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294 転送門はすぐには使えないけど

修正しました。

そうさ → 操作


活動報告にも書きましたが、今後の更新は6時で固定します。

お騒がせして申し訳ありませんでした。

 ハリーは転送門を使ってみたくて仕方ないようだ。

 なのに表情はキリッとしてるんだよ。

 僕は興味ありませんなんて顔に書いてもバレバレだってことに気付こうよ。

 だが、俺はツッコミを入れない。

 ただ生暖かい視線を送るだけ。

 目の前で指摘されるのは悶絶ものだろうしな。

 黒歴史級かは本人次第だ。

 そして残念なお知らせがある。


「転送門は地脈から魔力を吸い上げている最中だからすぐには使えないな」


「あ、すぐには使えないんですね」


 尻尾のフリフリがピタリと止まった。

 実に分かり易い。

 ショボーンな感じが一発で分かってしまう。


「吸い上げるだけならそんなに時間はかからんがな」


「では、なぜ?」


「馴染ませるために戻して吸い上げてを繰り返す必要がある」


「繰り返すとどうなるんですか?」


 アグレッシブに聞いてくるな。

 それだけ自力で転送がしたくて仕方ないんだろう。


「地脈からの魔力ラインが定着する」


 ハリーの表情が少し引きつり気味なものになった。

 これは俺が言ったことが何を意味するか理解したようだな。

 それでも説明はしておく。

 もしかしたらハリーの考えと一致しないことも考えられるし。


「要するに地脈そのものを引き込むのに等しいな。

 これにより門の方から強引に魔力を吸い上げる必要がなくなる」


 今はポンプで吸い上げているような状態なのでね。

 転送門には結構な負担になっている。

 どれくらいの負担かというと、肝心の転送ができないくらいだ。

 本末転倒である。

 これをポンプなしで魔力が流れてくる状態にすることで門の負担を減らす。

 そうしないと魔力の増幅術式とか動作させられないからなぁ。

 吸いっぱなしはいかんでしょ。

 周辺環境への影響もあるだろうし。

 そんな訳で転送しない時は吸い上げた魔力を増幅して蓄積するようにしてある。

 余剰分は地脈に返すので地脈の魔力が枯渇する心配もない。


「なるほど、エコですね」


「うむ、エコだ」


 うちの国ならではの会話だ。

 エコロジーなんてファンタジーの世界にそぐわないにも程がある。

 まあ、とっくの昔にそんなものは気にしちゃいないんだが。

 ファンタジーらしからぬものを山ほど作ってきたからな。

 魔力を元にしているとはいえ、自動車や輸送機なんてものまで作ったし。

 バイクなんて変形して人型になる。

 向こうの世界でもリアルじゃあり得ない話だ。

 それを平然と受け入れているハリーもすっかり毒されてしまっている。


「ちなみに転送門が安定化するまでどのくらいですか?」


 ハリーよ、尻尾の先が揺れているぞ。

 かなり気になるようだな。


「少なくとも丸1日はかかるな」


 俺の言葉にションボリさんになってしまうハリー。

 もちろん尻尾は動かなくなった。


「残念です」


 見てるこっちまで落ち込みそうになるじゃないか。


「安定化すれば自由に行き来できるから楽しみに待ってろ」


 励まさずにはいられない。


「はい!」


 一転してとびきりの笑顔で頷かれた。

 そんなに楽しみなのか。

 まあ、長距離転送魔法は習得が極めて難しいみたいだからなぁ。

 目視範囲内での短距離転送なら今でも何とか使えるかもしれないんだけど。

 まずは頑張ってレベルを上げてくれとしか言えない。

 せめて200後半くらいにならんとな。

 それでもギリギリなんだけど。

 言うまでもなく俺みたいに一瞬でというのは無理だ。

 そりゃあ跳んでみたいと思うのも無理はないのか。

 とりあえず門の話はこれくらいでいいだろう。

 後は取扱説明書で確認してくれって感じ?

 そのために用意したものを倉庫から引っ張り出した。


「ハリー、これを渡しておく」


 言いながらハリーに引っ張り出したものを手渡した。


「なんですか、これ?」


 それは四角い板だった。

 何の変哲もない金属の板のように見えるはず。

 大きさはかまぼこ板の横幅を少し広げたぐらいかな。

 角は丸みを帯びているけど表面はノッペリさんだ。

 どの角度から見ても小さいインゴットにしか見えない。

 ハリーからすると、そういう風にしか見えないから困惑するのも無理はないだろう。


「魔力を流して登録してみろ」


 俺がそう言うと、困惑していた表情が瞬時に「わかった」と言いたげなものに変わったけれど。


「ああ、魔道具なんですね」


 察しのいいことで。

 ハリーでも見切れないくらい微細な術式を内部に記述した超高度な魔道具である。

 指示に従ったハリーが魔力を流し込むと、板は姿を変えた。

 大きさや形はさほど変化はない。

 だが、色やデザインは大きく変わった。

 ボーダーコリーなハリーに合わせたようなパンダカラーの板である。

 ハリーが目を向けている広い面は大半が金属の板にしか見えなかったときと変わらない状態だが。


「これってスマホという奴では?」


 そう、ハリーの言う通りスマートフォンである。


「ああ、その通りだ」


 動画をあれこれ見せてきたから存在だけは知っているんだよな。

 ただ、普通のスマホではない。

 画面は金属的な質感のままである。

 スマホのモックアップでも、こんな風にはならないはずだ。


「なんか変な風に見えるんですが」


 ハリーはスマホを傾けたり裏返したりしている。

 が、そのくらいじゃ見え方は変わらないぞ。


「網膜投影型のディスプレイにしたからな」


 自分で言うのも何だが、無茶苦茶である。

 ハリーもさすがに呆然としていた。


「本体の画面は表示に関してはダミーでしかない」


 なーんも映らんからな。

 これを触っていても周囲の人間には何がなにやらサッパリなのだ。

 このスマホで撮影した動画を皆と一緒に見たいという時にはスマホを同期させる必要がある。

 画面はあくまで登録者本人にしか表示されない。

 セキュリティは万全ということだな。

 若干の不便さはあるけどね。

 盗難の心配もない。

 短距離転送の術式が組み込まれているからな。

 登録者本人から一定距離離れると本人の倉庫に回収されてしまうのだ。


「あ、でも操作は本体の画面上で行うんですね」


 画面をスクロールさせたり拡大縮小を試している。


「慣れないうちは、操作を覚える意味でも大事だろうと思ってな」


「え?」


 ハリーが怪訝な顔をした。


「本体画面で操作できるようにしてあるのはあくまで慣れるまでの補助的なものだ」


「それは、どうやって操作するのでしょうか?」


 その疑問ももっともだな。


「自分の意志だけで動かせる」


 別の言い方をすれば脳波コントロールってやつだ。


「魔法を使う時の感覚と同じだな」


 ただし、内包型に限られるがね。

 俺の言葉を受けてハリーが手元の動きを止めた。

 さっそく試しているようだ。


「手に持っているだけでいいなんて凄すぎです」


 呆れの混じった溜め息と共にハリーがそう言った。

 スマホの形している意味があるのかと言われないだけマシだな。

 ぶっちゃけ、片手で持てるなら他の形でも良かったのだ。

 ケータイより高性能になっているからスマホ型になったに過ぎないのでね。

 ああ、それとハリーは勘違いをしているな。


「ん? 手に持つ必要もないぞ」


「どういうことですか?」


「魔力的な繋がりがあれば使用可能だ」


「それは、また……」


「最初は手で持っていた方が扱いやすいだろうけどな」


「懐に入れたままでも使える訳ですか」


「そゆこと」


「それは慣れる必要があるでしょうね」


「いきなりだと難しいかもだが倉庫に仕舞っても使えるぞ」


 ハリーが目を見開いたまま固まってしまった。

 さすがにそこまでとは思っていなかったようだ。

 うーん、まさかこれほど驚くとは思わんかったな。

 ハッハッハ……

 なんとか脳内スマホに近いものが作れないかと頑張った結果なんだがな。

 自重しないと、こういうことになる訳だ。

 反省はしないし後悔もしないぞ。


「…………………………」


 お、固まったままだけど俺の言ったことを確かめようとしているようだな。

 手元から新作のマギスマホが消えた。

 立ち直るのは早いな。

 まあ、俺の側にいれば非常識は日常に溢れているか。


「確かに使えますね」


 もう慣れたのか。

 一応マニュアルはあるけどマギスマホで見ることになるからなぁ。

 最初は手に持ってマニュアルを見ながらチュートリアルで操作を覚えていく感じなんだが。

 ガンフォールとかは苦労してたんだけど。

 月影のメンバーだとノエル以外が苦戦していた。

 他にすぐ使いこなせるようになったのはツバキとボルトくらいかな。

 まあ、全然ダメって感じじゃなかったから数日で何とかするとは思う。

 慣れてしまえば無意識でも操作できるようになるはずだ。


「スマホに関してはマニュアルを入れてあるから確認しておいてくれ」


「了解しました」


 この後はミズホシティに行かなきゃならん。

 やることが一番多いんだよな。

 転送門の設置とスマホを配るのは言うまでもない。

 あとは増えた住人の分だけ住宅を用意する必要がある。

 ただいま倉庫内で中層マンションの建設ラッシュですよ。

 デザインはあえて変えているのでコピーとはいかない。

 コピーだと自分の家が分からなくなるなんてことになりかねないのでね。

 延々と同じ建物が整然と並ぶと人間には迷路のように感じられると聞いたことがある。

 あと圧迫感のようなものも感じてしまうようだ。

 人間って不思議なものだよな。

 アンバランスな方が落ち着くんだから。


「おっと、そうだった」


 ミズホへ跳ぶ前に確認しておこうと思ったことがあるんだった。


「どうされましたか?」


「あー、ちょっとな」


 ブルースたちは……まだ寝っ転がっているか。

 できれば本人に直接感想を聞きたかったんだがな。

 回復中のところを邪魔するのも悪いし。

 しょうがない、ハリーに聞こう。


「ブルースたちがあの調子だろ」


 俺が指差すとハリーは苦笑した。


「弓とかスリングショットのことですね」


「そうそう。

 感想とか聞きたかったんだけど、回復の邪魔はしたくないしな」


 俺も苦笑で返す。


「かなり好評でしたね。

 最初は唖然としていましたが」


「だろうな」


 その光景が目に浮かぶようだ。


「詳細は後でメールするように言っておきます」


「そうしてくれると助かる」


 俺もまだ仕事が残っているし、直接話を聞けるのは明日以降になるだろうからな。

 メールが一番ありがたい。


「それで、ハリーも使ったのか」


「はい、凄かったです」


 凄くいい笑顔で返答された。

 ああいうギミックものは好きだからなぁ。

 古参の国民はみんなそうだけど。

 この調子だと新規の国民も魔道具に慣れ親しんでくれそうだな。

読んでくれてありがとう。

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