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291 土下座のちディナータイム

修正しました。

誇示 → 固辞


6時に更新するのが一番だったようです。

継続は力なりを痛感しました。


 俺のことをなにやら誤解されているようで……

 勘弁してくれよとしか言いようのない心境である。

 とはいえ、まだマシなんだろうなぁ。

 ここにいるのは代表者とその補佐をする人達だからね。

 これがもし街の住民全員が勢揃いしているような状況だったら……

 悪夢でしかないだろうな。

 想像するだに恐ろしくて震え上がりそうになる。

 実際にそうだった場合、説得できる自信がない。

 きっと早々にさじを投げて帰ってただろうね。

 王都とは比べるべくもないとはいえブリーズとはタメを張るくらいに大きい街だからな。

 ダンジョンが近くにあるが故である。

 でなきゃ農業なんかの面では他所より不利な条件がそろってしまうこの地域に人が集まりはしない。

 土地は痩せ気味だし水資源の確保も楽ではないからな。

 まあ、土地の方は解決方法がある。

 ダンジョンがあるからな。

 魔物の内臓を肥料にすればいいだけだ。

 ポーションなんかで用途のある内臓もあるけれど、それ以外は一般的に廃棄処分しているし。

 肥料にすることは知られていないようだ。

 え? うちでは使ったことないだろって?

 熟達した植生魔法があれば必要ないからね。

 西方でなら広まるんじゃないかな。

 まあ、肥料だけで作物が育てられる訳じゃない。

 一部の例外を除いて言えば水の確保は大事である。

 今回の一件で新たに植えるのは例外に該当するものが多いが。

 トマトやスイカなどは特にそうだ。

 瑞々しい果肉を持っているから意外に思えるかもだけどな。

 で、あとは輪作を考慮した畑作りをしているかどうかも気にしないといけない。

 同じ作物だけで畑を占拠しないとか。

 畝同士の間を狭めないとか。

 次の年に相性の悪い作物を植えないとか。

 どれも収量を減らす元である。

 必要なら井戸を掘るのに合わせて説明せねばならないだろうし。

 新しい作物を植える場所を確保しないといけない。

 既に植えてるものはダメになるのが分かってるけど引っこ抜けとは言えないからな。

 向こうは結果を知らんし、その状態で作物を粗末に扱うなどできる訳がない。

 ……ふと思ったんだが。

 この先の状況を知っているから土下座で固まってるとか言わないよな。

 かなり細かな情報までお告げで提示されてなきゃ、こうはならんだろうに。

 俺が来た場合と来なかった場合の映像付きだったり……

 あり得そうだ。

 いや、たぶん間違いない。

 お仕置きの依頼を出すどころの話じゃねえな。

 即時のお仕置きを希望する。

 無茶な要求だとは分かってるんだけどね。

 未だに捕まっていないからなのは言うまでもないだろう。

 とにかく逃げまわっていて居場所が不明だし。

 自分から出頭してこない限り捕まえられる気がしない。

 きっと、まだ何かやらかすつもりだ。

 冗談じゃねえぞ。

 そう思ったら目の前の一斉土下座くらいは大したことではない。

 不思議なものである。

 ただね、土下座している一同はただでは済まないよ。

 どう考えても王族に対する不敬罪に問われるじゃないか。

 どうするつもりなのかと王族コンビの方を見たら「どうぞどうぞ」というジェスチャーで返してきた。

 おい、それはおかしいだろ。

 視線でそう抗議するも、そっぽを向く始末。

 思わず「ぐぬぬ」とか言いそうになったじゃないか。

 言わんかったがな。

 完全に何とかしてくれな空気を纏ってしまっている。

 自分のとこの国民だろうが。

 罰する気がないのはともかく、向こうが先にさじを投げるとは思わんかったぞ。

 ガンフォールの方を見ても「お主がなんとかせい」と視線で返される始末だし。


「はあ……」


 憂鬱すぎて溜め息も出るよな。

 けど、このままこの連中が動かないと何も始まらない。

 何とか説得しないとな。


「いい加減にしないと何もせずに帰るぞ」


 少々卑怯なやり口になるが言ってみた。

 面を上げろと言っているのに従わないからしょうがない。

 口で言っただけじゃ効果が薄いだろうから踵を返し輸送機へと向かい歩き始める。


「「「「「えっ?」」」」」


 代官たちよりクラウドたちの方が驚いている。


「いやいやいやいやいや、待たれよ、待たれよ」


 普段の3倍くらいの早口でクラウドが引き止めにきた。


「あ?」


「せっかく、ここまで来てそれはなかろう」


「だって説得しても動かんとか面倒くさすぎるだろ。

 別に俺は強制されて動いている訳じゃない。

 ここの国民でもないから義理もないしな。

 つい今し方、好きにしてくれと合図したのはそっちだし」


 こう言えば向こうが動くだろ。

 秘技、丸投げ返し!

 果たして俺の読みは正解だった。

 即座にクラウドの命によって土下座厳禁を言い渡されていたからな。

 まあ、土下座していた代官たちも泡を食って既に立ち上がってはいたけどね。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 そんなこんなで日が暮れて──

 なんだかんだで夕食の時間。

 場所は輸送機の中である。


「はー、柔らかいです」


「柔らかいだけじゃなくて、モッチリしてますよぅ」


「モッチリフワフワ~」


 魔導師団員が心の底から幸せそうな声を出してウットリしている。

 夢見心地で感想を述べる彼女らが食しているのは言うまでもなく米粉パンである。

 予告しておいて出さないのは反則だよな。

 え? 街の人間が用意した食事はどうしたのかって?

 そっちはクラウドとダニエルが護衛の騎士たちと食べに行っている。

 俺らミズホ組は回避させてもらったよ。

 食事中に土下座なんてされたらたまらんとダニエルに耳打ちしておいたら何とかしてくれることになった。

 そんな訳で俺らは今、二手に分かれていることになる。

 こちらの面子は出かけていった団体以外。

 よってメイドたちもこちら側である。

 最初は一緒に食べることを固辞していた彼女たちであるが、そこは総長が上手く丸め込んでくれた。


「これが麺料理ですか」


 ナポリタンとカルボナーラがそれぞれ小さく盛られた皿をしげしげと眺めている総長。


「麺料理の一種でスパゲティに分類される。

 左がナポリタンで右がカルボナーラだ。

 こうやってフォークに絡めて食べる」


 最初は手本を示す必要性があるのかと思ったんだけどね。

 フォークを手に固まっている面々を見てしまっては疑う余地はない。

 まあ、麺料理を知らなかったんだからしょうがない。


「こちらの、ナポリタンでしたか。

 これは程良い酸味がきいてますね」


「今まで味わったことのないソースですよ、これ」


「味だけでなく赤いソースというのが興味深いですね」


「他の料理でも使えるかも」


「あー、確かに。

 肉料理でどうなるか試したいわね」


「スープもいいんじゃない?」


「それよりソースをどうやって手に入れるかでしょ。

 ケチャップというソースが手に入らないことには意味ないんだし」


 なかなか発奮している様子である。

 レシピを公開した影響かな。

 ケチャップのような初めての調味料も事前に味見させているし。

 なんにせよ食べながらでも職業意識を忘れないとはメイドの鑑だね。

 そういやケチャップの作り方までは教えてなかったな。


「トマトが手に入るなら後は普通の材料で作れるぞ」


 酢や胡椒もこの国なら普通に手に入るしな。

 胡椒は無くても味が少しボンヤリする程度で作れない訳ではないし。

 サルモネラ菌とかのことを考えないといけないマヨネーズより楽勝で作れる。


「「「「「本当ですか!?」」」」」


 メイド組が一斉に俺の方を振り返る。


「お、おう」


 やけに食いつきがいいな。


「トマトって飢饉対策の……」


 そうメイドの一人が呟いた。


「ああ、その通りだ」


 俺の返事にメイド組だけでなく魔導師団の面々も口々に感嘆の声を上げた。


「トマトは水をふんだんに与えて育てると旨くなくなるからな」


「「「「「ええっ!?」」」」」


 そんなに大きな声ではなかったが、みんな驚いている。

 まあ、普通は水がなくても育つくらいに思うだろうからな。


「元々乾燥した環境を好む植物だからな。

 逆に湿気が多いと病気になるくらいだ」


 補足説明を聞いて色々と話し合い始める残留組一同。

 会話に加わっていないのはニコニコとその様子を見ている総長くらいなものだ。


「さすがはヒガ陛下ですね」


 と思ったら俺の方に話し掛けてきた。


「そうか?」


「水が不足する地域で栽培し他地域の作物と交換する形にするのでしょう?」


「収穫した物すべてをそうする訳ではないがね。

 総長の言う通り大半はその形を取ることになる。

 トマトは痛みやすいという弱点があるからな」


「なるほど、そういうことでしたか」


 うんうんと頷く総長。

 見ると皆の手が止まっている。


「そんなことより料理はまだまだあるんだぞ」


「「「「「えっ!?」」」」」


 ここで驚く理由は想像がつくのでフォローしておこう。

 でも、その前に彼女らの考えを確認しておく必要がある。


「おいおい、パンで腹を膨らませるつもりだったのか?」


「……………」


 沈黙が返された。

 どうやら図星のようだ。

 誰がそんなセコい食事の席に招待するっていうんだ。

 貧相すぎて恥をさらすようなもんじゃないかよ。

 オール炭水化物なディナーになってしまっているけどな。

 そこはスルー推奨である。

 ツッコミを入れてはいけない。


「少しずつ出した方が料理が温かいままで食べられるだろ。

 本当は一品ずつ出すのがこういう場合は最適なんだがな」


 キョトンとした表情をするメイド組。

 魔導師組は頷くようにして感心している様子だ。

 これは自国のマナーにこだわる者たちと合理性を追求する者たちの差だな。


「そういう作法の国もあるということだ」


 そう言うとメイド組も納得はしてくれた。

 そして残りのカルボナーラも食べていく。


「こっちの白いのは卵を使っているんでしたか」


「もっと黄身の色が主張するかと思っていました」


「ピリッとしているのは胡椒ですよね」


「でもクリーミーだわ」


「バランスが絶妙よね」


 そりゃあツバキが頑張ったからな。

 チラリと本人の方を見ると鼻高々な表情であった。

 隠しているつもりのようだが俺には分かるぞ。

 ノエルの表情を見分けられる俺の目は誤魔化せんよ、フハハ。

 ……自慢にゃならんな。

 他人からすれば意味のないことだろうし。

 ともかくツバキの料理が絶賛されているのは俺も嬉しい。

 そして俺の担当分も気合いが入るというもの。

 いや、既に完成しているから気合いを入れても結果は変わらんが……


「それじゃあ次な」


 フィンガースナップで空になった皿と使用済みフォークを回収する。

 自動人形に給仕をさせる訳にはいかないからな。

 あんなの見せたらパニックだ。

 故に魔法でさっくり片付ける。

 もう一度、パチンと鳴らして小さなお椀を召喚魔法風に出した。

 回収した方は倉の中で洗ってピカピカにしてから倉庫へ格納だ。

 こちらは見られていないので何のアクションもない。

 いずれにせよ給仕いらずで便利である。

 面倒だからそうしているだけとか言ってはいけない。

 スパゲティの時に散々驚いているので、今度は誰も騒ぎ立てたりはしない。

 未だに目を丸くしてはいるけれど多少は慣れたようだ。

 驚くようなことで畳み掛けると感覚が麻痺するのかもな。


読んでくれてありがとう。

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