345 アプリを実際に使ってみよう
修正しました。
再開時に → 再会時に
下手に色々知っていると深読みしてしまうものらしい。
まあ、知っていると言ってもアニメやゲームのあれやこれやだったりするんだが。
ミズキさん、そっち系の人だからねぇ。
俺も人のことは言えないんだけど。
ていうか、知り合った切っ掛けが某巨大同人誌即売会だったりする。
腐女子的な部分がなかったことで友達としての付き合いが始まった訳だ。
声を掛けてきたのは売り子でコスプレをしていたマイカなんだけど。
お互い面識はなかったんだけど、向こうからすると知り合い感覚だったらしい。
例の詐欺彼女事件のせいで俺は学内で有名人になっていたからな。
こういうのもタイミングというか場所柄ってあるものだ。
学内で声を掛けられても絶対にシカトしてたもんな。
知り合いなんて誰もいないであろう場所で自分を知っている人間がいる状況とは決定的に違う。
しかも偶然などと誤魔化しがきく場所でもない。
声を掛けてきたマイカも俺も互いに苦笑したくらいだ。
ちなみにマイカも腐女子要素はない。
筋金入りのモフリストではあるがな。
故に妖精組は一度はモフモフの餌食になるだろう。
国元に帰ったら、どうなることやら。
えっ? そこまでの重症患者なら既にモフり倒してないとおかしいだって?
その疑問はもっともだ。
俺との再会時に妖精組とは顔見知りになっていたからな。
犠牲者が出ていてもおかしくはなかった。
ただ、あの時はマイカが半分我慢していたのを俺は知っている。
妖精組に向ける目が捕食者のそれになる瞬間があったし。
俺との再会で興奮に酔い痴れていなければ暴走していただろう。
優先順位は俺の方が上だった訳だ。
が、久々の再会でなかったら、どうなっていたことやら。
妖精組に向ける目が血走りそうになってたし。
ギリギリの瀬戸際だったんじゃないかな。
故に現状の問題より帰ってからの方が疲れそうで嫌だったりする。
まあ、それについては外に出てから考えよう。
とりあえずはミズキの早とちりを改めねばなるまい。
「このアプリは自動照準とかしてくれるような代物じゃないぞ」
「あっ、そうなんだ」
「そんなことしたらアプリに頼り切りになるからな。
照準統合システムは情報共有とダメージ算出をするだけだ」
「ほうほう、では照準は飽くまで本人がするものだという訳だね、ワトソンくん」
誰がワトソンだ。
マイカは時折こういう謎のノリを持ち込んでくる。
慣れてるから、そこはスルーで終了だ。
「そういうことだな。
俺が渡したスマホの画面を確認してみな」
「うん」
「はいよ」
倉庫から引っ張り出してくる。
外に出して使おうとするのは渡して間がないからだろう。
見た目がスマホだから、どうしても従来の使い方をしようとしてしまうんだな。
2人とも脳内スマホを持ってるはずなんだけど。
まあ、俺が補足説明してないからというのもあるだろう。
「そいつは脳内スマホと同じような使い方ができる」
「あ、そうなんだ」
「てことは外に出さずに確認しろと?」
「そゆこと」
俺に確認してくる割にマイカは先に行動している。
ん? ガックリと肩を落としたぞ。
「脳内スマホほど融通は利かないか」
などと呟いている。
視野範囲外で使えるか試したんだろうな。
さすがにそこまでは無理だぞ。
画面表示は網膜投影なんだし。
「でも、画面は拡大できるみたい」
「どれどれ?
……みたいだね」
自分のものでない視覚情報は見られない。
これはしょうがないので彼女らが何をしてるかは会話から見当をつけるしかないんだが。
そこは勘で話を進める。
「網膜投影による画面表示と操作が視線と脳波で行えるのは確認したな」
「うん」
「まあね、脳内スマホの方が使いやすいけど」
「量産品に贅沢を言うな。
ぶっちゃけ、脳内スマホを参考にした安物だ」
「ま、いいんじゃない?」
いいのかよ。
だったらケチをつけるなと言いたい。
「これなら歩きスマホでも危なくなさそうだし」
微妙な発言をしてくるなぁ。
マイカの口振りからすると何かやらかしたことがあるようだ。
運と要領だけはいいからヤバい事態にはなってないだろうけど。
確認のためにミズキに目線を向けると諦観のこもった目で見返された。
大怪我とかはないけど何度も繰り返してる口だな、これは。
さすがはお調子者のマイカさんだね。
良い子の皆は真似をしてはいけないよ。
「照準統合システムのアプリを起動してみな」
少し待つと2人が頷く。
「できたよ」
「あたしもー」
「ペアリングの確認になるだろ。
相手を選択して[Yes]ボタンを押す」
「何も変わらないよ?」
「特に変化がないね」
「初期設定だと最低限の表示になる。
敵がいない時はそんなものだ」
設定を変更すると何もなくてもゲームっぽい画面になる。
「的を出すから、ちょっと待て」
ここで足を止めて前方にゴーレムを数体ほど召喚してみた。
「OH」
なんか態とらしい発音でマイカが驚いている。
大袈裟な身振り付きだ。
外見が日本人っぽくないせいで外国人そのものにしか見えない。
「そんなに驚くような変化じゃないだろ」
「えー、でも白枠で囲まれたじゃん」
「敵として認識すると、そういう表示をするんだよ」
これにより味方と区別したりできる。
あと、未発見の敵も白枠で囲わないので注意が必要だ。
「なんかゲームみたいだね」
ミズキはそういう所が気になるようだ。
「意識はした」
正直に言うとミズキは満足そうに頷いている。
どうやらお気に召したらしい。
「どれでもいいから1体タップしてみな」
「あっ、赤になったよ」
「枠が黄色で点滅に変わった」
ミズキはロックオンしたな。
マイカはタッチの差でミズキがロックオンした奴をタップしたのだろう。
「マイカは他のをタップだ」
「おおっ、白いのが赤くなった」
「こっちは黄色が増えたよ。
マイカちゃんが言ってたみたいに点滅してる」
「赤がロックオンだ。
タップしたポイントに光点がマークされてるだろ」
「うん」
「されてるな」
「黄色は自分以外がロックオンしてるという表示。
点滅はロックオン不可を意味する」
「凝ってるねぇ。
ゲームチックだわ」
それを狙ったからな。
「あっ、そうか」
ミズキが何かに気付いたような素振りを見せる。
「これがあるから誰も重複せずに魔物を仕留めてたんだ」
「はい、正解」
「でもさー、これって集中砲火を浴びせたい時とか逆に不便じゃない?」
なかなか鋭いところを突いてくる。
だが、そのくらいのことは俺も考えたよ。
「トリプルタップしてみな」
「あ、点滅が消えた」
エレベーターなんかで間違ったボタンを押した時に解除する方法を参考にした。
なお、これはどのエレベーターでも使える方法ではない。
詳しいことは俺も知らないが、メーカーの独自仕様なんじゃないかな。
「その状態ならロックオンできる」
「ホントだ」
「他にも設定画面で変更できるようにしてある」
「呆れたー。
どこまでマニアックに作り込んでるのよ」
くそぅ、マイカめ。
完成度が高いと言えないのか。
「マッドサイエンティストも真っ青だわ」
なんでだよ。
こんなの、ちょちょっと術式構築しただけじゃないかよ。
何処にマッドサイエンティストの要素があるか説明しろっての。
自動でロックオンして攻撃する訳でなし。
こんな補助的なアプリでそんなこと言われる覚えはないぞ。
「言いたい放題、言ってくれるじゃないか」
「こんなのあったら撃ちもらしなんてゼロになるじゃない」
「当然だろ、それが狙いなんだから」
「オマケに光点でマーキングしてるから狙った場所を外さないわね」
「それは使う者の練度によるぞ。
ポイントした個所に当てる技術がなきゃ外す」
「そんなのよほどの下手くそでしょうが」
「動かない的の時はな。
相手だって狙われてると知れば動くに決まってるだろ」
「あ、そっか」
「……………」
こういう部分で抜けてるんだよな、マイカは。
「それにポイントした部分は飽くまで照準目標だ」
「どゆこと?」
マイカが首を傾げている。
「目標は絶対じゃないってことよ、マイカちゃん」
俺が答える前にミズキが答えてくれた。
「……よーわからん」
「ショットガンとかマシンガンみたいな魔法を使うこともあるだろうし」
ミズキの補足説明に「ふむふむ」とマイカも頷いていた。
が、しかし──
「このアプリを使う面子で、そんな魔法はオーバーキルもいいとこじゃん」
なかなか鋭いツッコミをする。
ミズキも「ぐぬぬ」とか言いたげな顔になっている。
この2人、魔法の修行を積んできただけのことはあるな。
攻撃手段が魔法だけだと思い込んでいる。
「おいおい、このアプリは照準統合システムだぞ」
2人そろって首を傾げている。
「魔法だけが攻撃手段じゃないってことさ」
ヤクモ組に渡した武器などの映像を幻影魔法上で流した。
ショットシェルとか連射機能はないけど、銃器を見せれば充分だ。
「うっわー、エグいわー」
真っ先にマイカが引いた。
ドン引きだ。
「ハル、無茶なもん作ったわねぇ。
音もマズルフラッシュもなしでしょ」
説明もしていないのに映像だけで見抜くか。
そこは見事と言う他ないんだが。
コイツも大概だよな。
マニアでもないのに、そういう知識はあるんだから。
「アレは外に流出させるつもりはない。
仮に外部に持ち出されてもミズホ国民でないと使えないようにしてある」
「はあー、用心深いことで」
そんなやり取りをしている間にゴーレムの1体が凍り付いた。
ミズキが氷弾を使ったからだ。
体の各所に穴が空いている。
正中線上に4発、両腕と両脚で4発。
動かぬ的とはいえ狙いは正確だ。
ミズキにしてみれば朝飯前のことっぽい。
淡々と倒れていく氷漬けゴーレムを眺めている。
コストの低い氷弾壱式とはいえ魔法の多重起動も負担に感じていないか。
読んでくれてありがとう。




