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295 感想を聞いてみた

修正しました。

した訳って → したって訳


 ただいまブルースたちは回復中。

 という訳で弓やスリングショットの感想は聞けません。

 なーんて思っていたら、ハリーが使ってましたよ。

 そりゃあ聞くに決まってるでしょうが。

 自分の作ったものの評価を直接聞けるってのは価値のあることなんだよ。

 それによってモチベーションが上がったり反省点が見つかったりするんだし。

 思わぬヒントを得たりすることもあったりなかったり。

 さてさて、ハリーはどんな感想を持っているのかな。


「凄かったとは?

 どういう風に凄かったか教えてくれないか?」


 ハリーが大きく頷いた。


「弓はとにかく軽く引けるのに射程も威力も桁外れでした」


 俺はハリーのその言葉に少し違和感を感じた。


「弓なんて使ったことあったか?」


 比較対象がなければ軽く引けるとか性能についてあんな風に言えないはずだ。


「あ、これです」


 そう言ったハリーが自分の倉庫からロングボウを引っ張り出してきた。


「これは?」


「ブルースの話を聞いて自作しました」


「なるほど、比較用ってことか」


 装飾などはなくて実用一辺倒な弓だが、性能はかなりのものだ。

 魔道具化はしていないけどね。

 鑑定して確かめたので間違いない。


「はい」


「それで比較したわけか」


「その通りです。

 お恥ずかしい」


 何を恥じることがある。

 自分の作ったものの価値を理解していないとは残念な奴だ。


「いや、恥ずかしくなんてないぞ。

 お前の作った弓はシンプルなロングボウなんだし」


 俺のコンパウンドボウと比較するのがそもそもの間違いである。

 まあ、でもロングボウの性能を確認する必要もあったのだ。

 戦闘組はともかくハリーは弓を使ったことがなかったんだし。

 つまりハリーのやったことも無意味ではない。

 それに加えてあんなこと言ってるけど、ハリーの作った弓は自慢していい逸品だ。


「これ、ロングボウとしちゃかなり高性能だぞ。

 街で売れば他のロングボウより高値で売れるだろうな」


 装飾とかしてあれば破格の値がつけられてもおかしくない。

 売り物にするつもりはないだろうから何もしないだろうけど。


「マジですか……」


 ハリーが目を丸くしている。

 自覚がなかったんだな。


「ハリーのロングボウはブルースに使わせたら百発百中のはずだ」


 あいつ【狙撃】のスキルを持ってるしな。

 扱いやすくてブレの少ない弓なら、それくらいはできて当然である。


「確かにそんな感じでした」


「でも、誰にでも引ける弓でもない」


「強い弓をリクエストされたので」


 材質の問題で上限はあるものの可能な限りの強弓に仕上げたようだ。

 ボリュームゾーンの冒険者たちだと引ききれない者も出てくるだろう。


「俺のコンパウンドボウは魔道具化してるからな。

 術式をオフにすればブルースじゃビクともしないだろうよ」


「そこまで強力な術式を刻み込んでいたのですか」


「まあな」


 うちの国民なら術式が起動して補助の力が働くようにしてある。

 魔道具に慣れていない新国民だと、そのあたりに気付くことはないだろうけどね。

 ハリーは気付きつつも、どの程度なのかまでは見抜けなかったようだ。


「道理でみんなが目を丸くすることになった訳です」


「そんなに驚いてたのか?」


 何となく、そうなるだろうなとは思っていたがね。

 どうやら予想以上だったようだ。


「同じ距離に設置した土塊のゴーレムが砕け散りましたからね」


「ウソだろ?」


 驚きと共に思わず聞き返していた。

 ハリーのゴーレムがその程度で砕け散ったりするなど到底信じられない。

 いくら常識外れの強弓に仕上げたとはいえ、破壊力を増すような術式なんて付与していない。

 そもそも、そういう術式は矢に乗せるべきなのだ。

 弓にそういう術式乗せちゃうと魔力消費量が跳ね上がっちゃうんだよな。

 馬鹿げた性能とはいえ省エネ設計ですよ。

 空気中に漂う魔力を集めて増幅するみたいなこともしてるのだ。

 他のことで応用が利くからね。

 実験の一環である。

 ……思考が脱線気味だな。

 本題に戻ろう。

 とにかくハリーのゴーレムはあの程度の弓で砕けるほど柔じゃない。

 あ、意図的に弱く作ったとか?


「ゴーレムを作ったのはブルースたちです」


「ああ、そういうこと」


 納得だ。

 ブルースたちも内包型の魔法が使えるようになったってことだな。

 短期間でよくもまあ……

 さすがはローズさん、仕事が早い。

 ブルースたちの制御がまだまだ甘くてゴーレムは脆いものしかできないようだがね。

 魔法の練習でゴーレムが作れるようになったついでに的にしたって訳だ。

 作りが荒いんじゃ砕け散ってもおかしくないかな。

 ロングボウの射程距離なら。


「よく事故にならなかったな」


「そのあたりは彼らも心得ているようでしたので」


 弓の扱いに慣れているわけだな。

 的の貫通を想定した準備とか。

 弓を射る時の周囲への目配りなど。

 これらは絶対に忘れてはいけない。


「ただ、予想以上の威力だったので弓はしばらく使用禁止にしました」


 やり過ぎたみたいですよ。

 テヘペロではすまないレベルだったようで。

 ハリーの判断のようだが間違ってはいない。

 事故防止の観点からすれば強力すぎるものを作ってしまったのは間違いないんだし。

 俺も反省しなければ。

 事故がなかったから良かったで済ませてはいけないな。

 今回はハリーの判断に助けられたのだ。

 調子に乗ってはいけない。


「そうか、助かる。

 いい判断をしてくれた」


「いえ」


 一息ついたような空気になった。

 が、話がこれで終わりというわけにはいかない。

 もうひとつ懸念材料があるのだ。

 スリングショットもヤバいんだよなぁ。

 コンパウンドボウと違って曲射とかできないんだけど射程も似たようなものだし。

 内蔵しているバネっぽい加速器だけならコンパウンドボウほど飛距離は稼げない。

 では、どうやって同等にしているか。

 銃身の中で加速術式を働かせているのだ。

 疑似ライフリングがそれである。

 弓のように放物線を描く弾道にならないのもこれが原因。

 そして威力でも差が出てくる。

 弓は貫通力に優れ、スリングショットは内部破壊の力に優れている。

 つまり、弓で砕け散るならスリングショットはもっと酷いことになるんじゃなかろうか。


「スリングショットはダメ過ぎだったろ」


 爆算するゴーレムが見えるかのようだ。


「あ、そちらは対処できたので」


「対処?」


「これです」


 再びハリーが倉庫から何かを引っ張り出す。

 黒くて細長い筒状の……


「これはサプレッサーか」


 鑑定するまでもなく見覚えのある形状に思わず声が漏れ出た。

 ただ、同時に疑問も湧き上がる。

 火薬を使う銃じゃないからマズルフラッシュとか発射音なんか出ない。

 出ないものを減らす器具なんて必要ないよな。

 あ、でも……


「こいつで減速させる訳だな」


「はい、動画で見たサプレッサーを参考にしました」


 弾速の抑制という意味では、これもまたサプレッサーってことになるかな。


「ハリーが作ったのか」


 分かりきったことをわざわざ聞くのは話のつなぎのためである。


「はい」


「どれどれ」


 ハリーが手にしている減速器に向けて【天眼・鑑定】スキルを発動させてみた。


「ほう」


 弾が中を通過する時に運動エネルギーを魔力に変換して空気中に解放する仕組みか。

 確かに名前の通りの効果が得られるようになっているな。


「これだけできれば上等だ。

 なかなか高度なことをしているな」


 さすがは2番弟子である。

 ん? いつからハリーが2番弟子になったのかだって?

 今に決まっている。

 これだけ高度なことができるなら2番弟子を名乗っても恥ずかしくはない。

 他にも同等の腕を持った者がいる場合はどうするのかって?

 俺の目にとまった先着順に決まっている。

 本人の意志はどうするって?

 公表しないから関係ないと思う。

 もちろん本人にも伝えられない事実である。

 俺が俺の中で勝手に弟子と呼ぶ、それだけなのだ。


「ありがとうございます」


 ビシッと気をつけの姿勢をした。

 あー、これは弟子になるか聞いたら二つ返事で了承しそうだ。

 それはともかく減速用サプレッサーを作ったからには目的があるはずだ。


「で、これは何のために作ったんだ?」


「回避および防御訓練のためということでした」


 思わず「は?」とか聞き返しそうになったわ。


「それってローズのリクエストってことか」


「そうです」


「やめさせろ。

 このサプレッサーを使っても危険過ぎる」


「あ、やっぱりそう思いますか」


 ハリーも危険だという認識だったらしい。


「訓練の前に確認を取ってからということにはなったんですが」


 確認は大事です。

 でも、そういうのは話が出た時点で確認してくれよ。

 訓練直前だったら万が一なんてこともあるでしょうが。


「鬼軍曹は加減というものを知らなさすぎる」


 それ系のスキルを持ってないから感覚が掴めないのかもな。

 事故が起こる前に取らせておかないと。


「一応は様子を見ながらやってくれてはいるんですが」


 ハリーが苦笑していた。

 どうやらハリーの制止を振り切るようなことはしていないようだ。

 それで安心して良いのか判断に迷うところではあるが。


「なーんか心配だなぁ」


 いくらサプレッサーで減速させても殺傷力はある。

 矢尻を外した矢を使ってハリーの弓で射る方が安全性が高いはずだ。

 それに連射性能もバカにできないしな。

 魔道具化したお陰で軽くポンプアクションするだけで次弾装填ですよ。

 こればかりは軽く引きやすいとはいえコンパウンドボウでは逆転できないからな。


「魔法防御を徹底的に鍛え上げてから使うと言っていましたが」


「何かの拍子に制御し損なったらどうするんだよ」


「たぶん、そこまで考えてないと思います」


「だよな」


 思わず溜め息が漏れた。

 ローズめ、よほどスリングショットが気に入ったんだな。

 ハリーが転送門に興味津々なのと同じだ。

 上手い具合に転送門の方へ注意がそれてくれればいいんだけど無理だろうな。

 バイオレンスな性格しているローズさんだもんよ。

 気遣いも忘れないローズさんでもあるけどね。

 暴走すると、そっちが疎かになりかねないのが玉に瑕ってやつだ。


「対応はできるだろうがトラウマを植え付けられちゃ困るんだよ」


「伝えておきます。

 いっそのことスリングショットは回収されますか」


 それは俺も考えた。

 そして却下した。


「ダメだ。

 駄々をこねるに決まってる」


「あ……」


 ハリーも気付いたようだな。

 その行為がローズからお気に入りの玩具を取り上げるようなものだということに。


「やめておいた方がいいよな」


「はい」


 駄々をこねられたらたまらん。

 もうちょっと考えて訓練してくれ。

 場数を踏んでる戦闘組はともかく千人組はきっと恐怖心を克服できねえぞ。

 困った神霊獣である。

 やれやれ……


読んでくれてありがとう。

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