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319 鑑定して事情を確かめる

 俺の昔馴染みで同い年だった三十路中盤の女たち。

 その名は諏堂瑞季と司馬舞佳。

 両名とも大学卒業後は会う機会がなかったが、写真入りの年賀状は毎年受け取っていた。

 普段はテキストメールのやり取りが中心だったからね。

 年に1回は現在の自分を見せようってことで始めたことだ。

 最後に貰った年賀状では老けたなと思った。

 いや、毎年貰っているので急にそうなったと思った訳じゃない。

 並べてみれば徐々に変化しているのは分かる。

 それだけに卒業直後のものと現在のを比べれば、な……

 もちろん、彼女らに指摘することはなかったさ。

 どう若作りしても大学時代の容姿には戻れないなんて言った日には修羅場が待っていたことだろう。

 そうなったら視線だけで殺されていた自信がある。

 ……じゃなくて!

 俺が言いたいのは彼女らが若返っているってことだ。

 エステ通いなんかで若々しくなったとかじゃない。

 本当に若返っている。

 それこそ大学時代のミズキチやマイマイよりも若いもんな。

 外見だけで言えば、女子高生くらいに見える。

 だけど大人っぽさも兼ね備えていた。

 矛盾しているように思えるだろう。

 が、それは日本人には見えないせいである。

 彼女らは黒髪黒目の生粋の日本人だった。

 にもかかわらずプラチナブロンドの髪。

 瞳も濃紺に銀が混じった俺にとってはお馴染みとなった色。

 俺自身の現在の瞳の色だ。

 そして顔の輪郭も変わってしまっている。

 目鼻立ちもリファインされていた。

 昔の面影は微かにしかない。

 無神経な奴なら「整形した?」とか聞いてしまうだろう。

 俺? 聞かないよ。

 いくら何でも無神経すぎるだろ。

 そもそも、そんなものじゃないことは端っから分かっている。

 俺にも覚えがあることだからな。

 魂を半分喰われた俺が経験したこと。

 ベリルママに魂だけでなく体も補ってもらい容姿が変わった。

 あの時と同じなのは疑いようもない。

 ただ、この2人が魂を喰われたとは思わないがね。

 神の欠片が撤去された世界でエリーゼ様が魂喰いの跳梁を許す訳がない。

 ない……よね?

 いくら丸投げ名人でも仕事を放棄したりはしないさ。

 でなきゃベリルママの上司なんてできない。

 だから彼女らの魂は傷ついていないはず。

 そこは安心できるのだけれど。

 ならば何故、ミズキチやマイマイはこの姿になったのかという疑問が残る。

 魂の損傷なしでも俺と同じ手順を踏めば俺と同じ状態になるのだろう。

 髪の色は違うけれど。

 そこは鑑定すれば分かることか。

 種族がエルダーヒューマンならビンゴである。

 という訳で【天眼・鑑定】タイムだ。


[ミズキ・ヒガ/人間種・エルダーヒューマン/-/女/17才/レベル350]

[マイカ・ヒガ/人間種・エルダーヒューマン/-/女/17才/レベル350]


 ビンゴでしたー。

 予想通りの種族で年齢も俺に合わせてある。

 女子高生くらいに見えるのも17才なら当然か。

 今の俺と同い年とはな。

 ますます俺と同じように生まれ変わったということになる。

 至れり尽くせりなんだが、俺と髪の色が違うことが気になった。

 ベリルママがミズキチとマイマイを生まれ変わらせたのなら銀髪のはず。

 それとも魂の損傷がない状態から生まれ変わると別の色になるのだろうか。

 そう思って詳細を確認すると、とんでもないことが判明した。


[セールマールの管理神エリザエルスの娘として生まれ変わる]


 なんじゃ、そりゃあっ!?

 ていうか何やってんだ、あの駄女神は!

 それ完全に俺に対する依怙贔屓だろうに。

 確かに俺はこの2人が側にいればいいなと願わなくはなかったさ。

 けど、それは完全に俺の我が儘である。

 彼女らには彼女らの幸せがあるはずだ。

 家族だっている。

 生まれ変わるということは縁を切るということだ。

 ベリルママがそれをしたというのなら、それは俺がそうさせてしまったのは間違いない。

 つまり俺の責任ということになる。

 密かにとはいえ俺自身が願ったことだから。

 彼女らが俺の傍らに居続けてくれるのなら、どんなに良かっただろうとな。

 時折、そういう思念が強くなることがあった。

 それがベリルママに伝わってしまったとしても不思議だとは思わない。

 だから俺に内緒で動いてしまったのかと思っていたのだ。

 自分の思いを俺が封印しきれていれば、こういうことにはならなかったと。

 だから、それは俺が責任を取らねばならない。

 フェア3姉妹のときと重なる気がする。

 まあ、今はミズキチとマイマイだ。

 なんで俺のことを存在しなかったことにしたはずなのに蒸し返そうとするのだろうか。

 まさかと思うけどラソル様みたいにイタズラ感覚じゃないでしょうね、エリーゼ様。

 そうは思ったが、思い込みは危険である。

 こういうときに面倒くさがってはいけない。

 更に深く読み込んでみた。


[両名は修正された世界に抗い──]


 ちょっと待て。

 管理神や神様のシステムに抗ったのか!?


[飛賀春人の存在を強硬に主張]


「……………」


 なんか恐ろしいことが書かれていますよ。


[結果として精神的疾患があるとされ]


「…………………………」


 そこまでくれば、その先がどういうものか分かってしまう。

 分かるが故に見たくなかった。

 が、彼女らにそうさせたのは俺だ。

 俺は知らなければならない。


[専門病院へと隔離された]


 馬鹿じゃないのか。

 それも大馬鹿だ。

 俺なんかのことを忘れたくないという態度を取り続けたことで家族にも迷惑をかけただろうに。

 それでも俺を選んだのかよ。

 ちくしょう、泣けるじゃないか。

 【ポーカーフェイス】を使っているのに涙が止まらん。

 ふざけやがって……

 俺なんかのために家族すらも失ったんだぞ。

 分かってんのか、お前ら。


[因果律に乱れが生じ始めたため管理神が介入]


 そりゃ、スマンかった。

 完全に疑ってかかってたからなぁ。

 抗議のメールを送らなくて良かったよ。


[その際、魂に損傷が見られたため処置を受ける]


 なるほど。

 神様のシステムに抗うと普通の人間じゃ耐えられないってことだな。


[これによりエルダーヒューマンに生まれ変わる]


 エルダーヒューマンとして生まれ変わったのも理由があったんだ。

 それより何やってんだよ。

 魂を傷つけてまで俺のことを忘れまいとしたとか冗談じゃねえぞ。

 死ぬどころか存在そのものが消滅してたかもしれないってことじゃないか。

 無茶しやがって……

 そんなことするくらいなら俺のことなんか忘れろっての。

 消えちまったら何にもなんねえだろうが。

 魂すら残らないってことなんだぞ。

 死ぬだけなら魂が残るじゃないかよ。

 魂があるなら転生というチャンスがある。

 いつかは巡り会えるかもしれないんだ。

 たとえ可能性が限りなく低いのだとしても。

 冗談じゃないぞ。

 消えたら許さないからな。

 いや、俺の知らない間に消えていたら許さないもないと思うけどさ。

 だめだな、コイツらの無茶が酷すぎて俺の思考を掻き乱しやがる。

 マジで何なんだよ。

 俺なんかのために命どころか存在までかけてんじゃねえよ。

 ますます涙が止まらん。

 誰か止めてくれ。

 あ、そうだ。

 エリーゼ様にお礼を言わないと。

 全俺が泣いてる今の状態だと電話じゃ難しいんだけど。

 何言ってるか分かんねえってなるからな、きっと。

 せめてメールだけでも送っておこう。

 しばらくほったらかしにされる可能性はあるけど、何もしないよりはいいさ。

 そうせずにはいられないんだ。

 え? 最初はもろに疑ってたじゃないかって?

 そうだな。

 そこも正直に打ち明けて詫びを入れておこう。


「……………」


 んー、メールの本文書いてる間に涙が引いてきた。

 別に気持ちが冷めたとかそんなんじゃないけど。


[生まれ変わりにより諏堂瑞季と司馬舞佳という存在は消滅]


 やっぱ元には戻れない口か。

 あれ、でも存在が消滅って?


[ミズキとマイカとしてセールマールに仮登録される]


 俺とは色々と違うようだ。

 まず、この時点では苗字がない。

 更に元の世界で仮登録状態になった。

 苗字については不明だが、仮登録ができたのは管理神の管轄の違いが出たんだろう。


[セールマールは諸般の事情により通常空間にはヒューマンしか存在できない]


 どうやら、このあたりが2人の苗字がない理由と関係していそうだ。

 何となくそう思っただけだがね。


[これによりエルダーヒューマンの両名を暫定的に特殊空間に保護。

 エリザエルスの要請により両名のルベルスへの移送が決定される]


 そういうことだったのか。

 けど、変じゃないか?

 なんでベリルママがずっと留守だったんだろう。


[当初は即座に移送予定だったが予定変更になったため]


 予定変更って何だよ。


[両名の希望により魔法の特訓を実施]


 それが長引いたのか。

 何となく想像がつくな。

 ちょっと使える程度じゃ納得いかなかったんだろう。

 俺が4桁レベルになったという話を聞いて触発されたに違いない。

 さすがに1年間も寝込むほどに派手なことはやらかさなかったろうが、レベルを見れば分かる。

 せめてうちの国民のレベルを上回りたかったであろうことはな。


「ハルトくん、驚いた?」


 離れた所にいたベリルママが皆を引きつれてやって来た。


「説明もなしなんてズルいですよ」


 俺は2人を抱えたまま立ち上がり返事をした。

 ミズキチもマイマイも、しがみついたまま離れない。

 それどころか頬ずりとクンカクンカが止まらない。

 先程のベリルママより強烈だ。

 この調子だとしばらく喋らないな。


「ごめんねー。

 姉さんが楽しそうだからって」


 そこは外さないね、エリーゼ様。


「私も乗っちゃったけど」


「手が込みすぎです」


「アハハ、その辺りは皆で考えたのよ」


 なんだかんだ言って俺のことを誰よりもよく知る相手だからな。


「だいたいの事情は分かりました。

 苗字がヒガになっていること以外は」


 真っ先にツッコミ入れるべきだったかな。


「あー、気付いちゃった?」


「でなきゃ事情も分かりませんよね」


「そうよね、そうなのよね」


 イタズラを見つかった子供のようにペロリと舌を出しているベリルママ。

 エリーゼ様の影響が強くなっているような気がするのは気のせいだろうか。


「苗字はね、姉さんと私が相談して決めたのよ

 だってハルトくん、こんなに思われているんだもの」


 確かに。

 ここまで思われて気付かないとか鈍感なんて言葉では片付けられない。


[称号表示条件をクリア。

 称号○○王の隠蔽を解除]


 は!? どゆこと?

 なんで、このタイミングなんだ。

 確認してみたら[○○王]は[鈍感王]に変わっていた。

 あー、そうですか……

 どうせ俺は鈍感極まりない男ですよ。


読んでくれてありがとう。

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