361 朝っぱらから御褒美タイム?
修正しました。
最後にツバキである。 → 最後にシヅカである。
明けて翌朝。
寝覚めは良くない。
「ああ、疲れたな」
寝不足なんて感じる柔な体はしていないんだが。
ただ、昨日の一件はイレギュラーすぎて気疲れしてしまった。
とどめに事情聴取だったもんな。
色々と気を遣いながら話さないといけなかったのがね。
アレがなければ多少はマシだったんだろうけど。
「ちょっと、中年のおじさんみたいに枯れたこと言わないでよ」
マイカのツッコミは容赦がない。
その分こちらも遠慮しなくていいので気が楽だ。
なんつーか、さすがは我が嫁である。
「癒やされるわぁ」
とりあえずマイカの頭を撫でておく。
ナデナデナデナデナデナデナデナデとひたすら撫でる。
秒速16連射とはいかんが撫でまくる。
「ちょっ!?」
俺の行動が予想外だったらしく、マイカがアタフタしていた。
「ハルくんが壊れた」
ミズキも割と失礼だな。
おまけに俺の額に手を当てて熱まで測ってくる始末。
壊れてなどいないし熱もない。
疲れているだけだ。
ちゃんとそう言ったはずなんだが?
「俺は癒やしを求めているだけだ」
故にナデナデ攻撃をミズキにも見舞ってくれる。
「はわわっ」
慌てふためくミズキさんである。
この程度で顔を真っ赤にするとか可愛いものだ。
これでホッペにチューとかしたらどうなるんだろうね。
いや、単に不意打ちが利いてるだけか。
同じような反応の気がする。
「あるじー、まりかもー」
目の前にマリカが飛び込んできた。
朝から騒がしい幼女である。
突き上げるように伸ばした両手をブンブン振って自己主張してくる。
さり気なく振る舞っているが狼の耳と尻尾が出ているんだよ。
ラミーナモードというか中間形態というか。
3段変身とか高度なことをしてくるな。
可愛いから良いのだが。
当然、撫でるさ。
モフるように撫でるべし。
「ひゃはー」
マリカさん、大興奮である。
尻尾なんてアクセル全開って感じでブンブンと回転するくらい振りまくりだ。
それにしても3段変身か。
3段変形マシンを連想してしまった。
今回の飢饉対策が終わったら色々と作ろう。
変形はロマンだ。
今の俺には癒やしとロマン成分が足りていない。
趣味と実益を兼ねて是非とも作るぞ。
というか今から【多重思考】で模型を試作しておこう。
変形はロマンだが、すべての形態でプロポーションを崩さないのはムズいからな。
モフりながらそんなことを考えていると行列ができていた。
「へっ?」
結局、婚約者を含む嫁全員をナデナデすることになったようだ。
こういうてんやわんやは歓迎する。
手間じゃないのかって?
なにを仰るウサギさんである。
癒やしがそこにあるというのに間違っても思うわけがない。
「次は私」
先頭は桃髪天使なノエルさん。
朝食前なのでツインテールではない。
が、ロングストレートも捨てがたいものがある。
いつもより大人っぽい感じがしてなかなか貴重だ。
俺は心の中でレアものゲットとばかりにガッツポーズをした。
「ハル兄に癒やしを」
ええ娘さんや。
思わずエセ関西人になってしまうくらいグッとくる台詞だ。
「私にも癒やしを」
意外にちゃっかりしている。
そして恐ろしく破壊力のある言葉だ。
撫でずに終われようか。
いや、終われまい。
もちろんナデナデだ。
そしてノエルの後に続くのが月狼の友。
「………」
すまし顔でありながら頬を薄らと赤くしているレイナ。
無言でそっぽを向いているが、口元は弛んでいる。
撫でずに待ち続けて半ギレする反応を見たいが、今日は移動もある。
悠長にはしていられない。
じーっと顔を覗き込むと面白いんだがなぁ。
まあ、今回は素直に撫でておいて顔を真っ赤にする反応を堪能させてもらった。
ギレデレは次の機会に取っておこう。
「うちは耳の裏とかもクシュクシュする感じで撫でてほしいなぁ」
狐の尻尾をユラユラと揺らしながらニヘラと緩い笑みを浮かべているアニス。
レイナとは対照的にストレートに要求してくるな。
要求通りに撫でておく。
クシュクシュってのは指先を使えってことだろう。
「ふぃーっ」
要求通りだったらしくフニャンと脱力するアニス。
まるで温泉につかった瞬間のオッサンだ。
ツッコミ入れてしまいそうになったぞ。
続いてポヨンと登場ダニエラさんである。
何がポヨンかは言うまでもない。
朝っぱらから刺激が強いのでウサ耳に注目しながら撫でておく。
「ふぁん」
ウサ耳で感じてしまったのか色っぽい声が漏れ出てきましたよ。
胸元もプルルンと弾んで思考がフリーズしそうになったじゃないか。
こういう時には【多重思考】を使って妄想するに限る。
『妄想担当、頼む』
『OK、任せろ』
『担当が増える可能性もある』
『程々にな』
『ああ』
俺の中の俺と打ち合わせをする間もナデナデは続く。
続いてメリーとリリーの双子ちゃんたちである。
言葉はない。
ジーッと上目遣いで瞳を潤ませている。
そっと瞳を閉じて……
いや、キスをするような仕草をされてもね。
雰囲気に合うようにそっとそっと撫でておく。
「「ふわー」」
左右に尻尾が振り子のように揺れている。
古い壁掛け時計がふたつ並んでいるところを想像してしまった。
そして月狼の友でリーダーであったリーシャである。
撫でる前から尻尾が揺れていた。
でも、肩をすくめてガチガチになっている。
期待感はあるけど緊張もしている感じか。
たかがナデナデひとつで大袈裟だ。
口チューなんてしたら卒倒するかもな。
手を乗せただけで両目を見開き耳と尻尾が伸びきった。
「────────っ!!」
しばらく撫でても全身ガッチガチ。
終わってもガッチガチ。
それこそゼンマイ仕掛けのブリキの人形かってくらいぎこちない動きで後ろのルーリアと交代した。
「大丈夫なんだろうか?」
ルーリアはそう言いながら心配そうにリーシャを見ている余裕がある。
「しばらくは解除不能だろ。
そういうルーリアは余裕だな」
「いえ、そんなことは……」
撫でると頬を赤らめた。
「照れくさいというか……」
確かに撫でていて体の強張りというか硬さを感じないではない。
ちょっとリーシャに似ている気もするが、こっちの方がマシである。
続いてツバキが来た。
特に緊張も物怖じもしていない。
こちらの世界に来てからの付き合いは一番長い方だし直弟子だからな。
「御褒美タイムが朝からあるとは思わなかった」
淡々と語っているけど御褒美タイムってどうなのよ。
おまけに撫でると赤い瞳がキラキラし始めたんですが?
危険な香りがしないでもなかったが大人しかったので良しとしよう。
次はレオーネだ。
おずおずと前に出てきたかと思うと後ろをしきりに気にしている。
3姉妹とプラム姉妹が「どうぞどうぞ」と譲り合っているのだ。
綺麗に並んでいるならおそらく最後尾にいたとしてもおかしくはないからな。
「シヅカに押し出されたか」
言いながらナデナデしていく。
「はい」
肩をすくめて撫でられているレオーネ。
居心地が悪そうに見えて幸せそうに目を細めるという器用なことをしている。
「次はアンネとベリーね」
俺から指定してみた。
でないと朝食が終わっても順番が決まらないだろうからな。
「「はっ、はひっ」」
指定するとビクビクしながらも前に来るプラム姉妹だ。
前の主従関係とか気にして遠慮していたんだろうけど、今は対等な立場である。
そういうことで畏縮してほしくないので先に呼んだというわけだ。
ここで説教しても空気が悪くなるだけなので撫でるだけにとどめた。
そのうちビクビクが無くなったので、たぶん大丈夫だと思う。
で、3姉妹が下から順に来た。
「お願いします」
ペコリと頭を下げるクリス。
そのまま撫でていく。
目を閉じて気持ちよさそうにナデナデを堪能してくれた。
続いてエリスに押し出されたマリア。
プラム姉妹と似たようなことになっているが、長女パワーには勝てないよな。
撫でていると、やはり強張りが取れた。
目を閉じ堪能するあたりは血がつながっていなくとも姉妹の絆を感じさせるね。
「ありがとうございました」
そう言ってエリスを呼び込む。
エリスはそんなマリアに苦笑していた。
「なんだか照れくさいですね」
言葉にするほど照れは感じない。
「そうか?」
何気ない会話をしながらナデナデアタック開始である。
「先生とお呼びしていたのが、つい先日のことなのですが」
「そういや、そうだったな」
すごく馴染んでいるおかげで国民になったのが最近であることを忘れてしまっていた。
「さあ主よ、思う存分に撫でるのじゃ」
最後にシヅカである。
「残り物には福があると言うであろう。
最後に福を独り占めじゃ、フハハハハ」
胸を張って微妙に残念なことを言ってくる。
これでも皆に気を遣っていたんだよ。
レオーネにしても3姉妹にしても先に行かせていたし。
空気を読んでいたのは間違いないんだがね。
それなのに自分の順番になると残念感が増してしまうからなぁ。
朝っぱらから嫁たちの頭をナデナデし始めた俺が言うことじゃないか。
反省だ。
が、たっぷり堪能できたし癒やされた。
今日も頑張るぜ!
読んでくれてありがとう。




