391 引き止められた
修正しました。
仇なんかだら → 仇なんだから
なんで俺が土下座されるんだよ。
激しく嫌な予感しかしない。
こんな時ラソル様なら腹を抱えて笑うんだろうぜ。
「半神化が進んでるぅ─────っ!」
とか言っちゃってさ。
そうだよ、それなんだよ。
半神化が進んだとしか考えられない。
ベリルママを疑う訳じゃないけど、このために俺が戦うことになったんじゃないの?
いいけどさ。
本当の神様になるんじゃなければ。
俺は人でありたいのだよ。
まあ、そっちはクヨクヨ悩んでも始まらない。
気になるなら後でベリルママに聞けばいいだけのことだ。
解決方法くらいは教えてくれるだろう。
問題は解決するのが難しそうな目の前の状況だ。
ガット爺さん、土下座したままだぜ。
どうすんだよ。
「神の戦士様には感謝の念に堪えず──」
張りのある声でお礼の言葉を言おうとしているのだが、妙に堅い。
そして居心地の悪さは極めつけだ。
神の戦士様って……
今までは敬称なしだったじゃないかよ。
『やっぱ、戦闘でやり過ぎたんかな』
欠片の灰が融合したクラーケンとはさ。
俺も向こうも常人の領域を超えていたし。
どっちも変身しまくるし。
海エルフたちの常識を崩壊させていたのは間違いない。
なるたけ常識に近い非常識になるようにはしたつもりなんだが。
海エルフたちに怖がられたくなかったからさ。
だってレオーネの身内なんだぜ。
怖がられたら悲しいだろ。
トラウマとか残そうものならレオーネだって悲しい思いをするじゃないか。
え? そこまでやっておいて、どこが控えめだったのかって?
確かに最後の方はけっこう本気で飛び回ってたけどさ。
それでも派手な魔法は使わなかっただろ。
オープン・ザ・トレジャリーとかさ。
あれで黒ノーマルを全滅させようと思えばできたんだよ。
ただし、かなり威力を強める必要があったけど。
後はライトリングソーと聖炎を組み合わせて撃ちまくるとか。
「乱れ撃つぜ!」
とか口走ったりな。
相手の数が少ないから狙い撃った方がいいのかもだが。
いずれにしても派手すぎてドン引きされたと思うよ。
見せなきゃいいじゃんとか言われそうだけど、そうもいかんのよ。
海エルフたちにとっては仇なんだから。
でも、相手が強すぎて仇討ちもできない状態なんだぜ。
フラストレーション溜まるわ。
そんな中、俺が代理で仇を討った。
どうやって相手が滅んだのか分からないんじゃ更にフラストレーションが上積みされてしまう。
そんなの嫌だと思わないか?
少なくとも俺は嫌だから見せた。
俺がドン引きされる恐れが大いにあったけどね。
それどころか恐れ戦かれることだって充分に考えられたんだが。
いくらか配慮した上でそうなるなら仕方ないと開き直ったさ。
所詮、俺はよそ者だからな。
レオーネとの繋がりがあるから無関係とはいかないがね。
俺が直接姿を見せなきゃトラウマを刺激されてフラッシュバックするなんてこともないだろう。
現場は神の戦士という前振りがあったのが功を奏しているようで別の意味で修羅場だ。
主に俺の心情がな。
とにかく土下座は勘弁してほしい。
「あー、そういうのいいから」
俺がそう言うとガット爺さんはガバッと顔を上げる。
「そういう訳にはまいりませぬ!」
ザ・必死。
クワッという書き文字が見えそうな必死の形相でガット爺さんが訴えようとしていた。
それに追随するように他の海エルフたちも顔を上げる。
ガット爺さんと同じような目をして俺のことを見てきた。
黒EXEよりプレッシャーあるわ。
「気持ちは、まあ分からんではない」
本当の意味では理解しきれないだろう。
立場は逆だからな。
それでも礼が言いたい気持ちに溢れているのは見ていれば分かる。
これが逆の立場だったなら俺は返しきれない借りができたと思うのではないだろうか。
そうなってみないことには確定的なことは言えないがね。
「だから、アンタらの気持ちにどうこうは言わんよ」
そこは蔑ろにしてはいけない。
俺の言葉にガット爺さんだけでなく他の海エルフたちも張り詰めていたものが薄らいだ。
どうにかなりそうか?
「ただな、俺がそういうの苦手なんだ」
それを聞いた海エルフたちが困惑の表情を見せ始めた。
うちの子たちは古参組と他一部が苦笑している。
フェア3姉妹は長女であるエリスが妹たちに「そうなのですか?」と問われている。
プラム姉妹も同じようにエリスに目線で問うていた。
エリスはエリスでガンフォールに丸投げしていたけど。
彼女にしても、まだまだ俺のことを理解し切れている訳ではない。
その点を考慮して話を振ったみたいだ。
ちゃっかりしているとは思う。
「堅苦しい姿を見せられると逃げ出したくなるくらいにな」
逃げ出すという言葉で互いに顔を見合わせて動揺していた。
「だから、普段通りにしてくんねえか」
「で、ですが……」
ガット爺さんが何かを言いたそうにしながらも言えないでいた。
海エルフの一同も戸惑いを隠せないでいる。
こうしてほしいと言われても、すぐに「はい、そうですか」とはいかないよな。
そのあたりは俺らが帰ってから折り合いをつけてくれればいいさ。
「どうせ俺らはすぐに帰るんだし」
その一言が彼等を慌てさせた。
ん? どういうこと?
なんか急に必死な様子で腰を浮かせ始めたぞ。
「お待ちくだされ!」
ガット爺さんなんて縋り付かんばかりだ。
まだ何か用があるようだ。
友好的な相手を蔑ろにする訳にもいかないし。
はやく帰りたいんだけどなぁ……
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引き止められたから何事かと思ったけど何のことはない。
なんの持て成しもせずに帰らせるなど末代までの名折れだとさ。
「……………」
持て成しに関してはまあいいさ。
末代とか名折れとか、君ら本当に海エルフかと言いたくなった。
まあ、レオーネも最初の印象は武人的なものがあったけどさ。
侍だった訳だね。
漁師で侍というあたりにギャップを感じたけど、スルーしておいた。
でもって帰る予定はずらすことにしたよ。
彼等の気遣いを無碍にする訳にもいかないからね。
そんな訳で俺たちの前には海の幸が並んでいる。
真っ先に並んだのが海藻の各種盛り合わせ。
これはサラダのつもりなんだろう。
ドレッシングの類いはなくて軽く塩を振って食べるみたいだけど。
それと赤身や白身の魚を包丁で捌いて一口サイズに切り分けたもの。
要するに刺身だった。
深い意味はない。
火を通さなくていいからすぐに用意できるというだけのことだ。
「刺身だよ、マイカちゃん」
「そうだな、刺身だ」
ミズキとマイカは興奮気味である。
そういや、ルベルスに来てから魚料理ってほとんど食べさせてない気がする。
刺身なんてこれが初めてだ。
『むぅ、失敗したか』
そうも思ったが、これで良かったのかもな。
海エルフの持て成しに喜んでいるんだし。
まあ、でも今回は運が良かっただけだ。
やはり反省は必要である。
今日の晩御飯はにぎり寿司にしよう。
「塩で食べるなんて初めてだよ」
「炙りを岩塩で食べたことならあるだろう」
「あっ、回転寿司だね」
なんて会話をしながらパクついている。
実に美味しそうに食べている。
それを見て海エルフたちが驚いていた。
「無理はしなくて構いませんよ。
ただいま煮魚や焼き魚を用意しておりますので。
こちらの海藻サラダはいかがですか?
味気ないかとは思いますが、生魚よりは食べやすいですよ」
最初の一口が進まない面々に気を遣ってさえいる。
そう言われているのはガンフォールたちや旧ゲールウエザー組だ。
木製のフォークに突き刺した刺身と睨めっこをしている。
一通り海藻サラダを食べた後で刺身に挑戦しようとしている最中だ。
でも、食べたことのない面々はなかなか口に放り込むまでが遠い。
エリスでさえ青い顔をしていたからな。
対照的なのが食べ慣れている古参組である。
「ねえ、お醤油使ってもいい?」
レイナに至っては、こんなことまで言い出す始末。
物足りなさを感じているのだろう。
我慢しきれないという表情で俺に聞いてきた。
まったくフリーダムなことだ……
相手の持て成しをぶち壊す気か。
俺は黙って首を横に振る。
たったそれだけでレイナが黄昏れた雰囲気になった。
『あのな……』
思わず溜め息が出そうになった。
でも、あからさまにガッカリされたり駄々をこねられるよりはマシか。
一応はレイナなりに気を遣っている訳だ。
まあ、物足りない気持ちは分からんではないがな。
海の塩を使っているおかげで岩塩で食べるより旨味はあるんだけど。
それでも醤油の味を知った身としては物足りなく感じてしまう。
こんな具合に古参メンバーは刺身も食べ慣れている。
さっきから持参したマイ箸を使ってヒョイヒョイ食べている。
「いやはや驚きました」
しばらく離れていたガット爺さんが俺の所に来た。
「生魚を食べ慣れた方が大勢いらっしゃいますな」
「まあね。
古参の国民だよ。
新参の者はすまないな」
「いえいえ、こんなに大勢の方に食べていただけたのは初めてです」
なかなかハードルの高いことをするな。
初めて海の魚を食べるであろう相手に刺身を出すとか。
なめろう辺りにしておけよと思ったが、味噌が必要だから無理だな。
まあ、後の料理に期待するとしよう。
読んでくれてありがとう。




