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292 蕎麦にうどんにラーメンに

 俺が倉庫から引っ張り出したお椀は1人に付き3種類ある。

 漆器のお椀だが魔道具化しているので薄くても熱くはならない。

 一定以上の熱は遮断するだけなので冷めやすいなんてこともない。

 むしろフタをしている間は冷めないようになっている。

 さすがに中身の状態を延々と同じままにするなんて倉庫のようなことはないが。

 それ故に麺料理だと放置すれば麺が伸びてしまう訳で。

 麺が伸びにくいように状態が変化しにくい術式は記述しているけどね。

 変化がないと変に思われるから程々にしている。

 身内用なら自重はしないんだけど。

 今は部外者用を使っている。

 いや、これでも充分に凄いんだ。

 例えば現代の地球で同等品を探しても絶対に見つからない。

 魔道具、万歳だな。

 ちなみにスパゲティで使った平皿も同じ術式を使っていた。

 故にカルボナーラも冷めたりはしていなかったので正しい味を評価してもらえたと思う。

 次は椀ものの評価だな。


「ヒガ陛下、今度は3種類ということでしょうか」


 フタをしているので中身は分からない。

 黒と赤と木目調で違いを強調する形にはなっているが。


「ああ、本来なら丼という器を使うんだが量が少ないから漆器の椀を使った」


「これが漆器というものですか。

 どうすればこのように鮮やかな色を出せるのか見当もつきませんね」


 総長がフタを手にして興味深げに眺めている。

 ナターシャは総長の言葉に驚いているな。

 博識な総長をして知らないことがあるのか、といったところか。


「本来はフタをするような料理じゃないが冷めないようフタをしている」


「3種類を同時に食べることはできませんものね」


「そういうこと」


 中身は本当に少ないので気にするほどのことでもないかもだけどな。


「椀という食器の形も珍しいですね」


 横を覗き込むようにして高台を見ている。


「そこに手を添えると熱くないのでな」


「なるほど、持ち運びを考慮しているのですね」


 それだけじゃないんだが、それについての説明は後にしよう。


「とりあえず冷めないうちに食べてしまおう」


「ああ、そうでした。

 ごめんなさいねぇ」


 総長が手をつけないものだから魔導師団員たちが待っている。

 メイド組もそれに遠慮して待っていた。

 うちの面々も連鎖的に、という訳で全員が待ちの状態になっていた。

 まあ、俺の説明も途中だったので都合はいいけどな。


「中身だが黒い椀が蕎麦になる。

 穀物の一種である蕎麦の実を粉にして加工したものだ」


 具には油揚げを入れておいた。


「赤いのがうどんだ。

 これは小麦粉でできている」


 うどんの具はエビ天である。


「そして木目の見える椀がラーメンだ。

 これは本来だと様々な種類があるが今回はオーソドックスなものにしておいた」


 俺が選んだのは塩ラーメンである。

 人によって色々と意見の割れるところであろうが、至高だと主張している訳ではない。

 正当派ラーメンの一種として紹介しただけなのでツッコミは却下する。

 醤油や味噌なんかも悪くはないがね。

 言うまでもなく豚骨もな。

 具はモヤシにした。

 チャーシューとかメンマとかはあえて入れていない。

 ラーメンの味に集中できるようにと考えたのでね。

 そういう意味ではうどんのエビ天は失敗したかもしれん。


「食べる時に自分で蓋を取って椀を手に取って食べる」


 ゲールウェザー組が皆「えっ!?」という聞き返すような顔をした。

 やはり、マナーとしてはタブーなんだな。

 大雑把にしか調べてないから、その部分については未確認だったけど。


「食器を手に取って食べても良いのですか?」


 やや目を丸くしたような感じで総長が聞いてきた。

 総長でさえこの調子ということは他国のマナーでも基本のようだな。


「この椀という食器は平皿などとは違って手に取って食べても良い。

 我が国ではマナー違反にはならないから安心してくれ。

 先程、横から眺めていた下の部分は高台と言ってな。

 この高台がある食器は手に取って食べることを前提にしている」


「そうだったのですか」


 総長が驚きつつもニコニコと楽しげに頷いていた。

 これなら普通に手に取って食べてくれそうだな。

 少なくともこの人は。

 普通は歳を取ると保守的になりやすいから順応性は下がるもんなんだがなぁ。

 この婆さん、なんかスゲえわ。


「こうやって手に取って──」


 ゲールウエザー組が見ているのを確認しつつ、ゆっくりとした所作でお椀を手に取った。


「左手を添えるようにしてお椀を持つ。

 力はそんなにいらないぞ。

 逆に力むとバランスを崩して引っ繰り返すからな」


 周囲の様子を見てみるが不器用なことをしている者はいないようだ。


「文化の違いだから慣れないなら置いたままで構わないぞ。

 スプーンは使わないから汁を飲む時は手に取らざるを得ないがな。

 その場合、慣れないうちは両手で持った方が引っ繰り返さずに済む」


 丼なら散り蓮華を用意したかもだけどな。


「この箸を使って食べるんだが、扱いづらいならフォークを使ってくれ」


 フォークで麺をすくって食べるのも難しいと思うがね。

 慣れれば箸の方が食べやすいと思う。

 俺が使うのはもちろん箸だ。

 手本になるようにしないといけないからな。

 俺は蕎麦のお椀を手に取って食べ始めた。

 ABコンビなんかは無理せずにフォークを使うようだ。

 古参のミズホ組は皆が箸で食べている。


「ああ、いま出している麺料理に限っては音を立てて食べるのが通だ」


 そう言いながらズルズルと蕎麦を啜る。

 ツバキや月影の面々も俺に続くようにズルズル音を立てて食べている。


「どうした? 早く食べないと麺が伸びるぞ」


 ゲールウエザー組は呆気に取られているようだ。

 俺の忠告にようやく箸を手に取り食べ始めた。

 ほう、チャレンジャーだな。

 見様見真似で悪戦苦闘しながらも、なんとか箸を使って食べていく。

 持ち方も危なっかしいが意地でも箸を使う気らしい。

 まあ、頑張れ。

 そのうち慣れると思うから。


「この四角いものは何ですか」


 総長が油揚げの端っこを箸でつまみ上げた。

 おお、手元がブレてないよ。

 いくらお椀サイズに合わせて4分の1にカットしているとはいえ油揚げはそこそこ重いはずなんだが。

 汁気を吸っているからな。

 綺麗な箸の持ち方で無駄な力が入っていないお陰かな。

 見様見真似でここまで使えるとは驚きだ。


「そいつは油揚げといって大豆を加工した食品を油で揚げたものだ」


「油を使って?」


 総長だけでなくゲールウエザー組が全員、首を傾げている。

 揚げ物も知らなかったのか。

 リサーチ不足だな。

 する気がなかったから当然なんだが……


「その説明は後でするからとりあえず食べてしまおう。

 麺料理は時間がたつと伸びて旨くなくなってしまうぞ」


 俺の一言でとりあえず皆は疑問を横に置いて食事に集中することになった。

 ふう、やれやれ。

 それにしても揚げ物を知らないとは意外だったな。

 もしかして食用油が貴重なのだろうか?

 面倒だけど【諸法の理】で調べてみた。

 西方では揚げ物料理なんて存在しませんでしたよ。

 思わず「マジか!?」と脳内で叫んだよ。

 唐揚げとかこっちの世界にはなかったんだな。

 無いと知ったら無性に食べたくなってしまうんだが。

 あと、カレーパンとかドーナツとかな。

 とにかく無いんじゃどうしようもない。

 食用油が貴重なのかと思ったが違うようだ。

 調味料の一種として認識されているだけみたい。

 オリーブオイルとかごま油を思い出してしまった。

 要するに揚げるという概念そのものがなかっただけだ。

 広めることは可能かもな。

 食用油の生産量をどれだけ増やせるかにかかっているけど。

 まあ、いま考えることじゃない。

 蕎麦もうどんもラーメンも伸びたら旨くないからな。

 はふはふ言いながら食べるのがズルズル啜って食うのが最高なんだ。

 まあ、どれも量を調整してあるからすぐに食べ終わるんだが。

 それでも食事中は楽しげな会話が続いていた。


「はー、おいしいです」


「本当ですねえ」


「さっきのスパゲティと違ってどれもあっさりした味ですね」


「でも、スープの味が奥深いというか……」


 メイドの1人が首を捻りながら食べている。


「特に蕎麦とうどんのスープなんて中の麺が見えるほど透き通っているのに味わい深いわね」


「同じような色をしているのに味が違うし」


「不思議だわ」


 蕎麦は昆布で、うどんは鰹節で出汁を取ったからね。

 味が違って当然である。


「どうやったら、こんな味が出せるのかしら」


「単なる調味料の味ではないですよねえ。

 でも肉とか使ってないみたいだし」


「そうね、溶けるほど煮込んだ感じじゃないわ」


「それ以前に味が全然違うよぉ」


「この麺から染み出しているというのでもなさそうだし」


「そんなことしてたら変な味になってるわよ」


「それは言えてるわね」


「いずれにしても初めて食べる味です。

 これは是非とも覚えたいですね」


「あっ、それは言えてるねー」


「確かに」


 レシピは別に構わないんだが輸入品目が増えるぞ。

 昆布とか鰹節とか用意できないだろ。

 うちとしちゃ「毎度あり」ってことで有り難いんだが。


「蕎麦は香りも楽しめるね」


「油揚げのジューシーな食感がクセになりそう」


「うどんはツルツルモチモチしてて食べ応えがありますよ」


 うどんから先に食べたメイドがいるようだな。

 ラーメンに手を出しているのもいる。

 まあ、その辺は自由だ。


「うどんの具もなんだか凄いです。

 プリプリして未体験の食感に食べたことのない味ですよー」


「なんだろうね?

 魔物の肉にしては小さいし」


「肉のようで肉じゃないわね」


「美味しいからいいんじゃない?」


「うん、それはそうなんだけどさー。

 料理をする立場としては食材の正体が分かんないのって悔しいじゃない」


 後で教えるから心配しなくていいよ。

 俺がそう言うまでもなく次のラーメンに取り掛かっている。


「こっちの白くて細長いのはなんでしょう?」


「野菜みたいだけど見たことないな」


「これ、シャキシャキしててラーメンという麺料理にピッタリだ」


「ラーメンはスープと一緒に楽しむ感じかな」


「そうだね、蕎麦やうどんとは何か違う気がする」


「どれも美味しいでいいんじゃない?」


「それを言ったら身も蓋もないよー」


 こんな具合に終始、笑顔が絶えなかった。

 食べ終わっても余韻が残っている感じかな。

 物足りない者はパンを手に取っていたが。

 小食な者を基準にした分量だから当然だな。

 で、食べ終わった後は質問&説明タイム。

 まずは揚げ物料理を知らないということなので説明しておいた。

 油揚げの製造工程も見せたよ。

 食いついたのは唐揚げとかだったけどね。

 幻影魔法、マジ便利。

 ついでにエビ天の説明もしておいた。

 海のものということで珍しがっていたけど忌避感はなかったようだ。

 味は好評だったし。

 もちろんエビ天だけじゃない。

 どの麺料理も好評だったのは喜ばしいことだ。

 もっとも、食べたがっていたクラウドはここにはいないけど。

 報告を聞いて歯がみして悔しがるのかね。

 次の機会に強請られそうだな。

 やれやれ、明日も同じメニューか。

 うちの子たちに飽きたとか言われないよな?

読んでくれてありがとう。

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