350 女子会ではないのだけれど
修正しました。
逃げ回し → 逃げ回っ
風に踊る → 風と踊る :8個所
逃げ回すうち → 逃げ回している間
向こうが協力的になってくれると、こちらとしてもやりやすくなる。
30層近くまで潜っているようなパーティだから期待するというものだ。
あんまり期待しすぎて肩すかしをくらう可能性もなくはないのだが。
まあ、ヒョロッとさんを見る限りでは概ね大丈夫だろう。
気を遣うことにも意味があるという訳だ。
以後の避難誘導でも協力してくれるようになれば儲けもの。
その程度に考えておこう。
上の階層に行くほど人が増えていくから面倒事は少ない方がいいのだ。
地元の人間の言うことしか聞かないような奴だって出てくるだろうからね。
そういう連中に対処してくれるなら助かるのだが。
実際にどうなるかは、その時になってみないと分からないが。
「じゃあ呼んできてくれるか」
「わかった」
頷いたヒョロッとさんが扉を開け放って部屋の中へ飛び込んでいく。
閉める余裕もないとか焦りすぎだよ。
思わず苦笑が漏れる。
ヒョロッとさんの慌てっぷりに、うちの面々も「しょうがないなぁ」って顔で苦笑していた。
だが、不安材料は減っているからこその苦笑だ。
足取りはしっかりしていたのでね。
走って移動するのも問題なさそうでなによりである。
そのうち室内から「げげっ!?」とか「マジ!?」みたいな声が聞こえてきた。
扉が開きっぱなしなために嫌でも会話の内容が聞こえてしまう。
聞き耳を立てないようにはしていたが、叫ばれてしまっては嫌でも耳に入ってくる。
ヒョロッとさんが情報を話すことでこうなるのは、まあ予測できたことだ。
慌てすぎて変な伝え方をしないといいんだけどと最初は危惧もした。
が、予想に反してそういうことにはならなかったね。
ヒョロッとさんもそれなりに修羅場を潜ってきているのだろう。
泡を食ったような状態でも仲間に情報をちゃんと伝えることができていた。
そして最後に彼女が方針を伝える。
安全な道を確保している俺たちが誘導する形での脱出。
ヒョロッとさんが即時撤退を明言すると誰も異を唱えなかった。
迷宮の暴走に似た現象と言われたのが相当に応えているようだな。
硬い表情で部屋から出てくる一同。
全部で6人。
装備から判断すると前衛2人、中衛3人、斥候1人の構成だ。
魔法使いはいないがバランスがとれていると思う。
表情は動揺を隠しきれていないものの体さばきは隙が少ない。
体に染み込んでいるあたりベテランに近い印象を持った。
ただ、些か緊張しすぎている気がする。
このまま移動すると思わぬ失敗をするかもしれない。
緊張感がありすぎると動きに精彩を欠いてしまうからな。
和ませるのは無理でも何か言わないとダメか。
生憎とこういうケースで何を喋っていいのか分からん。
ずっと選択ぼっちを続けてきたからな。
「俺はハルト・ヒガ」
それ故、とっさに自己紹介を初めてしまった。
自分でもそれはないと思いつつ、言葉は止まらない。
「こう見えて賢者だ」
自分のぼっち力の高さに頭を抱えたくなってしまったのは言うまでもなかったり。
……意表を突いた言葉で緊張をほぐそうと思ったら、この有様である。
リア充のようにスマートなことが言えないのは呪いなのかと思ってしまうほどだ。
まあ、単に経験不足なんだけどね。
たぶん永遠に経験不足なままだと思うけど。
とにかく何の変哲もない自己紹介をしてしまった己を小一時間は問い詰めたくなった。
そんなことをしている余裕はないからしないけどね。
「すまないっ!」
ガバッと頭を下げるヒョロッとさん。
なんなのさ。
「風と踊るのフィズ。
自分が先に名乗るべきところを──」
「あー、そういうのいいから」
フィズと名乗ったヒョロッとさんを止める。
それにしても体育会系の人でしたかー。
「しかし……」
「あんたがフィズってのは分かった。
リーダーの名前さえ分かりゃいいさ。
あと、風と踊るってのがパーティ名だろ。
それで充分。
この先もこういうのが続きかねないからな。
ささっと終わらせようぜ」
そんな風に言葉をかけてはいるが返事を聞くつもりはない。
訓練組に視線を向けて頷く。
向こうからも頷きが返された。
階段方向を指差して──
「先行よろしく」
再度、頷くと訓練組が走り始めた。
様子見のスピードに抑えている。
風と踊るのメンバーがどれだけ走れるか分からないからだ。
「ほらほら、行った行った」
掌のジェスチャー付きで追い立てると、向こうの面子がフィズを見た。
「行くぞ」
何かを言いたげに俺を一瞬だけ見てフィズが走り出す。
残りのメンバーもそれに追随して走り出した。
表情から硬さは取れていないがね。
が、腹はくくっているようで怯えは見られない。
少なくとも彼女らの瞳からは、そんなものは感じられなかった。
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風と踊るのメンバーは全体的に足が速い。
冒険者として考えれば質が高いパーティと言えるだろう。
無駄口を叩かず訓練組を追っていた。
『ハル兄』
お、ノエルからの念話だ。
『28階層は次で最後。
いつでも掃討できる』
『おう、分かった。
そのままやっちゃっていいぞ。
殲滅後は魔物を回収し待機だ』
『わかった』
俺たちの現在地は28層へと続く階段までもう少しの所だ。
「ガンフォール!」
大声で呼びかける。
風と踊るのメンバーがビクッとしたが、しょうがない。
俺たちが殿で訓練組が先行しているからな。
「なんじゃ!」
「ABコンビを連れてノエルたちの方へ向かってくれ!」
「了解じゃ!」
3人が訓練組の中から飛び出していく。
「うっそ!? マジでドワーフ?」
「速えー」
「あたしら目一杯に近いよ」
風と踊るの中でも中衛担当であろう槍士の3人が声に出して驚いている。
他の面子も声には出さないながらも目を丸くして驚いている。
アレでも抑えていると知ったら、どんな反応を見せてくれるのやら。
『ガンフォールとプラム姉妹を向かわせた。
合流したら27階層へ向かってくれ』
『わかった』
このあと更に3姉妹を向かわせることになる。
なんで女子ばっかの冒険者が続くかね。
28階層も女冒険者のパーティでしたよ。
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走りに走って10層まで上がってきた。
現状は9層へ上がる階段前で休憩中である。
さすがに下の階層から走ってきた者はへばっている者もいるのでね。
ノエルたちは9層で待機中。
訓練組が避難誘導対象者の周囲で警戒している。
もちろんポーズだけだ。
俺たちはこのフロアに敵がいないのを知っているからな。
こうしないと、せっかくの休憩なのに休めないからな。
拾った人数が少ないおかげでペースがあまり落ちなかったのが疲れの原因だ。
最も多いのが28層で4人。
1パーティ丸々残ったのはフィズがリーダーの風と踊る以外ではこの面子だけだ。
フィズの知り合いというか後輩らしくて素直に来てくれた。
彼女らは撤退と籠城の判断を素早く行ったことで助かったみたい。
詳しい話は聞いていないが、他のパーティは強行突破しようとしていたそうだ。
籠城しても結果は同じと決めつけてしまったのだろうか。
それは当人たちでなければ分からない。
けれども似たようなのが多かったようだな。
他の階層で籠城していた者はパーティが壊滅的被害を受けながらも生き残った者ばかりである。
人数が少ないと不安になるようで特に反発されることもなく来てくれた。
現在の避難誘導対象者は40人少々といったところだ。
10層のように誰もいないフロアもあったからな。
それにしても、男が1人もいない。
別に男は篩にかけて置いてきたとかじゃない。
冒険者の方が声を掛けても誘導を拒否したとかでもない。
籠城していた冒険者に男がいなかっただけである。
風と踊るともう1組のパーティ以外は男女混合のパーティだったそうだが助かったのは女だけ。
知っていたけどさ。
実際に見るのとは違うというか。
むさ苦しいよりはいいんだけれども違和感が湧き上がってくるのは禁じ得ない。
干し肉と水を配る中で聞いて回ったが、同じような話ばかりであった。
曰く、男どもは突破することしか考えられなくなっていたと。
普通に考えれば無理だと分かるはずなんだけどね。
逃げ回っている間に物理的にも精神的にも追い詰められてしまったらしい。
山と群がった魔物を見てパニックになるとかダメすぎだろう。
止めるのも聞かずに特攻する形になったようだ。
本人たちは突き抜けて逃げ切るつもりだったようだけれど。
メンタル面で追い込まれた時は男の方が脆いのかもな。
それでも男が1人もいないってのは妙だ。
何かありそうだけど判断材料がなさ過ぎる。
うちの数少ない男連中は影響を受けた形跡がないからなぁ。
俺も異常は感知しなかったし。
なーんか嫌な感じだ。
事象の確認すらできなかったから原因が判明するはずもない。
目撃者はいるが、彼女らも特に異常は感じていないと言っているし。
どうしようもないのでルディア様に報告のメールだけ出しておくことにした。
俺に解決できるとも思えないのでね。
世界中にファンがいる推理小説の主人公のように名探偵になろうとは思わないし。
そういう小説や各種映像作品を読んだり見たりするのは好きだけど。
面倒くさいので自分がそういう真似事をしたりはしない。
今は無事な人間を地上まで安全に誘導することに専念しないとな。
そういう意味では、ひょろっとさんこと風と踊るのフィズは有り難い存在だ。
彼女なしでここまでスムーズに来られたかと問われれば、答えは否だ。
彼女が説得したことで籠城している部屋から出てきた女冒険者もいるからな。
どうも、この街の女性冒険者に相当慕われているようだね。
というよりフィズに憧れて冒険者になったというのが真相のようである。
どうりで女性冒険者の比率が高い訳だ。
他所よりは確実に高いだろう。
「よう、お疲れ」
風と踊るにも声を掛けて干し肉と水の配給セットを渡していく。
彼女らが最後だが、これは彼女らが望んだことだ。
それを提案してきたのはパーティの参謀を務めるという金髪ポニテなお姉さんだった。
彼女はジニアと名乗ったが、その前は俺の中でヒョロッとさん2号であったのは内緒である。
このお姉さんもフィズと変わらぬくらい背が高く、そして美人だ。
最初は俺のことを密かに観察するような目を向けていたけどな。
目立たないよう、さり気なくやっていたつもりだろうけどバレバレだった。
誰かの背後に回ってとか逆に目立つのだ。
体を隠しきれないからな。
とりあえず指摘はせずにしたいようにさせていたら警戒姿勢はとらなくなった。
「すまない、賢者殿」
こんな具合に配給セットの礼も言ってもらえるようになった。
「気にしなくていいさ。
むしろ、こっちが助かった」
「どういうことだろうか?」
本気で分かっていない目で俺の方を見てくる。
「こんなに短時間でここまで来られた。
アンタんとこの大将がヘトヘトになるまで頑張ってくれたからだ」
そう言うと、真っ先に苦笑が帰ってきた。
そして2人してフィズを見る。
俺たちの視線に気付いたのかこちらを見返してくるが、ボンヤリしている。
居眠りしていたようだな。
読んでくれてありがとう。




