302 許可して帰った翌朝に自業自得なオッサンを見た
修正しました。
作らせている → 処理させている
薬草の作成指示 → 薬の~
ブレザースタイルの学生服を作った妖精組。
学校に通いたいという、その熱意は大したものだと思う。
だけど彼らに今更なにを教えるというのか。
故に肝心の教師がいないと指摘した。
ちょっと無神経かとも思ったがな。
だが、いずれ分かってしまうことだ。
思った以上にショックを受けていたのには驚かされたが。
彼らがショックを受けたとなると俺もショックである。
何とかしたいと思うじゃないか。
大事な身内なんだし。
だったらショックを受けるような発言を控えろって?
ごもっとも。
こういう所も選択ぼっちだった影響で無神経になっているんだろう。
反省しないとな。
さて、どうフォローするかだが。
「とりあえず教えることは何もないが在籍するくらいは問題ないぞ」
どう考えても納得できるような案ではない。
けれども、いいアイデアが思い浮かばないんだよ。
せめて妥協してくれればと提案してみたって訳だ。
ところがである。
「「「「「やった─────っ!」」」」」
やってらんないポーズから一転してのジャンピングガッツポーズですよ。
「……………」
わあ、高い。
思わず声もなく見上げてしまう。
学校の体育館を飛び越えるような跳躍だね。
妖精組ならできて当然のジャンプだけど、喜びを表現するには大袈裟すぎないか?
着地した後は割れんばかりの拍手でみんな喜んでるけど。
なんなの、一体?
あ、手を取り合って踊り出した。
これは半時間コースだな。
それにしても俺の提案はそんなに歓喜するほどのことだっただろうか。
俺が皆の立場ならここまでは喜ばないと思うんだが。
「そんなに嬉しいのか?」
比較的大人しめの反応だったカーラに聞いてみた。
「ええ、そりゃもう」
満面の笑みで返されましたよ。
何処にスイッチがあるのか未だに分からん。
「どのあたりが?」
俺にはサッパリなんですが。
「夢にまで見た学生生活ですよ」
「……………」
夢とか大袈裟すぎないか?
人それぞれだから構わないけどさ。
まあ、いいや。
皆が喜んでいる間に住宅を配置していこう。
単に待つだけなんて時間がもったいない。
という訳で自動人形に仕上げをさせるのも中止だ。
置くだけなんてすぐに終わるもんな。
接続して仕上げるのも時間は食わないけれども、それは言わないお約束ってもんだ。
少しでも長く暇つぶしの時間を確保できればいいんだよ。
それだけ俺がいま感じている置いてけぼりな感覚を意識せずにすむからな。
久しぶりだよな、この感じ。
何となくモヤモヤした取り残された感というか。
ひとことで言うなら寂しい感じかな。
上手く説明できないんだがローズがこの場にいるなら同意してくれると思う。
あのノリについて行けないから、そう感じるのかね。
……やっぱり、分からんな。
それでも前よりはマシになった気はするんだけど。
選択ぼっちの後遺症が思った以上に根深い。
どうしたもんかね。
何か解決策があると良いなぁ。
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あの後はどうと言うようなことはなかった。
カーラとキースは、はしゃぎすぎたことを恐縮していたけどね。
一応は気にしてないと言っておいた。
妖精組の感覚について行けない部分はあるのは事実だ。
それで不愉快な気持ちになるかと問われたなら答えはノー。
この程度のことで身内に腹を立てたりなんてするはずがない。
寂しいとは思うが、それも以前に比べれば薄まっている。
おそらく妖精としての彼らの資質を理解しつつあるからなんだろう。
認識的にはこういうものだという位置づけが俺の中で確立しつつあるのも影響していると思う。
根本的な部分までをも理解するのは難しいかもしれないがね。
なんにせよ仕事が終われば帰るのみ。
ガンフォールを拾って輸送機に帰ってきたらベッドにダイブしましたよ。
疲れている訳じゃなかったけど、こういうの一度やってみたかったんだよね。
翌朝になってノエルに心配されてしまったのは失敗だったけど。
冗談半分でやったことを真に受けられるというのは些か恥ずかしい。
それを説明するのは、もっと恥ずかしかったし。
おかげでレイナやアニスにニヤニヤと笑われてしまった。
くそう、黒歴史一歩手前の羞恥プレイだったぞ。
……忘れよう。
とにかく朝ご飯を食べて気分を切り替えるに限る。
という訳で、街中に宿泊しているゲールウエザー組の所へと向かった。
街で用意した御飯を食べるか俺たちの方で食べるかを聞きに行ったんだけど……
この街の代官の補佐役に案内されて向かった先で呆れる光景を目にしてしまった。
苦しそうにウンウン唸っているオッサンが約1名。
似た顔のジジイが呆れた様子でメイドたちになにやら指示を出している。
総長はナターシャたち部下に指示を出して薬草を処理させている。
「おはよう」
俺はこの国の宰相であるジジイに声を掛けた。
「おや、ヒガ陛下。おはようございます」
ダニエルが苦笑しながら挨拶を返してきた。
「食い過ぎで腹を壊したか」
「分かりますか」
「あれだけ煎餅を食いまくって晩飯もだろ。
分からない方がどうかしていると思わないか」
「まったくもって仰る通りですな。
返す言葉も見つかりませぬ」
苦笑から渋い表情になったダニエルが両手を広げて首を振った。
「今頃になっても唸っているということは下痢をしたのか」
「何故それがおわかりに!?」
ダニエルが驚愕している。
「俺、賢者」
ダニエルは俺の一言で納得した。
けどさ、【諸法の理】に頼るほどのものでもないようなことだぞ。
食べ過ぎて消化不良を起こした結果だからな。
未だに唸っているということは、まだ消化し切れていないものが腹の中に残っているのか。
晩飯を食ってすぐに寝やがったな。
眠ってしまうと消化液の分泌が止まるから消化されなくなるのだ。
そんな苦しい状態で夜中に目を覚まさなかったのが信じがたいのだが……
アホなことをする王である。
「ヒガ陛下、おはようございます」
ダニエルと話している間に総長が側まで来ていた。
「おはよう。
薬の作成指示は出さなくても大丈夫なのか」
「はい、あとは完成させるだけですので」
その返事に促されるようにナターシャたちの方を見た。
五徳の上に小さな鍋をのせてアルコールランプのような魔道具で火にかけている。
ポーションを作っているようだ。
「ん?」
「あら、お気づきになりましたか」
笑顔なのに笑っているとは思えない総長が声を掛けてきた。
なるほど、わざと手抜きのポーションを作っているのか。
品質は良さそうなのに、材料が足りないのはミスかと思っていたら意図的でしたよ。
この調子だと動けるようにはなっても食事は明日まで無理っぽい。
ダニエルの指示かとも思ったんだが雰囲気からすると違うように思えるね。
つまり独断の可能性が濃厚、と。
この婆さん、国王相手でも容赦しないのな。
「これに懲りてくれるといいよな」
おそらく無理だけど。
「そうですね」
俺と総長は互いに皮肉な笑みを浮かべて暗黙の了解であることを確認しあった。
「朝食は街側が用意しているのか」
「はい、申し訳ないのですが本日は御一緒することができません」
俺たちは滞在中の食事をすべて断ったからな。
技術指導はボランティアであることを強くプッシュした結果である。
金銭や物品で俺らが釣られたりしないことを明確にアピールできたと思う。
変なちょっかい出されたら、すぐに帰ると言ってあるから大丈夫だとは思うけど。
「夕食は皆で食べられるように手配しておいてくれ。
この街の代表になるような何名かも含めてな。
場所はそちらで確保するように伝えてくれないか」
「これから植える新しい作物の紹介をされるのですね」
「そういうことだ」
総長は察しが良くて助かるね。
どういう味で、どういう料理法があるのかを知れば熱の入れようも変わるだろう。
チキンライスを作りたいところだが米を紹介することになるから回避だな。
トマトはナポリタンということで。
カボチャはポタージュスープで決定だ。
一応、煮付けも入れておくか。
コロッケも捨てがたいんだよな。
一番はジャガイモのコロッケだけどね。
サツマイモはどうするか。
すぐに思いつくのは天ぷらだけど。
そういや料理のレシピサイトでグラタンを見たことがある。
後はデザート系になるよな。
スイートポテトに大学芋が代表格か。
芋けんぴも忘れてはいけない。
いや、飢饉のことを考えると普通に焼いた方がいいか。
砂糖の入手も困難みたいだし。
考えなしにメニューを設定するのは止めた方がいい。
そうなると水を使うメニューは回避だな。
となると、考えたメニューの多くは使えない。
いっそのこと水を使った場合の参考として出すか。
焼き芋みたいに水を使わない調理法も、いざという時に対応できるとして紹介すればいいや。
継続して作れば水のある時の料理もできるだろうし。
作ればと言うより今回導入する作物を継続させて作らせるのは必須だ。
この先も飢饉がないとは断言できないからな。
「畏まりました。
それでは仰せのように手配させていただきます」
えーっと、そういうのは王や宰相の承認とか決裁なんかが必要なんじゃないのか。
総長も国の重要役職に就いているとは思うけどさ。
魔導師団の総長ってそんなに権限が強力なのかねえ。
おそらく当代総長であるベルベット・ジョイスの婆さんだけだと思う。
自分のとこの国王に飲ませる薬で手抜きして懲らしめるとか、他の奴にはできんよ。
仮に事実を知られてもクラウドは正座して反省させられそうだし。
普通は逆じゃね? とか思うんだろうけどな。
でも、普通にそういう光景が想像できてしまうのだよ。
ダニエルはダニエルでむしろ良くやったと褒める可能性があるし。
この国の王の立場って安すぎないか。
気さくな人柄で国民に慕われているみたいだけど。
その分、威厳成分が少なめです。
今回の腹痛騒動もそれを助長しているよね。
まあ、案内してきた街の人間は部屋の中まで入ってこなかったから知られていないようだけどさ。
「あと、今日の予定を聞かせてもらおうか」
俺が主導で好き勝手にやって良いというものでもないからな。
「それについては私から」
ダニエルだ。
俺としては爺さんでも婆さんでもどっちでもいいぞ。
できれば綺麗どころのお姉さんが望ましいがな。
そういう願望は微塵も見せずに聞いてみる。
「それで?」
「午前中は新しい井戸の掘り方を実演していただきます」
「あー、魔導師団員に覚えさせるのか」
「はい」
予想では街の人間との会談だと思っていたのだが。
俺の表情からそれを読み取ったのか、ダニエルが補足説明を入れてきた。
「御心配には及びません。
私どもの方で代官には言い含めておきましたので」
「主導権は俺らの方にあるってことか」
「左様にございます」
仕事のできるジジイは嫌いじゃないよ。
「で、午後からはどうするんだ?」
「魔法での開墾の実演をお願いしたいのですが」
やや言い淀んでいるように思えるのは間違いではないだろう。
魔導師団員が午前中で魔力を使い切ることのないように手加減してくれと暗に言っているわけだ。
「心配しなくても魔力の回復についてはこちらで受け持つから本気でやらせるといい」
ポーションなら山ほど在庫があるからな。
「ですが……」
ダニエルも俺がポーションを使うつもりであることに気付いたようだな。
「正直に言うと、俺も暇じゃないのでな。
時間短縮のために協力してくれってことだ」
読んでくれてありがとう。




