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321 さらにドウシテコウナッタ

 皆にどう説明するかは後回しにした。

 全く考えない訳ではない。

 【多重思考】で考えておくさ。

 これは大事なことだから面倒とか言ってられない。

 バックグラウンドで複数の自分と相談して決めるべきだろう。

 ただし、これにばかり集中する訳にもいかない。

 疑問に思ったことも解消しておきたいし。


「ところでミズキさんや」


 という訳で聞いてみることにした。


「なに? ハルくん」


「一番乗りってどういうことよ」


 色々と考えてみたけど分からない。

 押し倒されてのし掛かられたことを言っている訳ではあるまい。

 それくらいは誰にでも分かることだが、その先が俺にはサッパリなのだ。


「えっ、あの、それは……」


 意外な反応である。

 なぜかミズキは顔を真っ赤にしてしどろもどろになっていた。

 俺はもしかして変なことを聞いたのだろうか。

 そういう反応をされると不安になるんですがね。

 変態認定されるような質問ではなかったと思うのだが……


「プロポーズのことだよ、ハル」


 さらっと教えてくれたのはマイカだ。

 あっさり言った割には、こちらも顔が赤いけど。

 えーと、瞳が潤んでいるんですが。

 ミズキもか。

 俺も落ち着かない。

 反射的に【ポーカーフェイス】を使ってしまったほどだ。

 お陰で顔が赤くなったりはしないんだけど。

 内心の方はドキドキしっぱなしだ。

 惚れてた女たちがずっと綺麗になって熱のこもった視線を返してくるんだぜ。

 これで何も感じないなら鈍感じゃなくて感情があるのか疑わしくなる。


「あー、そういうことか」


 確かに俺は誰からもプロポーズされていない。

 そういう意味では一番乗りを果たすことができるはずだったのだ。

 ただし、俺からプロポーズしたことで阻止されてしまった形になる。

 それ以前に婚姻状態だったからな。

 厳密に言えば俺のプロポーズも無効ということにならないか?


「あらー、御免なさい。

 サプライズ失敗ね」


 ベリルママもそのあたりに気付いたのだろう。

 2人に謝っている。


「いいえ、いいんです」


 プロポーズできなかった割にミズキは晴れやかな笑顔をしている。


「そうっすね」


 マイカも同じだ。

 両名にとって俺にプロポーズするというのは決して軽いものじゃなかったはずだ。

 己のすべてを懸けるほどだったのだから。

 簡単に吹っ切れるものなのだろうか。

 そんな疑問は次のマイカの言葉で霧散した。


「ハルからのプロポーズが聞けたんだし」


「……………」


 思い返してみる。

 ログを確認するまでもないな。

 確かに俺は責任を取ると言った。

 もっと格好良い台詞にしておくべきだったと反省することしきり。

 今更である。

 将来、根に持たれないことを切に願う。


「そういや、あの時驚いていたけど……」


「ハルからしてくれたからな、プロポーズ」


 ああ、やっぱり。


「私達の夢だったけど」


「言ってもらえそうになかったからな」


 2人して苦笑している。

 それで彼女たちの方からプロポーズする気になったんだな。

 ようやく理解した俺は恥ずかしさと己を責めたくなってしまう気持ちで一杯だ。

 針のむしろに座らされている気分である。

 彼女らの気持ちを明確に知ってしまった今、申し訳なさが巨大な津波のように押し寄せてくる。

 [鈍感王]なんて称号がつくのも伊達じゃないな。


「驚いたけど嬉しかったよ、ハルくん」


「だな」


 2人が柔らかく笑みを浮かべた。

 そう言ってもらえるなら何よりだ。


「私たちがプロポーズするつもりだったけど」


「予定以上の結果になったから」


「「これでいいのよっ」」


 なんてことはない一言。

 にもかかわらず俺には忘れられない最高の言葉として伝わっていた。

 プロポーズし返されたかのようだ。

 とたんに恥ずかしくなる。

 咄嗟に【ポーカーフェイス】を使っていた。

 これって逃げだよね。

 良くないとは思うんだが、条件反射は防ぐのが難しい。

 とりあえず次回以降の課題ということにしておこう。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 結局、転送魔法で皆を呼び寄せることにした。

 あれこれ考えるより行動すべきと言う結論に達したためだが。

 ヤクモ組とジェダイトシティ組は保留だけどね。

 人数が多くなりすぎて混乱するのが目に見えているから。

 呼びに行ったら魔法の特訓を受けている面々がグッタリしていたので驚いた。

 あのガンフォールでさえ膝をついている。

 ハマーやボルトなんて仰向けに寝っ転がった状態で荒い息をしていた。

 3姉妹とABコンビは四つん這いで顔が上げられない状態。

 各々のHPが2割前後ほど減っているが怪我をしたとかではないようだ。

 MPがスッカラカンに近い状態からするとHPをMPに変換したんだろう。

 要するに自分の体力を魔力に変換して魔法を行使したってことだ。

 ポーションを渡すタイミングで俺が来たようだな。

 渡されたポーションを飲んでHPもMPも回復はした。

 それでも疲労の余韻のようなものは残るけどな。

 初めてだと、すぐに立ったりはできない。

 どう考えても初心者には無茶なトレーニングである。

 ここまでのものはヤクモ組でもやっていないくらいなんだが。

 相応の効果は見込めるけどさ。

 俺はここまでやれと指示した覚えはないんだぞ。


「ツバキ……」


「すまぬ、主よ」


「申し訳ありません」


 ションボリしているツバキとリーシャ。


「リクエストに応えた結果。

 少しやり過ぎた。

 反省している、後悔はしていない」


 誰だ、ノエルに妙な台詞を教えたのは。

 神妙な面持ちなので本気で反省しているとは思うけど。


「リクエストだって?」


「死なない程度に厳しくという要求があったもので」


 ばつが悪そうに答えるルーリア。

 これは俺の責任だな。

 完全に任せきってしまった結果がこれなのだから。

 新国民組の焦りに対する認識が甘かった。


「今夜はこれ以上のトレーニング禁止だ」


 抗議のブーイングが返される。

 ガンフォールにエリスも加わるかよ。

 このまま休ませて俺だけミズホシティに引き返そうかと思ったけど、無理だな。

 俺がいなくなったら、また無茶をする。


「これ以上は寿命すら縮めると知れ」


 マジな話だ。

 生命力を削って魔力を絞り出す行為だからな。


「熱意があるのは天晴れだ。

 が、命を削る行為は愚か者でしかないぞ」


 さすがにこう言われると抗議していた一同も黙り込んでしまう。


「すまない」


 身内だけなので頭も下げる。

 ABコンビが泡を食っているな。

 まあ、王が軽々しく頭を下げるとは思っていないんだろう。

 俺はよその王とは違うのだよ。

 そのあたりを知っているハマーやボルトはABコンビよりは落ち着いている。

 注意を受けた後で謝られるとは思っていなかったようで、多少は動揺しているようだが。

 渋い顔をしているのはガンフォール。

 前に俺が注意されているからな。

 王が軽々しく頭を下げるなと。

 身内だけで、しかもごく僅かしかいないから何も言わないのだろう。

 後は無茶をしたことで後ろめたさのようなものもあったと思われる。


「皆の焦る気持ちは分からなくもない。

 俺も無茶をしてきているから偉そうなことも言えないんだがな」


 この世界に降り立ってすぐにやっちまったからな。

 レベル4桁になる家造り。

 無茶にも程がある。

 ベリルママがいなかったら死んでたはずだ。

 それどころか魂にも深刻なダメージがあったんじゃなかろうか。

 1年間も眠りにつくことになったし。

 目覚めたらベリルママに叱られたのは当たり前のことだったのだ。


「無茶をしたからこそ言えることもある。

 命を粗末にするな。

 そうしないために皆を鍛えているんだ。

 矛盾することはしないでくれよ」


 俺がいつもより熱を込めて喋っていることで皆も真剣に聞いてくれている。

 その後は事情を説明して一緒にミズホシティに来てもらうことにした。

 言葉で説明すると時間がかかるので魔法を使ったけどね。

 夢魔法のクイックメモライズだと任意に編集した記憶を譲渡できるから便利だ。

 場合によっては受け取る側が酷い頭痛に悩まされたりするんだけどね。

 睡眠学習的に使うスリープメモライズだと、そういうデメリットはない。

 時間をかけてゆっくり譲渡することで脳への負担が少ないのだろう。

 今回は時間がないのでスリープメモライズは使えない。

 故に光魔法のリムーブペインで対処しておいた。

 そこかしこから「うっ」とか「うぷっ」という呻くような声が聞こえてくる。

 まるで乗り物酔いのような……

 しまった、情報量の多さに酔ったのか。

 スリープメモライズをベースに術式を構築したのが良くなかったか。

 いや、一から構築しても結果は同じだったろう。

 痛みに気を取られるあまり情報酔いを失念していたんだからな。

 慌てて光魔法のリムーブシックネスを使った。


「……………」


 大丈夫そうだ。

 あー、焦ったぁ。

 今度から新魔法はシミュレーションを念入りにしておこう。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 ミズホシティに戻ってきた。

 俺がゲールウエザー王国に転送魔法で跳んでいる間に妖精組も集まっていたようだ。

 事情の説明は済んでいるということで非常に助かる。

 面倒くさいのは嫌だもんね。

 そして、もはや定番の土下座タイム。

 新規国民組で土下座しなかった者は誰一人としていない。

 エリスやクリスでもダメだった。

 ノエル以外は月影の面々もダメだったほどだからな。

 ベリルママも最初はどうあっても土下座の回避は無理だと諦めたようだ。

 慣れれば大丈夫であるのは妖精組が証明してくれているしな。

 なんだかんだで半時間は土下座し続けることになった面々は半分はグロッキー状態。

 無理もないか。

 魔法のトレーニングで無茶をして俺の魔法で気分が悪くなって、だもんな。

 その一方で──


「うちもハルトはんと結婚したいっ!」


「あたしもっ!」


 アニスとレイナがとんでもないことを言いだした。

 俺、何処でフラグ立ててたんだ?

 サッパリわからん。

 言うまでもなく、そんな覚えもない。

 気分は「責任者出てこい!」だ。

 あ、この件に関しては俺ってことになるのか?

 勘弁してくれ。

 ドウシテコウナッタ……


読んでくれてありがとう。

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