36 つくってみた『テレコーダー』
改訂版です。
「どうすりゃ動画を妖精たちに見せてやれるんだぁ……」
俺は煮詰まっていた。
脳内スマホの情報を外部に流す方法がない。
『全身サイボーグの少佐が出てくるアニメだと外部接続できる端子があるけどな』
生憎とここは剣と魔法のファンタジー世界である。
『無線もダメだし』
脳内スマホの規格が高度すぎて現状で通信できるのは同じ脳内スマホだけ。
神様と眷属以外では俺とローズだけしか所持していない。
『これでは、せっかく集めたヒーローものの動画資料が役に立たないじゃないか』
「集めることができても再生できなきゃ意味ねえよ」
自分で自分にツッコミ入れるが虚しくなるだけだ。
が、そこでふと思い出した。
ラソル様は幻影魔法で妖精たちに忍者の動画を見せていたはず。
『そっか、信号を通さず俺の記憶で幻影魔法を使って再現すれば……』
試しに1分未満の動画を落としてきて実験してみたら、アッサリ成功。
「なんだよ、それ……」
アホだ、我ながらアホすぎる。
だが、せっかく解決策が見つかったのだ。
さっそく妖精たちに見せてやろうと思うも、ふと考えた。
『俺の拘束時間がシャレにならんな』
動画を編集して変身シーンだけに絞っても訳がわからんだろうし。
忍者ものの作品を見ているから多少はマシだと思うが。
ヒーローの醍醐味は味わえない気がする。
『ならフルで見せるか。
好きなように見られれば繰り返し見るかもだし』
ならば、どうするか。
好きなように見るには幻影魔法の制御方法を変更する必要がある。
少なくとも俺が付きっ切りでリクエストを受けるたびに一時停止とかしてられん。
妖精たちの意思で俺の魔法に干渉するのも無理だしな。
『いや、できるかもな』
動画は最初から最後まで固定された情報だ。
その情報を核として幻影魔法を使えばいけるかもしれない。
『問題はそれを維持するための魔力コストだな』
ざっと試算してみたが、俺がリアルタイムで再生するより遥かに消費する。
再生時間に比例して大きくなるのは言わずもがなだ。
勿体ないというのもあるが、釣られて飛んで来る馬鹿がいないとも限らん。
前に返り討ちにした翼竜どものようにな。
『そういやアレが忍精戦隊ヨウセイジャーを実現させた切っ掛けだった』
あんなのの襲撃がなければ、手持ちの鎧を支給して終わっていたと思う。
そう思えば、なくてはならない出来事だったわけか。
とはいえ何度も騒動を招き寄せたいとは思わない。
翼竜が飛んで来るぐらいだし他にも何かいるだろう。
あるいは余所の世界の神様とか。
俺はベリルママの息子ということでスカウトされないとは聞いているが。
『スカウトがダメなら俺に弟子を取れとか言ってきそうだ』
神様とはいえ許可なく担当外の世界に干渉するのは問題あるらしいけどね。
亜神や仙人はスカウトできるようだし抜け穴はあると思う。
考え出したらキリがない。
『なんにせよ首都ミズホシティで事件を頻発させるのは良くないな。
あまり魔力を解放することがないよう自重するとして……』
それでは窮屈になってしまう。
自由に生きたいというのに本末転倒だろう。
『ならば結界システムを構築するか』
最低限、魔力を感知されにくくするだけでも意味はある。
変なのが来なくなるだろうからな。
ちょっとパワーアップすれば防衛システムにもなる。
いずれにせよ大がかりになるから後回しだ。
だが、寄り道も悪くない。
結界システムをヒントに幻影魔法で自在に動画を見る方法を思いついた。
「魔道具化すればいいんだよ」
実に単純な話であった。
「元日本人がテレビとレコーダーを忘れるなど、どうかしてるよな」
しばらく家電製品と縁のない生活を続けてたせいか。
魔力で動かすから地球製をコピーして錬成ってわけにもいかない。
完全オリジナルになるか。
初めて家電相当品を作るんだし気合いが入るってものだ。
盛り込みたい機能は山ほどある。
「あー、でも多機能すぎると皆が困惑するかぁ」
とすると皆も真似して作れるくらい仕組みを単純にした方が良さそうだ。
必然的に機能は必要最小限のものに絞られてしまう。
まずはテレビを作って幻影魔法を映す術式を組み込む。
これで何もない空間に3Dで映すより魔力コストが大幅に下がるはずだ。
レコーダーからの信号を受信して映すようにすればケーブルが不要になる。
嵩張らないようにする工夫は大事だ。
「いっそのこと合体させるか」
昔、テレビデオとかいう一体型家電があったのを思いだした。
もっともあれは便利なようで不便な代物だった。
ビデオ部分の方が故障しやすい上に修理に出すとテレビが見られないからな。
『まあ、こっちじゃ関係ないか』
放送番組が流れている訳でもないし。
壊れても自分ですぐに修理できる。
ならば、嵩張らない一体型は大きなメリットになる。
「レコーダーと合体させるからテレコーダーだな」
やけに懐かしく感じるのはテープレコーダーを知っているからだな。
アレが全盛の頃、テレコと呼ばれていたことを思い出した。
それだけレトロで安直なネーミングをしてしまった訳だ。
時間がもったいないので反省はしない。
とにかくテレコーダーの仕様を決定しなくては。
動画情報をどう記録させるかが問題だ。
俺の頭の中にあるものだからな。
『魔道具と俺がリンクする?
アクセスが頻発するとかキモいから却下だ』
そんなことするくらいなら日本から受信できるようにした方がマシである。
もちろん、やらんがね。
魔力コストがとんでもないことになるのが目に見えている。
仮にそこが解決しても許可なく異世界に干渉するような真似はマズい。
『一旦、外部記憶メディアに記録するか』
そうすればコピーも難しくはない。
DVDのディスクみたいな媒体で簡単に渡せるようにすれば便利だし。
デジタルじゃなくてマジカルだからMVディスクってことになるのかね。
操作はリモコンで行うようにする。
部屋でくつろいで見られるようになるからな。
離れて見るとなると動作エネルギーとなる魔力の供給が本人からできなくなるか。
「魔石を使うか」
魔力を溜め込む性質があるからバッテリーとして使えるだろう。
『西方にいる魔道具職人が聞いたら卒倒しそうな仕様だな』
この時点で既に向こうでは常識外れになっているみたいだ。
魔石は発掘するしかないというのも常識みたいだし無理もない。
高価だから気軽に使えないしな。
『うちで作る魔道具は国外に出せんな。
魔石の製造方法も大変な騒ぎになりそうだし』
特に魔石は混乱が大きいと思う。
安価な魔物のコアで作れるからな。
そのくせ魔力制御が肝要なので簡単には作れない。
うちの妖精たちでもコアを魔石にするだけで精一杯なのが現状だ。
今のところ純度が高いのは俺以外だとローズとツバキだけしか作れない。
低純度のものなら中には作れる奴も出てくるかもだが。
余計に混乱するだけだ。
変なトラブルに巻き込まれるのは御免である。
「流通させないなら統一規格にしてしまうか」
魔物のコアは品質も大きさもまちまちだから単に魔石にするだけだと使い勝手も悪い。
解決するには規格品として形も大きさも品質も統一するしかない訳だ。
これでテレコーダーだけじゃなく他の魔道具でも扱いやすくなる。
『問題は規格品にするための制御力だな』
魔力制御さえきちんとできるならコアを融合させたり分離させることは可能だ。
簡単ではないが均質化することもできる。
逆に制御が足りていないと偏りがある状態か斑になるか。
そういった代物は品質的に最低ランクになる。
魔力の溜め込む量が少なくなるのはもちろん、出力も安定しないのは言うまでもない。
『使い物になら……、そういうのを西方で売ればいいか』
最低ランクのものでも高額取引ができるだろう。
ボッタクリ?
廃棄品を有効活用するだけだし、向こうの相場以上に吹っ掛けるつもりはない。
品質が均質化したら型を用意して填め込んで形状を固定する。
均質化の段階だと粘土のように柔らかくなるからこそできる芸当だ。
型枠は乾電池を参考に大きさを決定。
用途によって消費魔力とか異なるからだ。
テレコーダーの本体とリモコンでは明らかに違う訳だし。
形状の固定が完了すれば規格魔石の出来上がり。
『問題はコアの均質化だな』
填め込みから先の作業は誰にでもできるが、均質化はカーラができるかどうか。
均質に融合させるだけでもレベル85は要求される。
現状、キース以下の妖精たちでは俺が納得できる品質にはならない。
高品質品として圧縮させるにはレベル100は欲しいところだ。
なんにせよ規格魔石ができれば魔道具づくりが楽になる。
魔石の質に合わせて魔道具を調整する必要がなくなるからな。
形や大きさも規格にそうものだから交換などの扱いも簡単だし。
『充電池の発想だな』
こんな具合にテレコーダーの仕様を決めていく。
同時に妖精たちのトレーニングメニューも考えたりしているんだがな。
彼等には俺がいなくても外敵から身を守れるようになってほしいし。
想定している敵が現状で亜竜の群れだったりしているがね。
人間の現役最強クラスは最低限の基準になる。
『先のことを考えるのが怖い気もする』
だが、必要なことだ。
できれば考えたくないけど、これ以上国民が増えないこともあり得るし。
とにかく妖精たちが困難に遭遇しても撥ね除けるだけの自力をつけてもらう。
それは単に戦闘力の話だけではない。
生きていく上で色んなことができるようになってもらう。
魔道具作成もそのひとつだ。
という訳で、テレコーダーの2号機以降は皆に作ってもらう。
動画を見せるのは俺が試作する初号機で充分だろう。
魔石もあえて高品質品を目指す。
『本体の映像記録媒体も魔石にするか』
溜め込むのは魔力ではなく映像情報である。
レコーダーのハードディスクのようなものだ。
『フレームは木製にしよう』
ただし普通に製材して切ったり削ったりなんてことはしない。
一旦、魔法で粉砕して魔力を込めながら圧縮をかけつつ融合させる。
こうすれば反りが出ない素材になる。
おまけに傷や凹みに強い上に腐食や劣化にも耐性ができる。
落下させてしまうと破損する恐れがあるので付与魔法はかけておくがね。
ついでに成形もするので基本的に継ぎ目などもない。
魔石を放り込む部分が填め込み式のフタになったくらいだ。
その上、こんな作り方をするから作業工程も減る。
問題点があるとすれば現状で作れる者が限られてしまうことくらいか。
目標にしてもらうので、これくらいでちょうどいいのだ。
『映像を映す部分は何を使おうか』
くっきりハッキリ映ってほしいからな。
自宅にあったテレビを思い返してみる。
黒くて光を反射しないような表面を加工がしてあったはずだ。
条件に合致するものを【諸法の理】で探してみたが黒水晶が良さげである。
地魔法で作り出した黒水晶を薄い板状にして表面加工した。
木製フレームのあらかじめ凹ませた部分に填め込み再度フレームを変形させて固定。
『これでテレビらしさが出てきたな』
『あ、MVディスク使うってこと忘れてた」
よくよく考えてみたんだが読み取りに回転機構なんて使わないよな。
『ディスクじゃなくてカード型にしよう』
MVカードってことになるかね。
あんまり小さいと扱いも面倒だしキャッシュカードサイズにして……
スロット部分へ差し込んで端子部分から読み取るようにする。
『そこだけ薄く伸ばした魔石を埋め込んで記憶容量を確保するか』
高速道路で使うETCカードとかのイメージだな。
『これだけ煮詰めれば充分か』
仕様にしたがって確認しながら試作していく。
試作の状態も魔法で動画情報に変換しながらなのでスローペースである。
後で編集して、これも見せる予定だ。
『リアル「つくってみた」だよな』
テレコーダーを作るときの参考資料にする。
何度でも繰り返し見て有効活用してもらうとしよう。
百聞は一見にしかずと言うけれど、そんな簡単に作れるもんじゃないからな。
『とりあえずは変身ヒーローの醍醐味を知ってもらってからだ』
完成したその日の夕食後に城の大広間でさっそく動画を見せてみた。
事前に説明しなかったのは失敗だったけどな。
大興奮したピンクで耳の長い人を落ち着かせるために一旦上映会を中止したくらいだ。
非難の視線が集中した後は隅っこでションボリしてたけど。
みんな食い入るように見ていたよ。
いろんなのを見せているとパターンが分かるのか変身シーンで声援が上がるほど。
『フッ、計画通り』
あとは彼等がヨウセイジャーにどう取り入れるかだ。
読んでくれてありがとう。




