312 またしても、してやられた
修正しました。
ガンフォールとハマーの年齢のカウント忘れです。
エリーゼ様の電話が切れた後はすることがなくなってしまった。
どうしようか途方に暮れそうになっていたのが馬鹿馬鹿しくなるくらいにね。
時間が巻き戻されてダンジョンの暴走がなかったことにされていたという訳ではないよ。
そんなことになったらエリーゼ様に抗議しているさ。
うちの面々が得た経験値までなかったことにされるってことだからな。
何のために大穴掘ってハイフェンリルを召喚したか分からなくなるだろ。
そういうことではなく俺たちが戦った相手が変更されていたのだ。
訳が分からない?
そういう風に情報操作されていたってことだよ。
身内以外の面子だけね。
戦った相手はオークやオーガではなくゴブリンということにされていたのだ。
そして粘性の高い泥沼で足止めをして皆で魔法を放ったことになっていた。
燃やしてお終いというわけだ。
最後は焼却後の灰と泥を混ぜて元の土に戻して終わり。
大穴を掘って壁を作った時よりはインパクトの少ない印象に置き換えられた感じかな。
当然、ザリガニことジャイアントクローフィッシュも存在しなかったことになっている。
ハイフェンリルのこともいないことになっていたし。
ザリガニは幻影魔法で見せてなかったし俺が倉庫に回収したから存在自体が知られてないけどさ。
それでも存在感バリバリだったハイフェンリルはそうはいかないよな。
ブレスで派手に凍らせているところも魔導師団には見られているんだし。
どうやってと思ったら大きめの狼サイズになってたよ。
元のフェンリルに戻ったんじゃなくて特殊スキルの【縮小】が与えられていた。
それも熟練度MAX状態で。
で、そこまでして巨大な狼の姿を少し大きめな狼のサイズまで小さくさせたらしい。
特殊スキルって何ぞやと思ったが、特定の種族のみ取得できるスキルなんだと。
特定の種族に人間種は含まれていない。
どんな種族に使えるかはスキルごとに違うみたいだ。
結局、小さくさせた上で存在感を消して巨大な狼はいなかったことにされたらしい。
手の込んだことをするよな。
最初のインパクトが強かったから、まずはその認識を改めるために小さくするんだぜ。
その上で存在感を消す印象操作をしてるんだ。
だから総長たちゲールウエザー王国の魔導師団員たちにはあまり騒がれなかった。
これで手が込んでいないという奴がいるのだろうか。
たった10人の目撃者のためだけに、あれだけのことをしたんだから。
まあ、そこから情報が漏れることを考慮すれば決して大袈裟とは言えないか。
俺としては有り難かったし。
お陰でシヅカに輸送機へ連れて行かせても注目されずに済んだからな。
ただ、逆に怖くなってしまったけれど。
俺たちに都合良すぎる状態になってしまったからだ。
他にもダニエルは何も聞いてこないし。
こっそり結果だけでも確かめに来るかと思ったんだけど、それもなかった。
なんか怖いくらい至れり尽くせりな結果なんだけど。
不都合なことは何ひとつない状態なんて薄気味悪くならないか?
だって丸投げ主義のエリーゼ様なんだぜ。
まあ、いいさ。
深く考えても多分ろくな結論にはならんから考えるのはやめだ。
いざというときは逃げるだけである。
最悪の場合、ミズホ国で引きこもるとしよう。
とりあえずボロの出ていない現状においては飢饉対策を進める。
なんやかんやと夕食の時間までは街の中で話し合い。
近隣の村へ行く順番とか日程とか。
その辺は簡単に決まったけどね。
輸送機は使わせられないから遠くの村ほど後になる。
代表たちが帰る時間があるからなのは言うまでもない。
結果として明日はオフになってしまった。
日が暮れようとしているのに帰れとか言えないよ。
街の近隣だとダンジョンの近くということで魔物が出るからなぁ。
かわりに盗賊は出ないんだけど。
危険度は魔物の方が上だから気休めにしかならないが。
という訳で想定外のオフになってしまった。
けれども最初の計画からすれば大幅な時間短縮になっているので無駄はない。
ならば空いた時間は有効活用しないとな。
昼間は新規の国民を鍛えるとしよう。
ダンジョンでパワーレベリングでもさせるか。
魔法講座は夕食後に開くとして、ある程度レベルを上げさせておきたいし。
特にクリスが心許ないからなぁ。
そうでもないか。
今日の殲滅作戦で多少はレベルアップしただろうし。
そういやステータスは確認してなかったな。
把握しておかんとダンジョンに入る時の装備にも影響するしな。
レベルが最も低いであろうクリスを基準に考えればいいか。
あ、でも優先的に獲物を回してもらっていたみたいだしな。
場合によってはマリアやボルトを逆転しているかもしれんから全員をチェックしておくか。
まずはフェア3姉妹からだが……
[エリス/人間種・ヒューマン+/魔法剣士/女/27才/レベル50]
[マリア/人間種・ヒューマン+/ 剣士 /女/22才/レベル47]
[クリス/人間種・ヒューマン+/ 剣士 /女/15才/レベル41]
差が縮まったな。
それに思った以上にレベルが上がっている。
狂乱状態の魔物を仕留めたからか。
それとも一撃必殺だったからか。
単一の要因という訳ではなさそうだ。
カウント数を確認しても、それは明らか。
マリアとしてはクリスに並ばせるつもりだったんだろう。
でも、マリアはクリスと比べて仕留めた数が少ないのにレベルアップの効率がいい。
どうやら弓で射た距離も関係しているようだな。
結果的に思惑が外れてしまった、と。
そうは言っても急追した格好にはなっている。
これはマリアが調整したと言うよりは監督していたガンフォールの手腕だな。
さすがである。
あ、でも教える立場だったからガンフォール自身はレベルアップしてないんじゃないか。
元の58レベルのままとかさ。
あり得そうだ。
確認しておかないとな。
ついでにハマーやボルトのステータスも見ておこう。
[ガンフォール/人間種・ドワーフ+/戦士/男/66才/レベル61]
[ハマー /人間種・ドワーフ+/戦士/男/52才/レベル59]
[ボルト /人間種・ドワーフ+/戦士/男/22才/レベル50]
ガンフォールも一応は上がってるが控えめだな。
というか、カウントだけなら他の誰よりも少ない。
同じように指導に回っていたエリスよりもだ。
難易度の高い仕留め方をしたのかもな。
まあ、それでもハマーに追いつかれそうになっている。
この事実を知ったら、どんな反応をするんだろうな。
……教えない方が良さそうだ。
少なくとも聞かれるまでは。
そしてボルトだが、健闘しているな。
エリスに追いついたよ。
カウント数がクリスに迫る感じだったからだな。
元のレベルが上だった分だけアップしにくかったみたいだけど。
さて、残るはABコンビことプラム姉妹である。
[アンネ/人間種・ヒューマン+/魔導師/女/19才/レベル50]
[ベリー/人間種・ヒューマン+/魔導師/女/19才/レベル50]
攻撃開始前のレベルが同じだったエリスと変わらないのか。
これは両名がサボっていたからではない。
根が真面目なこの2人が手を抜くはずはないしな。
俺も見ていたから間違いない。
エリスの方が効率よく仕留めていたからだと思われる。
オークより経験値の高いオーガのカウントが多いんだよな。
ちゃっかりしてるよ。
それよりも、だ!
おかしいと思わないか。
なんでこの両名が進化してるんだよ。
一体、いつの間にと問い詰めたい。
相手は彼女らではなく逃亡中のダメ亜神だがな。
冒険者ギルドで登録した直後は進化していなかったんだぞ。
油断も隙もあったもんじゃない。
明日、冒険者ギルドに行った時に発覚したらと思うと……
シャレではすまんな。
それこそ全員で国元に引きこもるしかなかったぞ。
確認しておいて良かった。
本人たちすら気付かぬ間に進化させたとか無茶苦茶だろ。
冷や冷やさせやがる。
そしてムカつく。
絶対にあのダメ亜神は今の状況を想像してほくそ笑んでいるぞ。
ドッキリ成功とか言ってるんじゃないか。
まったく、質の悪い。
逃げ回っているのに俺がヒヤリとするような状況をつくって喜ぶとか信じられん。
あんまりムカついてばかりいると喜ばせるだけだから落ち着こう。
よくよく考えれば、うちの利益にはなるからな。
だが、感謝はしない。
ラッキーな出来事でしかないんだ。
今晩にでも本人たちにそう思うように指導しておこう。
この件に関しては、決して感謝などしてはいけないとな。
ん? 晩だと……
そうか、昨晩なら隙があった。
俺が飛び回っている間にラソル様が動いたんだな。
あのタイミングでABコンビに気付かれないよう密かに進化させたのか。
そんな繊細なことをしておきながら同時に気配も消すなんて完璧にできるだろうか。
まして追われている身である。
ルディア様の監視も強化されているはずだから、そこを誤魔化すことに全力を注ぐだろうし。
近くにいる者に気配を掴まれるくらいはあってもおかしくはない。
現に俺がいない時を狙っている。
シヅカに気付かせなかったのは、まあ筆頭亜神だからということにしておこう。
もしかすると俺がいなければ万が一の事態になっても誤魔化せると思っていたのかもしれない。
後で皆に注意喚起しておこう。
ラソル様が現れたら俺に連絡を入れるようにとな。
できればルディア様に直接連絡を入れてほしいところだけど。
皆は脳内スマホを持ってないからなぁ。
しょうがない。
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夕食を兼ねた試食会はまずまずといった結果だったかな。
新しい食材の味に慣れていないと絶賛とはならんだろうね。
最初は、あえて普通の家庭レベルの味になるようにしたし。
ここで絶賛されるような料理だけを出しても意味がない。
誰もが【料理】スキルを持っている訳じゃないからな。
だが、旨くないと判断されても新しい野菜の評価が下がってしまう。
匙加減の難しいところだったが、そこはツバキに頑張ってもらったさ。
故に店で出されるようなものではなく家庭の味を追及した。
こういう味付けに飢えているクラウドやダニエルは密かに絶賛していたみたいだ。
言葉にこそしなかったが食べっぷりを見れば分かる。
そのため2日連続で食べ過ぎるというアホなことをしている国王がそこにいた。
宰相はかろうじてだが自重できていたようだけど。
年の功ってやつかね。
近隣の村から来ている代表者たちは控えめながらいい感じのことを言っていた。
ただし、この評価に騙されてはいけない。
なにしろ国王がいい食いっぷりを見せているからな。
そんなのを見てイマイチとか言えないだろう。
要するにお世辞とかの余分なものが含まれている訳だ。
真に受けると痛い目を見る。
絶賛といかなかったのは空気が読める面々だったからだろうな。
あからさまに褒めるとおべっかになると思ったのだろう。
ならば、相応の差し引きをしないといけない。
その辺りを考慮して判断した彼らの本当の評価は普通。
良くも悪くもなく、である。
そこを狙っていたとはいえ安堵したのは言うまでもない。
控えめにした結果が悪かったら最悪だからな。
まあ、ツバキがそんなヘマをするとは思えないが。
しかしながら、ここで終わらせると大したことはないと侮られてしまう。
それ故、最後に最上級の食事を提供した。
元より計画通りなのだが。
あえて少なめで普通の料理を提供しておいたので、もう食べられないなんて者はいない。
お代わりをしていた約1名を除いて。
物足りないと感じている中で、舌を唸らせるような料理を出されればどうなるか。
ほとんどの者がお代わりができないことを惜しみながら食事を楽しんでいた。
期待外れと思わせておいて一気に引き上げた訳だ。
効果は絶大だった。
計画を立てた俺が出来過ぎだと思うくらいにな。
それこそエリーゼ様が裏で何か仕組んだのかと疑いたくなるくらい。
各村の代表たちが今からでも村に帰って新しい作物を広めたいと言い出した時には焦ったね。
危ないから明日の朝に出立しろと言ったら感動していたよ。
神の使い様は我々のことを心配してくださるのかって。
【ポーカーフェイス】を全力で使わせていただきましたとも。
心の中はドン引きだったからね。
賢者はともかく神の使いは勘弁してくれ。
しかも、あのダメ亜神の使いというのは嫌すぎる。
どれだけ「冗談ナッシング!」と言いたかったことか。
飯を食ってグッタリする気分を味わうことになるとは思わなかったよ。
読んでくれてありがとう。




