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376 事情を聞いてみた

 何かしらのトラブルの影が言葉の裏側から垣間見えた。

 そして無鉄砲というか無茶をしたものだと呆れてしまう。


「それにしても突拍子もないことしたもんやなぁ」


 思わずアニスもツッコミ入れてきた。

 着の身着のままで集落を飛び出したとか考えなしもいいところだからな。


 そりゃあ食料も路銀も碌に持たずに出てくれば行き倒れるわ。

 小学校入学前の子供じゃないんだからさ。

 まあ、この世界に小学校はないがな。


「レオーネ、活動拠点になるような場所は誰かに言ってあったのか?」


 念のために聞いてみる。

 もし言っていたとしても結果は同じだったが。


 それでもリオンが姉の居場所に確信を持っていたか否かの差は大きい。

 すぐに到達できる場所であったなら多少は意味合いが変わってくるだろう。


 逆に何の当てもなく準備もせずに飛び出してきたのであれば残念すぎる。

 どこにいるのか分からない姉を求めて旅に出るにしては無計画とかいう以前の問題だ。


「はい」


 そういうあたりを考えてしまったのだろう。

 答えたレオーネは俯いて頬を染めている。


「まさかここまで考えなしだとは思いませんでした」


 こうまで言われて気付かないなら相当な天然ということになるだろう。

 さすがにリオンも姉と同様に頬を染めて俯いていたが。


「気が動転していたのだろう」


 少しだけフォローしてみることにした。

 これで調子に乗るなら姉に叱られるように手を回すということで。


「それ程のトラブルに遭遇していたと考えた方がいいかもな」


 俺の言葉を受けたリオンの反応は鈍い。

 ここで「そうです、そうです」などと安っぽく頷くようなことはなかった。

 そんなことになっていたら姉のお仕置きコース確定だったがね。


 ローズの方をチラリと見るとサムズアップで返してきた。

 ちゃんと反省はしているようだ。

 ならば、どういう風にすべきだったかを教える必要もある。

 同じ過ちを繰り返さないためにもな。


 集落を飛び出す段階での判断。

 近場の街や村で姉を見つけられなかったときの判断。

 当てもなくさまようまでにストップがかけられるタイミングが何度かあったはずなのだ。

 今回のように偶然が重ならない状況であったなら、その判断こそが生死を分けていただろう。


 ただ、今は事情を聞くのが優先だ。

 その話は後ということになる。


「えっと、あの……」


 俺のフォローにリオンが何か言いたそうにはしているが言えないでいる。

 言い訳になるとか考えているのだろう。

 反省もしてもらわないといけないので過剰なフォローはしない。

 奇跡的に重なった偶然により俺が拾わなければ死んでいたんだし。


「で、なんでそんな真似をしたんだ?」


 理由もなく無茶をするようには思えなかった。

 それまでの話で思いつきで行動するタイプにも見えなかったし。

 フォローの言葉もそう考えたからこそだ。


「集落から人が次々といなくなり始めたんです」


 間違いなくトラブル案件なんだが……

 どこかで聞いたような既視感のある話だな。

 違和感も同時に感じはするのだけれど。


「いなくなり始めたとは?」


 1人また1人という感じだろうか。

 最終的には、そして誰もいなくなったとかになるのかね。


 いずれにせよ顔見知りが次々と失踪するのであれば恐怖をともなうかもな。

 失踪した者はどうなるのか。

 次は自分の番ではないだろうか。

 あるいは血を分けた親兄弟ではないだろうか。

 そう考えると先程フォローで言ったことも真実だったりするかもな。


「我々は海で漁をするのですが……」


 ここでリオンが何が言い淀むような感じになった。


「どうした?」


 続きを促すとリオンは再び話し始めた。


「ある日、漁に出かけた者のうち1人が帰って来ませんでした」


 まるで怪談話だな。

 リオンの話が不穏な空気を運んでくる。


 言い淀んだのは信じてもらえるか不安だったというところか。

 原因や理由は聞いていないが自信なさげな口振りからして的外れでもあるまい。

 断定することはできないがね。

 ならば、可能性のあることは潰しておこう。


「ひとつ確認だが」


「はい」


 リオンが畏縮した感じで返事をする。

 徹底追及するぞ的な表情にならないよう注意していたつもりなんだがな。

 もちろん殺気立つような真似もしていない。


「時化の時に無理に漁に出たなんてことはないよな」


 この質問をする前にほぼ答えが出てしまったような気がする。

 リオンは俺の質問を聞いた一瞬、呆気にとられていた。

 想定していた質問とはあまりにも掛け離れていたのだろう。


「はい」


 それでもリオンはしっかりと頷きつつ返事をした。


「海が荒れている時に漁に出る愚か者は我らの集落にはいません」


 思わず「そうなんだ」と言ってしまいそうになった。

 うちの面子は普通に行くのでね。

 まあ、レベル上げてステータスが高くなってからだったけど。

 西方の基準で考えると色々とおかしなことになっているのでスルーしておこう。


「つまり行方不明になる理由はないと」


「はい」


 リオンが頷いた。


「最初は数日で帰ってくるものと思われていました。

 今までもそういうことは無い訳ではなかったので……」


 漁に夢中になって潮に流されたなんてことがあったのかもな。

 そうだとしたら普通に遭難案件だ。


 だが、海エルフは魔法が使える。

 お陰で時間はかかっても戻ってこられるのだろう。

 だが、それが逆に本当に消息不明になったことに気付くのを遅らせた訳だ。


「いくら捜しても見つけることができませんでした」


「そのうち別の人間も同じように消え始めた、か?」


 リオンが驚きに目を見張る。


「どうしてそれを!?」


 そんなに意外なことだろうか。


「1人や2人の行方不明者で君は村を飛び出すのか」


 一応は成人している大人だ。

 よほどそそっかしい人間なら話も別になってくるがね。


「普通は手分けして何とか捜そうとするだろう?」


 それに頷きを返すリオン。

 実際に実行したことがうかがえる。


「だが、手掛かりひとつ見つからなかった、かな?」


 驚きに目を見張るリオン。

 そんなに驚くことだろうか。

 驚くということは肯定したってことなんだろうが。


「手掛かりがあるなら頑張れるだろ」


「あ……、はい」


「そういうものがなきゃ逆に焦るよな」


 負の連鎖の始まりである。

 これにリオンは絡みつかれてしまったと考えるのが妥当だろう。

 いずれにせよ精神的プレッシャーには弱いようだ。


「焦りってのは正常な判断力を奪うからな」


 だが、これくらいで本当にリオンは無鉄砲な行動に出たのか。

 ばつが悪い表情を見せてはいるが、今の言葉を完全に肯定したという雰囲気でもない。

 何かが足りないようだ。

 おおよその想像はつくがね。


「その上で身内が行方不明になったら考えるより先に行動してしまうか」


 あ、リオンが固まった。

 図星のようだ。


「レオーネ、どうやら何人かいなくなった上に身内が行方不明になったみたいだぞ」


 話をレオーネに振ってみた。

 俺がリオンに呼びかけても復帰しなさそうに思えたからだ。

 姉なら大丈夫だと思いたい。


「どうなの、リオン」


 レオーネがリオンに語りかけた。


「っ!?」


 リオンの体がビクッと震える。

 さすがに姉の声は届くようだな。


「家族の誰かがいなくなったのか?」


 レオーネの問いに再びビクッと体を震わせるリオン。


「お爺ちゃんが、お爺ちゃんが……

 最初は他の人だったけど……

 何人かいなくなった後に、とうとう……」


 つっかえながら喋っていたリオンの瞳がどんどん潤んでいく。

 溜め込んだ涙がいつ溢れ出してもおかしくない状態だ。


 これ、俺が聞いてたらヤバかったな。

 女の子を泣かせた張本人とか言われかねないぞ。

 冤罪もいいところだろうけど罪悪感は抱かせられるよなぁ。


 なんにせよ女の子の泣いてるところは見たくない。

 いや、まだ泣いてないけどさ。

 とにかくリオンの言葉を受けてレオーネが渋い顔をしていた。


「爺さんか……」


 難しい言い方をすれば直系尊属だな。

 当たり前だが、血縁の方が同じ集落の知り合いである地縁の者より濃い関係だ。

 これはリオンが飛び出してきたのも無理はないのかもしれない。


 海エルフは身内を大事にする種族のようだし。

 レオーネに知らせようとしたのだろう。

 年の離れた姉なら何とかしてくれるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱いていたとも考えられる。


「リオン」


 レオーネが呼びかけた。

 グッと堪えるような顔をするリオン。


「他には誰がいなくなったの?」


 レオーネが問う。

 それは重要な質問だな。

 行方不明者が何人いるか把握しておく必要がある。


 できれば誰であるかではなく人数を聞いてほしかったが。

 レオーネはともかく、俺らでは誰それと言われても分からんからな。


 だが、レオーネも苦々しい表情をしているところを見ると気持ちが逸っているようだ。

 聞かずにはいられなかったのだろう。

 それを考えが足りないと指摘するのは酷というものだ。

 一方、リオンは泣くのを懸命に堪えていたせいか、なかなか喋り出せずにいた。


「お隣のフォックお爺ちゃん……」


 ようやく第一声だが、涙が溢れそうになるのを堪えながらで旨く喋ることができない。


「リオンマランさん……」


 どうしても途切れ途切れになってしまう。


「オタリーさん……」


 それでも一生懸命に名前を挙げていく


「ボヴァンさん……」


 そういうこともあってか、誰もそれを急かすことがない。


「フォーカお爺ちゃん……」


 急かしたりはしないが思ったより多いな。


「リンチェさん……」


 まだ続くのかよ。


「チェルバさん……」


 【諸法の理】によれば海エルフはあまり大きな集落を作らないはずなんだが。


「ゼブルさん……」


 それでこの人数は異常じゃないか?


「タミアさん……」


 おいおい、まだ続くのか。


「エーバーさん……」


 レオーネも戸惑った様子を見せている。


「カーネさん……」


 そこでようやく止まった。


 全部で11人。

 レオーネたちの爺さんを含めれば12人ってことになる。

 かなり深刻じゃないかよ。

 これは慎重に行動する必要があるな。


読んでくれてありがとう。

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