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314 フワフワかモフモフか

修正しました。

やってきてもらと → やってきてもらうと


「ところで主よ」


「ん?」


「マリカに人化はさせぬのか」


「おお、そうだったな」


 すっかり忘れてた。

 マリカも人化可能だったんだよ。

 言われて初めて思い出すとかウッカリもいいところだ。


「それじゃあ下の格納庫でやってきてもらうとしよう。

 ツバキも一緒に行って服を仕立ててくれるか?」


 こういうのはチャチャッと終わらせるに限る。

 魔法講座もあるし、その後はお出かけだし。


「待て待て、それには及ばぬよ」


 妙なことを言い出すシヅカ。

 まさか目の前で人化させろとか言うんじゃあるまいな。

 それとも服なしで人化させろとでも?

 人化してからでないと服は用意できないし。

 あ? 既に人化の練習とかしてるんだったらサイズは判明するか。

 この場で服を用意するくらいなら問題ないだろうけど。

 それでも倉庫の魔法は教えていないから、人化と同時に服を着た状態にはなれないはず。

 シヅカは何をさせたいんだろうな。


「どういうことだ」


「服なら妾が用意したからの」


 そういやシヅカは守護者としてだけでなく人化でもマリカの先輩だったな。

 シヅカの場合は人の姿で召喚されたけど。

 あの時も服を着ていた。

 アレって自作だったのか。

 いや、そんなことはどうでもいい。


「目の前で人化させるのはどうかと思うぞ」


 女の子に目の前で素っ裸にさせるような変質者的趣味は持ち合わせていないぞ、俺は。


「それも大丈夫じゃ。

 倉庫もマスター済みよ」


「ああ、そういうこと……」


 どうやら人化した後に服を着るパターンは最初からないらしい。

 既に人化と同時に服を纏った状態だと。

 そういうことは先に言ってくれ。

 でないと俺が変態だと思われるところだったじゃないか。


「人化と同時に服を着終わってるんだな」


 念のためにマリカに確認する。


「ウォッ」


 ドヤ顔での返事をしてきたぞ。

 この調子だと何回か練習したな。

 こういう場合のパターンとして本番で失敗するのがお約束なんだが。

 そうならないことを願っておこう。


「失敗しないというなら、ここでやってみな」


「ウォッ」


 返事をした直後からマリカが光り出した。

 眩しさを感じさせるような感じではなく輪郭を淡く包むような感じの光。

 だけど姿は徐々にかき消されていく。

 まるでマリカ自身が光になったかのように。


「……………」


 少し時間がかかるようだ。

 シヅカのようにパパッと人化できないか。

 まあ、慣れていない初心者なんだから無理もない。

 ここで焦らせるようなことを言うと失敗しかねないと思ったので何も言わなかった。

 もちろん表情を変えて気取られることのないようにもしたつもりだ。


「……………」


 更に時間が経過。

 人化を開始してから数分かな。

 シヅカの人化と比べれば、かなり長い。

 だが、マリカは光に包まれたままで変化がない。

 俺はともかく、周りが騒ぎ出さないか心配になってきた。

 現にレイナはソワソワしている。

 ポーカーフェイスを貫こうとして心配そうな表情もチラチラと見せている。

 何か口走りそうになったら威圧して封じるしかなさそうだ。

 本人は心配しているんだろうけど、マリカの邪魔になりかねない。

 他の皆もレイナほどでないというだけで似たような状態だった。

 落ち着いているのは人化の指導をしたシヅカを除けば約3名のみ。

 ツバキとガンフォールとノエルだけのようだ。

 3人の中で人生経験がもっとも豊富であろうツバキが平常運転なのは想定内と言えるだろう。

 ガンフォールは年の功ってやつだな。

 伊達にジジイではない。

 そして、ノエルさんですか。

 凄いものだ。

 周囲の大人よりも落ち着いているんだから。

 月影のリーダーなんだから当然と言ってしまうこともできるけどね。

 だから意外とまでは言わないが、それでも大したものだと思う。

 将来ではなく現時点で大物感を振りまいてらっしゃいますよ。

 子供扱いされると嫌がるし、それくらいで丁度いいのかもね。

 そんなことを考えている間に光は収束していく。


「へんしんかんりょー」


 そこに和服姿の童がいた。

 拳を突き上げて得意満面である。

 これが人化したマリカさんですか。

 ひとことで言えば「ようじょ」であった。

 誰が何と言おうと紛れもない「ようじょ」である。

 大事なことなので2回言いました。

 3回言ってもいいくらいである。


「うわー、可愛いですねー」


 ダニエラが真っ先に飛びつく。


「むぎゅうー」


 ダニエラの胸元に顔面が押し付けられる格好で抱き寄せられたマリカが奇妙な声で唸る。

 グラマーさんがそれなりにいる面子の中でも上位に位置する大きさの持ち主だからなぁ。

 羨ま……もとい、苦しそうだ。


「マリカを窒息させる気か」


「あ、あらー? 御免なさーい」


 俺の指摘でようやく気付いたダニエラが解放される。


「あいがとー」


 咳き込むようなことはなかったがマリカが礼を言ってきた。

 早期に解放されたからだろう。


「気にするな」


 幼女だけあって舌足らずだな。

 些か想定外の姿であった。

 狼の姿の時は厳ついのに今はダニエラが思わず飛びつくほど可愛らしい女の子である。

 正確には可愛いと言うより整った顔立ちをしているのだが。

 有り体に言ってしまえば幼女なのに美人さんなのだ。

 幼女に対してこんなこと言うのもおかしいけどな。

 背丈や喋り方からすると小学校に上がるかどうかの年代に見えるので余計にそう感じてしまう。

 雰囲気は間違いなく子供側なんだけどな。

 その姿を見てしまうと大人を無理やり小さくしてしまったかのような印象を抱かせられてしまう。

 ダニエラが可愛いと言ったのは雰囲気の方だろう。

 あ、でも見た目でもそう思ったかもしれん。

 仕草とかも可愛いと言えるだろうからな。

 頭上の三角耳をピクピクと動かし尻尾もゆるゆると振られている。

 これがまた何とも言い難い魅力があるんだよ。

 現にハイラミーナの一同はマリカに視線が釘付けである。

 獲物を狙うそれとは違うが、それだけに妖しげな雰囲気を漂わせているな。

 たぶんダニエラのように飛びついて抱きしめたい衝動に駆られているのだろう。

 俺に注意されてしまったから我慢しているってところか。


「ともかく、これからヨロシクな」


「はいです」


 ぺこりとお辞儀する姿が美人顔に反して可愛らしい。

 ハイラミーナ組の妖しさが更に増したぞ。


「ところで、いくつか確認しておきたいことがあるんだが」


「なーに?」


「人化した姿はそれだけか」


「?」


 マリカが首を傾げている。

 まあ、分かりづらい聞き方をしてしまったな。

 そういう風になったのは、あの質問に複数の聞きたいことを詰め込んでしまったからだ。

 何事も一足飛びにしようとすると碌なことがないという証拠である。


「元の姿とのイメージに落差があるってのと耳や尻尾は残るのかってことだ」


 マリカが子供っぽく首を傾げている。

 ハイラミーナ組がわずかだが身悶えるような仕草を始めたぞ。

 猫にマタタビの一歩手前のような状態になっている。

 大丈夫か?

 まあ、あっちは放置プレイだ。

 自分たちで何とかしてくれ。

 それよりも質問の内容が複雑すぎたか。

 マリカが考え込んでしまっている方が気になるな。

 もう少し様子を見るか、それともフォローすべきか。


「んーとぉ、みみとしっぽはこうっ」


 シュポンという音と共に消えた。

 その途端にハイラミーナ組がドドドッと崩れ落ちた。

 レイナとアニスがそのままの姿勢でドンドンと床を叩いている。

 何をやってるんだか。


「でも、こっちが楽~」


 ポコンという音を立ててマリカの三角耳と尻尾が再び出現。

 ハイラミーナ組もそれを見て復活した。

 忙しないことだ。

 それだけじゃなくて、なんかキャーキャー言ってますよ。

 あのリーシャですらはしゃいじゃって……

 ちょっと信じられない光景を見てしまった気分だ。

 たぶんマリカの人化した姿に萌え心を刺激されてしまったんだろうけど。


「いちばんらくなのはこれ~」


 人化の時と同じ光を発してマリカがハイフェンリルの姿に戻った。


「ウォッ」


 精悍な顔立ちの白い狼がそこにいる。

 フェンリルの時の灰色と違って毛並みは真っ白さんだからな。

 それは人化した時の髪の毛でも同じだったし。

 艶のある白は老人の白髪とはまるで違うけど珍しいことに変わりはない。

 子供の姿ということもあって誤魔化しづらいものがある。

 冒険者登録させるのは厳しいか。

 今のところ、大人の姿になることはできないらしい。

 西方で活動させる時は本来の姿の方が良さそうだ。

 ただ、ハイラミーナ組の面々はとてつもなく落胆しているであろうが……


「って何してんだよ、お前ら」


 マリカに寄って集って抱きついているハイラミーナ組。


「フカフカなのだよ」


 幸せそうに頬ずりしているリーシャ。


「うむ、フカフカだ」


 レイナもかよ。


「こういう時はモフモフって言うんやで」


 どこでそんな不穏な単語を覚えてきたんだよ、アニス。

 ……言うまでもなく動画だろうな。

 この調子だと猫のことをヌコ様とか言い出しかねないな。


「「フカフカでもモフモフでもどっちでもいいよー」」


 メリーにリリー、とろけた笑顔で恐ろしいことを言うじゃないか。

 知らぬが仏とはよく言ったものだ。

 モフリストに全力で喧嘩を売っているのだから。

 ただ、双子たちは己の発言が危険なものだということにまるで気が付いていない。

 この場に奴がいたら「よかろう、ならば戦争だ」とか言い出していた可能性だってある。

 そうなると双子ちゃんたちがモフ友として認定されるかどうかが運命の分岐点となるだろうな。

 幸いにして彼奴は日本在住なので修羅場にはならんのだが。

 アニスのこだわりも彼女らの発言を全否定するほどではないみたいでスルーされている。


「幸せなのですー」


 人化した時に真っ先に飛びついたダニエラも皆に交じってモフモフ祭り開催中だ。

 さすがハイラミーナと言うべきか、マリカの尻尾や耳を掴んだり触ったりということがない。

 まあ、そんなことは彼女らにとっては当然のことなんだろう。

 自分たちもケモ耳と尻尾を持っているのだから。

 どれほど嫌なことは熟知しているわけで。

 それは、どう触れて撫でれば機嫌を損ねないのかも理解しているということでもある。

 いずれにせよマリカが元の姿に戻ったことでタガが外れてしまったみたいだ。

 なら、最初からこうならなかったのは変じゃないかとなるのだが。

 そこは我慢していたんだろう。

 人化した姿を見たことで弛んでしまったと。

 そしてトドメが元の姿だったんじゃなかろうか。


「程々にしておけよ」


「「「「「はーい」」」」」


 返事だけは元気がある。

 その後の行動が伴うかは甚だ怪しいがね。

 まずは俺の言ったことが耳に届いているかが微妙だ。

 届いていたのだとしても、あのモフりっぷりでは自制できるか怪しい。


「マリカも無理して我慢しなくていいからな」


 それ故、俺はマリカにも声を掛けた。

 嫌なら拒否れとね。

 現状でも充分に拒否していいはずである。

 寄って集って抱きつかれているせいで満足に返事ができない状態だからな。

 そのせいでマリカは尻尾を振ることで了解したことを知らせてきた。

 辛抱強い奴だ。

 どこかの獣医漫画に出てくるハスキー犬を見ているかのようだよ。


読んでくれてありがとう。

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