47 つくってみた『ボウリング場』
改訂版です。
大陸への遠征は日帰りで終了。
次回の予定は未定である。
農場の管理を休むわけにいかないからだ。
植生魔法はメリットも多いけど問題点もある。
メリットは収穫量が増加する上に収穫時期が早まることだ。
問題点は植生魔法で育て始めると途中で止められないことだろう。
俺のように一気に収穫まで持ち込めればデメリットにもならないが。
妖精たちだと日々の管理が必要になる。
広範囲の魔力制御はなかなか上達しないので人海戦術状態である。
俺やローズが手を貸せば楽勝なんだけどね。
「それでは修行にならない」
ツバキにはこう言われて俺たちのアシストを否定されてしまったし。
修行というのはよく分かる。
一度、植生魔法を始めてしまえば途中で止められない。
場合によっては作物が枯れてしまう。
たとえ枯れなくても味が落ちるのは間違いない。
これは強制的に成長を促進している反動のようだ。
そんな訳で絶対にサボれないのである。
遠征した日も帰ってから世話をしたよ。
レベルアップしたお陰で少し余裕ができたのはラッキーだった。
そのせいか今まで以上に意欲的になって俺が口出しする余地がほとんどない。
ちょっと仲間はずれの心境になるくらいである。
「ローズさんや」
「くう?」
「寂しいねえ」
「くぅくぅ」
互いにしみじみと頷き合った。
『いや、俺も暇って訳じゃないんだよ?』
すべき事やりたい事は山ほどある。
何から手をつけて良いのやらな状態だ。
ベリルママを祀る神社は城からちょっと離れた所にデッカいのを建立したし。
もちろん和風である。
旅行で行ったことのある大きな注連縄が有名な大社を参考にした。
『神殿を建立しました』
脳内スマホでベリルママに連絡も入れた。
『あら、そうなの?
それは見に行かなくてはいけないわね』
『は?』
次の瞬間にはベリルママ到着である。
「こんなに立派なのを建ててくれたの?」
鳥居もデカけりゃ本殿の注連縄もデカい。
何もかもが特大だ。
『見る者に与える心理的影響まで計算に入れたからな』
妖精組は喜んでいたし。
これから増えるであろう国民たちは、きっと呆気にとられることだろう。
「城内に建立した社が小さめでしたので」
「えー、ハルトくんのお部屋にある神棚で充分なのよ?」
「それはダメです。
今後、国民が増えた時に参拝する場所がありません」
増える予定は今のところないのだが。
「もー、大げさなんだからー」
そう言いつつもベリルママは御機嫌だ。
鳥居を見ては喜び、注連縄を見ては子供のようにはしゃいでいたからな。
とにかく自分が祀られた神殿というのが嬉しいようだ。
『うん、まあ気持ちは分かるような気がする』
ここのところ妖精組が仕事と修行に夢中になっているからだ。
あまり構ってもらえない俺と西方人に存在を知られていないベリルママ。
ベリルママの方がずっと寂しい思いをしているとは思うけどね。
おまけに西方人にとってはラソル様が主神である。
名前とか微妙に違うそうだけど。
ベリルママがシカトされておちゃらけ亜神が主神?
なにその理不尽って感じだ。
『宗教的リア充、許すまじ』
その気持ちだけで意地を通したのは秘密である。
ベリルママに喜んでもらえたから結果オーライだけど。
その感激振りが逆に普段の信仰ぼっち振りをより強く感じてしまうのだ。
ぼっちは、ぼっちを知るからな。
とにかくベリルママが寂しい思いをしているのは許せない。
『親子で脱ぼっちだ!』
スローガンとしてはどうかと思うがね。
もの悲しいというか何というか。
とにかく新入りが来たらベリルママのことをちゃんと説明しよう。
そうすれば何割かは改宗してくれると思う。
あんまり気合いを入れすぎると強要になりかねないので注意は必要だが。
『今は余裕がないけど、お祭りとかも季節ごとにやらないとな』
例大祭に初詣なんかも盛り上げていきたいところである。
『……いつになることやら』
先のことを考えすぎだ。
そんなだからボーン兄弟たちからの連絡が待ちきれなくなるのだ。
気ばかり焦ってしまうのは性分なのかもな。
「ハア……」
思わず溜め息をついてしまった。
すると、ローズが首を横に振りながら俺の脚をポンポンと叩いた。
「くぅーくくぅくっくぅくうくぅ」
突っ走りすぎて心に余裕がない、だって?
「妖精たちが無休で頑張ってるのに俺だけ休めんよ」
「くくーくっくぅーくくぅくぅ」
近いうちに休めるようになるって?
「どうしてさ?」
「くーくぅくくっくーくぅくーくう」
だってレベルアップしてるでしょ、か。
【天眼・望遠】で妖精たちの農作業の様子を見てみた。
確かに前よりも魔法制御能力はアップしているように感じる。
戦ってきたせいで疲れているはずなんだが。
昨日までより若干効率が良い気がする。
『あの調子なら何日かでレベルアップの効果が大きく出そうだ』
「くっくっくぅーくうっくぅくーくくぅくっくう」
妖精たちに娯楽を提供できるように準備すべし、ね。
『最近はヨウセイジャーごっこもやってないからなぁ』
実戦時に遊びの時の感覚を持ち込みかねないんだとさ。
緊張感が薄れる恐れがあるから封印しているということらしい。
そういう気分になったら動画を見るんだって。
本人たちが納得しているなら、それはそれでいいんだが。
俺が提供する娯楽が動画だけじゃダメだろう。
「くうくっくくぅくー」
体を動かすのが一番、ね。
やはり何か体を動かしてというのが最適なようだ。
すぐに思いついたのがドッジボール。
皆で遊ぶと考えて幼い頃にまで記憶を巻き戻すことになった結果である。
それが俺の友達と外で遊んだ記憶である。
少し学年が上がれば野球やサッカーに夢中になっていた。
俺以外の同級生が……
『まあ、仕方あるまい。
自分からぼっちになったんだから』
部活は遊び感覚じゃないし。
『剣道もサバイバルゲームも普段の訓練のアレンジにしか思えないぞ、きっと』
他にもテニスとかバスケットボールを検討してみたが、どれも今ひとつ。
人数の問題や試合時間なんかがネックになるのだ。
なにより対戦型のスポーツはレベル差が如実に表れてしまう。
解消する方法が簡単には思いつかない。
『ハンデキャップをつけられるスポーツがあればいいんだが……』
それですぐに思いつくのはゴルフだ。
が、無駄に広い場所を専有してしまうのは微妙だ。
しかも18ホールだけではすぐに飽きが来てしまうだろうし。
『なら、シミュレーターを作るか』
体感型ゲームってことになる訳だ。
あまり体を動かさなくなるのが欠点である。
とはいえ面白そうなので次の機会があれば採用するのも悪くないかもしれない。
コース設計が面倒だから保留にしたとも言う。
『ゴルフゲームは多彩なコースがあってこそ楽しいからな』
昔、自由にコースが作れることを売りにしたゲームがあったけど売れなかったし。
1コースだけ用意して後はユーザーに丸投げだからね。
臨時のバイトにでもコースデザインさせた方がマシな結果になったと思う。
その会社、じきに倒産したし。
とにかくゴルフ以外で考えないといけない。
ハンデキャップがあって人数制限がないスポーツが前提条件だ。
スコアで競う余地があって訓練っぽくならないのがいい。
「なら、ボウリングかな」
ボウリング場を作る必要があるけどね。
ゴルフのようにコースデザインでウンウン唸るよりは遥かに楽だろう。
「くくぅ?」
ローズはボウリングを知らないから「何それ?」と首を傾げている。
「向こうの世界で遊ばれていたスポーツの一種だ」
「くーくぅ?」
スポーツ?
『そこからか……』
単語ひとつの説明をし終えるのに晩御飯の時間までかかってしまった。
グッタリである。
しかも説明を終えてから気付いたのだが、動画を見せれば良かったのだ。
アホである。
まあ、ついでなので晩御飯の後に皆で色んなスポーツの動画を見せた。
「「「「「飛んだ─────っ!」」」」」
野球のホームランを見た反応である。
「「「「「おお──────っ!」」」」」
サッカーのゴールシーン。
「「「「「入った─────っ!」」」」」
バスケットボールの3ポイントが決まった瞬間。
ルールなんか説明しなくても、これである。
どれも熱狂的に見ていた。
ただ、最高に盛り上がったのはフリスビードッグだったけどね。
「「「「「キャッチしたあああああぁぁぁぁぁぁ────────っ!!」」」」」
おかげで後日フリスビーが流行ることになるんだけど、それはまた別の話。
なんにせよスポーツで遊ぶのが最適というのは間違いないようだ。
「ということで、後日ボウリング大会を開催します」
「「「「「やったあああぁぁぁぁ──────っ!」」」」」
『そこまで喜んでくれるか』
皆とにかく娯楽に飢えているのだ。
『これはテーブルゲームとかも必要そうだな』
夜とか雨の日とかに遊べるものが欲しい。
カードやボードゲームの類ってことになる。
『やること増えてないか?』
宿題を追加された気分だ。
が、楽しそうな宿題なのでウンザリはしない。
むしろモチベーションアップにつながるというものだ。
それは妖精組も同じだったらしい。
動画を見た翌日から気合い入りまくりだったからね。
「よぉーしっ、水やり行くぞぉーっ!」
気合いの入ったキースの掛け声が農地に響き渡る。
「「「「「お───っ!」」」」」
妖精組が拳を上げて返事をし、全員で一斉に水魔法。
大声を出した割には地味に霧雨のような水を農地全体に行き渡らせるのだけど。
まあ、それなりに広大な農地だ。
全員で同調しつつ高度な制御をするのは難しい。
いつもはそれなりに時間がかかるのだが……
「水やり完了ぉーっ!」
「「「「「完了ぉ───っ!」」」」」
気合いが入っているのといないのでは大違い。
レベルアップしていたとはいえ時間短縮の効果は倍以上である。
『気合いで制御力を向上させるってどうよ』
一事が万事、こんな具合である。
なんか怖いくらいに熱血なんだよ。
テンションだけなら元プロテニス選手にソックリだったかもしれない。
背が高くて気合いを入れる時の声が無駄に暑苦しいあの人。
『別にあの人の動画を見せたつもりはないんだけどなぁ』
気合いが入りすぎてMP0になるまで魔法を使って失神していくのってどうよ?
バタバタと倒れていってドン引きだ。
なのに目覚めたら気合いで魔力を練り上げて強制的に回復させようとするし。
フラフラの状態なのに注意しても聞きゃしない。
しょうがないから失神は1日1回までに制限したさ。
おかげでMPが増えたり魔法制御が上達したけどね。
しかも植生魔法による作物の成長の促進が倍加されたし。
『ホントに遊ぶの大好きだよな』
俺もそれに応えねばならない。
まずはボウリング場建設だ。
大がかりな施設になるが建物自体は楽だったりする。
城や神社を建てた経験があるからね。
それでも問題は出てくる。
ボウリング場は広い空間でありながら壁や柱を安易に設置できないからだ。
『レーンの間に壁や柱があるボウリング場なんて見たことないだろう?』
まあ、これは農業用の倉庫を建てたときに構造計算していた経験が役立った。
梁の組み方や形状の工夫は倉庫以上に気を遣ったけどね。
施設が稼働する上で微細な振動とか出てくるし。
戻ってきたボールを上に出すボールリターン。
ピンを所定の位置に置くなど複合的なことをするピンセッター。
これらをギミックつきで動作させようとすると、どうしてもね。
その気になれば魔法ですべて処理できるけど消費魔力がグンと跳ね上がる。
『却下に決まってるじゃないか』
管理室に設置した魔石に魔力チャージする頻度が高くなるからね。
とにかく魔力消費は少ない方が良い。
いずれは自然エネルギーから魔力変換するシステムをと考えているので尚更だ。
改良を視野に入れつつ機械を魔道具化して動かすことにした。
最小限の魔力で動くようにギミック多めでね。
機械の方は動画とかを参考にしたので、あまり苦労はしなかった。
消費魔力が1割未満となって応用が利きそうなのは思わぬ収穫だったし。
「よっし、ボウリング場の完成だ!」
「くーくぅくーくっくう……」
おめでとう、だけどね……だって。
何だろうと思っていたら──
「くくぅくうくぅくーくぅくっくくっ?」
道具を用意し忘れてるんじゃないの? だってさ。
「うっ」
指摘されて初めて気付く間抜けがここにいましたよ。
ピンもボールも設備の動作確認で用意した分しかなかった。
シューズに至っては一切なし。
「くう」
バカ、ローズがそう言うのも無理はなかった。
読んでくれてありがとう。




