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343 質問されてるうちにブリーフィングっぽくなった

修正しました。

『アニスちゃんって、→ 『ノエルちゃんって、


「どんな魔物がいるの?」


 ノエルが聞いてきた。

 俺がチェックしていることに気付いてたか。

 落ち着いて確認してくるということは状況が逼迫していないことも理解していると。

 恐れ入る。

 俺が11才の頃って、ここまでの判断とかできなかったぞ。

 こういうのって才能も必要だろうけど場数をどれだけ踏んできたかで差が出る気がする。

 今更だが未成年に修羅場を何度も潜らせてきた大人たちに怒りを禁じ得ない。

 ここで憤慨しても始まらないので【ポーカーフェイス】で誤魔化すけどね。


「魔物はトロール、オーガ、オーク、ゴブリン系だ」


「全部、人型」

 そういうダンジョンみたいだからね。

「今までと同じ。

 バーサーカーは?」


「いないな。

 いま挙げた魔物しかいない。

 ちなみにトロールとオーガは少なめだ」


「なら避難誘導に問題はない。

 魔物を倒しつつ避難している冒険者を誘導できる」


 トロールに追われていた槍男たちの練度を基準に考えているようだな。

 連中より深く潜っているなら対応力も上だろうと考えたか。

 微妙なところだ。

 戦闘力は高くても危機回避能力が低いなんてことは充分に考えられる。

 それに──


「魔物は群れ単位で動いていない」


 ノエルが首を傾げた。


「バラバラ?」


「いや、複数の種類が混在する状態で密集している。

 そんな状態で冒険者を追い回していた」


「変、普通じゃない」


 ノエルもそう思うんだな。

 通常時ならともかく、同じ獲物を追う状況下で魔物が混在密集は変だ。

 ダンジョンの影響で互いに攻撃をするなんてことはないとしても考えにくい。


「しかも今は冒険者たちが逃げ込んだ部屋の外で待機している」


 首を傾げたまま、わずかに怪訝な表情を見せるノエル。


「ますます変。

 混乱せずにその状況?」


「そうだ」


 怪訝さを更に増した表情になるのだが……


『ねえ、ハル』


 念話で横槍が入ってきた。

 マイカである。


『何だよ』


 面倒だが【多重思考】で対応する。

 しないと余計に煩くなりそうだからな。


『ノエルちゃんって、表情がなかなか変わらないね』


 今ここで指摘することかい。

 もうちょっと空気を読め。


『ようやく今ちょっとだけ不思議そうな感じになった?』


 言いたいことは分からんではないんだが。

 出会って間がないとこんなものだよな。


『何を言っている。

 表情ならころころ変わっているぞ』


『うそっ!?』


 せっかく念話範囲を限定させて俺たちだけで話しているのに顔は百面相である。

 まあ、俺のように【ポーカーフェイス】スキルがないからな。


『慣れれば分かるようになる』


『まじでっ!?』


 さらに驚愕の表情を見せてくれるので目立つことこの上ない。

 当然のように他の皆からは「何だコイツ」の目で見られることになる。

 周囲の状況からすると教えてやらんと可哀相なことになりそうだ。

 俺としては睨めっこを側から傍観する感じで面白くはあるんだがな。


『あー、ミズキさんや』


 マイカにも閉鎖した状態でミズキに呼びかける。


『……ハルくん。

 もしかして念話でこんな感じに?』


 呼びかけただけで察してくれるのは本当に助かるね。

 どういう内容であるか不明な中で何となくでも状況を理解してくれているのだから。

 細かい部分はマイカに説明させればいいや。


『そうだな。

 悪いけどフォロー頼むわ』


『うん、分かった』


『マイカには空気を読んで質問しろと言っておいてくれ』


『了解。詳しい事情はマイカちゃんに聞くね』


 そんな感じで念話は終了した。

 で、話は念話を始めた頃に遡る。


「統率されている?」


 ノエルは自分で疑問を口にして即座に頭を振った。


「そんな存在がいない」


「ああ、いないね」


 どいつもこいつも脳筋だからなぁ。

 同じ種族同士なら強い個体が仲間を引っ張るなんてこともあるだろうけど。

 仲間意識は強いみたいだし。

 だからこそ他種族と混在する形で密集するなんてことは考えられない。


「そういうことだ。

 だから、どう動くかは読みづらい」


「連係はありそう?」


 怪訝な表情は既に消え去り、真剣な目で問うてくる。

 返事次第でノエル自身の想定している情報を書き換える必要があるからだろう。

 よくよく考えたら今はブリーフィングしてることになるのかな。

 俺はノエルの質問に答えていただけなんだが。

 もしかして、そこまで考えていたのか?

 ……なんかそれっぽい気がするな。

 行き当たりばったりよりは早く終わると思うからいいんだけど。


「正直、分からん。

 混在しているが、それだけにも見える。

 だが、混乱なく行動しているのも事実だ。

 現状は比較的単純な行動原理で動いている」


「じゃあ、火属性の魔法ですべて焼き尽くす?」


 なかなか物騒なことを考えるな。

 確かに魔力コストと訓練組の練度を考えると、それがベストの選択だろう。

 トロールもいることだし。

 焼き払うのが手っ取り早いと考えたか。


「いや、訓練組は下がらせる」


 この一言に気を込めた。

 とやかく言わせないように。

 訓練組も今日のダンジョンアタックで疲労が蓄積しているからな。

 ステータスだけで考えれば、この後も任せられる能力はある。

 今日のレベルアップは思っていた以上に収穫があった。

 だからこそ本人たちも気付かぬ疲れがあるはずだ。

 一息つかないことにはミスに繋がりかねない。


「基本は待機してもらう」


 輸送機に転送魔法で送らないのはダンジョンの入り口で出入りを確認している衛兵がいるからだ。

 あと、待機になっても観察はできる。

 他の皆の戦い振りを見るのも勉強であり修行となるからな。

 これならミスをしても死ぬ訳じゃない。


「月影メインで殲滅していくぞ。

 ツバキも参加しておけ」


「心得た」


「マリカはどうすればいいー?」


「妾もじゃな」


 ウズウズしている幼女と妖艶な美女のコンビである。


「経験値を稼がせてやれよ」


「わかったー」


「それもそうじゃな」


 あっさりと引き下がってはくれたけど。


「使う攻撃魔法は基本的に氷弾壱式と弐式だ」


 ノエルの後ろでアニスが「うっわ、エグぅ」とか呟いているがスルーしておく。

 氷弾弐式のことを言っているのだろう。

 並みの爆炎球と変わらぬコストで自動追尾する術式を乗せた氷弾だからな。

 人によっては某ロボットアニメのミサイル斉射シーンを彷彿とさせるかもしれない。

 こちらの方が迎撃しづらい大きさと速さなので凶悪さは上だが。

 発射前だと見た目が従来の氷弾と変わらないからな。

 そのため壱式と弐式で呼称を変えて区別している。

 壱式がライフルで弐式がミサイルだ。


「状況に応じて風と理力魔法は使い分けろ。

 火属性は使ったことを悟られやすいので禁止する」


「避難誘導の方法は?」


「単純に引き連れていくだけだ。

 殲滅した後なら同行する者も多いと思う」


 全員が付いて来るとは思わないがね。


「変に刺激はしたくないから殲滅時は階下で待機させるのを徹底させること」

 パニクって暴れられるのが何より面倒だからな。

 その場では良くても、事後に煩いのも出てくるだろうし。

 溜め息つきたくなるくらい面倒だ。


「避難誘導に入ったら一気に次の階層へ向かわせるからな」


「テコでも動かんいうのがおりそうやけど?」


「我先に逃げようとするのが出そうだけど?」


 アニスとレイナがツッコミを入れてくる。

 息ピッタリだな。

 内容的にはどちらもウンザリするようなものだ。

 消極的ビビりと積極的ビビりといったところかね。

 いずれにせよ、そんな連中の手綱は握れそうにない。

 握りたいとも思わないが。

 考えたくはないけど世の中はままならないものである。

 しかも頻度が高そうな問題だ。

 中途半端な実力しかない連中に多そうだからなぁ。

 想定だけはしておこう。

 自力で解決できないのに要求だけしてくるような輩の面倒を見る気はない。


「言うこと聞かない奴は放置だ」


「ええのん?」


 やや不安そうにしてアニスが聞いてくる。

 責任問題とか考えてそうだな。


「一応は最初に警告だけしておく。

 それすら聞かん奴に責任がどうのと言う資格はない」


「保険をかけとくわけやな」


 アニスは納得した面持ちで頷いた。


「自己主張するってことは自己解決できるものと見なす。

 したがって我々の指示に従わない者に対して尻ぬぐいはしない」


「あー、それならスムーズに行けそうね」


 レイナなんて肩の荷が下りたと言わんばかりである。

 誰も不親切だのどうのとは言わない。

 警告付きとはいえ、死にたきゃ勝手にどうぞの方針なんだがな。

 まあ、俺が身内優先なのは知っているからなんだろう。

 痛い目を見る連中は俺が言うまでもなく自己責任と考えているはず。

 この状況下で自分のことしか考えられない連中ってことになるからな。


「ワシらは行く意味があるのか。

 単について行くだけでは足手まといだと思うのだが」


 やや心配そうな面持ちでハマーが聞いてくる。

 俺が待機させると言ったのを気にしたようだ。


「仕事はあるぞ。

 避難誘導の人員が必要になるだろ。

 支援要員がいないと前に出る人間の負担が増すということを忘れてくれるなよ」


「そうだな、それがあった」


 言いながら気合いを入れている。

 そんなに仕事がしたいのか。

 まるでワンコだな。

 厳ついオッサンなので可愛くはないが。


「あとは氷弾壱式を見て覚えてもらう。

 余裕があれば弐式もな。

 足手まといとか考える余裕があると思うなよ」


「望むところじゃな」


 俺の挑発的な言葉にガンフォールが反応した。

 ここで負けず嫌いを発動させるか。

 まあ、いいさ。


「状況によっては前に出ることも考えておいてくれ」


 何がどうなるか分からんからな。

 あまりに酷いイレギュラーは俺が対応するけど。


「他に質問は?」


「……………」


「じゃあ29層へ跳ぶぞ」


 予告して一拍おいてから転送魔法を使う。

 一瞬で場所が変化した。

 罠部屋から広めの通路へ。

 30層へ下りる階段が見える。

 転送魔法に不慣れだった者もようやく慣れてきたようだ。

 瞬間的にビクッとしたりはするが声は出さなくなった。

 さて、それじゃあ始めますかね。

 ここがスタート地点だ。

 とは言っても俺は基本的に監視するだけなんだけど。


読んでくれてありがとう。

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