや、まだ信用されてないしな』


 とりあえず単独行動している爺さんがいいかと接触してみたのだが。

 相手は選ぶべきだったかもしれない。

 ローズは霊体化しているから過剰な反応はされなかったものの……


『下手な話をすると機嫌を損ねそうだなぁ』


 第一印象はマイナスだ。

 更にマイナスになるのは避けたい。

 とすると、ウソや誤魔化しはリスクが大きいだろう。


『ここは直球勝負か』


 高度な駆け引きなんて面倒だ。

 向こうもそれを望まないタイプだろう。


「ドワーフに会いに来た」


 返事はない。

 沈黙が続くが、向こうは俺の目をジッと見てくる。


 疾しいことは何もないので俺も見返す。

 目をそらせば、恐らく二度と信用してくれないだろうという確信があったからだ。


「……………」


 俺も爺さんも喋らないが、目では激しい衝突が繰り返されていた。

 ほとんど喧嘩である。


「……………」


 どれくらい時間が経過しただろうか。


「面白い」


 その一言と共に爺さんはニヤリと笑った。


「ワシはガンフォールだ」


『そういや名乗っていなかった』


 失点だ。

 こういうタイプは礼儀にうるさそうだしな。


「すまない、名乗っていなかった。

 俺の名前はハルト・ヒガだ」


「ふん、先に話し掛けたのはワシじゃ」


 ガンフォールの爺さんは気にもしていないようだ。

 一見すると頑固そうだが、まったく融通が利かない訳でもないらしい。


「で、ヒガとやらだったな。

 我が一族に何用であるか」


「端的に言えば勧誘かな。

 別の言い方をするならスカウトだ」


「断る」


 にべも無い。

 機嫌も悪くなったか。


『態度が軟化したから油断した』


 失策である。

 しかしながら、まだ断られただけだ。

 追い払われるような状況に追い込まれていたらチェックメイトだったがね。


「まあ、それは最終目標だよ。

 最初に言っておけば、後になって話がこじれたりしないだろ」


「ふん、バカ正直なことだな。

 そんなことでは世渡りできんぞ」


 そんなことを言いながらも、ガンフォールの口元は微かにニヤけていた。


「とりあえずは取り引きでもしたいところだね」


「それくらいはかまわんが、お前は商人ではなかろう」


 手ぶらじゃ、そう思われても仕方あるまい。


「商人ギルドに登録はしてないが、色々と面白いものは用意できるぞ」


「ほう?」


 鋭い目つきで先を促される。

 嘘を言っても見抜いてやると言わんばかりだ。


「こんなのはどうだ?」


 手始めに掌サイズのブツを手渡してみた。


「むう……」


 唸りながら食い入るようにブツを見ている。

 黒い光沢に目を奪われたかのようだ。


「このような艶を木の櫛で出せるのか!?」


 木の櫛と見抜くとは、さすがドワーフ。

 黒漆の仕上げまでは知らなかったようだが。


「裏を見てみなよ」


 怪訝そうにしながらもガンフォールが櫛を裏返した。


「なんじゃとっ!?」


 反対側は朱漆だ。

 しかも金銀と貝殻を用いた蒔絵を施してある。

 キラキラしているし、細工の細かさが目を引くはずだ。


 自信があったが、想定外の事態が待っていた。

 ガンフォールが己の世界に没入してしまったのだ。

 ブツブツと何やら呟いて呼びかけても帰ってこない。


「…………………………………………………………………」


 たっぷり十分は待たされたさ。

 無表情で櫛を返してくる。


「お気に召さなかったかな?」


「それは見本じゃろう。

 表と裏で調和が取れておらぬわ」


「さすがだね」


 驚きつつも全体のバランスまで、ちゃんと見ていたようだ。


「お主、木工職人か?」


「いいや、ただの賢者さ」


「なんじゃと?」


 俺の返答に胡散臭いものを見る目を向けてくるガンフォール。


「余人が知らない知識を持っている。

 故に賢者を名乗らせてもらっているのさ」


 才知には乏しいかもしれんがね。


「確かにワシの知らん技術を使っているな。

 木工であれほどの光沢が出せるとは知らなんだ。

 じゃが、自らを賢者とうそぶく貴様の方が珍しいわい」


「別に知識だけの賢者がいたっていいだろ?」


「そう来たか」


「あと手先が少々器用ではある」


「アレで少々などと、言いよるわ」


 ガンフォールは不機嫌そうに鼻息を漏らした。

 しかしながら目は笑っている。


『素直じゃない爺さんだな』


 まあ、色々と探りを入れようとして空振りしたせいで警戒させてしまったのかもね。

 最初の長い沈黙も【鑑定】スキルを失敗し続けたからだ。

 俺のことを見極めるために使ったのだろう。

 が、俺の方がレベルが上だから見られるはずもない。


 それでもビビったり困惑したりせず「面白い」と言ってのける剛胆さがある。


『伊達に年を食ってないってことか』


「俺は色々出来るから専門職の職人じゃないんだよ」


「ほう……」


 他には何ができるのかと目で問うてきたので今度は酒瓶を出した。

 サンプル用に用意した小さめのガラス瓶にコルクで栓をしてあるやつだ。

 中身はミズホ酒であるのは言うまでもない。


「……無詠唱で魔法を使うか」


 さすがに空間魔法を使ったことに気付いたようだ。


「色々出来ると言っただろ」


 一瞬、目を丸くしたガンフォールがフンと鼻を鳴らして苦笑した。


「おまけに透けて見える瓶とはのう」


『ありゃ、ガラスもないのか』


 見せすぎたかと思いつつ、俺はコルクの栓を抜いた。


「むっ、酒じゃな」


 さすがはドワーフ。

 酒の匂いには敏感だ。


「正解」


 毒が入っていないことを裏付けるために一口飲んでから瓶を手渡す。

 ガンフォールは、まず匂いをかいだ。


「むうっ、色のない酒でこれほどの香りが出せるのか」


 大袈裟に仰け反り唸るガンフォール。

 一口飲んで口の中で吟味し始める。

 すぐにカッと目を見開き、幼子が見たら泣き出すであろう形相になった。


『俺の方を睨みつけてくるのやめてくれませんかね』


 思わず「御免なさい」と言ってしまいそうになるじゃないか。

 たっぷりと俺を睨み続けてガンフォールは口に含んだ酒をゴクリと飲み込んだ。


「うむ、実に良いな。

 薄味だが初めての味じゃわい」


 残りの酒も時間をかけて堪能しながら飲み干した。


「鼻に抜ける独特の風味が良いのう」


 すっかり上機嫌である。

 もちろん、ドワーフがこの程度で酔っ払う訳がない。


「こっちの酒も試してみるか」


 今度は焼酎を出してみた。

 紛らわしいので瓶の色を変えてある。

 酒の方が水色でこっちは薄茶色だ。


「おお、まだあるのか?」


「さっきの酒を蒸留という工程で濃くしたものだ」


 匂いをかいでから一口。


「こっちは飯が進みそうじゃ」


 ガンフォールは先程よりもやや速いペースで瓶を空にした。


「どちらも買うぞ!」


「毎度あり」


「どれだけ用意できる?

 とにかく買うぞ。

 出せる分は、すべて買い取ろう」


読んでくれてありがとう。

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