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333 魔法の授業と方針と

 月影の一同もフラストレーションが溜まっていたようだ。

 ダンジョンに潜っているのに、ほぼ見てるだけだもんね。

 その上、収穫なしじゃ不満が出るのも無理はない。


「お宝もなしとかふざけてるわよね」


 レイナが宝箱についてブリブリ文句を言っている。


「それはいい。

 宝箱には期待していなかったから」


 普通の冒険者にとっては致命的な罠という時点でそんなものだろうと思っていた。

 よくある話だ。


「えー、骨折り損なんは堪忍してほしかったんやけど」


 アニスも文句タラタラだ。


「骨折り損?

 そんな訳あるもんか」


 俺は自信たっぷりに答えたがアニスの視線は懐疑的だ。


「訓練組が色々と経験を積めたんだぞ。

 しかも授業料はタダだ。

 これを儲けと言わずして何と言うのかね、アニスくん」


 問われたアニスは意表を突かれたかのように目を丸くした。

 すぐに苦笑していたけれど。


「はー、そういう考え方もあるんやね」


 素直に感心している。


「とにかく何もなさそうなら訓練組は集合」


「何をするんじゃ?」


 壊れた宝箱を品評していたガンフォールが聞いてくる。


「大したことじゃない。

 調査用に便利な魔法を習得してもらう」


 マルチライトの魔法、今なら新規国民組でも大丈夫だろう。

 光と理力の両方の属性を使うから最初は戸惑うことも考えられるけど。

 制御の練習になるはずである。


「マリカもおぼえる?」


 小首を傾げて幼女さんが聞いてくる。

 くっ、桃髪ツインテ天使さんに匹敵する破壊力を持った可愛らしさだ。

 そういう仕草は何処で覚えてくるのかね。

 ……いかんな、いかんいかん。

 俺に幼女趣味はないのだ。

 そうでなくてもYLNTとか言ってくる不心得者がいるのだから。

 変に心を揺さぶられる訳にはいかん。

 一般的に見て可愛らしい、以上。


「覚えると便利だな」


「わかったー」


 そんなこんなで皆を集めて簡易講習会を開く。

 とはいえ口頭で軽く説明して実際にやってみせるだけで終わりだ。

 後は各自で挑戦の流れになる。


「できたー」


 マリカさんが一等賞である。

 なんというか元気いっぱいに手を挙げて微笑ましい感じだね。


「2番……かな」


 ミズキが控えめに言いつつマイカの方を見ている。

 密かに競争していたようだ。


「あー、悔しい。負けたー」


 全身でジェスチャーしているマイカだが見た目ほど悔しがっていない。

 まあ、遊び感覚だ。


「できました」


 レオーネも成功する。

 そこからは数分待っても成功者が出てこなかったので宿題にした。

 割と惜しい所まで行ってたんだけどね。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 その後の方針について急遽変更することにした。

 まあ、思いつきである。

 召喚トラップが拍子抜けだったことも一因ではあるか。

 それについては仕方のないところだと思うがね。

 ダンジョンの規模からしても、あれで目一杯だったはず。

 むしろ、このフロアの罠としては過剰反応だったとも考えられる。

 ダンジョン全体を管理する上で罠ひとつに注力し過ぎるとバランスを崩してしまうからな。

 維持と拡大を目的とするものが弱体化に繋がりかねない無理をするとは思えない。

 たかだか罠ひとつに全力は傾けたりはしないということだ。

 となれば──


「ここから深層へ一気に行くぞ」


 古参組は「ああ、また始まった」みたいな顔をしている。

 訓練組もABコンビ以外は何となく俺が何をするつもりか察したようだ。


「えー、どうすんのさ?」


 マイカは見当がつかないらしい。


「穴を掘るの?」


 ミズキは分からないなりに想像している。


「モグラじゃないんだからさー。

 それに真下と下の階層が繋がってるとは限んないじゃんか」


「そこは地下レーダー?

 ハルくんの魔法があるでしょ」


 いや、違うからね。


「そっかー、その手があるか。

 にしても地下レーダー反則だわー。

 ハルってば、まるでモグラじゃない」


 嫁コンビは本気で俺が穴を掘ると思い込み始めている。

 マイカはモグラとか言い出すし。

 ダンジョン内では外で地面を掘るのとは訳が違うことに気が付いていないな、これは。

 一定上の掘削量になるとダンジョンが抵抗してくるからな。

 それはノエルが消耗していたことで証明されている。

 ダンジョンは外部の力による変形には拒否するかのように抵抗するからな。

 そのぶん魔力を余分に消耗することになる。

 魔法士なら穴を掘ることすらできないんじゃないかな。

 地属性の得意な魔導師でどうにかというレベルだろうね。

 俺ならすぐに回復するからチャラにできるけど。

 とにかく穴は掘らない。

 掘ってもダンジョン側が修復しようとするからな。

 それに全員を理力魔法で浮かせて下りるって面倒だ。


「そんな真似するくらいなら転送魔法を使う」


「うわ、なにその反則技」


 さっきから反則反則って連発してくれるじゃないか、マイカさんよ。

 深い所に行けば多少は君らも暴れられるはずなんだが?

 それを口にすると、変にやる気スイッチが入りそうなので黙っていることにした。


「大丈夫なの?」


 ミズキは実行後の心配をしている。

 行き当たりばったりのマイカとは違うね。

 こういうのは性格がストレートに浮き上がってくる。

 大学時代を思い出す。

 レポートの提出とか試験前とかな。

 マイカはギリギリまで手をつけずに駆け込む感じでラストスパートをかけていた。

 一方のミズキは計画的に余裕を持って対応してたんだけど、マイカに巻き込まれていたな。

 付き合いがいいというか面倒見がいいというか。

 逆に遊ぶ時はマイカがリードする感じなんだけど。

 まあ、昔を懐かしむのも程々にしておこう。


「転送先のこと?」


 ミズキの懸念を確認する。

 コクコクと頷いて返すミズキ。

 輸送機内に長距離転送してきた時のことを忘れているな。

 それともダンジョン内での転送にはペナルティがあると勘違いしているのか。

 あー、あり得るな。

 ゲームとかだと転送系の魔法とかアイテムが使えないことがあるし。

 仮にそういうのがあっても力技でねじ伏せるけど。

 いずれにせよ実際は穴を掘るよりは現実的だったりする。


「そのために地下レーダーがある」


「あっ、そうだった」


「やっぱり反則でしょ、その魔法」


「そんなこと言われてもな。

 使えるものは使わないと損だ」


「それもそっか」


 納得してくれるなら何だっていいけどね。

 反則とか言われるのは心外である。

 やはり本命は言わなくて良かったな。

 実際は【天眼・遠見】スキルも使っている。

 地下レーダーでフロア全体を把握してピンポイントはスキルで確認と。

 そんな感じでマッピングしながら転送する場所を探している。

 【多重思考】を使ってね。

 すでに地下30層までは確認済みだ。

 とりあえず地下30層だとオーガもチラホラ見受けられるな。

 50層ぐらいまで行かないとパワーレベリング的には物足りないか。


「だったら、さっさと行きましょ」


 まだ下のフロアを確認中だっての。

 せっかちなんだから。


「いや、まだ行かない」


「「だああぁぁぁっ」」


 前のめりに数歩ばかりよろめく妻コンビ。

 ここで、ずっこけますかね。

 明らかにどこかの新喜劇なノリである。

 大学時代、長期の休みで関西に行った際に見てきたみたい。

 やたら気に入って自分たちでもやるようになった。

 ミズキまで一緒になってやるとは思わんかったから当時はビックリしたけどね。

 今は周囲にいる皆が何事かと呆気にとられている。

 そりゃそうだ。

 あのオーバーアクションは日本のあの地域でしか見られない。

 ある意味、希少価値すらある。

 とにかく慣れれば大袈裟な感じが面白く感じるんだろうけど、見慣れていないと戸惑うばかり。

 古参組は動画とかで色々見ているお陰ですぐに立ち直ったけど。


「そこで懐かしいネタを持ってくるとはな」


「いいじゃん、いいじゃん」


 マイカが駄々をこねているがスルーだ。


「行きたい階層まで調査し終わってないから休憩だ」


「こらー、ハルー」


「時間も丁度いいし昼飯にしようぜ」


「無視すんなー」


 こういうときはミズキもフォローしない。

 他の面々が「いいのかな」と言いたげにチラチラ見ているが華麗にスルー。


「おでえかん様、おねげえしますだ」


 縋り付いてきたマイカにチョップをかます。


「誰が代官だ、誰が」


 俺のツッコミにミズキがパチパチと軽めの拍手を入れてくる。


「久しぶりの代官ごっこだねえ」


 確かに。

 思わず乗ってしまったが、周囲は置いてけぼりだ。

 どうすんの、これ?

 なんて風に思ってもやることは変わらない。

 淡々と食事の用意をする。

 まず、現在いる部屋を内側から厳重に封鎖する。

 力技でも魔法でも入ってこられる冒険者はいないだろう。

 地魔法で岩の扉を設置して結界でガチガチに固定したからね。

 続いて転送魔法で輸送機に戻る、と。


「こらー、戻ってどうすんのよ」


 すかさずマイカのツッコミが入る。


「え? 昼飯の準備だけど」


 返事をしている間にツバキが準備に入った。

 今日のメニューは何だろな。

 お、訓練組は固まって議論モードに入ったか。

 宿題をクリアするべく情報交換している。

 あーでもないこーでもないと話し合っているな。


「これじゃあ、ダンジョンに潜った意味ないじゃん!」


 そしてマイカは噛みついてくる、と。


「確かに風情がない気がするね」


 ミズキもかい。

 なんだよ、そんなにおかしなことしたか?

 他の皆は気にしてないだろ。

 まあ、言いたいことは分かるけどな。

 確かに風情はないから。

 だがしかしだ。


「君たちは大事なことを忘れているな」


「「なにを?」」


「今日の俺たちの目的は訓練組のパワーレベリングだ。

 ダンジョンの探索は手段であって目的ではない」


 どうだ、ぐうの音も出まい。


「ああ、そうだったわね」


「うん、忘れてた」


「……………」


 やけに軽いな。


「今日の昼ご飯はきつね月見うどんだ。

 麺が伸びないうちに早く食べよう」


 ツバキから声がかかると、皆いそいそと席に着く。

 まっ、いいか。

 細かいことを気にしてうどんの麺が伸びるのは御免被る。

 例外的にフニャフニャのうどんが名物の地方もあるようだけど。

 それを否定はしないが俺の好みは麺に腰がある方だ。

 できれば、うどんで一番好きなカレーうどんが食べたかったが。

 それはまたの機会にということで。


読んでくれてありがとう。

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