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383 様子見しながら戦っているとは思ってもらえない

修正しました。

なのかって → ないのかって

 奴の懐には遠いが触手は伸ばさずに振るえる間合い。

 俺はそこに踏み込んだ。

 漆黒のクラーケンにしてみれば触手を伸ばさずに攻撃できる。

 それはタイムラグがないということだ。


 間合いの外側にいた時と比べて一段と激しく触手が襲いかかってきた。

 今までは突きだけだったが振り下ろしや薙ぎ払いも織り交ぜられている。


「触手は伸ばすと突きしかできなくなるのかよ」


 躱して躱して躱しまくる。

 ブレードモードのガンセイバーで弾き返しもする。

 いや、切り落とそうとしているのだが切れていないだけだ。

 かわりに火花が飛び散っている。


「くっそ硬いな」


 もちろん硬いだけではない。

 どの攻撃も重い。

 レベル100前後だと持て余すはずだ。

 レベル152のツバキでも連続攻撃には後退を余儀なくされるだろう。

 ノエルでどれだけその場にとどまれるかといった具合か。


 【多重思考】で確認した陸地の面々の様子も大半が騒然とした感じになっているな。

 まあ、海エルフたちがなんだけど。

 【天眼・遠見】と【遠聴】を使って確認したが、うちの子たちが宥めている真っ最中だ。


「大丈夫だから落ち着いて!」


「「まだ一度も攻撃はくらってないよ!」」


 ちょうどリーシャと妹ちゃんたちが大声を出している瞬間だった。

 奴と激しい攻撃を応酬するのを見てビビる者が多数いるようだ。


 そんな中でリオンやその母親は肝が据わっているな。

 側にいるレオーネが騒ぎ立てたりしないからだろう。

 此奴も自分のことならアタフタするのにな。


 俺のことは心配していない訳ではない。

 際どい回避をした時などは息をのんだりしているし。

 とにかく、この親子は驚きつつも幻影魔法で映し出される戦闘を見ていた。


 ガット爺さんも真剣な表情だ。

 集落の長というだけのことはある訳だ。


「それにしても単調な攻撃ばっかだな。

 いい加減にワンパターンが過ぎるっつの」


 確かに上下左右から突きやら薙ぎ払いを多彩に繰り出してくるが、それだけなのだ。


「リズムが単調すぎるんだよ」


 こんなことを言っても何が変わる訳ではない。

 パターンが読めれば、後は方向を気にするだけ。

 攻撃のスピードは一定だから実にやりやすく退屈だ。

 どの方向から攻撃が入るかなんて奴が放つ殺気を辿れば丸わかりである。

 結果として俺は徐々に奴の本体へと近づきつつあった。


「おっと」


 今度は背後から狙われているようだ。

 触手を伸ばさずにそれが出来る。

 ということは、それだけ深い間合いに踏み込んだということだ。


 それだけではない。

 背後以外からも触手が殺到してきている。

 四方八方から来るこれらで逃げ場を奪い背後から突き刺す算段なのだろう。

 今までの攻撃を単調に繰り返し続けたことで敵の意図もこちらにバレバレだ。


 あえて、その目論見に乗る。

 左右からの挟撃を上昇で躱す。

 挟撃した触手は空振りに終わったが減速などしない。

 空を切りながらも最初からそのつもりだと言わんばかりに互いの切っ先がかすめる。

 軌道を微妙にずらして正面衝突を回避させていたようだ。

 止まったのはガリガリと触手同士が火花を散らした後のことである。


 事前に練習していたとしか思えない。

 見る者に与える心理的影響まで考慮していたかは知らないが。

 躱していなければ俺の体は上下に真っ二つとなっていたことだろう。


 え? 弾き返すんじゃないのかって?

 そこまで考慮していなかった。

 たぶんそんな気はするが確認はしない。

 ここでわざと攻撃を食らうのは向こうの攻撃を馬鹿にしているように思えるからな。


 特に止めを刺すべく待機していた背後の一撃は何だったのかということになるし。

 今の挟撃などは背後の一撃を斜め下からのものにするための布石だ。

 俺が背後で待機しているそれを気付いていることに向こうも気付いている。


 だから意識の外へ追いやるべく最初の一撃は挟撃だったのだろう。

 見た目も派手な大技を見せることで意識をそちらに向けさせる狙いもあったかもね。

 そこから先の連続攻撃は意図的にかすめるようなものばかり。


 上からの振り下ろしが俺の左肩ギリギリを狙って襲いかかる。

 半身を捻って躱す。

 そういう躱し方をすることは織り込み済みのようだ。

 俺は本体から目をそらさないからトドメの一撃が発見されることはない。

 仮に振り向いていたとしても、それは下方である。

 発見される恐れは少ないということだ。


 次の攻撃は左サイドからだ。

 右脇腹をかすめるように突き刺してくる。

 捻った体を元に戻せと言わんばかりだ。


「はいはい、これでいいのかい」


 元の姿勢に戻った次の瞬間に来たのは正面からの突き。

 今度は当てる攻撃ではなく両サイドへの退路を断つのが目的だ。


 それが証拠に斜め上からの突きがスタンバイしている。

 御丁寧に平行で3本。

 俺が上体を反らして躱すように仕向けている。

 突きを躱すと触手の檻で囲われたようになった。


 ただし背後を除く。

 ここで満を持して背後からの攻撃だ。

 俺が上体を反らしたことで斜め下からの突きは背中をまともに狙えるようになった。

 心臓を抉りたいようだ。


「バカだろ」


 退路を断った上での攻撃のつもりのようだが穴だらけだ。

 相変わらずリズムが変わっていない。

 殺気もダダ漏れ。


「俺が躱すだけだと思ったか?」


 タイミングと攻撃の方向が分かっているなら目を瞑っていても余裕で躱せる。

 ここは空中である。

 地に足をつけているなら下に躱すのは大きく制限されるがね。

 足元の方向はガラ空きだ。


「反撃しないとは言ってない」


 俺はここで始めてガンセイバーのブレードに魔力を通した。

 2種類の魔法が刀身に宿る。


 ひとつは聖炎。

 光の炎が薄くブレードを覆った。

 そしてもうひとつはフォルトスラッシュ。

 空間魔法で切断する訳だ。


 俺は回避動作に横回転を加える。

 奴が檻の役目を持たせようとしていた脚はあっさりと輪切りにされていく。

 切断時の抵抗などない。

 空間ごと切断したからな。


 いかに頑丈であろうと関係ない。

 防ぐには防御用の魔法で対抗しないとな。

 そういう素振りもなかった。

 他にも相手の魔法を上回る魔法抵抗力があれば防げた可能性はある。

 欠片の灰と同化したコイツなら、あるいはとも思ったんだがな。


「そういうことも無かったようだな」


 切断された脚が燃えていく。

 あっと言う間に燃え尽きて灰も塵も残さなかった。

 これがただの火であったなら、こうはならなかったかもしれない。

 まず燃やすのに時間がかかる恐れがあった。

 そして燃やしても灰が残ったかもしれない。

 それを懸念しての聖炎だ。


「思った通りだったな」


 俺は戦う前から、ある仮説を立てていた。

 この同化は欠片の灰が存在し続けようと執念を見せた結果ではないか。

 もしそうであるならば、それは負の感情が強く働いたからではないかと。

 結果は俺の推測通りとなった。

 漆黒のクラーケンが身悶える。


「おおー、きいてるわ」


 こういうとき切断面からの即時再生は割とあるパターンだ。

 が、そういう気配はない。

 暴れるように引っ込めていった。

 切断面を聖炎で焼いたのが良かったのかもな。

 血が噴き出したり流れたりということもない。

 残念ながら切断面から燃えていったりもしなかったが。


 しかしながら、相当な効果があったのは分かる。

 向こうは何もできずにいるからな。

 どういう状態なのかが、よく分からないが。

 ただただ身悶えるのみだ。


 一方で、陸地側も目に見える成果が出て沸き立っている。

 あの様子だと俺の反撃をかなり待ちわびていたようだな。

 海エルフたちの反響はかなりのものだ。


「やったぞ!」


「神の戦士、万歳!」


「凄い、凄い!」


「始めて攻撃が通った」


「ダメかと思ったー」


 泣きそうになりながら、そんなこと言われるとは思わんかった。

 防戦一方で反撃する余裕がないと思われていたのかもしれないな。

 祈るように見ている人達ばかりなんだよ。

 集落の皆はね。

 ちょっとヤキモキさせすぎたか。


 うちの連中はどうだろう。


「ようやく反撃かー、ハルも遊ぶわね」


「敵の見極めをしてたんじゃないかな」


 マイカとミズキは俺が苦戦するとも思っていなかったようだが。


「それにしたって時間かけすぎよ」


「そこは演出かな」


「ああ、ハルならやりそうだわ」


 そして俺のことをよく理解してらっしゃるミズキさんである。


「くうっ! くくっくぅー!」


 いけー! やっちまえー! だそうです。

 ローズも見ていてフラストレーションが溜まっていたのかね。

 相変わらずバイオレンスだな。


「主は勿体振るのが好きじゃな。

 おぬしもそう思うであろう?」


「ウォン」


 シヅカとマリカも割と失礼だ。


「ようやく反撃かいな」


「らしいんじゃないの?」


 呆れたようなアニスと普通だと返すレイナ。

 コイツらも失礼だ。

 他の皆も概ね似たような反応である。


 俺のことを信頼してくれるのは分かるんだが。

 これでも慎重にやっているつもりなんだよ。

 どんな反撃があるか分からんから。


 でなきゃ、もっと強引に突っ込んでいるって。

 そういう所は見てくれないんだよな。


「そろそろ終わらせないと後でなに言われるか分からんな」


 苦笑と同時に溜め息が漏れた。


「しゃーない。

 だいたい分かったし。

 終わらせよう」


読んでくれてありがとう。

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