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349 脅迫かもしれない説得?

修正しました。

魔物の数 → 数


後書きの誤字を訂正しました。

 エリスの呼びかけにも反応はないかと思われたが……


「申し訳ありません。

 聞こえていると思うのですが」


 それなりに大きな声で喋ったから聞こえていないはずはない。

 そもそも魔法で扉の向こうに伝わりやすくしていたし。

 こちらだけで完結する会話はブロックするけどね。

 だから扉に耳を当てるようなことをしても向こうは意味ないけど。


「どうやらダメなようです」


「そうでもないぞ」


 向こう側では声を抑えて会話しているようだからな。


「えっ?」


 意外そうな目を向けられてしまった。

 中で会話がなされていることを感知できる面子はこの中でもほとんどいないからな。


「少し待ってみようぜ」


「はあ……」


 聞き耳を立てるのは止めておく。

 いくらなんでも失礼が過ぎるよな。

 それに会話の内容を知っていることでボロを出すとかやってしまいそうで怖い。

 向こうさんはかなり警戒しているようだし。

 これくらいは普通の反応だろう。

 珍しいことに全員が女性冒険者のパーティだからな。

 ガンフォールが声を掛けても無反応だったのは男相手に嫌な目を見てきた経験からだと思われる。


「ノエル」


 ただ待っているだけでは意味がないので古参組に指示を出しておくことにした。


「ん、わかった」


 頷きながら返事をするノエル。

 俺が指示を出すつもりなのも、その内容も的確に把握してくれている。

 こういうのも阿吽の呼吸って言うのかね。

 話が早くて助かるけど第三者には意味不明の会話と言えるだろう。

 古参組はともかくミズキやマイカは頭の上で「?」が幾つも浮かんでいる。

 困惑している面子を置いてけぼりにして古参組が整列。

 ますます困惑しているな。

 あ、訓練組もか。

 さすがにハンドサインでの指示出しとかわからんよな。

 こういうのはドワーフの間ではやらないみたいだ。

 エリスも知らないようなので冒険者でも一般的じゃないようだね。


「大きめの集団は連絡を入れるまで潰さずに待機で」


「了解」


 ノエルの返事の後にゴーサインを出した。

 シュバッと消え去る。

 相変わらず忍者スキーだな、うちの国民は。


「ちょちょちょ、何なのよ」


 マイカが騒ぎ立てる。

 ちょっと場所がらってものを考えてくれませんかね。

 まあ、扉の向こう側には伝わらないように風魔法は使ったけど。


「何って聞くほどのことじゃないぞ。

 先行させて28層の殲滅行動に入ってもらっただけだから」


「聞くほどのことでしょうがっ!」


 マイカはお冠である。


「具体的な指示も出してないじゃない」


「出したじゃねえか」


 なに言ってんだコイツの目で見てやる。


「最後だけじゃん」


 確かにそうだな。

 誤魔化されなかったか。

 説明するの面倒なんだけど。


「ノエルだからな」


 それ以外に言い様がないのである。


「凄いわね、あの子」


 目を丸くして驚いているけど、マイカもそれくらいはできると思うぞ。

 俺ら長い付き合いなんだし。

 それを考えると、ノエルはやはり凄いということになる。

 桃髪天使様なんだから当然であるということにしておこう。

 そんな感じの緩い空気の中、変化があった。

 扉がゆっくりと開かれていったからだ。

 背の高い女が1人、隙間からスルッと出てくる。

 そして後ろ手に扉を閉めた。

 後ろを気にしつつも周囲を見て面子を確認している。

 相当緊張しているな。


「すまないが」


 背の高い剣士風の女が先に声を掛けてきた。

 本当に背が高い。

 日本人だった頃と違って170台の身長になった俺より明らかに高いからな。

 が、ムキムキのマッシブな感じではない。

 テレビで見たバレーボール選手のような感じというのが最も近いだろうか。

 燃えるような赤い髪をポニーテールにしているので余計にそう感じるのかもしれない。

 髪と色を合わせた革鎧に身を包んで油断なく俺たちを見回している。

 引き締まった表情が凜々しいね。

 そういうのを抜きにしても美人な方だと思う。

 これは変な連中に絡まれやすいだろう。

 特に今日ギルドで締め上げてきたクズ冒険者どもなどはしつこかったんじゃなかろうか。

 ちょっと同情してしまうね。

 だけど奴らはもう借金奴隷だし今後は関わることもないだろう。

 似たような輩がすべていなくなる訳じゃないけどさ。

 とはいえ、今はそんなことを気にするようなタイミングじゃないな。


「代表者が誰か分からないんだが」


 遠慮がちにヒョロッとさんが聞いてきた。

 勝手にあだ名をつけてしまったな。

 名前を知らないんだからしょうがない。

 しばらくはこれで行く。


「俺だが」


 そう返事をすると、こちらに向き直りスッと頭を下げた。

 目線は残したままなので本当の意味で頭を下げたとは言えないかも知れないが。

 が、そんなことで目くじらを立てるつもりはない。

 向こうは1人、こちらは大勢だからな。

 彼女は死守すると言わんばかりに扉に背をつけた状態で緊張しきっている。


「礼を言う」


「何がだ?」


 俺の返事は予想外の内容だったらしい。

 一瞬だが呆気にとられていた。


「どうやったかは知らないが、ここに集まっていた魔物を退けてくれたのだろう?」


「俺は指示を出しただけだがな」


 目を丸くするヒョロッとさん。

 まあ、あれだけの数を相手に総力戦でないと言われれば無理もないか。


「大丈夫か?」


 そのままだと復帰しそうにないので声を掛けた。


「っ!? すまない」


 我に返ったものの困惑の表情は隠しきれていない。


「どうやったか言うつもりはないぞ」


「あ、ああ、そうだろうな。

 大事な飯の種を教えろと言うつもりはない」


「別に飯の種と言うほど大袈裟なものじゃないがな。

 言っても信じてもらえないから教えないってだけだ」


 あ、また目を丸くした。

 面白いお姉ちゃんだな。

 そういうのを抜きにしても割と好感が持てるタイプだ。


「聞いてもいいだろうか」


 躊躇いがちに聞いてくるヒョロッとさん。

 そんなに聞きにくいことがあるのだろうか。

 聞かないと言ったことを撤回して魔物を消し去った秘密を聞くとか?

 信じてもらえないからと言ったことで興味を引いてしまったのかね。

 他はちょっと思いつかないな。


「俺に答えられることならな」


「どうして魔物があんなに集まってきたのか知っているか?」


 ああ、そういうことか。

 原因不明の状況に追い込まれて思考が混乱しているな。

 普通なら返事が返ってくるはずもないと気付きそうなものだが。

 そういう判断が下せないくらい頭の中はまともに動いていないな。

 とにかく現状がどういうことなのか把握したくて仕方がないという焦りが感じられる。


「……………」


 些か卑怯な気もするが、この状況を利用させてもらうか。

 適当な嘘をでっち上げて避難誘導をしやすくする。

 安全に早く終わらせるためだ。

 勘弁してもらおう。


「これは推測に過ぎないが」


 最初にそう前置きしておく。

 ヒョロッとさんが了承して頷くのを待ってから俺は話し始めた。


「迷宮の暴走に近い現象が発生したのだろうな」


 俺の言葉にヒョロッとさんが腰を抜かさんばかりに驚いた。


「─────っ!?」


 今までの驚きが比較級とするなら、今度のは最上級だ。

 目も口も全開状態。

 血の気は一瞬にして引いてしまったし。

 顔色が一気に悪くなった。

 青を通り越して真っ白になっているもんね。

 体も寒気を感じているかのようにガタガタと震えている。

 チビっていないのが不思議なくらいだ。

 ここまでビビられると避難誘導に支障をきたしそうで困る。


「飽くまで俺の推測なんだが?」


 念押しして言っておく。

 こんな所で使い物にならなくなっても困るからな。


「い、いや、しかし……」


 口は動くか。


「あれだけの数が一気に押し寄せてくるのは……」


 震えが止まっていない。

 もはや脅迫に等しいぞ。

 が、腰を抜かすような状態ではないようだな。

 そんなに迷宮の暴走は恐怖の対象となるのか。

 知らんかった。


「それに、普段とは違う行動パターンだったし……」


 信じるに値する体験を既にしてあると言いたい訳ね。

 根拠なくビビっている訳でないというのが厄介だな。

 迂闊に適当なことを口にしたのが悔やまれる。

 今更だけれど。

 成長しないよな、俺も。


「そういう訳でダンジョンから脱出する」


 ガクガクと凄い勢いで頷いている。


「走れるな」


 単純な確認だったのだが、すぐに行動に移すと誤解されたらしい。


「ま、待ってくれ!」

 かなり必死な様子で掴みかかられた。

 というよりは倒れ込んできたと言うべきか。

 躓いたからなんだが、大丈夫かな。


「すすす、すまない」


 顔を真っ赤にしてガバッと勢いよく飛び退くヒョロッとさん。

 これだけ見ても態とでないのは明らかだ。

 別に膨らみを押し当てるような露骨な真似はしてこなかった。

 そんなことをしてくる理由がないからな。

 それに身長差と倒れ込んだ角度からして腰砕けで掴みかかるのが精一杯だったし。

 まあ、条件がそろったとしてもムニュンなイベントは発生しなかったさ。

 ヒョロッとさんの革鎧は部分的に補強されてるからね。


「いや、気にしてない」


 それにしても初心だねえ。

 20代半ばの見た目なのに10代前半の少女のようだ。

 微笑ましいものを見てしまったせいか苦笑が漏れ出てしまう。


「仲間も一緒に……」


 真っ赤な顔のままだが、どうにか声を絞り出してきた。

 仲間思いだな。

 1人で俺たちの前に出てきたし、そこは最初からそうなんだろうと思っていたけど。


「もちろんだ」


 最初からそれが目的なんだし。

 俺の返事にホッと息をつくヒョロッとさん。

 少しは頭の方も回るようになったかな。

 確認してみるか。


「怪我をして動けないような者はいるか」


「いない」


 首を振って答える。


「じゃあ消耗して走れそうにないとかは?」


「それもない」


 本当はどちらも先に確認済みなんだけどね。

 それでも聞くことに意味がある。

 価値があると言うべきか。

 当たり前のことを確認することで、向こうも安心するだろうし。

 勝手にこちらが気を遣っていると思ってくれるからな。


読んでくれてありがとう。

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