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307 矢を射るだけの簡単なお仕事です

修正しました。

レオーレ → レオーネ


 まるでドラゴンのブレスである。

 いや、リアルで見たことないけどね。

 ゲームとかで見たブレスがこんな感じだったんだよ。

 とはいっても、あっちはファイアブレスである。

 こちらはハイフェンリルが吐き出したコールドブレス。

 吐き出すと言うよりは吹き付けられると言った方が正しいかもしれない。

 ハイフェンリルが首を巡らせるだけで掘り下げた穴の端から端まで冷気が全体を覆った。

 ブレスの範囲もなかなかである。

 威力も充分。

 貯水池同然だった穴の中が完全に凍り漬けである。

 しかも対象を選択できるのが凄いね。

 凍ったのは水だけだ。

 魔物たちはオークもオーガも凍ってはいない。

 俺が水だけと言ったのを忠実に守ってくれた訳だ。

 狂乱した魔物たちは身動きが取れないでいる。

 肩から上しか出ていないから狂ったまま暴れようとするが抜け出せるはずもない。

 並みの氷漬けなら割れて連中が這い出してくるなんてこともあっただろうけど。

 氷にはヒビの一つも入る気配がない。

 これは端の方にいる魔物たちも同様だ。

 さすがはハイフェンリル。


「なかなかやるな」


「ウォッ」


 誇らしげに見えるのは気のせいではあるまい。


「御褒美だ」


 例のごとく俺の特製かき氷を出しておいた。

 ハイフェンリルになってデッカくなってる分、特大サイズだよ。

 喜んでガッツ食いし始めたね。

 まあ、此奴のお仕事はしばらく無いので御褒美に夢中になってくれて一向に構わない。

 後で輸送機に回収して人化させるか。


「それじゃあ俺の護衛以外の者は全員1列に並べー」


 そう言って新規の国民だけを1列に並べる。

 ただし高レベルになったレオーネは除くので護衛以外の者という条件になる。


「並んだ者は武器を配布するので受け取って攻撃するように」


 コンパウンドボウと矢筒を出して渡していく。


「矢がないようですが」


 困惑の表情を浮かべるボルト。

 矢筒には1本の矢もないから当然の反応だ。


「矢筒は魔力を流すと特殊な矢が生成されるから」


「そういうことでしたか」


 それで納得して魔力を流し始めた。


「向こうでやれ。

 後ろが支えてしまうだろ」


「失礼しました」


 慌てて横に避けるボルト。

 次に並んでいたのはガンフォールだった。


「ワシも攻撃に参加するのか」


 自分が並んで良かったのかどうか気になったのだろう。

 ガンフォールが聞いてきた。

 クリスたちの方がレベルが低いのだから優先的に鍛えろと言いたいらしい。

 新規国民組ではレベルが高いガンフォールだけど俺に言わせればドングリの背比べ。

 それに今回の討伐では誰も最低限の目標には到達しない。

 部外者がいるから口頭でそういうことを説明する訳にはいかないけどな。

 仕方が無いので念話で説明しておこう。


『レベル100になっていない国民は強制参加だ』


 総長の目もあるが、そのあたりは気にしない。

 何か言ってきたら国同士の協力関係があるからとか適当なことを言うだけだ。


『随分と高い目標じゃな』


『冗談はよしてくれ。

 レベル100なんて最低限の目標だぞ』


『……最終ではなく最低か。

 恐ろしいことを平気で言いおるわ。

 ハルトでなければ鼻で笑っておったじゃろうな』


 念話で納得したガンフォールは弓と矢筒を受け取った。


「あの、私は魔力が少ないのですが」


「私もです」


 クリスとマリアが不安そうにしている。

 うちの面子の中でもっとも魔力の少ない2人と言っても過言ではない。

 マリアとレベルの近いボルトも似たようなものだが、こちらは心配はしていなかった。

 俺の作る魔道具を信用しているのだろう。

 この辺は2人より多少は付き合いが長いからな。

 いずれにせよフォローはしないといけない。


「心配は無用だ」


 言葉にするのはこの一言だけ。


『矢筒には魔力が既に充填されている。

 お前たちの魔力を流すのは使用者登録のためだ』


 念話で説明して納得してもらう。


「「はい」」


 2人は安堵した様子を見せた。

 こんな具合に装備を渡した後は適当にばらけさせる。

 敵はほぼ動けない。

 せいぜい首を前後に動かす程度だな。

 もっと自由な部分があるならヘッドバンギングになっていたかもしれない。

 露出している部分はほぼ頭部だからな。

 まともに動けないから斜め上から矢を放つ時には躱すこともままならない。

 狂乱している連中に躱すという概念はないけどな。

 弓を渡した面々にとっては狙って矢を放つだけの簡単なお仕事です。

 外すとハイフェンリルが凍らせた氷に突き刺さってしまうけどね。

 これが続くと普通なら氷にダメージが行ってしまうだろう。

 くさびのような感じだな。

 故に狂ったオークが密集した状態で暴れると脱出を許してしまうなんてこともないとは言えない。

 だが、そんなことは想定済みである。

 用意した矢筒から生成される矢の矢尻は氷になるようにしておいた。

 俺が開発した氷弾の魔法と同じものだ。

 氷に突き刺さっても矢尻がすぐに同化する。

 ヒビすらできはしないので魔物どもに脱出されることもないわけだ。

 もっとも本来の狙いは一撃必殺。

 奴らに命中すれば、頭部を凍り漬けにして絶命させるという寸法である。


「我々は夢でも見ているんじゃあるまいな。

 暴走した魔物の対応をしているとは思えん」


 狙いを定めていたハマーが独白した。

 矢を放つと同時に溜め息をついている。

 他のことを考えながらの攻撃とは余裕だな。

 激しく動くことがない的を狙っているからなんだろうけど。

 放たれた矢はオークに命中した。

 外していたら注意するところだったが、ハマーの弓の腕前はなかなかのようだ。

 オークの凍り漬け1体が出来上がっていた。


「同感ですが、陛下の差配ですからね」


 それに付き合うように答えたのは隣で矢を次々に射ているボルトだ。

 ハマーよりもハイペースである。

 というよりはハマーが意図して緩慢な動作で攻撃していた。

 レベルの低い者たちに経験値を稼がせるためなのは言うまでもない。

 ガンフォールなどはクリスに弓の指導をしながら、合間に射る程度である。


「そうじゃ、それでいい。

 この弓は軽いからな。

 力まず正しい姿勢で放つのを心掛けよ」


「はいっ」


 そう返事をしたクリスの射た矢はオーガの口に入った。

 おお、スゲえ。

 狙ってやったんなら見事と言うほかないな。

 そんな訳ないけど。

 瞬時に凍り付くオーガの頭部。

 うん、脳天に突き刺さらなくても絶命間違いなしだ。


「見事じゃ」


 ガンフォールが褒めている。

 ちょっと意外だ。

 もっとスパルタで教えるタイプかと思っていたんだが。

 どうやら厳しいのは孫相手の時だけのようだ。


「えっと、眉間を狙ったつもりだったのですが……」


 狙い通りに当たらなかったのが恥ずかしいのかモジモジした答え方をしている。

 そんなに卑下するものでもないと思うがな。

 隣の的に当たったんじゃあるまいし。


「その程度の誤差なら上出来じゃ。

 他の的を狙っておったというなら話は違ってくるがの」


 ガンフォールも俺と同意見のようだな。

 なら、俺がフォローすることもあるまい。

 横から口出ししてもいいことは何もないはずだ。

 細かな注意点があるとしても後で構わないだろう。

 さて、マリアはどうだろうか。

 クリスの真隣で遠くの魔物を狙っているようだが。

 近場はクリスに譲るということなのだろう。

 遠方を狙っているせいで命中率は若干下がってしまっているな。

 それなら離れて狩ればいいと思うのだがな。

 クリスから離れたくないという心情が働いているようだ。

 そしてそれはクリスもマリアに対して同じことを思っている訳で……

 仲が良いなら俺がとやかく言うことではないな。

 命中率が著しく悪いというなら話は別ではあるが。

 この調子ならエリスも心配いらないだろうと思ったらABコンビに弓の指導をしていた。


「狙うことに集中しすぎないで」


「「はいっ」」


 面白い指導方法だな。

 素人は狙いすぎてもいいことがない。

 経験が不足しているから風の動きなど読めないし。

 なにより精神的な迷いが混ざってくるからな。

 俺のコンパウンドボウは体力面では疲労を軽減できるように作ってあるけど。

 使い手次第でそれは変わってくる。

 狙うことに意識が向きすぎて精神をすり減らすようなことがあれば体力も削られる。

 故に素人ならば大方の見当をつけた後はすぐに射るくらいでいい。

 矢筒には1人でここに落ちた魔物たちを全滅させても余るほど矢を生成できるよう魔力を充填してある。

 そこまでは必要ないとは思うけどね。

 素人とはいえレベルはボリュームゾーンを越えている。

 すぐにコツを掴むだろう。

 それだけ的が多いし密集しているからな。

 慣れてくればハマーのように放てば当たるようになるだろう。


「「当たりました!」」


 なんだかメリーとリリーの双子ちゃんたちみたいだ。

 まあ、ABコンビもプラム姉妹を名乗っているからな。

 本人たちも双子の意識が強いのだと思う。


「良くできました」


 そして彼女らを褒めるエリス。

 指導役が板についているね。

 俺が横から口を挟む余地はなさそうだ。

 そんなことをしても余計な混乱を生むだけだろう。

 エリスもABコンビが何発か射る間に矢を放っている。

 このお姉さんも遠くの的を狙っているけど。

 こちらはマリアと違ってほとんど外さない。

 魔物が激しく首を振るので百発百中とは行かないが。


「こんなことならブルースを連れて来るんだったな」


 待機している皆の所に戻った俺は思わず呟いていた。

 この状況は事前に予測できなかったから、そういうことは望むべくもないのだけれど。

 それでも現状の効率を考えると惜しいと思ってしまう。

 あいつは【狙撃】持ちだからなぁ。

 いま指導に回っているガンフォールやエリスの代わりになったろう。

 あ、でも専門のスキルを持っているからといって教えるのが上手いとは限らないのか。


「あまり効果は望めないと思います」


 俺の心を読んだかのように、そう言ってきたのはレオーネだった。

 自分で思った程は呟きのボリュームを絞れていなかったようだ。

 無意識というのは怖いものである。


「あー、やっぱ教えるのが苦手なタイプなんだ」


「そうですね。

 弓の才能は間違いなく天才的なんですが」


 返事と一緒に苦笑が返された。


「そのせいか伝え方に問題があると言いますか。

 感覚が優先されて意味不明になると言いますか」


 レオーネがこんな風に言うのだ。

 よほど教えるのが下手なんだろう。

 なんとなく想像できそうなのが──


「もしかしてギュッと弓を引いてパッと狙いをつけたら矢を放つとか言うのか?」


 感覚派の天才に多いよな、こういう奴。

 そんなことを考えていたらレオーネに目を丸くされてしまった。


「どうして分かるのですか!?」


 いや、そんなに驚愕されてもね……


「なんとなく、そう思っただけだから」


 としか言い様がない。


「はあ」


 いまいちピンときていない感じで呆気にとられているレオーネさんである。

 待機している他のミズホ組が苦笑していた。


読んでくれてありがとう。

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