337 つくってみた『アプリ:セルフステータスビューワー』
修正しました。
ガンフォールとハマーの年齢のカウント忘れです。
冒険者チェッカーなんて随分と懐かしい代物の話題が出た。
それもこれもABコンビが自分の変化に戸惑っているからなんだけど。
急成長した自分が信じられないと言った方がいいのかもしれない。
手持ちにブツはないが、一度作ったものをコピーするくらいはお茶の子さいさいである。
「それで持っておらんのか?」
ガンフォールに催促されるが、ホイホイ簡単に出したりはしない。
あんなのコピーしても使い道も使用者も限られてしまうからな。
「あ、ちょっと待ってくれ。
すぐに終わらせるからさ」
「どういうことじゃ?」
「一人ずつ手渡してなんてやってられないだろ」
答えつつ【多重思考】を駆使して作業を並列化させる。
「む? それもそうじゃが……」
術式の構築と動作のシミュレーションとメールの文面作成。
これらを数多の俺で処理していく。
自分との競争であったり共同作業であったり。
チーム俺で作業時間の短縮だ。
【多重思考】自体に【高速思考】も組み込まれているから処理速度は並みじゃないんだけどね。
「よもやこの場におる全員分を作ろうというのではあるまいな」
当たらずとも遠からずか。
「面白い発想だな。
やってできなくはないが、もっと効率のいい手がある」
ガンフォールの話に感心している間にメールの文面、完成っと。
「できるのかよ」
苦笑交じりの溜め息をついて呆れられてしまった。
シミュレーションのチェック、完了。
「相変わらず常識知らずじゃ」
そこは諦めてくれ。
国民相手に自重はしない。
「だったら国民全員が使えるものの方がいいよな」
構築した術式のデバッグ、よし。
「それは……
また大きく出おったわ」
ガンフォールが苦笑する。
「いかにするつもりじゃ?」
「ほい、終わり」
「なんじゃと!?」
目をむいて驚くのは勘弁してくれ。
なんか叱られている気分になってしまう。
「皆に便利なものを渡してあるだろ」
ピンと来ないのかガンフォールがキョトンとした表情で固まっている。
「スマホだよ。
これで送信っと」
国民全員に送信した。
説明はメールの文面で、本命は圧縮された添付ファイルだ。
今頃は国元でもヤクモでもジェダイト方面でも着信の嵐となっているはずだ。
もちろんこの場でも一斉に着信状態。
みんな格納しているから着信音は本人にしか聞こえないけど。
古参組なんかは着信音が鳴り始めてすぐに反応していた。
ミズキとマイカも携帯やスマホに慣れ親しんできたおかげで特に戸惑いは見せていない。
格納して使えることには驚いていたけど、それにもすぐ慣れたし。
「お、ハルトはんが言うてた送信てこのメールのことかいな」
「みたいね。
メールに添付ファイル?」
「添付されてるファイルを開くみたいですねー」
「「スマホにアプリが組み込まれたよー」」
素早いな双子ちゃんたち。
「えーと、なになに……
セルフステータスビューワー?」
リーシャはメールの説明文を先に読んでいるぞ。
慎重派だな。
「冒険者ギルドでチェックされるのと同じことができるみたいだな。
表示の方は制限がつかないから、もっと便利ではあるようだ」
説明的な台詞をありがとう、ルーリア。
黙々とスマホを格納状態で操作していると思しきノエル、シヅカ、ツバキ。
「あー、これ面白ーい」
さっそく使ってはしゃいでいる幼女モードのマリカ嬢。
「まめねぇ。
これって必要?」
マイカは感心するより呆れ気味。
そういうことは全部チェックしてから言ってもらおうか。
「また、そういうことを言うんだから。
【鑑定】スキル使えない人には重宝するじゃない」
ミズキも窘めてはいるが、中身をちゃんとチェックはしていないようだ。
「この機能いいかも」
最初に気付いたのはノエルだった。
「どの機能やの?」
「リンク式偽装モード」
「なんや、それ!?」
やけに驚くなと思ったが、たぶん偽装の部分に食いついてるんだろうな。
「犯罪の臭いがするわね」
レイナも言ってくれる。
「犯罪って言うな」
思わずツッコミ入れてたよ。
真っ当な機能だからな。
「世間を騒がせないよう本来の実力を外部に漏らさない表示に切り替えるモードだ」
「それ詐欺って言わない?」
「詐欺って言うな」
だんだん漫才のノリになってきた。
レイナはボケているつもりはないようだけど。
「リンク式というのはどういうことですか?」
リーシャが尋ねてくる。
「ああ、それね」
いい質問だ。
流れを変えてくれそうである。
「アプリを組み込んだ全員の状態を把握するようになってる」
「怖っ、よく分かんないけど怖っ!」
「なんでだよっ。
まだ説明終わってねえよ」
結局、こういうノリになるのか。
「全員のステータス情報を参考にして偽装情報に変更する」
「それをやったら、どないなことになるん?」
今度はアニスか。
俺の説明が分かりづらかったようだ。
だけど真面目な感じで聞いてくれるから助かる。
「結論から言えば偽装情報で頭を悩ませる必要がない。
誰かがレベルアップすると皆の偽装情報に反映される。
明らかに実力差があるのにレベルが逆転してるなんておかしいだろ」
「あ、自動でやってくれるんや」
「その通り」
こんなやり取りをしている間に訓練組も追いついてきたようだ。
スマホの扱いにまだ慣れていないというのもある。
「あのー」
ボルトが控えめな声で控えめに挙手をした。
そちらに目を向けて先を促す。
「偽装情報の方が高いレベルなんてことはないですよね」
「ああ、そんなことはないな。
気持ちは分からんではないが、それが現実だ」
ついでだから俺も確認しておこう。
拡張現実の表示でレベルは把握してるんだけど。
[エリス /人間種・ヒューマン+/魔法戦士/女/27才/レベル55→98]
[マリア /人間種・ヒューマン+/魔法戦士/女/22才/レベル53→98]
[クリス /人間種・ヒューマン+/魔法戦士/女/15才/レベル50→98]
[アンネ /人間種・ヒューマン+/魔法戦士/女/19才/レベル55→98]
[ベリー /人間種・ヒューマン+/魔法戦士/女/19才/レベル55→98]
[ガンフォール/人間種・ドワーフ+ /魔法戦士/男/66才/レベル62→98]
[ハマー /人間種・ドワーフ+ /魔法戦士/男/52才/レベル60→98]
[ボルト /人間種・ドワーフ+ /魔法戦士/男/22才/レベル53→98]
うわっ、全員が魔法戦士になってるよ。
女性陣はエリスを除いて剣士か魔導師だったんだが。
エリスだって魔法剣士だったし。
やはり武器を持たせずに格闘させたからか。
魔法も使いながらだと、こういう結果になるんだな。
レベルはそろうようにした。
単純にバーサーカーを倒す数を調整しただけだがね。
あともう一息で3桁というところまで来た。
先行していたレオーネに追いついてきたという感触がある。
レオーネがレベル113のままだからね。
このレベルで補助的なことしかしてないから、レベルアップできないのはしょうがない。
でも、お陰で色々と小技を覚えた。
ライトダガーなどの魔法もそのうちのひとつだ。
これはこれで成長と言えるだろう。
だが、裏方で頑張ってくれた御褒美があっても良いように思う。
ちょっと思いつかないので保留としておこう。
それにしても、だ。
なんというか感慨深いものがあるような、ないような。
昨日今日で訓練組を急激にレベルアップさせたからだと思うけど。
ヤクモ組は明らかに引き離しているはずだ。
あっちは魔物を狩る機会が乏しいし。
海の魔物を相手にするには相応のレベルが必要になるからさ。
ローズとハリーが頑張ってくれてはいるがね。
あちらはあちらで訓練を受けている者たちは急成長していると自覚しているようだけど。
残念ながら、こっちの方が成長スピードは上だ。
これじゃあプラム姉妹が戸惑うのも無理はないな。
現に訓練組が先程からずっと無言だ。
いや、マリアが何かブツブツ呟いている。
なんかエリスやクリスと同じレベルなのが信じられないみたいだな。
別にスマホの見せ合いをしている訳じゃない。
アプリはセルフステータスビューワーという名称だけど身内の情報は確認できるようにした。
閲覧条件は3親等以内の縁者だ。
血縁にするとマリアが3姉妹から外れてしまうのでね。
プラム姉妹もだな。
この両名も何か呆然としているね。
「おーい、聞こえるかー」
アンネの目の前で手を振ってみるが──
「……えっ、あっ、その、何でしょう?」
反応がワンテンポ遅れる。
ベリーに対しても同じことをしてみたが──
「……はっ!?
えーっと、どういうことでしょうか?」
ワンテンポ遅れるのは同じだ。
「自分のレベルにビビったみたいだな」
コクコクと頷かれた。
「あ、でも、うちじゃ3桁レベルで当たり前だから」
またしてもコクコクと頷く両名。
この辺りについては事前に話してあるから理解してくれている。
まさか、こんな短期間で到達できるとは思ってなかったようだけど。
「よく頑張ったな。
明日からしばらくダンジョンに潜れなくなる。
レベルアップはお預けだが、そこは我慢してくれ」
俺がそう言うと、滅相もないとばかりに首を勢いよく振ってきた。
「「そんなっ!」」
さすがはABコンビ。
双子のようにそろうよね。
まあ、双子として国民登録したけどさ。
「ここまで良くしていただいているのです」
アンネが真剣な面持ちで語ってきた。
そしてベリーが同じような目をして引き継ぐように口を開く。
「我が儘なことを言ってばかりでは罰が当たります」
大袈裟だなぁ。
それに、あんなことがしたいとかアレが欲しいなんて話は聞いたことがないんだが。
「言うほど我が儘か?」
気になって聞いてみたら2人して頬を染めてモジモジし始めた。
どういうことだろうと首を傾げてしまう。
そしたら背後から殴られた。
誰が犯人かは把握していたので、とりあえず受けておく。
回避すると煩そうな雰囲気を感じたのでね。
そうしておく方が被害は少ないはずだ。
痛くはないんだし。
「少しは察しろ」
何故か怒ってらっしゃるマイカさん。
なにを察しろというのかと思ったら「この鈍感」と言われてしまった。
ああ、そういうことか。
さすがは[鈍感王]な俺……なんて自慢にゃならんな。
なんにせよABコンビは我が儘だとは思わん。
こういう時にはなんて言うべきなんだろうなぁ。
ちょっと思いつかないから2人の頭を撫でておく。
不意打ちの形になったのか彼女らはビクッと体を硬直させていた。
だが、それも撫でている間に体の力が抜けていく。
モジモジはなくなったね。
うん、良かった。
あれ? でも、温泉につかりすぎた時みたいに真っ赤になってるんだけど。
何か間違えたかな、俺?
「……………」
どうしよう。
読んでくれてありがとう。




