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303 井戸掘りと開墾をしていたら……

修正しました。

まあ、病み上がりでなくても~ → (該当行を手前に移動)

説得二 → 説得に


「ん?」


 昼食を食べ終わって街の外で集まった時のことだ。

 俺は違和感のようなものを感じていた。


「どうされましたか?」


 隣にいる総長の婆さんが声を掛けてきた。


「いや……」


 気を研ぎ澄ませて気配を探ってみるが、特に変わったものは感じない。

 つい今し方の違和感も一瞬のことだったからなぁ。


「気のせいだったようだ」


 断言できるようなことは何もない。


「そうなんですか?」


 ちょっと驚いたように聞いてくる総長。

 そんなこと言われても、俺だって何でもかんでも分かるわけじゃないんですがね。


「ほら、たぶんアレだ」


 そう言いながら斜め上の上空を指差す。


「鷹のようですね」


「ああ、魔物じゃない」


 魔物ならもっとハッキリ感知していたんだがな。

 猛禽類とはいえ群れているわけじゃないから襲ってくる心配もない。

 特に問題にはならないだろう。

 小さな子供が単独でいるなら話は別だったとは思うが。

 街の外でそういう無茶な状況は考えられないがね。

 これが村だったとしても農作業をしている大人が側にいるはずだ。

 この世界の鷹は意外に臆病で大人が近くにいるなら隙を突いて襲ってくるということはない。

 魔物に襲われないようにビクビクしながら狩りをする感じかな。

 時には獲物を掻っさらわれたり自分が獲物にされたりするからだろう。


「凄いですね」


「そうかい?」


「あれだけ高い所を飛んでいるのに違和感を感じられたのでしょう?」


「視界をかすめただけだぞ」


 本当は鷹とは異なる何かを感じたのだが。

 まあ、バカ正直に答えて不安を煽る必要もないよな。


「凄い視野範囲ですね」


「そうでもないさ」


 そんなやり取りをしながら農地の端まで歩いてきた。

 俺らはいま街から少し離れた場所にいる。

 ダンジョンとは反対方向だ。

 この辺りは農地が拡がっている。

 街といえども農作物をまったく育てないわけじゃない。

 この農地だけですべてを賄うことはできないけれど。

 これから行うのは新作物のための開墾実演だ。

 言うまでもなく街の関係者や近隣の村の代表者たちも大勢いる。

 ゲールウエザー組も全員集合といったところだ。

 午前中の井戸掘りの時と何ら変わりの無いメンバーである。

 井戸掘りか……

 思い出すだけで苦笑いが出そうになる。

 あのときはうちの面子以外のほとんどが目を丸くしていたなぁ。

 ちょっと驚いたぐらいで済んだのは総長ぐらいなものか。

 手本を見せたのはハリー専用の人型着ぐるみなんだけど。

 かなり手抜きだったのに街や村の人間は大騒ぎしていたのが俺としては微妙に感じたんだが。

 彼らは速さと深さにまず驚いていた。

 これには騒ぎこそしなかったものの魔導師団の面々も特に驚いていたな。

 固い岩盤すら貫通した時には顎も外れんばかりに口が開いていたよ。

 街の人間たちも自分たちで試した証拠だな。

 手彫りじゃあの岩盤を貫くのは無理だろうけど。

 だからこそ驚きもひとしおってことか。

 現に王国から出向いた者たちは驚きはしても街側の人間たちほど煩くはなかったからね。

 岩盤の頑丈さを知っているかどうかで差が出たようだ。

 出張組に多少の慣れがあったのも影響してるかな。

 魔導師団はそれどころじゃなかったというのもあるかな。

 別の場所に移動して自分たちも井戸掘りをしなければならなかったからね。

 俺らが見せたのはあくまで手本なんだし。

 本来は彼らが主役なのだ。

 ポンプの設置までを含めた説明もあったので最初は一通りやって見せたけど。

 魔導師団が今回の作業の本命である。

 その本命が手本より数段劣る腕前だと街サイドの者たちも失望するだろうし必死である。

 俺としてもなるたけ差が出ないようにしたつもりなんだがな。

 それでも大きな開きがあるのは仕方が無い。

 だから俺がハリーの着ぐるみを使って見せた手本の場所は厳選したよ。

 街中の井戸候補地でもっとも岩盤の分厚い所にしたのだ。

 掘った岩の一部は地魔法で土に置き換えて周りの目を誤魔化しておいたのは言うまでもない。

 地中で変換しているから総長にも見抜かれなかったようだ。

 余分なことをしているお陰で魔導師団との時間的な差は倍ほどで済んだ。

 単独で完遂できたのは総長の側近であるナターシャだけだったけど。

 後は数人がかりで交代しながらだった。

 それでも終了直後に全員がヘロヘロだったのは魔力をロスしすぎているからだろう。

 放出型の魔法の欠点だよな。

 ガス欠状態にならなければ1人でなんとかできたかもしれないのに。

 ちなみに総長は病み上がりということで見学を決め込んでいた。

 このあたりは宰相の指示が入っているようだ。

 まあ、病み上がりでなくてもダニエルが宰相権限で止めていたんじゃないかな。

 魔導師団の総長が恥をかくような結果にしては王国の面子に関わると考えたんだろうな。

 それに関して俺がとやかく言うことはない。

 俺の見立てでは他の魔導師団員より魔力制御能力が飛び抜けている上に魔力量も豊富だ。

 終わった後で団員たちのように座り込むようなことにはならなかっただろう。

 手本と同等の時間で終わらせるのは難しかったとは思うがね。

 とにかく午後からは開墾である。

 今回は魔法で手本を見せることはしなかった。

 あまり差を見せることになっても魔導師団の面子に関わるからな。

 いくら俺でも、それくらいの気は遣うさ。

 説明しながら魔導師団の面々に魔法で開墾させるんだが、効率は悪い。

 これはもう仕方が無いね。

 魔力がすぐに尽きちゃうんだから。

 俺の用意したポーションがガンガン減っていくのでダニエルの顔色が優れない。

 返すべき借りのことで頭を悩ませているのかね。

 気にする必要はないと言ったのに。

 律儀な爺さんだ。

 俺は嫌いじゃないよ。

 後は団員のポーション中毒を心配しているとも考えられるな。

 午前中でも既に1回、使っているからね。

 午後からの開墾までに回復できそうな者が誰もいなかったからしょうがないんだけど。

 普通のポーションなら、あれだけガブ飲みすればそうなるだろうね。

 ポーションは吸収が早いからなぁ。

 中毒症状が出るのも早い。

 重症化はしないのと回復も比較的早いのが救いだろう。

 依存症みたいなものもないし。

 ちなみに俺の作ったポーションにそんな不具合は出ないよ。

 雑に作ると出やすくなるみたいだね。


「これは今一度、鍛え直さないといけませんね」


 溜め息をつきながら総長が言っていた。

 身内に容赦が無いことを言う婆さんだ。

 こんな性格だったっけ?

 なんか魔導師団員たちがビクビクして震えているんだけど。

 おまけにナターシャ以外は青い顔をしているし。

 どう考えてもトラウマレベルのことをしでかしているだろうよ。

 普段のニコニコした総長からは信じられないが相当なスパルタさんのようだ。


「言うほど酷くないけどな」


 精鋭を連れてきたと言うだけのことはあると思う。

 うちの基準では話にならないけれど。

 それは言わないお約束というやつである。


「無理言うなよ。

 これだけの面積を掘り返して作物を植えるのに適した状態にしたんだぞ」


 植生魔法じゃないしな。

 無駄が多いはず。

 それで今までの農地と変わらない面積を開墾し終えているのだ。

 人力だけで同等のことをしようと思えば数時間では終わるはずもない。

 この国のスペシャリストが9人がかりで本気を出しての結果だけど。

 作業中はポーションを飲みながらだったり作業完了後に全員がぶっ倒れたりはしたがね。

 ある意味、本気以上だったと言えるだろうさ。

 何人かはレベルアップしているくらいだし。


「そうは仰いますが……」


「むしろ褒めてやれ。

 締め付けるだけだと本当の意味で伸びないぞ。

 調子に乗るようなら締める必要もあるだろうがな」


「そういうものなのですか」


 どうも総長は半信半疑というところだ。

 訓練時には妥協しない鬼軍曹タイプになるのかもな。

 全然、似合ってないけど。


「畏縮する人間が潜在能力を開花させられると思うか」


 俺の指摘に総長は「あっ」と声を上げた。

 心当たりはあるようだ。


「まあ、強制はしないさ。

 方針なんてものは人それぞれだからな」


「いえ、勉強になります」


 そんなやり取りをしている最中だった。


「む!?」


 またしても違和感を感じた。

 今度は明確にだ。

 これは地上ではない。


「どうされましたか?」


「少し待ってくれ」


 地魔法で地中の様子を探る。

 うわっ、ダンジョン化してるぞ。

 よりにもよって畑のある方じゃないかよ。

 距離的には俺らのいる場所から数キロは離れているけど。

 問題は出口が無いことだ。

 物理的にも魔力的にもふさがっている。

 これは迷宮核がパンクするパターンだな。

 迷宮の規模は小さいから数としては少ない方だが間違いなく暴走しますよ。

 猶予は1時間も無いだろうな。

 あー、変だと思った時に対処していれば面倒なことにならなかったのに!

 ……愚痴っても始まらない。

 幸いにして時間的猶予は少しだがまだある。

 俺たちが力技で解決するにしても見せる必要の無い相手には街に引っ込んでもらわないとね。

 街の人間には絶対に見せてはいけない。

 本当を言うと宰相や総長たちにも見せたくはないんだけどな。

 ただ、そういう訳にもいくまい。

 理由も告げずに街の中に引っ込んでろと言っても、ごねられたら終わりだ。

 時間的な余裕を無駄に潰すのはもったいなさ過ぎるだろ。

 この場合は協力を求めて街の人間を引っ込めるに限る。

 まったく面倒なことになったものだ。


「宰相、ちょっと」


 俺がダニエルを皆から離れた場所に連れ出す。

 当然のように総長が俺についてきたのは苦笑するしかない。

 クラウド? 体調不良ということにされて街中で休んでるよ。

 謹慎中とも言うけどね。

 井戸掘りとか開墾を見るのを楽しみにしていたから、灸を据えるには丁度良い罰だ。

 子供かよと思ったが、ダニエルの決定したことだから俺が口を挟むことじゃない。

 おっと、護衛騎士部隊の副隊長であるリンダも来たな。

 これは当然か。

 ナンバー2である宰相専属で現場に来ている部隊の責任者だしな。

 本来の責任者である隊長のダイアンはクラウド専属なので居残りである。


「どうされましたか?」


 声を潜めてダニエルが聞いてくる。


「あー、声は普通でいいぞ。

 魔法で阻害してるから聞こえないし読み取れない」


 ただし、うちの面々には聞こえるように調整してあるけどね。


『間もなく未発見の迷宮が暴発するからそのつもりで』


 とりあえず話を始める前に念話で事前情報を与えておく。


『『『『『ちょっ!?』』』』』


 つい先日、国民になった面々は慌てた様子で一斉に俺の方を見てきた。

 そりゃあそうだろうな。

 迷宮の暴発イコール狂乱した魔物が地上に放出されるんだから。

 だけど、周囲の目があるという意識は残しておいてほしかったなぁ。

 そのあたりについては変に思われたり刺激したりしないよう幻影魔法で誤魔化したけど。


『落ち着けよ、うちの面子で対応可能だから』


 この説得は効果があった。

 たった一言で落ち着きを取り戻してくれたのは助かるね。

 宰相たちの説得に時間がかかる可能性もあるんだし。


『とりあえず宰相とその件で話をするけど、皆にも聞こえるようにしておく』


 これで下準備はオッケーだ。

 さて、どう説得したものかね。


読んでくれてありがとう。

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