34 国づくりは未だ入り口
改訂版です。
「やっと完成か」
思わず溜め息が漏れた。
忍精戦隊ヨウセイジャーの変身スーツ。
これを仕上げるのに1ヶ月もかかってしまった。
『まあ、皆の訓練があるしな。
漁猟や農業も同時進行だし』
そうそう時間がとれる訳じゃない。
それにデザインが定まってないせいで色々と試行錯誤もした。
どうしても時間がかかるのだ。
動きやすくて格好良くを両立させようとするとね。
『街の方も少しは形になってきたか』
こちらは、まだまだかな。
それでも区画整理をして道路を整備した。
道路はアスファルトではないが舗装したんだぜ。
『【諸法の理】で調べた甲斐があったってもんだ』
最初は石畳にするかと思ったんだが雨上がりに滑るのが嫌で却下した。
煉瓦も劣化しやすいから却下。
魔法で土を硬化させると水捌けが悪くなる。
悩んだ末に【諸法の理】で調べたら、あっさり問題解決で拍子抜けしたくらいだ。
『あれには笑ったよな。
使い道がないと思っていたゴブリンがメインの材料だもんよ』
いくらでも売りまっせ状態な上に丸ごと使って不要な部分がなかったんだから。
もちろん舗装路の材料はそれだけじゃなかったんだけど。
普通に集められるものばかりな上にゴブリンほど量は必要じゃなかった。
『補修も楽ってのがありがたいよな』
材料が簡単に集められるんだから。
それにアスファルトと違って後からでも均一にしやすいし。
鉄の車輪を作って実験したけど簡単に削れたり轍ができるようなことはなかった。
その上で妖精たちに保護の魔法をかけさせた。
訓練の一環である。
これで簡単には壊れなくなった。
『それでいて舗装路としての性能はアスファルトより上だしな』
笑いが止まらない。
まず、透水性能がある。
路面のグリップ性能も程良い具合だ。
『それにしてもアスファルトっぽく見えるのに基本の色は濃紺か』
色が違うだけで印象が随分と異なってくる。
若干の違和感はあったものの昼間の視認性は良いので問題ない。
『おまけに色を混ぜれば路側帯の処理が同時にできる』
あれって雨の時に滑るから2輪車なんかだと怖いんだけど。
『こいつは色違いの舗装路でしかないからな』
安全性が確保されている。
『後は街灯と中央分離帯で更なる安全確保だ』
とりあえず街灯は石畳の歩道とセットで設置。
歩道を舗装路にしないのは車道との区分と歩行者の安全性確保のためだ。
舗装路は車の走行には向いているが歩行者だと引っ掛かりやすく躓きやすい。
雨などで濡れたときの対策は石畳に透水性を持たせることで解決した。
これで道の上に水溜まりはできないわけだ。
道路そのものに関しては皆が不思議そうにしていたけどね。
「聞いても良いか」
ツバキが首を捻りながら聞いてきた。
「いいけど」
「かように広い道が必要になるものなのか
馬車や荷車を使うにしても、これは広すぎだと思うのだが」
『そうだよな、片側2車線とか普通にあるし』
「そういう交通機関を将来的に用意するつもりだ」
「なんと……」
目を見開いて呆れながら感心するという器用なことをしている。
「見当もつかぬ」
自動車を知らないんじゃ無理もない。
今度、動画を見せるとしよう。
交通ルールとかも教える必要があるだろうし。
タイミングとしては自転車を作るときか。
「あとは火災発生時に延焼拡大を防ぐ効果もある」
「……確かに密集した場所は火が広がりやすくなるな」
しきりに頷いている。
「どこまで先を見ておるのやら。
建物を増やす前に懸念材料を潰すか」
そう言うと深く溜め息をついた。
呆れているのか感心しているのか。
いずれにせよ道を作ったくらいでこれじゃあ先が思いやられる。
『学校とかいつになったら始められるんだろう』
先の長い話だ。
でも、住む所だけはなんとか建てた。
『いつまでもデカい櫓で雑魚寝じゃあね』
デザインは妖精たちの意見を取り入れてみた。
「………………………………………」
お城ができました。
奇妙な和洋折衷のお城が……
『どうしてこうなった』
外国人のデザイナーに日本の城を設計させたら、こうなると思う。
西洋の城をベースに日本の城のような雰囲気にしようとしたのが間違いだった。
問題ないのは地魔法で地面を岩盤にした土台だけ。
城塞本体は言うまでもなく堀と塀で囲むと違和感が際立つのだ。
斬新と言えなくもないが、普通に見れば珍妙だ。
内部は洋風忍者屋敷とでもいうべき和モダンな状態だし。
その違和感たるや……
日本の一軒家で想像してみてほしい。
畳部屋以外は土足という状態だ。
おそらく、それが感覚的に最も近い。
『ここは明治か大正か?』
タイムスリップでもさせられたかのようだった。
『欧米人とかは喜びそうだけど、何か違うよな』
でも、皆の受けは良かった。
ケチをつけたりやり直したりはできない状況だったさ。
そのうち慣れたけどね。
『これも悪くないか』
そんな風に思った自分に愕然とさせられたのは内緒である。
まあ、落胆ばかりもしていられない。
食に関しては多少は展望が良くなってきているのだ。
魚介は確実に捕れるし、狩猟も解禁した。
まだ何があるか分からないから5人一組でないとどちらも許可しないけど。
農業なんて凄いよ。
植生魔法をフルに使って強引に成長させて収穫したからね。
さすがに妖精たちには真似できなかったけど。
他の魔法も同時に駆使したし。
光に闇に風と水、あと地魔法は連作障害を防止するために大活躍だ。
土地が痩せる?
地魔法で回復させればオーケーさ。
おまけに別の季節の作物をあっちとこっちでって感じで同時に育てたからなぁ。
MPバーがグングン減るほど魔力をつぎ込んだのは伊達ではない。
半日とかからず収穫まで持ち込んでローズでさえドン引きしていたし。
おかげでレベルアップですよ。
このタイミングで? とは俺も思ったけどね。
『しかしレベル1025か。
ますます人間離れしていきそうだな、俺。
ゴブリン討伐したときはレベルアップしないことを嘆いたもんだけど』
なんにせよ食糧の確保は急務だったのだ。
俺1人だけなら、採取生活で良かったんだけど。
これからも国民を増やしていく予定だから備蓄は大事なのだ。
あとね、米が食いたい。
『元日本人が米を食わないでどうするんだよ!』
魂の叫びである。
声に出して叫んだりはしないがね。
代わりに一日で二期作ならぬ三期作やってしまいました。
人は軽挙妄動と言うかもしれないが後悔はしない。
『反省くらいはしておくか、3秒ほど』
とても反省しているとは思えない?
気にしてはいけない。
米を前にすれば些細なことだ。
そんなことを気にしている暇があったら米を食え。
俺も食ったぞ。
『おにぎりがおいしいです』
それだけのことなのに涙が出ます。
海苔も作ったし、祖母直伝の梅干しも作ったよ。
梅は近隣の山の中に自生していた木を実験農場に移植して植生魔法で育てた。
品種としては南高梅に近いようだ。
南高梅は実が大ぶりで果肉が柔らかく種が小さいという言うことなしの梅である。
耐寒性もあるから育てやすいし。
唯一ともいえる弱点が他の梅の花粉でないと実ができないということ。
しかし、俺が見つけた梅はその弱点がなかった。
『受粉樹がいらないのはラッキーだったな』
それもそのはず。
名前がミズホ梅だった。
『この国にのみ植生している品種、固有種か』
この調子だと桜もそんな感じかもしれない。
花見は来年の春になるけどな。
『あー、丸々1年寝てしまったのが腹立たしい』
けれども今の状況があるのは寝てしまうようなことをしたからなんだよな。
もどかしいけど仕方ない。
来年までに日本酒を造るってことで妥協しよう。
『あと醤油と味噌も造るぞ』
米といえば必須の調味料だろう。
現状で用意できるのは塩だけだから頑張って造らないと。
塩のように海水からささっと作るって訳にはいかんし。
あれは海水から水分とゴミを取り除くだけだからな。
魔法万歳なんだが注意も必要だ。
やってはいけないのは塩化ナトリウムだけを抽出する方法。
いわゆる精製塩ができるのだが。
こいつが曲者だ。
塩分を体外に排出しづらいくせに、さらさらで扱いやすく口当たりも良い。
しかも脳が拒否しないから過剰摂取に繋がってしまう。
結果、高血圧になりやすいなんて最悪だろ。
故にカリウムなどを含む自然塩を使うべきなのだ。
これは砂糖でも似たようなもの。
精製すると、えぐみが取り除かれる。
それが脳を無警戒にさせ、際限なく食べることで不健康体の出来上がりって訳だ。
食べ過ぎれば蓄積したえぐみのせいで美味しくなくなるぐらいが丁度いい。
『ともかく醤油と味噌だ』
原材料が大豆ということは、一から育てれば枝豆が食べられるわけで。
ビールが欲しくなる。
日本酒より先に作ってしまうかもしれん。
ビールに枝豆とくれば冷や奴。
鰹節を薄く削ってポン酢がけなんてどうかね。
豆腐も大豆だ。
なぜ、こんな大事なことを忘れていたのか。
明日以降は大豆祭りだな。
麦とか他の穀物や野菜も忘れてはいけない。
彩りと栄養は大事である。
妖精たちにも植生魔法を頑張ってもらうとしよう。
俺しかまともに農業できませんじゃ駄目だしな。
欲しいときに欲しいものが収穫できるのは今はまだ俺だけだし。
時間もそれなりにかかってる。
魔力と制御能力の差だから時間がかかるのはしょうがない。
『まあ、比較対象が俺だからな』
……自分で言ってて悲しくなるけど。
とにかく妖精たちも頑張っている。
彼等も普通なら考えられない短期間で収穫に持ち込んでいるし。
西方人が見たら卒倒するだろうね。
妖精たちの当面の目標は俺に頼らずに備蓄すること。
ツバキやカーラは亜空間倉庫が使えるから彼等で管理できるだろう。
2人じゃ限度があるから皆にも倉庫が使えるように覚えてもらうとしよう。
備蓄ができたら国民も増やしたいよな。
この際、ドラゴンでもいいから増やしたいものである。
間違ってもぼっち逆戻りコースは嫌だ。
俺には精神的負荷が大きすぎる。
『こいうときは他のことを考えるべきだよな』
なんか忘れている気もするんだけど……
『あ、ヨウセイジャーの変身セットを妖精たちに渡してなかった』
読んでくれてありがとう。




