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48 ボウリング大会

改訂版です。

 ボウリング大会の告知を受けて妖精組は燃えに燃えた。

 本当に燃え出すかと思うくらい暑苦しい熱血モードになったのだ。

 セーブさせるのに苦労したが、急激なレベルアップの反動を早期に吸収できた。

 が、それを良しとはできない。


「いいか?」


 皆の熱が冷めた頃を見計らって俺は皆に語り掛けた。


「過ぎたるはなお及ばざるがごとし、という言葉がある。

 何事もやり過ぎは足りないのと同じ状態になるという意味だ」


 静かに、だが真剣に語る。


「一生懸命なのはいい。

 だけど無理や無茶を押し通そうとするな。

 自分の状態も確認しないのは論外だ。

 蓄積した疲労や怪我が元で取り返しのつかないことになったらどうするんだ?」


 シーンと静まりかえっていた。

 反省してくれたようなので良しとした。

 あまり言い過ぎても追い詰めることになってしまう。


『初めて出会った頃の状態に戻られても困るしな』


 翌日からは皆も無理をするようなことはなくなった。

 俺もホッと胸をなで下ろしたのは言うまでもない。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 ある日の夕食後。

 マッタリした空気の中で俺はおもむろに立ち上がる。

 皆の注目が集まった時点で俺は話し始めた。


「本日、ボウリング場が完成しましたー」


「「「「「やった─────っ!」」」」」


 爆発的な歓声が上がった。

 それだけ待ち遠しかったのだろう。

 妖精たちは口々にあーだこーだと話し始める。


『2週間もかかったからなぁ』


 妖精組の農作業の区切りにあわせていたから仕方がない。


「静かに!!

 話はまだ終わってないぞ!」


 パンパンと手を叩くと再び注目が集まって静かになった。


「ボウリング大会の開催日は農作業の状況で決める」


 そう言うと、皆の視線が黒猫3兄弟に集まった。

 現場責任者を1サイクルごとに交代でやっているのだが。


『今回は3兄弟が担当か』


「ニャスケ」


「はっ!」


 三兄弟の長兄が席を立った。

 両脇に座している次兄のニャンゾウと末っ子のニャタロウは兄を見上げている。

 その視線に不安の色はない。


「農作業の現状を報告してくれ」


「現状で不安定な作物はありません。

 以前は困難であったトマト、茄子、キュウリ、スイカなども順調に育っています」


 俺は頷いた。

 修行の成果が出ているようで何より。


『大陸遠征前はみんな植生魔法で苦戦していたからなぁ』


 育てるのが困難な野菜は出来具合も収穫量も今ひとつ。

 味は普通だったけど、最近は旨いものばっかり食べてたから残念な感じがした。

 ちなみに芋類や豆類とかバナナは簡単な部類だった。


「麦類は収穫量が大幅に増えました。

 確認はまだですが味も以前より良くなっているものと考えられます」


「ほう、やるね」


 結果はパンを焼いたときまでお預けだが、嬉しい報告だ。


「米も麦ほどではありませんが収穫量が増えています」


「うむ」


 米は味が安定していたけど収穫量で苦戦していたからな。

 これも朗報だ。


「それで今回は収穫時期の幅は大きいのか?」


 この間隔次第でボウリング大会の開催日程が変わる。

 重要な問題だ。


「それについては自分から報告します」


 入れ替わりで三兄弟の次兄ニャンゾウが立ち上がった。

 他所の国だと勝手なことをしたということで叱責を受けるところだろう。

 が、うちはそのあたりユルユルで気にしない。

 詳しい者が説明すればいいのだ。


「ニャンゾウか、どうなってる?」


「米の収穫が昨日で終わりました。

 土壌回復と確認を明日までの予定で行う予定です」


「植えるのは明後日からか」


「はい」


「他の収穫は?」


「金曜までにすべて終了予定です」


 今週中に終わらせられる訳だ。

 飛び飛びにならなかったのは幸いである。


「補足すべき事項はあるか?」


「いえ、ありません」


「分かった。

 座っていいぞ」


 ニャンゾウが座ると同時にションボリしてしまった約1名がいた。

 黒猫3兄弟、末弟のニャタロウだ。

 誇らしげにしている兄たちを見て悔しそうである。

 なんだか可哀相になってきたのでフォローすることにした。


「ニャタロウ、次の機会では順番をお前からにする」


「はいっ、ありがとうございます」


 ニャタロウはたった一言で喜色満面になった。

 素直というか健気というか、俺としては助かったけど。

 とにかくいい奴だ。


「よし、今回の収穫でいったん区切ろう。

 収穫した後は指示があるまで植えるのは中止だ」


 俺の発表により皆が期待のこもった目を向けてきた。

 ウズウズと待ちきれない様子である。

 何故に区切るのかを理解している証拠だ。


「それでは次の日曜日にボウリング大会を開くことにする」


「「「「「やったあああぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」


 先程とは比べ物にならない歓声で食堂が埋め尽くされた。


『どんだけ楽しみだったんだよ』


 隣に座るローズを見て苦笑した。

 ローズも肩をすくめて、しょうがないと首を振っている。


「陛下ーっ、ボウリングの予習がしたいですっ!」


「動画が見たいですぅ!」


「「「「「見たいでーすっ!」」」」」


「はいはい」


 こんな具合に今宵もボウリングの動画鑑賞会と相成りました。

 最近の定番だったりする。


 動画を流したまま俺は食堂を後にした。

 こういうのが俺をぼっちたらしめているんだろうなとは思う。

 思うが付き合っていられないのも事実。


『2時間以上の動画を2週間連続ってどうよ?』


 少なくとも俺には無理だ。

 途中で抜け出すよりはマシだろう。


 食傷気味の気分を変えるべく自室の風呂に入ることにした。

 こういうときに大浴場に入ると無駄に寂寥感を感じてしまう。

 自室の風呂でさえ何人も入れるくらいに広いってのに。


 風呂でこれだから、自室も推して知るべしである。

 妖精たち曰く「王様は部屋もお風呂も大きくないといけません」って、訳わからん。

 素直に要望を受け入れたのはデザインとか考えるのが面倒だったからだ。


 さすがに最初は戸惑ったけど1週間で慣れた。


「ふぃ~っ」


 湯船に浸かれば、こんなリラックスした声だって無意識に漏れるくらいだ。

 実際、落ち着くしな。

 風呂を発明した人は偉大だと思う。


 ただ、ひとつだけ問題がある。

 血流が良くなるお陰で、ついあれこれと考え始めてしまうのだ。

 そろそろ冬だし、これからの方針とかね。


『結界をどうにかしないとなぁ』


 雪で農場が埋もれるなんてやらかす訳にはいかない。

 魔力コストやら何やらで解決すべきことは多いのだが。


 結局、この日は湯船に浸かったまま寝る時間まで考えを巡らせ続けていた。

 日本では温泉旅行にでも行かない限りはあり得ない話である。

 のぼせてダウンするから、そうそう実行できるものでもないけどね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



『予定は未定と言うけれど……』


 妖精組は余裕を持ってボウリング大会の日を迎えることができた。

 農業だけでなく漁猟や訓練も頑張ってこなしていた。

 大会前に練習する余裕があったくらいだ。

 それを元にハンデキャップを決められたのは僥倖だった。


『大陸遠征の成果だな』


 みんな生き生きした表情をしている。

 これが疲労困憊のギリギリ状態だったら俺も安心して大会を主催できないからな。

 ボウリング場の中に勢揃いした面々を前にゲーム前の挨拶をする。


「では、これより第1回ミズホ国杯ボウリング大会を開催する。

 優勝者には賞品とか授与されるから頑張ってくれ」


「「「「「おぉ─────っ!」」」」」


 皆が事前にくじで決めた所定のレーンになだれ込んでいく。

 各自に用意した専用のマイシューズは既に履いている。

 マイボールも用意できている。

 あっと言う間に全員の準備が完了していた。


 今か今かという視線が集中砲火を浴びせてくる。

 俺はちゃっかり作っておいたマイクの魔道具を手にして──


「それでは、ゲームスタート!」


 ゲーム開始を告げホイッスルを吹き鳴らした。

 各所に設置されたスピーカーから拡大された音声が放出された。

 直後から全員が一斉に動き始める。


 毎晩の鑑賞会でイメージトレーニングはばっちりなようだ。

 皆フォームが様になっている。


 問題は道具の方だ。

 練習する時間も多くはなかったから調整できたか心配だったんだが。

 靴の滑りが悪くてずっこけたりなんてことは無さそうだ。


『急増のセミオーダー品だからなぁ……』


 微調整ができていなかったので本人に丸投げしたのだ。

 一応は日頃頑張っている御褒美ということにしてバッグ付きでプレゼントしたけどさ。


「各自、自分で調整するように」


『時間が無かったとはいえ罪悪感あるよな』


「「「「「陛下、ありがとうございます!」」」」」


 こんな風にお礼を言われると尚更だ。


「ぼんどぉにぃありがどぉございまずうううぅぅぅぅっ!!」


 キースなんて号泣である。

 ハスキーみたいな怖い顔して子供みたいに泣かれるとねえ。

 周りの皆は苦笑しているに留まっているが、俺はそれどころではない。

 困惑するというか焦るというか罪悪感が積み増すというか……

 とにかく全部だ。


『セミオーダーで誤魔化したってのに』


 どうしても手抜き仕事というのが頭から抜けない。

 本来ならフルオーダーにするつもりだったからな。


 靴の方は初期状態で魔力を流すとサイズだけは変更されるようにしたんだが。

 堅さや滑り具合なんかは個人で好みが変わってくる。

 そのあたりはイメージしながら魔力を流すことで微調整できるようにした。


 ボールも似たようなものだ。

 重さだけはサンプルを用意して好みのものを申告してもらったけど。


『穴の位置なんてなかなか決まらないんだよな』


 ボウリング場で貸し出しように置かれているハウスボールのようにはいかない。

 あれは間隔を狭くして誰にでも使えるようにしているからね。


『その分、色々と使いづらいけど』


 故にマイボールは本人の手の大きさに合わせて調節する。

 これがまた個人差があるのだ。


 そしてボールの重心も重要な要素だ。

 基本的にストライクとスペアを狙う時ではボールの中に入っている重りの重心が異なる。

 フックをかけてより曲がりやすくするか否か。

 マイボールを持つ人は2個以上持つことが多い。

 が、魔道具化したボールなら重心が変更できるので1個でプレーできる。

 本当は表面の材質なんかもボールの曲がり方に関与してくるんだけど、そこは省略した。


『このあたりを調整するとなると1人分だけでも時間がかかるもんなぁ……』


 本当に申し訳なくなる。

 せめてメンテフリーになるように防汚と破損防止のコーティングはしておいた。

 あとバッグの方に再生の術式も仕込ませてもらったので半永久的に使えるんだけど。

 やっぱり調整の面倒を見られなかったのは悔いの残るところだ。


 が、悔いてばかりいては皆を心配させてしまう。

 俺は自分に割り当てられた隅っこのレーンに向かった。


「さて、俺も投げるかね」


 主催する側の俺は大会の競技には参加しないがプレーはする。


「くー」


 ローズが出迎えてくれた。

 彼女も不参加である。


 練習していないからハンデが決められなかったのが大きい。

 そこで万が一にも優勝しようものなら顰蹙ものである。


 ローズは見ているだけで充分だって言っているし。

 俺は懐かしいから、やってみたくなったんだけど。

 ボウリングなんて大学時代に行ったきりだ。


『当時のスコアなんて3桁超えれば御の字だったけどな』


 ゆっくりと確認するようなフォームで投球開始。

 わざと蹴り足を滑らせる。


『これでボールがより曲がる、と』


 曲がりすぎて倒れたのは端っこのピンだけだった。

 次は蹴り足だけ変えた。

 グッと強く前に押し出すフォームになるだけでボールの軌道がまるで変わる。

 そのせいで倒れたピンは反対側の3本だけ。


 結果だけなら学生時代と同じパターンだ。

 だが、この2投でフォームの調整は把握できてしまった。


『後はレーンコンディションをリアルタイムで把握すれば……』


 優勝の目が万が一でなくなってきた。

 今後は何かしら縛りを入れないと楽しめない気がする。

 ボールの重心が投げるごとに変化するとか。

 レーンコンディションがランダムで変化するとか。


『それなら俺も大会に参加できそうだな』


 まあ、次回以降からだ。

 今回は皆の頑張っているところを見物させてもらおう。

 そう思って目を向けてみたのだが……


「ふぁっ!?」


 目が点になってしまった。


『ちょっと、ちょっとちょっと!?』


 内心で双子のお笑い芸人ばりのツッコミを入れてしまう


「大回転投法だニャーッ!」


『おいいいぃぃぃぃぃっ!』


 ミーニャが両腕にボールを抱えてダッシュ。

 床すれすれに飛び出したかと思ったらグルグルと捻り回転。

 ジャイロ効果の原理を応用したコマを思い出してしまった。

 あと古い野球アニメ。


 奇抜ではあるが意味がない訳ではない。

 子供組の小さな体でパワーと回転力の両方をボールに与えている。

 体の大きさというハンデを克服するために編み出したのだろう。


「大回転投法なのっ!」


「大回転投法だよっ!」


「「大回転投法ですぅ!」」


 ルーシーもシェリーも、ハッピーとチーも、同じ投げ方で派手にピンを倒していた。

 コントロールが微妙ではあるけどね。

 その分はボールの回転力でピンを弾き飛ばすことで補おうという発想のようだ。


『可愛くてシャイなのにやることが大胆だな』


 逆に繊細なのがリーダーの2人。

 1メートル強の幅に均等に設置されている39枚の板で立ち位置を調整。

 目標の指針となるスパットやドットなどを慎重に見極めて投球している。

 黙々とプレーする姿は職人という言葉がピッタリだ。


『まあ、楽しそうだからいいけどさ』


 それに引き換え黒猫3兄弟ときたら……


「うおおぉぉぉりゃあああぁぁぁぁぁっ!」


 うるさい上にオーバーアクションな投球をしている。

 ひとことで言うなら豪快そのもの。

 ボールに振り回されているのかと思うくらい変則的なフォームだけどね。


 野球のトルネード投法を思わせる体の捻りで目一杯のスイングアップ。

 高々と上げられたボールを豪快な捻り込みで振り下ろす。

 ボールをリリースしてもその勢いが止まらず投げ終わるとリンボーダンス状態だ。


『足はファールラインを超えてないからいいけどさ』


 倒れたら確実にファールだが踏ん張っている。

 子供組とは別アプローチだがパワー重視なのは分かった。

 ボールの軌道も通常とは逆方向だ。


『バックアップというやつか』


 何が正しいと言うことはない。

 これもまたアリだ。


「よっしゃあああぁぁぁぁぁっ!」


『ストライクを取ると、うるさいけど』


 あと、目立つ存在は正統派スタイルでストライクを連発するボーダーコリーなハリーだ。

 カーラやキースに近いがストライクのたびに大きなガッツポーズをしている。

 黒猫3兄弟たちのように、うるさくはないけどな。


 こうして見ていると本当にみんな楽しそうだ。

 企画した甲斐があったというものである。


読んでくれてありがとう。

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