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33 夕餉を前に思うこと

改訂版です。

「晩ご飯の当番は誰だー?」


「「「「「子供組でーす」」」」」


 俺の問いかけに近くにいた妖精たちが答えた。

 言われて周囲を見渡して探してみると、確かにいるな。

 チビちゃんたちが奮闘している。


『地魔法で作業台を作成したのか。

 制御が上達しているじゃないか』


 単なる箱じゃなくて下駄の歯のように二枚の板で天板を支える形になっている。

 四本脚にしなかったのは石材の強度とバランスを気にしたのだろう。


『向上心があると言うべきなのかねぇ』


 単なる修行マニアと言うべきかもしれないが。

 忍者=修行と思っている節があるからな。

 なんにせよ作った台の出来が高級家具っぽくて使用後に壊すのが勿体ないレベルだ。

 魔法の精度を上げるためなら嬉々として壊しそうだけどな。


『壊すのも修行のうちとか言いそうだよな』


 で、俺が用意したまな板を置いて食材をさばいている。

 包丁さばきもすでに素人のそれではない。

 魚の鱗を綺麗に落とし、三枚に下ろしていた。

 仕上がりも綺麗だ。


 その隣では昆布の水分を魔法で強制的に奪っている。

 乾燥させないと昆布の旨味は引き出されないのは教えたけどな。


『水魔法で無駄に高度な制御をするかよ』


 生活魔法の乾燥で充分なはずなんだが。


『……これも修行か。

 本当に好きだよな』


 昆布で出汁を取って魚介を使う。

 潔いほどに他が何もない。

 今までは適当に切った食材を火魔法で炙って終わりだったというし。

 あれこれ手を出して失敗しないように単品にしたのだろう。

 料理の基本はまだまだ教えたばかりだからなぁ。


『メニューは海鮮汁だな』


 寸胴鍋を用意しているし、間違いなさそうだ。


『どれ、味見をしてみるか』


 翼竜の革や肉を倉庫に放り込んで立ち上がる。

 捌いた直後で血塗れに、とはなっていない。

 周囲に血溜まりや血飛沫の痕跡ができているということもない。

 戦闘後、理力魔法で真っ先に血は抜き取ったからな。

 既に流してしまった血も素材として回収。

 地面に流れ落ちたせいで選別は必要だったけどね。


 まあ【多重思考】と【天眼・顕微】の神級スキルで作業すれば特に問題なかったけどね。

 そのうち【精密制御】という細かい作業をするための特級スキルを得たりしたけど。

 しかも下位互換のスキルに上級の【微細制御】があるとか。

 なんか一足飛びにゲットしてしまったみたい。

 回収作業が終わる頃には熟練度MAXだったのには笑ってしまったけど。


『神級スキルのコンボ恐るべし』


 どちらも熟練度は半分にすら到達していないんだが……

 今ここで極めてみたい気もするがスキルポイント馬鹿食いするからなぁ。

 特級以下のスキルと比べてもレートが著しく悪いし。


『無駄遣いはしたくないし……』


 ケチくさいと思われるんだろうけどさ。

 祖父にはよく言われたものだ。


『それが本当に欲しいものなら買えばいい』


 だから免許取り立ての頃にスポーツカーを買ったときも反対されなかった。

 アルバイトで祖父にお金を返すことにはなったけどね。

 そのおかげか中古だけど大事に乗っていたよ。


 祖父に言わせると、衝動買いは物を大事にしないから良くないんだそうだ。

 俺も祖父もまったくそういう買い物をしなかったわけじゃないが。

 それでも考えて買い物をするクセはついた。


 今の状況も似たようなものだ。

 神級スキルの熟練度をポイントを使って上げるのは衝動買いだよな。

 特に困っているわけじゃない。


『ここでポイント使うのはなしだな』


 地道にやっても熟練度は上がるんだから。


「ん? まだ煮込む前の段階だったか」


 子供組が鍋を囲んで魔法で火を使い始めていた。

 まだ味見をするには早そうだ。

 嘆息と共に苦笑してしまう。


 誤魔化すように周囲を見渡した。

 大地が夕日に照らされている。


『何にもないな』


 自然はある。

 海も山も川も。

 だが、人の営みを感じさせるものがない。


『農地はあるか』


 だが、耕しただけで何も植わっていない。

 明日以降、色々と実験してみる予定だ。


 背後を振り返る。

 長い影を地面に映し込む櫓があった。

 全員で雑魚寝するためにやっつけ仕事で作ったものだ。

 屋根はあるけど壁はない。

 結界魔法で風雨をしのぐようにしたから省略した。

 一国の首都にある建物としてはショボすぎる。

 本格的に住む所を用意するまでの仮のものだからしょうがない。

 どうせ解体するんだし。


『小さいなぁ』


 50人以上で雑魚寝するためのものだから単体では大きいと思う。

 だが、ミズホシティの何もない平地の広さに比べれば……

 今はまだ集落規模だからな。

 いつかこの地を人で満たす日が来るだろうか。

 現状のまま発展すると妖精だらけになりそうではあるが。


『決めた!』


 俺の国では人間以外でも国民は人と定義する。

 異論は認める。

 国外限定で。

 ミズホ国以外のことを気にしている余裕はないのだ。

 建国しただけで、全員が住めるまともな住処すらないからな。


 屋敷は倉庫の中にあるけど全員を寝泊まりさせるには狭いと言わざるを得ない。

 もちろんインフラ整備なんてこれからだし。


 冒険者の登録もしたい。

 国民の勧誘だって続けるつもりだ。

 問題はいずれも他所の国に行かなきゃいけないということである。

 そんなの何時になったらできるのやら。


『大陸の東半分は巨大山脈で完全に遮断されているからなぁ』


 向こうから進出してくるなど考えられないことである。

 大陸を横断できたのはツバキだけ。

 しかも隠密行動の得意な彼女が逃げ隠れしながら何年もの時間をかけてである。

 それだけ大陸東方は危険領域なのだ。

 生活圏を広げながらなど考えられはしない。


 じゃあ、自分からってことになるのだが……


『ハッキリ言って、そういうのは後回しだよな』


 国づくりからして始めたばかりなのだ。

 というより、ほぼ手付かず状態。

 目の前のすべきことを先に片付けないとな。


 まずは農業で植生魔法を試すだろ。

 妖精たちの訓練をして変身スーツの作成も進めよう。

 区画整理して道路も作っておきたいな。

 舗装した道を自転車で走ってみたい。

 自転車くらいなら【万象の匠】スキルがあるから片手間で作れそうだし。

 バイクや車はさすがに後日だがね。


『それよりも、だ。

 そろそろちゃんとした住処を用意しないとな』


 倉庫内で死蔵していた城塞は結局のところ資材として解体した。

 禍々しすぎて精神衛生上よろしくないのでね。

 武器とかは酷くないのに魔族のセンスは理解できん。

 他の種族が苦悶する姿を見ることこそが連中にとっての癒やしのようだけど。

 要するにそういうデザインなのだ。


 あれを勿体ないと言い切ったベリルママも凄いと思う。

 まあ、俺が作り替えることを前提にした発言なんだろうけどさ。


『あ、ベリルママで思い出した』


 神社を建ててベリルママを祀らないといけない。


『西方のどの宗教もベリルママを祀ってないからなぁ』


 希に地上に姿を現す亜神を神だと思ってる節がある。

 しかも降臨したときに名乗ったりしないから勝手に名前をつけられているし。

 俺的に微妙だと思ったのは、人間の間ではラソル様が主神だってことだ。


『それって世界がしっちゃかめっちゃかになりそうなんだが』


 眷属筆頭だけあって仕事はちゃんとこなすそうなんだけど。

 実情を知っている俺からすれば詐欺だと訴えたくなる。

 せめてルディア様が主神であったならね。


『そういや、お仕置きは終わったのかね』


 確か折檻フルコース3倍だったはず。

 案外、終わってなかったりして。


『寒気がするけど今度メールで問い合わせておこう』


 俺があれこれと考えている間に、子供組は材料の煮込みに入っていた。

 思った以上に手際がいいようだ。

 俺が子供たちの側に行くと鍋を囲んで魔法を使っていた全員が一斉に俺を見た。


「あっ、陛下。

 お疲れ、さま……です」


 ロシアンブルーのケットシー、ルーシーがおずおずと、しかし真っ先に声をかけてきた。

 いじらしいというか可愛らしいというか保護欲をくすぐる奴だ。

 いや、子供組はタイプは違えど皆そういう庇護したくなる感じである。

 日本でペットを飼おうと思わなかった俺が心を揺るがされるとは。

 いみじくも不覚を取ってしまった。


 それでいて並みの冒険者とは比べ物にならない戦闘力を発揮するのだ。

 愛くるしい見た目からは想像もつかんな。


『実にけしからん』


 どういう具合でけしからんかというと、隅々までモフりたくなるくらいである。

 大学時代の女友達と違って俺はモフリストでないにもかかわらずだ。

 鋼の精神力で耐え抜く。


「今日は海鮮汁に挑戦したにゃ」


 三毛のケットシー、ミーニャが屈託のない笑顔で報告する。

 こいつも可愛いが耐えるよ。


「いい匂いがするでしょー」


 シェルティのパピシー、シェリーも自慢げに報告してくる。

 耐えられるさ。

 パピヨンとチワワのパピシー、ハッピーとチーは何も喋らない。

 機嫌が悪いとかでなく、はにかんでいるだけだ。


 とにかく皆、楽しそうである。

 それ故に愛くるしいのだ。

 ふりふりと尻尾を振ってつぶらな瞳で見てくるとか、マジ反則。


『くっ、負けぬわ』


「よそ見はするなよー。火力調節に集中しろ」


 やっとの思いでそれだけを口にする。


「「「「「はーい」」」」」


 全員が返事をした。

 よそ見をしている間も魔法の火は乱れていなかったのは見事なものだ。

 しかも、かなり非効率的なことをしている。


 彼等が使っているのは生活魔法の種火。

 本来この魔法はマッチ程度の火を数秒間灯すような代物である。

 ハッキリ言ってしまえば使い所の限られる魔法だ。

 日常生活においては重宝されるがゆえに生活魔法と呼ばれている。

 コレしか使えないなら魔法使いとしての力量を問われるのだが。

 いわゆる魔術士扱いされてしまう状態だな。


 子供たちはその魔法を拡大し火力を増して使っていた。

 なおかつ連続使用するという無駄に消耗する力業を見せている。

 他の妖精たちも当番の時はこうしているが、最初に始めたのは子供組だ。


 彼等によると魔法修行の一環だというので俺は指示も命令もしていない。

 おそらく魔法士レベルではこんな真似はできないだろう。

 いや、魔導師でもこういう制御方法は無理だな。

 放出型魔法使いの限界である。


 そういう意味では妖精たちは大魔導師級だ。

 まだまだ甘い部分もあるから鍛え甲斐があるけどね。


『おっと、味見を忘れてる』


「ちょっと味見させてもらうぞ」


 俺がそう言うと子供組がビクッと反応した。

 ビビられているみたいで悲しい。


「味見……する、ですか」


「自信作だニャ」


「ドキドキ」


「「……はい」」


 理力魔法で指先ほどの大きさの汁を浮かせ、そのまま口の中にパクリ。

 ちと薄い気もするが、このまま具を煮込めば大丈夫か。


 ウィンク&サムズアップで合格点を出した。

 すると子供組全員がホニャッとした笑顔になる。

 不意打ちだ。

 それは反則だろう。


『断固、抗議……しない』


 俺の心は敗北したが嫌な気分じゃない。

 ともかく料理の腕も間違いなく上がってきているのは喜ばしい。

 妖精たちの今後が楽しみだ。


読んでくれてありがとう。


直接モフるだけがモフモフではないのかもしれない……

視モフとか高度なモフリストにいそうだと思うのは私だけ?

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